膝の裏の筋が痛い原因とは?ハムストリングスなどの炎症と安静の重要性

膝の裏に走る筋(すじ)の痛みは、ハムストリングスや腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)の腱に起きた炎症が主な原因です。とくに中高年では、変形性膝関節症にともなうベーカー嚢腫(のうしゅ)や半月板の損傷が痛みの引き金になることも少なくありません。
「たいしたことはないだろう」と放置すると、炎症が慢性化して歩行や階段の上り下りに支障をきたすおそれがあります。原因を正しく見きわめたうえで、急性期には適切な安静をとり、回復期には段階的なリハビリへ移行することが回復への近道です。
この記事では、膝裏の筋の痛みを引き起こす代表的な疾患とそのしくみ、安静の取り方から受診・治療の流れまでをわかりやすく解説します。
膝裏の筋が痛い原因はハムストリングスや腱の炎症によるものが多い
膝の裏に痛みを感じるとき、原因として多いのはハムストリングスをはじめとする筋肉や腱の炎症です。太ももの裏側を走る筋肉群は膝の曲げ伸ばしに深くかかわっており、使いすぎや加齢による劣化が痛みにつながります。
| 筋・腱の名称 | 痛みの出やすい部位 | 特徴 |
|---|---|---|
| 半膜様筋腱 | 膝裏の内側 | 中高年に多く見落とされやすい |
| 半腱様筋腱 | 膝裏の内側〜やや下 | ランナーに多い |
| 大腿二頭筋腱 | 膝裏の外側 | スプリント動作で損傷しやすい |
| 腓腹筋腱 | 膝裏の中央〜下方 | ふくらはぎと膝の両方に痛みが出る |
膝の裏にはどんな筋肉と腱が集まっているのか
膝裏は「膝窩(しっか)」と呼ばれるくぼみで、ハムストリングスを構成する半膜様筋・半腱様筋・大腿二頭筋の3つの腱が集中しています。さらに腓腹筋(ふくらはぎの上部)の起始部や膝窩筋、血管・神経も通っており、非常に複雑な構造をしています。
そのため、どの組織に問題が起きても「膝裏が痛い」という似た症状が現れやすく、原因の特定が難しい場合があります。痛みの位置が内側寄りか外側寄りか、どんな動作で悪化するかが診断の手がかりになるでしょう。
ハムストリングスの遠位部で起きる腱炎が膝裏の痛みを引き起こす
ハムストリングスの腱は膝の裏側で脛骨(すねの骨)や腓骨に付着しています。この付着部付近に繰り返しの負荷がかかると、腱に微小な損傷と炎症が生じ、膝裏に鈍い痛みやこわばりが現れます。
ランニングやサッカーなど、膝の屈伸を激しく繰り返すスポーツで発症しやすい傾向があります。一方で、デスクワークで長時間座り続ける生活も、ハムストリングスを縮めた状態で固定するため腱炎のリスクを高めます。
半膜様筋腱炎は中高年に多く見落とされやすい
半膜様筋は3つのハムストリングスのなかでもっとも太い筋肉で、膝裏の内側に腱が付着しています。加齢にともなう変性や、変形性膝関節症による骨棘(こつきょく)との摩擦が慢性的な腱炎を引き起こすことがあります。
半膜様筋腱炎は他の膝の内側の痛みを伴う疾患と混同されやすく、診断が遅れるケースが報告されています。MRIや超音波検査で腱の状態を確認し、正確に原因を突き止めることが大切です。
腓腹筋の炎症が膝裏の痛みにつながるケース
腓腹筋は膝関節と足首の2つの関節をまたぐ筋肉で、大腿骨の後面から起始しています。膝裏の中央からやや下にかけて痛みが出る場合、腓腹筋の腱炎や肉離れが原因となっている可能性があります。
テニスや登山など、急な方向転換やふくらはぎに強い負荷がかかる動作で損傷しやすい部位です。膝を深く曲げたときやつま先立ちで痛みが増すようであれば、腓腹筋の問題を疑ってよいでしょう。
ベーカー嚢腫による膝裏の痛みと変形性膝関節症との深い関係
膝裏にぷくっとした腫れがあり、圧迫感や痛みを伴うならベーカー嚢腫の可能性があります。変形性膝関節症を抱える方に多く見られる合併症で、関節内の炎症がきっかけとなって膝裏に液体がたまります。
ベーカー嚢腫とはどのような病態か
ベーカー嚢腫は、膝関節の後方にある滑液包(かつえきほう)に関節液が過剰にたまって膨らんだ状態を指します。正式には「膝窩嚢腫(しっかのうしゅ)」と呼ばれ、半膜様筋と腓腹筋内側頭のあいだに形成されるのが典型的なパターンです。
小さいうちは無症状のことも多いですが、嚢腫が大きくなると膝裏の圧迫感や鈍い痛みが生じ、膝の曲げ伸ばしに制限が出るケースもあります。
まれに嚢腫が破裂すると、ふくらはぎに急な腫れと痛みが広がり、深部静脈血栓症と見分けがつきにくくなることがあるため注意が必要です。
変形性膝関節症がベーカー嚢腫を生むしくみ
変形性膝関節症では軟骨のすり減りにより関節内に慢性的な炎症が起きています。炎症によって関節液の産生量が増え、関節内の圧力が高まると、後方の滑液包へ液体が押し出されてベーカー嚢腫が形成されるのです。
半月板損傷や靭帯損傷など、関節内に水がたまりやすい他の疾患でも同様の経過をたどることがあります。嚢腫だけを治療しても根本の原因を放置すれば再発する可能性が高いため、関節内の病変への対処も同時に進める必要があるでしょう。
膝裏に腫れや圧迫感があるときに疑うべき症状
膝裏にやわらかいしこりを触れる、膝を深く曲げると突っ張り感がある、安静にしていても鈍い痛みが続く、といった症状はベーカー嚢腫の代表的なサインです。歩行時に違和感が増す場合は、嚢腫が周囲の神経や血管を圧迫している可能性も考えられます。
超音波検査やMRIで嚢腫の有無と大きさを確認し、関節内の状態もあわせて評価することが治療方針を決めるうえで欠かせません。
膝の裏の筋が痛いときに考えられるその他の原因と見分け方
筋肉や腱の炎症やベーカー嚢腫以外にも、膝裏の痛みを生じさせる疾患は複数あります。鑑別のポイントは「いつ」「どのように」痛むかという情報です。
半月板損傷が膝裏の痛みにつながる場合
半月板は膝関節のクッションの役割を果たす三日月形の軟骨組織です。とくに内側半月板の後方部分が損傷すると、膝裏の内側に痛みが出るときがあります。
しゃがむ動作や膝をひねる動きで引っかかるような感覚を伴うのが特徴です。加齢にともなう変性断裂は中高年に多く、外傷がなくても日常動作で生じる場合がある点に留意してください。
後十字靭帯の損傷と膝裏の痛み
後十字靭帯(PCL)は、脛骨が後方にずれるのを防ぐ靭帯で、損傷すると膝裏の深い部分に痛みを感じます。交通事故でダッシュボードに膝を打ちつけたときや、スポーツ中の激しい接触で受傷することが多い怪我です。
膝の不安定感やぐらつき感が目立つ場合は靭帯損傷の可能性を考え、早めに専門医を受診しましょう。
坐骨神経痛や腰の問題が膝裏に痛みを飛ばすことがある
腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症によって坐骨神経が圧迫されると、お尻から太ももの裏、そして膝裏にかけて痛みやしびれが走ることがあります。膝裏そのものに異常がなくても、腰から「関連痛(放散痛)」として症状が現れるケースです。
膝裏だけでなく腰や太ももにもしびれや違和感がある場合、腰椎の画像検査も含めた総合的な評価を受けることが回復への第一歩になります。
膝裏の痛みを引き起こす主な原因の比較
| 原因 | 痛みの特徴 | 好発年齢層 |
|---|---|---|
| ハムストリングス腱炎 | 動作時の鈍痛・こわばり | スポーツをする全年代 |
| ベーカー嚢腫 | 圧迫感・膝を曲げた際の突っ張り | 中高年に多い |
| 半月板損傷 | 引っかかり感・ロッキング | 中高年の変性断裂が多い |
| 後十字靭帯損傷 | 深部の痛み・不安定感 | 外傷を受けた全年代 |
| 坐骨神経痛 | しびれを伴う放散痛 | 40代以降に増加 |
膝裏の筋が痛いときに安静をとるべき理由と日常生活での注意点
急性期の膝裏の痛みに対しては、まず炎症を悪化させないための安静が治療の土台です。ただし安静の「取りすぎ」も筋力低下を招くため、適切な加減を知ることが早期回復につながります。
急性期にはRICE処置で炎症を抑える
痛みが出てから48〜72時間は、Rest(安静)・Ice(冷却)・Compression(圧迫)・Elevation(挙上)の4つを組み合わせたRICE処置が基本です。
氷嚢やアイスパックを薄手のタオルで包み、15〜20分を目安に膝裏に当てると、腫れや炎症の拡大を抑えるのに役立ちます。
冷却は1日に数回繰り返してかまいませんが、凍傷を防ぐため直接肌に氷を当てないよう気をつけてください。
無理な運動や長時間の正座を避けるべき理由
炎症が残っている段階で激しい運動を再開すると、微小な損傷が広がって慢性化するリスクがあります。また、正座のように膝を深く曲げる姿勢は、ハムストリングスの腱や嚢腫を圧迫して痛みを増幅させます。
日常生活でもしゃがみこみや和式トイレの使用をなるべく控え、椅子の生活に切り替えるだけで膝裏への負担を軽減できるでしょう。
安静の「加減」を間違えると回復が遅れる
痛みが引いたあとも動かさずにいると、筋肉と腱の柔軟性が失われ、かえって再発しやすい状態をつくってしまいます。急性期の炎症がおさまったら、痛みの出ない範囲で少しずつ膝を動かし始めることが大切です。
- 急性期(発症〜72時間):RICE処置を中心に安静を優先
- 亜急性期(3日〜2週間):痛みの出ない範囲で軽い歩行や関節の曲げ伸ばし
- 回復期(2週間以降):ストレッチや筋力トレーニングを段階的に導入
時期ごとの活動量を主治医や理学療法士と相談しながら調整するのが、もっとも安全で効率的な方法です。
日常生活で膝裏に負担をかけにくい動作の工夫
階段を下りるときは手すりを使い、体重を支えながらゆっくり降りるだけでも膝裏への衝撃を和らげられます。床からの立ち上がりでは、片膝を立ててから手で体を押し上げるようにすると、ハムストリングスへの急激な伸張を避けられます。
靴選びも見逃せないポイントです。クッション性のあるウォーキングシューズを履くと、歩行時に膝へ伝わる衝撃を分散し、膝裏の痛みの悪化を予防できます。
膝の裏の筋が痛いときに受ける検査と診断の流れ
膝裏の筋の痛みは原因が多岐にわたるため、問診と身体検査を出発点に画像検査を組み合わせて診断を絞っていきます。自己判断での湿布や安静だけでは根本原因を見逃す場合があるため、早めの受診をおすすめします。
問診・触診で痛みの原因をおおまかに絞る
医師はまず「いつから痛いか」「どんな動作で悪化するか」「腫れやしびれはあるか」といった問診で情報を集めます。
膝裏の触診では、痛みの位置が内側か外側か、しこりや腫れがあるかを確認し、ハムストリングスの腱炎、ベーカー嚢腫、半月板損傷などの候補を挙げていきます。
膝の屈伸や回旋のテストを加えることで、靭帯損傷や半月板の問題をある程度区別できます。
MRI・超音波検査で筋や腱の状態を確認する
MRIは筋肉、腱、靭帯、半月板、嚢腫といった軟部組織を詳しく描出できる画像検査です。膝裏の痛みの原因を正確にとらえるうえで、もっとも情報量の多い検査といえます。
超音波検査(エコー)はリアルタイムで組織を観察でき、ベーカー嚢腫の有無や大きさの確認に適しています。
検査の選択は症状や医療機関の設備によって異なりますが、痛みが長引いている場合はMRIまで行うと見落としを減らせるでしょう。
変形性膝関節症が隠れていないかX線で確認する
X線(レントゲン)では骨の形状や関節の隙間を評価できます。変形性膝関節症の進行度を把握したり、骨棘の有無を確認したりするために、MRIとあわせて撮影されるのが一般的です。
膝裏の痛みが筋肉や腱だけでなく関節自体の変形に起因している場合、治療の方向性が大きく変わります。そのため、骨と軟部組織の両面から評価を行うことが正確な診断に直結します。
| 検査法 | 主に確認できること |
|---|---|
| X線(レントゲン) | 骨の変形・関節裂隙の狭小化・骨棘 |
| MRI | 筋肉・腱・靭帯・半月板・嚢腫の異常 |
| 超音波(エコー) | 嚢腫の有無と大きさ・腱の炎症所見 |
膝裏の筋の痛みに対する保存的治療とリハビリの進め方
多くの膝裏の痛みは手術をしなくても改善が見込めます。消炎鎮痛薬やリハビリを中心とした保存的治療で、痛みの軽減と機能の回復を目指すのが一般的なアプローチです。
消炎鎮痛薬と注射療法による痛みの緩和
内服の非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)や外用の湿布は、炎症と痛みを抑える第一選択です。痛みが強い場合や、ベーカー嚢腫に伴う炎症が顕著な場合には、関節内へのヒアルロン酸注射やステロイド注射が検討されることもあります。
注射による効果は個人差がありますが、関節内の炎症を直接おさえると嚢腫の縮小や痛みの軽減が期待できます。
ハムストリングスのストレッチと筋力トレーニング
痛みが落ち着いてきたら、ハムストリングスの柔軟性を取り戻すストレッチが回復を後押しします。椅子に浅く座って片脚を前に伸ばし、つま先を手前に引きながら太ももの裏側をゆっくり伸ばす方法は、自宅でも安全に行える代表的なストレッチです。
同時に、太ももの前面(大腿四頭筋)とハムストリングスの筋力バランスを整えるトレーニングを取り入れると、膝関節全体の安定性が高まり再発防止につながります。負荷のかけ方は理学療法士の指導のもとで段階的に進めるのが安全です。
物理療法や装具による膝裏への負担軽減
温熱療法や低周波治療などの物理療法は、血行を促進して組織の修復を助けます。急性期を過ぎて炎症がおさまった段階で導入すると効果的です。
膝を支えるサポーターやインソール(足底板)は、歩行時の膝へのストレスを分散する補助的な役割を果たします。変形性膝関節症を合併している方では、O脚を矯正するウェッジ型インソールが膝裏の負担軽減に寄与することがあります。
手術が検討されるのはどんなケースか
3〜6か月の保存的治療を続けても痛みが改善しない場合や、腱の完全断裂・大きなベーカー嚢腫による神経圧迫がある場合には、手術が選択肢に入ります。
ベーカー嚢腫の手術では関節鏡を用いて嚢腫の原因となっている関節内の病変も同時に治療するのが一般的です。
- 保存的治療で3〜6か月経っても痛みが軽減しない
- 腱の完全断裂により歩行に大きな支障がある
- 嚢腫が破裂を繰り返す、または神経・血管を圧迫している
手術の必要性は画像検査の結果や症状の程度を総合的に判断して決まるため、主治医としっかり話し合ったうえで方針を決めることが大切です。
よくある質問
- 膝の裏の筋が痛いとき、冷やすべきですか温めるべきですか?
-
痛みが出てから48〜72時間の急性期には、冷却(アイシング)が有効です。氷嚢を薄いタオルで包んで15〜20分ほど膝裏に当てると、炎症による腫れや痛みの拡大を抑えることが期待できます。
急性期を過ぎて痛みが落ち着いてきたら、温熱療法に切り替えるのが一般的です。温めると血行が促進され、組織の修復が進みやすくなります。どちらを選ぶべきか迷った場合は、医師に相談して判断するのが確実です。
- ハムストリングスの炎症が膝裏の痛みを起こしている場合、完治までどのくらいかかりますか?
-
軽度のハムストリングス腱炎であれば、適切な安静とリハビリを行えば数週間から1〜2か月程度で改善するケースが多い傾向にあります。ただし、腱の変性が進んでいたり、慢性化していたりする場合は、数か月以上かかることもあります。
回復を早めるには、急性期の安静を守りながら、痛みが引いた段階でストレッチや軽い運動を段階的に再開することが大切です。自己判断で運動に復帰すると再発リスクが高まるため、医師や理学療法士と相談しながら進めてください。
- 膝裏の筋の痛みは変形性膝関節症のサインになり得ますか?
-
膝裏の痛みが直ちに変形性膝関節症を意味するわけではありませんが、関連している場合は少なくありません。変形性膝関節症では関節内の炎症がベーカー嚢腫を引き起こし、それが膝裏の痛みとして自覚されることがあります。
膝裏だけでなく膝全体のこわばりや、歩き始めの痛みが続くようであれば、X線検査で関節の状態を確認することをおすすめします。早期に発見できれば、運動療法や体重管理などの保存的治療で進行を遅らせることが見込めます。
- 膝の裏の筋が痛いとき、ストレッチをしても大丈夫ですか?
-
急性期の強い痛みがある段階では、無理にストレッチを行うと炎症を悪化させるおそれがあるため控えてください。痛みが和らいでから、痛みの出ない範囲でゆっくり伸ばすストレッチを始めるのが安全です。
とくにハムストリングスのストレッチは膝裏の柔軟性を保つうえで有効ですが、反動をつけたり無理に伸ばしたりすると逆効果になります。主治医や理学療法士に相談し、時期と方法を確認してから取り組むのが望ましいでしょう。
- 膝裏の痛みで病院を受診する目安はどのような症状ですか?
-
1〜2週間のセルフケアを続けても痛みが軽くならない場合は、早めに整形外科を受診してください。膝裏に腫れやしこりがある、膝が曲がりにくい、歩行に支障が出ている、しびれを伴う、といった症状がある場合は、より早い段階での受診をおすすめします。
急にふくらはぎが大きく腫れて熱を持つ場合は、ベーカー嚢腫の破裂や深部静脈血栓症の可能性があるため、すみやかに医療機関を受診してください。自己判断で放置すると合併症のリスクが高まることがあります。
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