「亜鉛サプリを飲むと髪の毛がフサフサになる」そんな話を聞いたことはありませんか?亜鉛は確かに私たちの体、そして髪の健康にとって重要な栄養素です。しかし、亜鉛サプリさえ飲めば薄毛の悩みがすべて解決するわけではありません。
この記事では、まず亜鉛と髪の毛の関係を科学的な視点から解説し、亜鉛サプリの正しい知識と効果の限界について詳しくお伝えします。その上で、より根本的な薄毛対策として、遺伝的特徴に基づいた個別化予防の考え方にも触れていきます。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
亜鉛とは?体内で働く重要なミネラル
亜鉛は、私たちの体が正常に機能するために必要な「必須ミネラル」の一つです。
体重の約0.003%を占める微量元素ですが、体内で300種類以上の酵素の働きを助け、免疫機能の維持、細胞分裂や成長、味覚の維持など、多岐にわたる生命活動に関与しています。
亜鉛の基本的な役割
亜鉛は、タンパク質の合成やDNAの複製といった体の基本的な活動を支えています。
新しい細胞が作られる際には必ず亜鉛が必要となり、特に成長期の子どもや、新陳代謝が活発な組織(皮膚や髪の毛など)にとってはその重要性が高まります。
また、抗酸化作用を持ち、体を酸化ストレスから守る働きも担っています。
なぜ亜鉛が注目されるのか
近年、食生活の乱れや加工食品の摂取増加により、亜鉛不足に陥る人が増えていると指摘されています。
亜鉛が不足すると、味覚障害、皮膚炎、免疫力の低下、そして脱毛といった様々な不調が現れる可能性があります。特に髪の毛への影響が注目され、薄毛対策の一つとして亜鉛の摂取が推奨されることがあります。
1日に必要な亜鉛の量
厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、成人男性の亜鉛の推奨量は1日11mg、成人女性は8mgです。
ただしこれはあくまで目安であり、個人の年齢、性別、活動量、健康状態によって必要な量は変動します。
亜鉛の食事摂取基準(mg/日)
年齢区分 | 男性推奨量 | 女性推奨量 |
---|---|---|
18~29歳 | 11mg | 8mg |
30~49歳 | 11mg | 8mg |
50~64歳 | 11mg | 8mg |
妊娠中や授乳中の女性は、さらに多くの亜鉛が必要になります。
亜鉛と髪の毛の深い関係
亜鉛は、髪の毛の成長と維持に直接的、間接的に関わっています。健康な髪を育むためには、亜鉛を適切に摂取することが大切です。
髪の主成分ケラチンの合成を助ける
髪の毛の約80~90%は、「ケラチン」というタンパク質から構成されます。
亜鉛はこのケラチンの合成を助ける重要な役割を担っています。ケラチンが十分に合成されないと、髪の毛は細く弱々しくなり、成長も遅れてしまいます。
ヘアサイクルを正常に保つ働き
髪の毛には、「成長期」「退行期」「休止期」というヘアサイクルがあります。
亜鉛は、毛母細胞の分裂を促進し、髪の毛が太く長く成長する「成長期」を維持するのに役立ちます。
亜鉛が不足するとこのヘアサイクルが乱れ、成長期が短縮し、休止期に移行する髪の毛が増えるため、結果として薄毛や抜け毛につながることがあります。
亜鉛不足が引き起こす髪への影響
体内の亜鉛が不足すると、髪の毛に様々な悪影響が現れます。
具体的には、髪の毛が細くなる、ツヤが失われる、抜け毛が増える、新しい髪が生えにくくなる、円形脱毛症のリスクが高まるなどが報告されています。
亜鉛不足の主なサイン
分類 | 具体的な症状・サイン |
---|---|
髪・爪 | 抜け毛、髪質の低下、爪の異常(白い斑点、割れやすい) |
皮膚 | 皮膚炎、傷の治りが遅い |
その他 | 味覚障害、免疫力低下、食欲不振、成長障害(子供の場合) |
亜鉛サプリメントの育毛効果と限界
亜鉛不足が髪に悪影響を与えることから、亜鉛サプリメントによる育毛効果を期待する人も少なくありません。しかし、サプリメントの利用には正しい知識と、その効果の限界を理解することが重要です。
亜鉛サプリで期待できること
食事からの亜鉛摂取が不十分で、実際に亜鉛不足に陥っている場合には、亜鉛サプリメントの摂取によって髪質の改善や抜け毛の減少といった効果が期待できることがあります。
特に、極端なダイエットや偏食、消化吸収能力の低下などにより亜鉛不足が明らかな場合は、サプリメントが有効な手段となり得ます。
しかし、これはあくまで「亜鉛不足を補う」ことによる効果です。
過剰摂取のリスクと副作用
亜鉛は体に必要なミネラルですが、過剰に摂取すると健康被害を引き起こす可能性があります。
短期間の過剰摂取では、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢といった消化器系の症状が現れることがあります。
長期間にわたる過剰摂取は、銅や鉄といった他の必須ミネラルの吸収を阻害し、貧血や免疫機能の低下、神経障害などを引き起こすリスクがあります。
亜鉛の過剰摂取による主な症状
症状の種類 | 具体例 |
---|---|
急性症状 | 吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、頭痛 |
慢性症状 | 銅欠乏、鉄欠乏性貧血、免疫力低下、善玉コレステロール低下 |
サプリメントを利用する際は、製品に記載されている摂取目安量を守り、自己判断で大量に摂取することは避けるべきです。不安な場合は医師や専門家に相談しましょう。
亜鉛サプリだけでは解決しない薄毛の悩み
重要なのは、薄毛や抜け毛の原因は亜鉛不足だけではないという点です。
もし亜鉛が十分に足りているにも関わらず薄毛が進行している場合、亜鉛サプリを摂取しても期待する効果は得られにくいでしょう。
AGA(男性型脱毛症)のように遺伝やホルモンバランスが主な原因である場合、亜鉛サプリメントは補助的な役割に過ぎず、根本的な解決には至りません。
髪の健康のためには、バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス管理といった総合的な生活習慣の見直しが基本となります。
薄毛・抜け毛の多様な原因と対策の考え方
亜鉛不足は薄毛の一因となり得ますが、それ以外にも様々な要因が複雑に絡み合って薄毛を引き起こします。ご自身の状態を正しく理解し、適切な対策を講じることが重要です。
AGA(男性型脱毛症)のメカニズム
AGAは、男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)が毛乳頭細胞の受容体と結合し、ヘアサイクルを乱すことで進行する脱毛症です。
このDHTへの感受性や、DHTを生成する酵素の活性には遺伝的な要素が大きく関わっています。両親や祖父母に薄毛の人がいる場合、AGAを発症するリスクが高いと考えられます。
この場合、亜鉛の補充だけでは進行を止めるのは困難です。
ホルモンバランスと生活習慣
男性ホルモンだけでなく、女性ホルモンや甲状腺ホルモンなど、様々なホルモンのバランスも髪の健康に影響します。
加齢、ストレス、不規則な生活、睡眠不足、栄養バランスの偏った食事、喫煙、過度な飲酒などは、ホルモンバランスを崩したり、頭皮の血行不良や栄養不足を引き起こしたりして、髪の成長を妨げる要因となります。
薄毛を引き起こす可能性のある複合的な要因
- 遺伝的素因(特にAGA)
- ホルモンバランスの変動
- 不規則な生活習慣(睡眠、食事、喫煙など)
- 精神的・身体的ストレス
- 特定の栄養素の不足(亜鉛以外も含む)
- 頭皮環境の悪化
これらの要因が単独、あるいは複数組み合わさって薄毛が進行するため、対策も多角的に考える必要があります。
より自分に合った薄毛予防とは?遺伝的リスクを知るという選択肢
亜鉛の摂取や生活習慣の改善は薄毛対策の基本ですが、より効果的な予防やケアを求めるなら、ご自身の体質や遺伝的なリスクを把握することも一つの有効な手段です。
なぜなら、薄毛のなりやすさや進行の仕方には個人差があり、その背景には遺伝的な要因が関わっていることが多いからです。
近年では、遺伝子検査によって薄毛に関連する遺伝的傾向を分析し、それに基づいて個別化されたケアを行うアプローチが注目されています。
「Pesod(ペソッド)」はそのような考え方に基づいたヘアケアプログラムの一つで、「万人に効果のある育毛剤は存在しない」という前提に立ち、あなたの遺伝的特徴を科学的に分析した上であなたに合った育毛剤の選択をサポートしてくれます。
Pesodが着目する3つの遺伝的リスク
Pesodの遺伝子検査では、薄毛の主要なリスク要因とされる以下の3つの遺伝子領域を調査します。これにより、ご自身がどのような薄毛リスクを抱えやすいのか、その傾向を科学的に把握する手助けをします。
Pesodが調査する遺伝子マーカー
リスク要因 | 関連遺伝子領域 | 影響の概要 |
---|---|---|
男性ホルモンによる影響(AGA) | PAX1/FOXA2遺伝子領域 | AGAの発症しやすさや進行度に関連 |
毛髪の脆弱性(毛母細胞活性) | EDAR遺伝子 | 髪の太さや強さ、毛母細胞の働きに関連 |
頭皮環境(トラブル) | SPINK5遺伝子 | 頭皮のバリア機能や炎症の起こしやすさに関連 |
これらの遺伝的情報を知ることで、例えばAGAのリスクが高いと分かれば、早期から専門医に相談するきっかけになったり、より重点的にケアすべきポイントが見えてきたりします。
遺伝子検査結果に基づく個別化ケアの考え方
Pesodでは、遺伝子検査の結果とカウンセリングを通じて、7種類のタイプからご自身の遺伝的特性に合った育毛剤が選ばれます。各タイプには、それぞれの遺伝的リスクに合わせた有効成分や強化成分が配合されています。
これは、やみくもに製品を試すのではなく、科学的な根拠に基づいて自分に合ったケアを見つけるための一つの方法論です。
もちろん遺伝子検査が全てを決定するわけではありませんが、よりパーソナルな薄毛予防を考える上で有益な情報を提供します。
重要なのは、このような遺伝子検査サービスはあくまで薄毛予防の一環であり、既に進行したAGAの「治療」とは異なるということです。
しかし、ご自身の状態を深く理解し、予防意識を高めるという点では大きな意味を持ちます。いきなり治療薬を使用するのは抵抗がある⋯という方も多いので、そのような方にも選ばれています。
Pesodの申し込み方法
以下のLINE登録より遺伝子検査キットの申し込みができます。遺伝子検査は無料です。
※女性の方の「Pesod」LINE登録はこちらからできます。
薄毛対策のステップとAGA治療の検討
薄毛の悩みに対しては、段階的に対策を考えることが大切です。
まずは基本的なケアを見直し、それでも改善が見られない場合や、より積極的な対策を望む場合には、専門的なアプローチを検討します。
セルフケアから始める薄毛対策
第一歩は、バランスの取れた食事(亜鉛を含むミネラルやビタミン、タンパク質を意識する)、質の高い睡眠、ストレスの軽減、適切なヘアケア(洗浄方法や頭皮マッサージなど)です。
これらは髪の健康を支える土台となります。亜鉛サプリメントも、食事が偏りがちな場合の栄養補助として役立つことがあります。
遺伝的リスクを踏まえた予防ケア
次に、Pesodのような遺伝子検査を利用してご自身の薄毛リスクを把握し、それに基づいた予防的なケアを取り入れることも一つの選択肢です。
これにより、よりパーソナルな視点での対策が可能になります。
ただし、これはあくまで「予防」や「初期のケア」が中心であり、効果には個人差があることを理解しておく必要があります。
AGA治療を検討するタイミング
セルフケアや予防的なアプローチを試みても薄毛の進行が気になる場合、あるいは明らかにAGAの症状(生え際の後退や頭頂部の薄毛など)が見られる場合は、皮膚科やAGA専門クリニックに相談することを推奨します。
医師の診断に基づき、内服薬(フィナステリドやデュタステリドなど)や外用薬(ミノキシジルなど)、あるいはその他の専門的な治療法を検討することになります。
遺伝子検査の結果は、医師に相談する際の参考情報の一つにもなり得ます。
よくある質問(Q&A)
参考文献
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