近年、ヘアケア製品の成分として注目を集めているのが、ツボクサエキスです。この植物由来の成分は、発毛や育毛に効果があるとして話題を呼んでいます。
ツボクサエキスは、アジアの伝統医学で古くから用いられてきた植物から抽出されます。その髪への潜在的な効果については、現在科学的な研究が進められています。
本記事では、医学的な見地からツボクサエキスの特徴や働き、そして薄毛対策への活用法について詳しく解説していきます。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
ツボクサエキスとは?髪に与える潜在的な効果
ツボクサエキスは、アジアの伝統医学で長く重宝されてきた植物から抽出される成分で、近年ヘアケア製品の世界で脚光を浴びています。
その特徴や成分、そして髪への潜在的な効果について、植物学的な観点から科学的な研究結果まで、幅広く解説いたします。
ツボクサの植物学的特徴と歴史
ツボクサ(学名Centella asiatica)は、セリ科ツボクサ属に属する多年草です。
湿地や水辺に自生し、特徴的な円形の葉を持つこの植物は、アジアを中心に世界中の熱帯・亜熱帯地域に分布しており、日本の野山でも見かけることができます。
歴史的には、インドのアーユルヴェーダ医学や中国の伝統医学において、数千年前から様々な用途で利用されてきました。
記憶力向上や皮膚の治癒促進、精神的ストレスの軽減などに効果があるとされ、その長い使用の歴史が、現代のヘアケア製品への応用につながっているのです。
特徴 | 詳細 |
学名 | Centella asiatica |
科・属 | セリ科ツボクサ属 |
生育環境 | 湿地、水辺 |
葉の形状 | 円形 |
ツボクサエキスの主要成分と栄養価
ツボクサエキスには、多様な生理活性物質が含まれています。主な成分として、アシアチコシド、マデカッソシド、アシアチン酸、マデカシン酸などが挙げられます。
これらはトリテルペノイドと呼ばれる化合物群に属し、抗炎症作用や抗酸化作用を持つことで知られています。
さらに、ツボクサエキスにはビタミンCやビタミンB群、ミネラルなども豊富に含まれており、栄養価の高い植物エキスとして評価されています。
これらの成分が複合的に作用することで、ツボクサエキスの様々な効果が生み出されると考えられています。
成分 | 主な効果 |
アシアチコシド | コラーゲン合成促進 |
マデカッソシド | 抗炎症作用 |
アシアチン酸 | 細胞再生促進 |
マデカシン酸 | 抗酸化作用 |
ヘアケアにおけるツボクサエキスの可能性
ツボクサエキスのヘアケアにおける可能性について、いくつかの興味深い点が浮かび上がってきています。
まず、血行促進効果が挙げられます。ツボクサエキスには、毛細血管の強化や血流改善の作用があるとされており、頭皮の血行が良くなります。
次に、抗炎症作用も注目されています。頭皮の炎症は、健康的な髪の成長を妨げる要因の一つですが、ツボクサエキスの抗炎症作用により、頭皮環境が改善されます。
さらに、コラーゲン合成促進効果も重要です。コラーゲンは髪の成長に必要な成分の一つであり、その合成が促進されることで、健康的な髪の成長をサポートします。
これらの効果が相乗的に作用し、ツボクサエキスがヘアケア製品の有用な成分となる道が開かれつつあります。
科学的研究から見るツボクサエキスの髪への作用
ツボクサエキスの髪への効果については、いくつかの科学的研究が進められています。
ある臨床研究では、ツボクサエキスを含む製品を使用した群と、含まない製品を使用した群を比較しました。その結果、ツボクサエキスを含む製品を使用した群で、毛髪の密度や太さの改善が観察されたことが報告されています。
一方、in vitro(試験管内)実験では、ツボクサエキスが毛乳頭細胞の増殖を促進する結果が得られています。毛乳頭細胞は髪の成長に重要な役割を果たすため、この発見は今後の研究の方向性を示唆しています。
研究タイプ | 主な結果 |
臨床試験 | 毛髪密度・太さの改善 |
in vitro | 毛乳頭細胞増殖促進 |
ただし、これらの研究結果はまだ限定的であり、より多くの検証が必要とされています。効果の程度には変動があることにも留意します。
発毛・育毛に期待できるツボクサエキスの特徴と働き
ツボクサエキスは、発毛・育毛に関して多岐にわたる作用を持つことが科学的に示唆されています。
毛母細胞の活性化から血流改善、抗炎症作用、そしてコラーゲン生成促進に至るまで、様々な働きが期待されているのです。
毛母細胞の活性化メカニズム
毛母細胞は、毛髪の成長において中枢的な役割を担います。ツボクサエキスには、この毛母細胞を活性化する効果があると考えられています。
具体的には、ツボクサエキスに含まれるアシアチコシドやマデカッソシドといった成分が、毛母細胞の増殖と分化を促進します。
これらの成分は、細胞の成長因子の産生を刺激し、毛髪の成長サイクルを正常に保つことに寄与すると推測されています。
毛母細胞の活性化により、毛髪の成長期が延長され、毛髪の太さが増加し、新しい毛髪の生成が促進されると考えられています。
成分 | 毛母細胞への作用 |
アシアチコシド | 細胞増殖促進 |
マデカッソシド | 細胞分化誘導 |
ただし、これらの効果は長期的な使用によって徐々に現れるものであり、即効性を期待するのは適切ではありません。
血流改善効果と栄養供給の促進
ツボクサエキスには、血流を改善する効果があることが広く知られています。頭皮の血流改善は、毛髪の健康維持において非常に重要な要素であり、その効果は多岐にわたります。
血流が良くなることで、毛根への酸素供給が増加し、毛髪成長に必要な栄養素が効率的に供給されます。さらに、代謝産物の速やかな除去も促進されるのです。
ツボクサエキスに含まれるトリテルペノイド類は、血管の弾力性を高め、微小循環を活性化する作用があります。
この作用により、毛包周辺の血流が活発になり、毛髪の成長に必要な栄養素が効率よく供給されることになります。
血流改善による効果 | 毛髪への影響 |
酸素供給増加 | 毛根の代謝活性化 |
栄養素供給促進 | 毛髪成長の促進 |
代謝産物除去 | 毛包環境の健全化 |
こうした血流改善効果は、特に加齢や生活習慣によって頭皮の血行が悪くなっている方々にとって、顕著な利点をもたらす可能性が高いといえるでしょう。
抗炎症作用による頭皮環境の改善
頭皮の炎症は、健康な毛髪の成長を阻害する主要因の一つとして認識されています。ツボクサエキスには強力な抗炎症作用があり、頭皮環境の改善に大きく貢献すると考えられています。
この抗炎症作用は、主にマデカッソシド、アシアチン酸、マデカシン酸といった成分によってもたらされます。これらの成分は、炎症を起こす物質の産生を抑制し、炎症反応を緩和する働きがあります。
頭皮の炎症が軽減されることで、毛包の健康が維持され、正常な毛髪の成長が促進されるのです。
加えて、抗炎症作用はかゆみやフケの軽減、頭皮のバリア機能の強化、毛包の損傷防止といった効果をもたらします。これらの作用が相まって、健康的な頭皮環境が維持され、結果として毛髪の成長が促進されるというわけです。
コラーゲン生成促進と毛髪強化
ツボクサエキスには、コラーゲンの生成を促進する効果があることが明らかになっています。コラーゲンは、毛髪の構造を支える重要なタンパク質の一つであり、その増加は毛髪の健康に多大な影響を及ぼします。
コラーゲン生成促進による毛髪への影響としては、毛髪のハリとコシの向上、強度の増加、弾力性の向上などが挙げられます。
ツボクサエキスに含まれるアシアチコシドは、コラーゲン合成を刺激する働きがあり、これにより毛髪の成長を支える毛包周辺の結合組織が強化されます。
コラーゲン増加の効果 | 毛髪への影響 |
毛包周辺組織の強化 | 毛髪の成長基盤の安定化 |
毛髪構造の改善 | ハリ・コシの向上 |
このコラーゲン生成促進効果は、特に加齢によって毛髪の質が低下している方々にとって、顕著な改善をもたらす可能性があります。
DHT抑制効果の可能性
男性型脱毛症の主な原因の一つとして知られるジヒドロテストステロン(DHT)の過剰産生に対し、ツボクサエキスが抑制効果を持つ可能性が示唆されています。
DHTは、テストステロンが5α-リダクターゼという酵素によって変換されて生成されますが、ツボクサエキスに含まれる特定の成分が、この5α-リダクターゼの活性を抑制する可能性があるのです。
DHT抑制効果が確認されれば、毛包の縮小化の予防、毛髪の成長サイクルの正常化、薄毛の進行抑制といった利点が期待できます。
しかしながら、ツボクサエキスのDHT抑制効果については、さらなる研究が必要とされています。現時点では、その可能性が示唆されている段階であり、確定的な結論には至っていないことに留意します。
薄毛対策におけるツボクサエキスの活用法と注意点
ツボクサエキスは薄毛対策において脚光を浴びる成分ですが、その効果を最大限に引き出すには適切な製品選択と使用方法が鍵となります。
本章では、ツボクサエキス配合製品の選び方から使用法、期待される効果、そして留意点に至るまで、薄毛に悩む方々に有益な情報を詳細に解説してまいります。
ツボクサエキス配合製品の選び方
ツボクサエキス配合製品を選ぶ際、いくつかの重要なポイントに着目する必要があります。まず第一に、ツボクサエキスの含有量を確認しましょう。効果を期待するなら、一定以上の含有量が望ましいと言えるでしょう。
次に、他の有効成分との組み合わせにも目を向けることが肝要です。ミノキシジルやフィナステリドといった薬事法で認可された育毛剤と併用する場合は、必ず医師の指導を仰ぐようにしましょう。
製品の形状も選択の際の重要な基準となります。シャンプー、トニック、サプリメントなど、多様な形態が存在しますが、自身のライフスタイルに最適なものを選択するとよいでしょう。
製品タイプ | 特徴 |
シャンプー | 日常的なケアに適している |
トニック | 頭皮に直接塗布できる |
サプリメント | 内側からのアプローチが可能 |
品質保証や製造元の信頼性も見逃せない判断基準です。実績のあるメーカーの製品を選ぶことで、安全性と効果の両面において安心して使用できるでしょう。
効果的な使用方法とタイミング
ツボクサエキス配合製品の効果を最大限に引き出すには、適切な使用方法とタイミングを守ることが極めて重要です。
多くの場合、朝晩の1日2回の使用が推奨されますが、製品によって異なることもあるため、説明書を熟読することをお勧めします。
トニックタイプの場合、清潔な頭皮に適量を塗布し、優しくマッサージすることで浸透を促進させます。この際、以下の点に留意しましょう。
- 爪を立てず、指の腹で優しく円を描くように
- 頭皮全体にむらなく行き渡らせる
- マッサージは1〜2分程度行う
シャンプータイプの製品は、通常のシャンプーと同様に使用しますが、泡立てた後、数分間放置してから洗い流すことで、より高い効果が期待できます。
サプリメントタイプは、指定された用量を守り、水またはぬるま湯で服用します。食事の前後どちらに摂取するかは、製品の指示に従うようにしましょう。
使用タイミング | 注意点 |
朝 | 髪型をセットする前に使用 |
夜 | 入浴後の清潔な頭皮に適用 |
継続的な使用が効果を左右します。効果の発現には個人差がありますが、一般的に3〜6ヶ月程度の継続使用が一つの目安となるでしょう。
期待できる効果と個人差について
ツボクサエキスの使用により期待できる効果は多岐にわたります。主な効果として、以下のようなものが挙げられます。
- 頭皮の血行促進
- 毛髪の成長サイクルの正常化
- 毛髪のハリ・コシの向上
- 頭皮環境の改善
ただし、これらの効果の現れ方や程度には変動があることを認識しておく必要があります。年齢、薄毛の進行度、生活習慣など、様々な要因が影響を与えます。
初期段階の薄毛であれば、比較的早く効果を実感できる可能性がありますが、進行した薄毛の場合は、より長期的な使用が必要となる傾向にあります。
期待できる効果 | 個人差の要因 |
発毛促進 | 年齢、薄毛の進行度 |
頭皮環境改善 | 生活習慣、ストレス |
効果を客観的に判断するためには、使用前後の写真を定期的に撮影するなど、具体的な記録を取ることをお勧めします。
他の育毛成分との相乗効果
ツボクサエキスは、他の育毛成分と組み合わせることで、より高い効果を発揮することがあります。注目されている組み合わせとして、以下のようなものが挙げられます。
- ミノキシジルとの併用 • 血行促進効果の増強 • 毛包の活性化の促進
- ビタミンB群との組み合わせ • 毛髪の成長に必要な栄養素の補給 • 代謝の促進
- 亜鉛を含む製品との併用 • タンパク質合成の促進 • 毛髪の強度向上
これらの組み合わせにより、単独使用よりも顕著な結果が得られる可能性があります。ただし、複数の成分を併用する際は、それぞれの製品の使用方法や注意事項を十分に確認し、必要に応じて専門家に相談することが賢明でしょう。
使用上の注意点とアレルギーリスク
ツボクサエキスは一般的に安全性の高い成分とされていますが、使用に際しては以下の点に注意します。
- 皮膚に異常を感じた際は直ちに使用を中止し、医師の診断を受ける
- 妊娠中や授乳中の方は使用前に医師の助言を求める
- 既往症のある方は、使用前に医師に相談する
特に、アレルギー反応には細心の注意を払う必要があります。ツボクサエキスに対するアレルギー反応は稀ですが、完全に否定はできません。初めて使用する際は、以下の手順を踏むことをお勧めします。
- パッチテストの実施
- 少量から使用を開始
- 徐々に使用量を増やす
アレルギー症状 | 対処法 |
発赤 | 直ちに使用中止 |
かゆみ | 医師に相談 |
腫れ | 冷やして様子を見る |
これらの注意点を守り、適切に使用することで、ツボクサエキスの効果を安全に享受することができます。効果の発現には時間差がありますが、継続的な使用と正しいヘアケアの習慣化が、薄毛対策の成功への近道となるでしょう。
以上
参考文献
SADGROVE, Nicholas John. The new paradigm for androgenetic alopecia and plant-based folk remedies: 5α-reductase inhibition, reversal of secondary microinflammation and improving insulin resistance. Journal of ethnopharmacology, 2018, 227: 206-236.
KHANDAGALE, Sandip Suresh, et al. A Review of Herbal Medications for the Treatment of Alopecia. International Journal of Ayurveda and Pharma Research, 2023, 5-10.
JAIN, Ruchy, et al. Identification of a new plant extract for androgenic alopecia treatment using a non-radioactive human hair dermal papilla cell-based assay. BMC Complementary and Alternative Medicine, 2015, 16: 1-9.
RUBIANTO, Arif, et al. THE POTENTIAL OF HERBAL PLANTS AS ANTI-ALOPECIA MEDICINES. Medical Sains: Jurnal Ilmiah Kefarmasian, 2024, 9.2: 445-454.
RASHID, K., et al. Hair care promising herbs: A review. Pharm. Res, 2020, 10: 677-688.
UMAR, Sanusi; CARTER, Marissa J. Case Series A Multimodal Hair-Loss Treatment Strategy Using a New Topical Phytoactive Formulation: A Report of Five Cases. 2021.
SAANSOOMCHAI, Pahol, et al. Enhanced VEGF expression in hair follicle dermal papilla cells by Centella asiatica Linn. Chiang Mai Univ. J. Nat. Sci, 2018, 17.1: 25-37.
SANDHU, Jasdeep; KAUR, Veerpal; KAUR, Kirandeep. Role of herbal drugs in treatment of alopecia. Pharmaspire, 2020, 12: 84-88.
SARIC-KUNDALIC, Broza, et al. Qualitative chemical and antibacterial analysis of ajurvedic preparations against alopecia. TTEM, 171.
CHOI, Yeong Min, et al. Titrated extract of Centella asiatica increases hair inductive property through inhibition of STAT signaling pathway in three-dimensional spheroid cultured human dermal papilla cells. Bioscience, biotechnology, and biochemistry, 2017, 81.12: 2323-2329.