EGFは、体内でつくられる上皮成長因子を手本にしたタンパク質成分です。化粧品では主に「ヒトオリゴペプチド-1」と表示され、整肌成分として配合されています。
ハリやキメへの効果が期待される一方、健やかな皮膚を対象にした臨床研究はまだ十分ではありません。分子が大きく、塗るだけで角層の奥へ広く届くとは限らない点も大切です。
発がん性やシミへの不安についても、細胞への作用と一般的な化粧品使用を分けて考える必要があります。
この記事では、EGFの効果や選び方、使い方を解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
EGFとはどのようなスキンケア成分なのか
EGFとは、細胞の表面に情報を伝える成長因子の一種です。化粧品中の成分と、体内で働く天然のEGFは同じ話ではないため、まず名称と性質を分けて捉えましょう。
上皮成長因子は53個のアミノ酸からなる
EGFはEpidermal Growth Factorの略で、日本語では上皮成長因子と呼びます。ヒトEGFは53個のアミノ酸がつながった、分子量約6,200Daの小型タンパク質です。
体内では皮膚だけに存在する物質ではありません。標的となる細胞表面のEGF受容体に結合し、細胞の増殖や移動、分化に関わる合図を伝える生理活性物質です。
皮膚では主に表皮の角化細胞との関係が研究されています。表皮は細胞をつくり、成熟させながら角層へ送り出すため、EGFの合図は皮膚の更新を考えるうえで重要です。
ただし、試験管内の細胞へEGFを直接加えた結果を、そのまま化粧品の効果とはみなせません。皮膚表面から届く量や成分の安定性、製品の処方によって条件が異なるからです。
発見から1986年のノーベル賞へ
EGFは、スタンリー・コーエンがマウスの唾液腺抽出物を研究する過程で見いだしました。抽出物を与えた新生マウスで、まぶたが早く開く現象が発見のきっかけです。
その後、上皮細胞の増殖に関わる物質として単離され、EGFと名づけられました。コーエンとリタ・レヴィ=モンタルチーニは成長因子の発見により、1986年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
この受賞は化粧品の美容効果を認定したものではなく、細胞や臓器の成長を調節する物質を発見した基礎研究への評価です。権威ある発見と製品ごとの有用性は切り分ける必要があります。
| 確認したい項目 | EGFの基本情報 | 化粧品での意味 |
|---|---|---|
| 正式名称 | 上皮成長因子 | 整肌成分として配合 |
| 大きさ | 53アミノ酸、約6,200Da | 角層通過が課題 |
| 表示名称 | EGFとは別表記 | ヒトオリゴペプチド-1 |
化粧品表示ではヒトオリゴペプチド-1を探す
日本の化粧品でEGFに相当する成分を確認するときは、全成分表示の「ヒトオリゴペプチド-1」が手がかりです。商品前面のEGF表記だけでなく、裏面などの表示も確認しましょう。
ヒトという語が付いていても、人の組織そのものを塗るという意味ではありません。一般には遺伝子組換え技術などを用いてつくられた、ヒトEGFと同じ並びを持つペプチドを指します。
化粧品では、ヒトオリゴペプチド-1を医薬部外品の美白やシワ改善の有効成分として扱うわけではありません。配合目的や使用感は、製品全体の処方も含めて判断します。
日本では2001年に化粧品の成分規制が変わり、禁止・制限成分などを定める方式と全成分表示へ移行しました。EGF化粧品が一律に禁止されているという理解は正確ではありません。
EGFに期待できる効果
EGF化粧品には、キメやハリ、乾燥によるくすみを整える働きが期待されています。ただし、複数の成長因子を含む製剤の研究も多く、EGF単独の効果は慎重に読む必要があります。
2023年の系統的レビューでは、外用成長因子製剤33研究が検討され、肌質や細かなシワなどに一定の変化が報告されました。一方、比較試験の一部では群間差がなく、長期的な持続も不明です。
表皮の更新を支えてキメを整える働き
EGFが表皮細胞の受容体に結合すると、細胞の増殖や移動に関係する合図が生じます。この性質から、乱れたキメを整え、なめらかな見た目を支える成分として研究されています。
肌のターンオーバーとは、表皮の細胞が生まれて角層へ移り、やがて垢としてはがれる循環です。速ければよいわけではなく、細胞が適切に成熟して角層を形づくることが大切です。
EGF配合美容液を29人が3か月使用した非盲検試験では、肌の質感や細かなシワなどの改善が報告されました。ただし対照群がなく、同時に日焼け止めも用いていたため、因果関係には限界があります。
化粧品は健やかな肌を保ち、見た目を整える目的で使うものです。傷や炎症の治療を目的とするものではなく、皮膚疾患で生じた表皮の異常をEGF化粧品だけで治すことはできません。
ハリ感や細かなシワへの期待には幅がある
ハリは表皮だけで決まらず、真皮のコラーゲンやエラスチン、水分量などが関係します。EGFは主に表皮側の細胞へ合図を伝えるため、深いシワを直接埋める成分ではありません。


外用成長因子製剤の研究では、細かなシワや肌質の変化を示す報告があります。しかしEGF以外の成長因子や保湿成分を含む製剤もあり、変化のすべてをEGFだけに帰すことは困難です。
系統的レビューが示した改善幅は総じて控えめで、被験者自身の評価は研究者の評価より高い傾向でした。鏡で感じる変化と、客観的な測定結果が一致しない場合もあります。
くすみやシミが気になる肌への効果
角層が乾燥してキメが乱れると、光が均一に反射せず、肌がくすんで見えることがあります。EGF化粧品で角層の状態が整えば、明るい印象につながる可能性はあります。
一方、EGFは承認された美白有効成分としてメラニン生成を抑えるものではありません。日焼けによるシミの予防では、日焼け止めや帽子などの紫外線対策が基本です。
「EGFでシミが増える」という直接的な因果関係を、一般的な化粧品使用で示した十分な臨床データは見当たりません。ただし色調変化を評価した研究は限られ、増えないと断言もできません。
新しいシミが急に増えた、形や色が変わったという場合は、化粧品による変化と自己判断しないでください。いったん使用を中止し、皮膚科で色素斑の種類を確認することが重要です。
保湿効果は製品全体の処方も影響する
EGF自体は、角層へ水分を抱え込ませる代表的な保湿剤とは性質が異なります。成長因子配合製剤で水分量が上がった報告はありますが、保湿成分や基剤の影響を除外できません。
乾燥肌では、EGFの配合だけで製品を選ばず、水分保持成分と油性成分の組み合わせを確認します。使用後につっぱらず、毎日続けても刺激がない処方かどうかが実用上は大切です。
| 期待される点 | 考えられる背景 | 根拠を読む注意 |
|---|---|---|
| キメ | 表皮細胞への合図 | EGF単独研究が少ない |
| ハリ感 | 肌質や水分量の変化 | 深いシワ治療ではない |
| 明るい印象 | 乾燥やキメの改善 | 美白有効成分ではない |
EGFの使い方とスキンケアへの取り入れ方
EGFは美容液、化粧水、クリーム、パックなどに配合されています。剤形だけで優劣は決まらないため、全成分表示、容器、肌質、続けやすい使用感から選びましょう。
タンパク質は熱や光、処方中の条件で変化しやすい性質があります。保管方法と使用期限を守り、開封後に色やにおい、質感が大きく変わった製品は使用を控えてください。
美容液やクリームなど剤形ごとの選び方
美容液やセラムは、洗顔後から乳液・クリーム前に使う設計が一般的です。ただし製品ごとに成分構成が異なるため、濃そうという印象より、メーカーが示す順番を優先します。
化粧水やローションは広げやすく、軽い使用感を好む人に向きます。アルコールや香料などで刺激を感じる人もいるので、EGF以外の成分まで確認することが必要です。
クリームは油分を含み、乾燥しやすい肌の水分蒸散を抑える助けになります。べたつきや毛穴づまりが気になる場合は、量を減らすか軽い剤形へ替えると続けやすいでしょう。
パックやシートマスクは、長く置くほど効果が高まるわけではありません。表示時間を超えるとシートが乾き、かえって肌の乾燥や刺激につながることがあります。
朝夜の順番と塗り方をシンプルにする
基本の順番は、洗顔後に水分の多い製品から使い、最後に乳液やクリームで整えます。EGF美容液は製品説明に従い、こすらず手のひらでやさしく押さえるようになじませます。
朝に使う場合も、EGFそのものを理由に避ける必要は通常ありません。ただし日中の紫外線は乾燥や光老化に関係するため、最後に日焼け止めをむらなく塗ることが重要です。
夜は入浴直後など、肌の水分が失われる前に保湿を済ませます。使用量を増やしても届く量が比例して増えるとは限らず、塗りすぎはべたつきや刺激の原因になります。
- 洗顔後は水分の多い剤形から使う
- 表示どおりの量と順番を守る
- 朝は日焼け止めまで塗る
- 開封後の保管条件を守る
相性のよい成分と刺激になりやすい併用
ヒアルロン酸は角層の水分を保つ目的で配合され、EGFとは異なる方向から乾燥対策を支えます。両方を含む製品でも、通常は成分名だけを理由に避ける必要はありません。

ナイアシンアミドも保湿や整肌を目的に使われる成分です。EGFとの重大な相互作用は一般的に知られていませんが、複数の美容成分を重ねるほど刺激の原因は特定しにくくなります。

ピーリング成分など刺激が出やすい製品と同時に始めると、ヒリつきや赤みが生じることがあります。敏感肌は使用日を分け、肌が落ち着いている日に少量から試しましょう。
EGF化粧品の危険性・発がん性について
EGF化粧品が危険だと一括りにする根拠はありませんが、安全だと無条件に断言できるほど長期データも豊富ではありません。細胞への作用、皮膚への届き方、使用者の状態を分けて考えます。
外用成長因子製剤の系統的レビューでは、有害事象は少ない傾向でした。ただし研究期間は多くが数か月で、製剤も一定ではないため、長期使用やEGF単独の評価には限界があります。
細胞増殖の合図が発がん性の不安につながる
EGFは細胞増殖に関係する合図を伝えるため、「がんを生じさせるのでは」と不安に感じる人がいます。この懸念は作用の性質から生じますが、合図を送ることと発がんは同義ではありません。
2009年の安全性レビューは、EGFが正常細胞を悪性化させる開始因子だと示す臨床証拠はないと整理しました。一方で追跡期間の不足を認めており、長期の不確実性は残ります。
さらに、医療現場で傷へ用いる量や投与経路と、健常な角層へ化粧品として塗る状況は異なります。別条件のデータから、一般化粧品のリスクをそのまま推定することはできません。
がんの治療中や治療後、皮膚に腫瘍や治りにくい病変がある人は、自己判断で使用せず主治医へ相談してください。傷や病変を化粧品で覆い、受診が遅れることを避ける必要があります。
約6,200DaのEGFは角層を越えにくい
健やかな角層は、外から異物が入るのを防ぐバリアです。一般に分子が大きく水になじみやすいタンパク質は角層を通過しにくく、約6,200DaのEGFも送達効率が課題とされています。
この性質は全身への移行が限られる可能性を示す一方、期待する作用がどこまで届くかという疑問にもつながります。配合されていることと、活性を保って目的部位へ届くことは別です。
微細な針やレーザーなどで角層を傷つけた直後は、通常の化粧品使用とは条件が変わります。家庭で皮膚に穴を開けてEGF化粧品を浸透させる使い方は、安全性を確認できません。
湿疹、日焼け、ひび割れがある皮膚もバリアが弱っています。しみる、赤くなる、熱っぽいといった反応があれば洗い流して中止し、症状が続く場合は皮膚科を受診してください。
使用を避けた方がよい人と副作用への対応
EGF配合化粧品で起こりうる反応には、赤み、かゆみ、ヒリつき、腫れなどがあります。EGFではなく、防腐剤や香料、溶剤など別の配合成分が原因となる場合もあります。
敏感肌やアレルギー歴がある人は、腕の内側など狭い範囲で試し、異常がないか確認してから顔へ使います。簡易テストで問題がなくても、顔で反応が起こる可能性は残ります。
EGF化粧品と処方薬の違いを分ける
創傷治癒を目的とした医療用EGFと、健やかな肌へ使う化粧品は別物です。傷を治す目的で化粧品を使ったり、海外の医薬品を自己判断で取り寄せたりしないでください。
| 状況 | 考え方 | 対応 |
|---|---|---|
| 健やかな肌 | 少量から試す | 表示どおりに使用 |
| 赤みや湿疹 | バリアが低下 | 中止して相談 |
| 傷や治療部位 | 化粧品の対象外 | 医療機関へ確認 |
EGFと似た成分の違い
FGF、ヒト幹細胞培養液、エクソソームは、EGFと一緒に語られやすいものの同一成分ではありません。由来や含まれる物質、品質評価の考え方がそれぞれ異なります。
EGFとFGFでは主な標的が異なる
EGFは上皮成長因子で、皮膚では主に表皮の角化細胞との関係が中心です。FGFは線維芽細胞増殖因子の総称で、真皮の線維芽細胞などに関わる複数の種類があります。
表皮と真皮という説明は違いを捉える目安ですが、体内の働きは明確に二分できるほど単純ではありません。受容体や濃度、周囲の細胞によって反応が変わります。
EGFとFGFを両方含む化粧品もありますが、成長因子の種類が多いほど効果が高いとは限りません。各成分の含有量や活性、保存中の安定性を表示だけから判断するのは困難です。
ヒト幹細胞培養液やエクソソームは混合物として捉える
ヒト幹細胞培養液は、細胞を培養した際に得る上清を加工した原料です。培養条件によって成長因子やサイトカインなどの構成が変わり、精製したEGF単独とは異なります。

エクソソームは、細胞が放出する小さな膜状の粒子を指します。内部にタンパク質や核酸などを含みますが、「エクソソーム配合」という表示だけでEGF量や作用は分かりません。

由来細胞、製造管理、不純物、保存方法が異なれば、原料の性質も変わります。名称の印象や配合成分の多さより、全成分表示と使用上の注意、販売元の情報を確認しましょう。
| 成分・原料 | 特徴 | EGFとの違い |
|---|---|---|
| EGF | 53アミノ酸の成長因子 | 特定のタンパク質 |
| FGF | 複数種類の成長因子群 | 主に線維芽細胞との関係 |
| 培養液・エクソソーム | 多様な物質を含みうる | 単一成分ではない |
レチノールやペプチドとの併用は刺激を基準にする
レチノールはビタミンAの一種で、EGFとは構造も働き方も異なります。併用そのものが一律に禁止される組み合わせではありませんが、レチノールは乾燥や赤みを生じることがあります。

両方を初めて使う場合は、同じ日に重ねず一方ずつ導入します。すでにレチノールで皮むけがあるときはEGF化粧品を加えず、刺激が治まるまで保湿を優先してください。
ペプチドはアミノ酸が複数つながった物質の総称で、EGFも広い意味ではペプチド性タンパク質です。ただし短い整肌ペプチドとEGFでは、大きさや受容体への働きが異なります。

まとめ
- EGFは53アミノ酸からなる上皮成長因子
- 化粧品表示名称はヒトオリゴペプチド-1
- キメやハリへの臨床根拠は限定的
- 約6,200Daで角層への送達が課題
- 気になる症状がある場合は皮膚科を受診してください
EGFは話題性の高い成長因子ですが、化粧品で期待できる範囲と医療用途を分けることが大切です。研究の限界を理解し、毎日の保湿と紫外線対策の一部として無理なく取り入れましょう。
よくある質問
参考文献
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