髪のボリュームやハリが気になったとき、栄養バランスの見直しは大切です。とくに「亜鉛とプロテイン」は食生活で意識して摂取したい成分だといわれます。どちらも体内で髪の成長サイクルに大きくかかわるため、上手に取り入れると髪質のコンディション向上が期待できます。
しかし、それぞれを単体で摂るだけでは十分なアプローチにならない場合があり、同時に摂るタイミングや量、そして食材の選び方がポイントになります。
そこで本記事では、亜鉛とプロテインがどのように髪の健康をサポートするのか、また効率的な摂取のタイミングや注意点について詳しく解説いたします。髪の悩みを緩和したい方や、より豊かな髪をめざす方の参考になれば幸いです。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
髪の成長に必要な亜鉛とプロテインの役割とは
髪の毛は、主成分であるケラチンを生成するために多くの栄養素を必要とします。とくに亜鉛とプロテイン(タンパク質)は髪の基礎をつくるうえで重要です。
そこで、亜鉛の酵素活性を支えるはたらき、プロテインが補うアミノ酸の重要性、そして両者が相乗的に作用して髪質に与える影響について順番に見ていきましょう。
亜鉛が担う酵素活性のサポートとは
亜鉛は、ミネラルのひとつとして体内で多岐にわたる役割を果たします。中でも髪の成長に直結する要素として、酵素活性を支える働きが挙げられます。
たとえばケラチン合成をスムーズに行うために、酵素を円滑に動かす亜鉛が重要と考えられています。
酵素は髪を形成するうえで欠かせない化学反応を助けますが、亜鉛を十分に摂らないと正常な働きが行いにくくなり、髪の質やコシにも影響を及ぼす可能性があります。
さらに、亜鉛は細胞分裂にも深くかかわります。髪の毛根部にある毛母細胞が活発に増殖し、髪の長さやボリュームを左右しますが、このときに亜鉛が不足すると細胞分裂が滞りやすくなります。
結果として新しい髪が育ちにくくなったり、髪そのものの強度が下がったりする恐れがあります。亜鉛を意識的に摂取すると、髪の成長過程を下支えできるでしょう。
プロテインが補うアミノ酸の重要性
次に、プロテイン(タンパク質)について解説します。髪の主成分はケラチンというタンパク質ですが、このケラチンを合成するためにはさまざまなアミノ酸が必要です。
食事からタンパク質を十分摂ると、体内でアミノ酸に分解され、髪をつくる土台が確保されます。
タンパク質には動物性と植物性がありますが、それぞれ含むアミノ酸バランスが異なります。動物性タンパク質(牛肉、豚肉、鶏肉、魚など)は必須アミノ酸を含む一方、植物性タンパク質(豆類や大豆製品など)は比較的ヘルシーな脂質を含みながら必要なタンパク源を補えるメリットがあります。
複数の食材を組み合わせるとより多様なアミノ酸を摂れるので、どちらか一方に偏らないようにするのが大切です。
髪の毛は日々成長を続けますが、タンパク質不足が続くと髪質の低下や抜け毛の増加につながりやすくなります。体全体の健康を維持するためにも毎日の食事にバランスよくタンパク質を取り入れることが望ましいでしょう。
亜鉛とプロテインの相乗効果が髪質に影響を与えるポイント
亜鉛とプロテインを組み合わせると、単体で摂ったときよりもさらに高い効果を期待できるケースがあります。
髪をつくる基本材料であるタンパク質(アミノ酸)が十分に確保されている状態で、酵素活性を助ける亜鉛が働くと、髪の生まれ変わりサイクルが整いやすくなります。亜鉛不足やタンパク質不足が起きると、せっかくの栄養がうまく活かせなくなるかもしれません。
さらに、亜鉛は栄養素の代謝をサポートし、タンパク質の吸収をスムーズにする側面もあります。これによって摂ったタンパク質が効率よく髪の成長に使われるため、太くしなやかな髪の維持に役立つ可能性があります。
同時に各種ビタミンや鉄分、ビオチンなどの栄養素も補うと、より髪の環境づくりにプラスの影響を与えるでしょう。
摂取のタイミングで変わる?亜鉛とプロテインの髪への吸収率
亜鉛やプロテインは効率的な摂取タイミングを意識すると、髪に届きやすくなると考えられます。
空腹時と食後のどちらが適切か、サプリメントの場合と食事からの場合で吸収率に差があるのか、そして継続的に摂ることのメリットについて詳しく見ていきましょう。
空腹時と食後、どちらが効率的か
亜鉛やプロテインを飲むタイミングに悩む方も多いかもしれません。一般的に亜鉛は空腹時よりも、食後の方が胃への負担が少なくなるので無理なく取り入れやすくなります。また、食事に含まれるほかの成分と一緒に摂取することで、相互的に吸収が高まる場合もあるでしょう。
一方、タンパク質は消化吸収の速度を意識すると、運動後など身体が回復のためにアミノ酸を欲しているタイミングで摂取するのも有効です。
ただし、食後すぐは胃酸が増え消化機能も活発になっているので、亜鉛のサプリメントを服用すると胃の不快感を覚える場合があります。最初は少量から試してみたり、夕食後に少し時間をおいてから摂ったりするのがおすすめです。
自分の胃腸のコンディションを踏まえて、少しずつ調整しながら習慣づけることが大切です。
サプリメントと食事からの吸収率の違い
亜鉛やプロテインをサプリメントとして摂る場合は、成分をピンポイントで補給できる一方で、食事に含まれるほかの栄養素が不足しがちになる可能性もあります。
食事から摂る場合、食品に含まれる他の栄養素や食物繊維などが吸収を助ける役割を担うことが多いです。反対にサプリメントは純粋な成分量は多いものの、食品と同じような相乗効果を期待しにくいケースも考えられます。
バランスの良い食事を心がけながら、不足がちな栄養をサプリメントで補強すると、より安定した栄養補給につながるでしょう。
亜鉛の場合は、カキやレバー、牛肉、大豆製品などに多く含むとされています。プロテインは、肉や魚、卵、豆類、乳製品など身近な食品からも摂りやすいです。
サプリメントを活用するときは、摂取上限を踏まえて過剰摂取にならないよう気をつけたいところです。
継続摂取がもたらす髪質変化の例
亜鉛やプロテインを一度に大量に摂っても、すぐに髪の状態が変わるわけではありません。髪の成長サイクルは長期的に進みますし、栄養は全身のあらゆる部分に回ります。
そのため、継続的に摂取していくことで徐々に髪質が改善し、ハリやコシに違いを感じやすくなる場合があります。
たとえば、3か月から半年ほどかけて亜鉛とプロテインを意識的に摂る習慣を続けると、頭皮のコンディションが整い、新しく生えてくる髪が丈夫になるケースがあります。
もちろん個人差がありますし、食生活や睡眠時間、ストレスなどほかの要因も絡むため、きちんとバランスをとることが大切です。あわせて、喫煙や過度の飲酒を控え、定期的に適度な運動をすることも心がけると相乗的にプラスの影響が期待できます。
髪の健康に効果的な亜鉛・プロテインの1日の摂取量
食事やサプリメントで亜鉛やプロテインを摂取するとき、1日の目安量を押さえておくことは重要です。体格や生活スタイルの違いによって適切な量は変わってきますし、過剰摂取を続けると体調を崩すリスクも高まります。
ここからは大まかな摂取量の基準、過剰摂取による注意点、さらに効果を高める食材や組み合わせについて解説します。
体格や生活スタイル別に異なる目安量
亜鉛は成人男性で1日10mg前後、成人女性で1日8mg前後が推奨量の目安とされています。ただし、肉体労働が多い方やスポーツを積極的に行う方は発汗や筋肉の修復などで亜鉛の需要がやや高まります。
プロテインの場合も、成人男性は1日あたり体重1kgあたり1.0~1.2g、女性は1.0g前後を推奨量の目安にするとよいという意見があります。運動量が多い方は1日1.5gほどに増やすと筋肉の保護と同時に髪に回るアミノ酸も確保しやすくなるでしょう。
以下の例のように、体重60kgの男性が中程度の運動を週に何度か行う場合は、1日あたり60g前後のタンパク質が妥当と考えられます。
大豆製品、卵、肉、魚などをバランスよく食べながら、不足すると感じる分をプロテインサプリで補えば効率的です。
亜鉛とプロテインの目安量表
栄養素 | 成人男性(中程度運動) |
---|---|
亜鉛(1日推奨) | 約10mg |
プロテイン(1日推奨) | 体重×1.0~1.2g |
上記はあくまで一般的な目安なので、自分の食生活や生活習慣、健康状態に応じて増減を検討するとよいでしょう。医療機関などで相談できる環境がある場合は、専門家のアドバイスを受けるとより確実です。
過剰摂取による副作用と注意点
亜鉛やタンパク質が髪の成長や健康維持に重要だからといって、過度に摂りすぎると身体のバランスが崩れやすくなります。
亜鉛を過剰摂取すると、銅の吸収不足や胃腸の不調を引き起こす恐れがあります。プロテインを過剰に摂ると消化不良や腎臓への負担が高まるケースがあるため、1日当たりの推奨量を大幅に超えないよう気をつけたいところです。
また、サプリメントを複数同時に使うと、それぞれに含まれる亜鉛や他のミネラルが合計で多くなってしまう場合もあります。プロテインサプリにも微量ミネラルが含まれている製品があるため、パッケージ記載の成分表示をきちんとチェックし、摂りすぎを避けることが大切です。
効果を高めるための食材選びと組み合わせ
髪の健康を目指すうえで、亜鉛とプロテインの量だけでなく、バランスのとれた食材選びが大切です。
亜鉛を多く含む食品としてはカキや牛肉、レバー、大豆製品、ナッツ類が挙げられます。プロテインを補うためには、動物性タンパク質(肉、魚、卵、乳製品)と植物性タンパク質(豆類、穀物など)をバランスよく摂ると、より幅広いアミノ酸を確保できます。
ビタミンCを含む果物や野菜を同時に摂ると、鉄分や亜鉛の吸収を助けることが期待できますし、良質な脂質を含むアボカドやナッツを適度に組み合わせると、脂溶性ビタミンの吸収率が高まります。
血行促進を促す作用がある香味野菜(ネギ、しょうが、にんにくなど)もうまく使うと、頭皮の環境を整えるのに役立つでしょう。
亜鉛とプロテインを含む食材の一例
食材 | 主な栄養素 |
---|---|
カキ | 亜鉛、鉄、ビタミンB12 |
大豆製品 | タンパク質、イソフラボン |
牛肉 | タンパク質、亜鉛 |
卵 | タンパク質、ビタミンB群 |
上記のような食材を意識的に組み合わせると、単体で摂るよりもさらに髪の土台づくりをサポートしやすくなります。
ただし、食事だけですべてを賄うのが難しい場合や、忙しくて十分な栄養が取れないときに限り、サプリメントを検討するのもひとつの選択肢でしょう。
食事の基本を押さえたうえで、無理のない範囲でサプリメントを活用するスタイルを続けると、髪だけでなく全身のコンディション向上にも寄与しやすくなります。
まとめ
亜鉛とプロテインをバランスよく摂ることは、髪を構成する細胞レベルから強度とツヤを保ち、日常生活で受けるストレスやダメージに耐えやすい髪質づくりに役立ちます。
髪はすぐに変化を感じるものではなく、継続したアプローチによって少しずつ状態が整う傾向があります。普段の食事内容や摂取タイミング、生活習慣を見直しながら、これらの栄養素を無理なく取り入れる方法を探してみてはいかがでしょうか。
十分な睡眠やストレス管理、適度な運動もあわせて意識すると、血行の促進やホルモンバランスの安定が期待でき、髪の悩み軽減につながるかもしれません。
この記事で紹介した亜鉛とプロテインの知識が、健やかな髪をめざす方の参考になれば幸いです。髪や頭皮の状態が気になる場合には、専門の医療機関への相談も検討し、原因を総合的に判断しながらのケアを続けると安心です。
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