鏡を見るたびに増える抜け毛、シャンプー後の排水溝、枕についた髪の毛…。
なんとかしようと亜鉛サプリを飲んだり、育毛剤を試したりしても、一向に変化が見られないと不安になりますよね。その抜け毛、もしかしたらAGA(男性型脱毛症)が原因かもしれません。
AGAは進行性の脱毛症であり、セルフケアだけでは改善が難しいのが実情です。
この記事では、なぜ自己流の対策では効果が出にくいのか、AGA治療の必要性、そして具体的な治療法について、専門的な観点から詳しく解説します。
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小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
抜け毛対策、自己流の限界を感じていませんか?
抜け毛が増えてきたと感じたとき、多くの方がまず試すのが市販の育毛剤やサプリメントではないでしょうか。
しかし、数ヶ月続けても期待したような変化が見られない場合、その対策があなたの抜け毛の原因に合っていない可能性があります。
その症状、AGAのサインかもしれません
単なる抜け毛とAGAには、特徴的な違いがあります。もし以下の項目に複数当てはまるなら、AGAを発症している可能性を考えたほうが良いかもしれません。
自己判断は禁物ですが、一つの目安として確認してみてください。
AGA簡易セルフチェック
チェック項目 | はい | いいえ |
---|---|---|
家族(特に父方・母方の祖父)に薄毛の人がいる | ||
以前より髪の毛にハリやコシがなくなった | ||
生え際が後退してきた、または頭頂部が薄くなった | ||
抜け毛が細く短い毛が多い | ||
20代後半以降から抜け毛が気になり始めた |
なぜ亜鉛や市販の育毛剤では変わらないのか
亜鉛は髪の主成分であるケラチンの生成を助ける栄養素であり、健康な髪の維持に重要です。しかし、AGAの主な原因は栄養不足ではありません。
また、市販の育毛剤の多くは頭皮環境を整える「育毛」が目的であり、AGAの進行を直接抑制する「発毛」作用を持つ成分は含まれていないか、含まれていても濃度が低い場合があります。
放置するリスクと進行性の特徴
AGAの最も厄介な点は、何もしなければ症状がゆっくりと、しかし確実に進行し続けることです。
「そのうち治まるだろう」と放置していると、毛髪を作り出す組織(毛母細胞)の活力が失われ、治療しても髪が生えにくい状態になる可能性があります。
そのため、違和感を覚えた段階で対策を考えることが大切です。
その抜け毛、AGA(男性型脱毛症)かもしれません
セルフケアで改善しない抜け毛の多くは、AGA(男性型脱毛症)が関係しています。
AGAは成人男性に見られる進行性の脱毛症で、日本の成人男性の約3人に1人が発症するといわれています。
AGAの主な原因
AGAの根本には、男性ホルモンと遺伝が深く関わっています。
男性ホルモンの一種であるテストステロンが、特定の酵素(5αリダクターゼ)と結びつくことで、DHT(ジヒドロテストステロン)という強力な脱毛ホルモンに変換されます。
このDHTが髪の成長を妨げる信号を出し、抜け毛を誘発します。
AGAを引き起こす要因
- DHT(ジヒドロテストステロン)の作用
- 遺伝的な感受性(男性ホルモンレセプターの感度)
- 生活習慣の乱れ(食生活、睡眠、ストレス)
AGAの進行パターン
AGAによる薄毛の進行には、いくつかの典型的なパターンがあります。額の生え際から後退していくM字型、頭頂部から薄くなるO字型、そしてその両方が同時に進行するU字型などです。
どのパターンであっても、原因は同じくDHTの作用によるものです。
代表的なAGAの進行パターン
パターン | 特徴 | 主な進行部位 |
---|---|---|
M字型 | 額の左右の生え際が剃り込みのように後退する | 前頭部 |
O字型 | 頭頂部(つむじ周り)が円形に薄くなる | 頭頂部 |
U字型 | M字型とO字型が繋がり、全体的に後退する | 前頭部から頭頂部 |
ヘアサイクル(毛周期)の乱れとは
健康な髪には「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルがあります。通常、成長期は2年~6年続きますが、AGAを発症するとDHTの影響でこの成長期が数ヶ月~1年程度に短縮されてしまいます。
このことにより、髪が太く長く成長する前に抜け落ちてしまい、結果として薄毛が目立つようになるのです。
育毛剤・亜鉛サプリとAGA治療薬の決定的な違い
抜け毛対策として混同されがちな「育毛剤」「サプリメント」そして「AGA治療薬」ですが、その目的と作用は全く異なります。
なぜクリニックでの治療が必要なのか、その違いを明確に理解しておきましょう。
目的の違い「育毛」と「発毛」
市販の育毛剤やサプリメントの主な目的は、今ある髪を健康に保つ「育毛」や、頭皮環境の改善です。
一方、医療機関で処方されるAGA治療薬は、AGAの原因に直接アプローチし、ヘアサイクルを正常化することで新たな髪を生やす「発毛」を促し、抜け毛を抑制することを目的としています。
目的とアプローチの比較
種類 | 主な目的 | アプローチ |
---|---|---|
亜鉛サプリなど | 栄養補給 | 髪の材料となる栄養素を補う |
市販の育毛剤 | 育毛・頭皮環境改善 | 血行促進、保湿、抗炎症など |
AGA治療薬 | 発毛・抜け毛抑制 | AGAの原因(DHT)を直接抑制する |
作用する成分の違い
AGA治療薬には、日本の厚生労働省が「発毛効果がある」と承認した有効成分が含まれています。
代表的なのは、抜け毛の原因であるDHTの生成を抑える「フィナステリド」や「デュタステリド」、そして血行を促進し発毛を促す「ミノキシジル」です。
これらは医師の診断のもとでしか処方できません。
科学的根拠(エビデンス)の有無
クリニックで処方されるAGA治療薬は、長年にわたる多くの臨床試験によって、その有効性と安全性が科学的に証明されています。
日本皮膚科学会が策定する「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」でも、これらの治療薬の使用が強く推奨されています。
自己流のケアとの大きな違いは、この確かな科学的根拠に基づいている点です。
なぜAGAは早期に治療を開始すべきなのか
「もう少し様子を見てから…」と考えている間に、AGAは着実に進行していきます。
AGA治療において「早期発見・早期治療」が非常に重要視されるのには、明確な理由があります。
AGAの進行性と不可逆性
AGAは一度発症すると自然に治ることはなく、進行を続けます。
髪の毛を作り出す毛母細胞は、活動を停止してから時間が経つほど、再び活性化させることが難しくなります。完全に活動を停止した毛穴から、髪を再生させるのは現在の医療でも困難です。
つまり、治療の効果を最大限に引き出すためには、毛母細胞がまだ活力を保っている早い段階で治療を始めることが大切なのです。
治療効果と満足度の関係
治療を開始するタイミングが早いほど、残っている毛髪が多く、毛母細胞の働きも活発です。このため、治療による発毛効果を実感しやすく、改善度も高くなる傾向にあります。
薄毛がかなり進行してから治療を始めると、満足のいく状態まで回復させるのに時間がかかったり、回復に限界があったりする場合があります。
治療開始時期と改善期待度
治療開始時期 | 毛母細胞の状態 | 改善の期待度 |
---|---|---|
初期段階(抜け毛が増えた程度) | 活動中だが弱り始めている | 高い(現状維持~大幅な改善) |
中期段階(地肌が透けて見える) | 多くが休止・活動低下している | 中程度(現状維持~改善) |
後期段階(地肌が完全に見える) | 多くが活動を停止している | 低い(産毛程度の改善が中心) |
精神的な負担の軽減
薄毛の悩みは、自信の喪失や人目を気にするストレスなど、精神的にも大きな負担となります。
早く治療を始めて改善への道筋が見えることでこうした精神的な悩みから解放され、前向きな気持ちを取り戻すことにも繋がります。
クリニックで行うAGA治療の具体的な内容
AGA治療は、専門のクリニックで医師の診断に基づいて行われます。カウンセリングから始まり、患者様一人ひとりの症状や希望に合わせた治療計画を立てます。
主に「内服薬」「外用薬」、そしてより積極的な「注入治療」などがあります。
基本となる内服薬治療
AGA治療の中心となるのが内服薬です。主に、抜け毛の原因であるDHTの生成を抑える薬が用いられます。
毎日1錠服用を続けることでヘアサイクルを正常化させ、抜け毛を減らし、髪のハリやコシを回復させていきます。
主なAGA内服薬
有効成分 | 主な作用 | 特徴 |
---|---|---|
フィナステリド | 5αリダクターゼ(Ⅱ型)を阻害 | 生え際や頭頂部の薄毛に効果を示す |
デュタステリド | 5αリダクターゼ(Ⅰ型・Ⅱ型)を阻害 | より強力にDHTの生成を抑制する |
発毛を促進する外用薬治療
内服薬と並行して用いられることが多いのが、ミノキシジルを主成分とする外用薬(塗り薬)です。
頭皮に直接塗布することで毛母細胞に働きかけ、血行を促進し、発毛を促す効果があります。
内服薬が「守り」の治療なら、外用薬は「攻め」の治療といえます。
より効果を高める注入治療
内服薬や外用薬で効果が不十分な場合や、より早く効果を実感したい場合に選択肢となるのが注入治療です。発毛を促す成長因子(グロースファクター)などを、注射や特殊な機器を使って頭皮に直接注入します。
これにより、毛母細胞を直接活性化させ、力強い発毛をサポートします。
治療における注意点と副作用
AGA治療薬には、まれに副作用が起こる可能性があります。主なものとして、性機能の減退や肝機能への影響などが報告されていますが、発現頻度は高くありません。
医師は常に患者様の体調を管理し、万が一副作用が出た場合も迅速に対応します。自己判断で個人輸入薬などを使用するのは、偽薬のリスクや健康被害の恐れがあるため絶対に避けてください。
治療中断のリスク
- AGAの再進行
- 治療で生えた毛髪の脱毛
- 治療前の状態への逆戻り
AGA治療にかかる費用と期間の目安
AGA治療を始めるにあたり、多くの方が気になるのが費用と治療期間でしょう。
AGAは自由診療のため、クリニックによって料金体系は異なりますが、ここでは一般的な目安を紹介します。
治療法ごとの費用相場
治療費用は、選択する治療法によって大きく変わります。最も基本的な内服薬治療であれば、月々数千円から始めることも可能です。
外用薬や注入治療を追加すると、その分費用は上がります。
月々の治療費用目安
治療内容 | 1ヶ月あたりの費用目安 | 備考 |
---|---|---|
内服薬のみ | 3,000円~10,000円 | ジェネリック医薬品の有無で変動 |
内服薬+外用薬 | 15,000円~30,000円 | 最も標準的な組み合わせ |
上記+注入治療 | 50,000円~ | 治療頻度や内容により大きく変動 |
効果を実感するまでの期間
AGA治療は、始めてすぐに髪が生えそろうわけではありません。乱れたヘアサイクルを正常に戻すには時間がかかります。
一般的に、抜け毛の減少などの初期変化を感じ始めるのに約3ヶ月、見た目の変化として発毛を実感できるようになるには少なくとも6ヶ月程度の継続が必要です。
治療はいつまで続ける必要があるか
AGA治療は、薬の効果で薄毛の進行を抑えている状態です。そのため、自己判断で治療を中断すると、AGAは再び進行し始め、数ヶ月で元の状態に戻ってしまう可能性があります。
満足のいく状態になった後も、その状態を維持するためには治療の継続が必要です。ただし、医師と相談の上で薬の量を減らすなど、維持期の治療に移行することは可能です。
後悔しないためのAGAクリニックの選び方
AGA治療の効果は、どのクリニックで治療を受けるかによっても左右されます。
ウェブサイトの情報や料金だけで安易に決めず、自分に合った信頼できるクリニックを慎重に選ぶことが、満足のいく結果への近道です。
カウンセリングの丁寧さで選ぶ
初回のカウンセリングは非常に重要です。医師や専門のカウンセラーが、あなたの悩みや不安を親身に聞いてくれるか、治療法について分かりやすく説明してくれるかを確認しましょう。
質問しにくい雰囲気だったり、高額なプランばかりを勧めたりするクリニックは注意が必要です。
カウンセリングでの確認ポイント
- 治療のメリット・デメリットの説明
- 考えられる副作用とその対策
- 料金体系の明確さ
治療法の選択肢の多さで選ぶ
AGAの進行度や体質、ライフスタイルは人それぞれです。そのため、内服薬や外用薬だけでなく、注入治療など複数の治療選択肢を提案できるクリニックが望ましいです。
あなたにとって最良の治療計画を一緒に考えてくれるクリニックを選びましょう。
通いやすさと料金体系の明確さ
AGA治療は長期的に通う必要があります。自宅や職場からアクセスしやすい立地であること、予約が取りやすいことなども重要なポイントです。
また、ウェブサイトに記載されている料金以外に追加費用が発生しないかなど、料金体系が明確であることも必ず確認してください。
クリニック選びのチェックリスト
項目 | 確認内容 |
---|---|
専門性 | AGA・薄毛治療を専門的に扱っているか |
実績 | 豊富な治療実績があるか |
料金 | 料金体系が明確で、無理のない範囲か |
AGA治療に関するよくある質問
最後に、AGA治療を検討されている方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
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