AGA(男性型脱毛症)の進行度や治療方針を判断する材料として、遺伝子検査を利用する方が増えています。検査を受けるメリットは、発症リスクや治療薬との相性をデータとして把握できることです。
この記事では、AGA遺伝子検査キットの選び方から結果の解釈方法、そして治療計画にどのようにつなげるかまで、幅広い情報をまとめます。
自宅でできる検査キットと医療機関で受ける場合の違いなどにも触れるので、検査を検討する際の参考にしてみてください。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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AGA遺伝子検査とは何か
AGA(男性型脱毛症)に悩む方の中には、遺伝によるリスクを気にする方も多いです。この検査を活用すれば、将来の発症リスクや進行度をある程度予想し、早めに対策を始められる可能性があります。
まずはAGA遺伝子検査の概要や必要性について確認しましょう。
AGAの原因と遺伝との関係
AGAは主に男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT)の影響によって進行すると考えられています。DHTが毛母細胞を弱らせ、ヘアサイクルを乱し、抜け毛や薄毛を引き起こすのが典型的なメカニズムです。
このDHTを産生しやすい体質かどうかは、遺伝要因が大きく関わります。
AGA遺伝子検査でわかること
遺伝子検査を行うと、以下のような情報を把握しやすくなります。
- AGAの発症リスク(高リスクかどうか)
- 治療薬(フィナステリドなど)に対する効果の出やすさ
- 将来的な進行パターンの傾向
こうしたデータを参考に、治療開始のタイミングや用いる薬剤の種類を検討できます。
自宅キットと医療機関での検査の違い
遺伝子検査は、自宅用の検査キットを使って行う方法と、医療機関で医師の監修のもとで行う方法があります。自宅キットは、手軽に申し込めて検体を郵送するだけという利便性があり、費用面でも比較的おさえやすいです。
一方、医療機関で行う場合は、医師のアドバイスやカウンセリングを受けながら検査の意味や結果をしっかり理解できます。
遺伝子検査を受けるタイミング
薄毛に悩みはじめたら早めに相談することが大切です。AGAは進行型の脱毛症なので、遺伝リスクを確認し、対策や治療を早めに始めるほど改善の可能性が上がります。
気になる段階で検査を受け、必要に応じて治療へ移行する流れがスムーズです。
AGA発症を早めに知るメリット
メリット | 説明 |
---|---|
治療開始の目安 | 遺伝子的にリスクが高ければ対策を急ぐことを検討しやすい |
生活習慣の見直し | リスクを意識して生活習慣や頭皮ケアを重点的に実行できる |
薬剤選択の精度 | 治療薬の効果を予想しながら処方や使用を決定できる |
コスト管理 | 早期に治療を開始し、進行度合いに合わせた費用計画を立てられる |
AGA遺伝子検査キットの選び方
多くのメーカーや医療機関が遺伝子検査を扱っていますが、それぞれ特徴が異なります。選び方を誤ると、必要な情報が得られない可能性もあるため、チェックポイントを押さえておきましょう。
検査方法(唾液・血液・毛根など)
AGA遺伝子検査では、主に唾液や頬の粘膜、あるいは血液などを採取してDNA情報を調べます。自宅キットでは唾液や頬の粘膜を採るケースが多いです。
一方、クリニックによっては血液検査や毛根を採取する方法を行う場合があります。採取の方法は検査精度に影響することがあるため、キットを選ぶ際にはサンプル採取のしやすさや精度面を考慮します。
検査結果のレポート内容
検査結果のレポートには、以下のような項目が含まれます。
- AGAリスクの判定(リスクが高い、中程度、低いなど)
- 薬剤(フィナステリドなど)の効果予測
- 生活習慣に対するアドバイス
結果レポートが細かいほど参考にしやすく、治療計画が立てやすいです。
検査レポートに含まれる主な情報一覧
情報項目 | 説明 |
---|---|
AGAリスク判定 | 将来的なAGA発症可能性の高さを数値やランクで示す |
治療薬の効果予測 | フィナステリドなどの内服薬に対してどの程度効果が期待できるか |
毛周期や頭皮環境など | 遺伝的素因に基づく毛髪の生育サイクルの傾向 |
生活習慣アドバイス | 食事や運動、喫煙習慣などからAGAリスクを高めやすい要因をピックアップ |
費用とサポートのバランス
費用はキットや提供元によって異なり、数千円から数万円程度の幅があります。検査後のアフターフォローやメール相談などのサポートが充実しているかどうかも確認が必要です。
医療機関のサポートが受けられるか、自費診療の範囲でどこまで相談できるか、といった面も選択のポイントになります。
返送・検査の期間
自宅用キットの場合、検体を返送してから結果を受け取るまでに数週間かかることが多いです。
検査期間が長いとその分、治療開始が遅れる可能性があります。急ぎで結果を知りたい場合は、医療機関での検査が向いていることもあります。
おすすめのAGA遺伝子検査キット
世の中には多彩な検査キットが出回っており、どれを選ぶべきか迷う方が少なくありません。以下では、いくつか代表的なキットと特徴を紹介します。
薄毛遺伝子検査AGA・FAGAプログラム
「最短で治療効果を出すために、薄毛に関わる3つの重要遺伝子を調べる」がコンセプトの遺伝子検査です。
AGA治療前にまずは遺伝子検査を行い、結果に基づきフィナステリドやミノキシジルなどの治療薬を個別に調整してくれます。
遺伝子検査を事前に実施することで、個人の体質に最適な治療法を初めから選択できるため、あれこれ試すような時間の無駄を防ぐことができます。
シンプルにAGAリスクの数値がわかり、検査結果のレポートもコンパクトにまとめられています。初めて遺伝子検査を受ける方や、トータル費用をおさえたい方に向いています。
診察から治療まで全てオンラインで完結するため、自宅で受診できます。医師による丁寧な診察付きで、遺伝子検査と治療薬のセットが12,800円という通常治療と変わらない料金設定となっています。
詳しい内容は、LINEアカウントにてご確認ください。LINE登録はこちら
DHCの遺伝子検査 毛髪対策キット
日本人男性の薄毛に特に関連するとされるアンドロゲンレセプター(AR)遺伝子を調査し、AGAに関する科学的研究に基づいた分析を行います。
購入から結果通知までの流れは、DHC公式サイトでの注文後、自宅で唾液を採取して送付し、後日検査結果が届きます。
特徴的なのは、検査結果が2種類の書面で提供される点です。通常の検査結果報告書に加えて、生活習慣のアドバイスやDHCの育毛製品・サプリメントの個別推奨を含むパーソナルカルテが提供されます。
なお、この検査キットは日本人男性向けに特化して設計されているため、それ以外の方には正確な結果が得られない可能性があることが明記されています。
漢方生薬研究所のAGAリスク遺伝子検査
口腔内の粘膜や唾液から遺伝子を分析する検査キットです。アンドロゲンレセプター(AR)遺伝子の検査に加え、AGA治療薬であるフィナステリドへの感受性も調べることができるのが特徴です。
検査の流れは、オンラインで購入したキットを受け取り、自宅で検体を採取して送付し、後日結果が書面で通知されます。なお、この検査は男性向けに設計されており、女性への対応は行っていないことが確認されています。
AGA遺伝子検査結果の見方
検査結果を受け取ったら、どのポイントに注目すればよいのでしょうか。結果レポートを活かし、より効果的な治療へつなげるためには、いくつか押さえておきたい観点があります。
AGAリスクの数値やランク
遺伝的にAGAが進行しやすいかどうかを数値やA~Eなどのランクで表現するレポートが一般的です。数値が高いほど、AGAを発症しやすい傾向があると考えられますが、それだけで将来の脱毛が確定するわけではありません。
あくまで遺伝的傾向を示す指標として受け止め、必要に応じて医師と相談することが大切です。
治療薬への感受性
代表的な内服薬であるフィナステリドやデュタステリドなどへの効果が出やすいかどうかも、遺伝的要因から判断できるケースがあります。
効果が出づらい傾向がある場合は、別の治療法(外用薬や注入療法など)に切り替える、あるいは複数のアプローチを組み合わせるなど、柔軟な対応を考慮するとよいでしょう。
フィナステリドへの効果と遺伝的相性
▼遺伝子検査では、以下のようなレポートを得ることができます
遺伝子タイプ | フィナステリド効果の期待度 | 補足 |
---|---|---|
Aタイプ | 高め | 内服を中心に治療を検討 |
Bタイプ | 中程度 | 内服+外用薬などを組み合わせ検討 |
Cタイプ | 低め | 内服の効果が出にくいため他の治療併用 |
生活習慣の見直しポイント
AGAの進行には遺伝以外に、食生活やストレス、睡眠不足、喫煙なども影響します。検査レポートで示されたリスクを踏まえ、生活面で改善できる点を探しておくと、治療効果の向上や予防につながる可能性があります。
遺伝子検査と「後天的」要因のバランス
遺伝的リスクが高くないからといって絶対にAGAにならないわけではありません。また、高いと診断されたからといって必ずしも急激に進行するわけでもありません。
遺伝的要素だけでなく、ホルモンバランスや頭皮環境、ストレスなどの後天的要因との総合評価が重要です。
生活習慣で気をつけたいこと
- 脂質や糖質の多い食事を過度に摂らない
- タバコや過度の飲酒を控える
- 質の良い睡眠を確保する
- 過度なストレスを溜めない
AGA遺伝子検査を踏まえた治療方法の検討
AGA遺伝子検査の結果を踏まえて、自分に合った治療法を選択する流れが大切です。主に内服薬、外用薬、育毛メソセラピー、植毛など、複数の治療法があります。
内服薬による治療
フィナステリドやデュタステリドなど、男性ホルモン由来の脱毛を抑制する薬剤はよく用いられます。遺伝子的に効果が期待できるかどうかのデータを踏まえ、医師と相談しながら適切な用量と期間を決定するとスムーズです。
内服薬を継続するうえで意識したいこと
項目 | 内容 |
---|---|
投薬期間 | 効果判定には6カ月~12カ月程度の継続が目安 |
副作用 | 性欲減退やEDなどのリスクがあるので、症状が出たら医師に相談 |
定期受診 | 血液検査などを通じて健康状態をチェック |
外用薬や育毛剤の活用
外用薬(ミノキシジルなど)や市販の育毛剤も有効です。遺伝的リスクが高い場合、内服薬と外用薬を組み合わせることも多いです。
頭皮環境を整えるシャンプーやローションの使用など、トータルでアプローチする方が効果を実感しやすい傾向にあります。
代表的な外用薬と育毛剤
名称 | 主成分 | 特徴 |
---|---|---|
ミノキシジル | ミノキシジル | 血行促進作用が期待できる |
AGA用育毛剤 | さまざま | 抜け毛予防や頭皮環境のケアを狙う |
スカルプローション | 亜鉛やアミノ酸 | 頭皮を清潔に保ち栄養を与える |
育毛メソセラピーやPRP療法
注入療法の一種で、育毛成分や成長因子を頭皮に直接注入する方法があります。個人差はありますが、遺伝子検査で内服薬の効果が出づらいタイプと判定された方が、こうした治療法に切り替えることで改善につながる可能性があります。
植毛やヘア移植
進行度が高く、内服薬や外用薬では回復が見込みにくい場合に検討されるのが植毛やヘア移植です。後頭部など比較的毛量がある部位から毛包を移植し、生え際や頭頂部に定着させる方法です。
遺伝子的リスクが高くても、移植毛には影響が少ないといわれています。外科的な方法なので費用やダウンタイムについて医師とよく相談してください。
クリニックでAGA遺伝子検査を受けるメリットと注意点
自宅キットでも検査は可能ですが、クリニックで受けるメリットや注意点について理解しておくと、より適切な治療を目指しやすくなります。
医師のカウンセリングが受けられる
検査前後に医師のカウンセリングを受けると、検査の意義や結果の解釈を正しく理解できます。
特に、遺伝子検査の結果が高リスクだった場合は、早めに投薬を検討したり、他の検査と併用して総合的に評価するなど、個人に合った治療方針を立てやすくなります。
カウンセリングで相談したい内容
- 内服薬や外用薬の開始タイミング
- 生活習慣やストレスマネジメント
- 他の頭皮検査や血液検査の必要性
- 将来の治療プランと費用目安
専門的な検査機器や毛髪診断
クリニックでの検査には、遺伝子検査以外にも頭皮の状態を拡大カメラでチェックしたり、血液検査でホルモンバランスを測定するなど、専門的な検査を組み合わせられる強みがあります。
遺伝子的リスクに加えて、実際に今どのような状態なのかを多面的に把握できます。
費用が高めになる可能性
医療機関での遺伝子検査は自費診療となることが多く、キットだけの場合より費用が高くなることがあります。
ただし、その分カウンセリングや治療薬の処方まで一貫してサポートを受けられるので、時間や手間を考慮してバランスを検討するとよいでしょう。
クリニックでの検査と自宅キットの比較
項目 | クリニック | 自宅キット |
---|---|---|
費用 | 高め | 低め~中程度 |
カウンセリング | 医師やスタッフが対応 | メールや資料ベース |
検査内容 | 遺伝子+頭皮診断+血液検査など | 遺伝子検査のみが基本 |
結果説明 | 直接対面で詳しく説明 | オンラインor同封資料 |
治療へのスムーズさ | そのまま治療の導入可能 | 結果を持ち込んで相談も可 |
信頼できる医療機関を選ぶ
AGA治療を行う医療機関は多数ありますが、実績や口コミ、医師の専門性、通いやすさなどを考慮して選びましょう。カウンセリング時の対応や治療内容の説明が丁寧なクリニックほど、長期的な治療パートナーとして安心して通えます。
AGA治療計画の立て方
遺伝子検査の結果を含め、さまざまな情報をもとに治療計画を立てることがAGA対策のポイントになります。計画性をもって取り組めば、よりよい結果が期待できます。
目標設定と期間の目安
まずは自分がどの程度髪を増やしたいのか、薄毛を目立たなくしたいのかなど目標を設定します。目標に合わせて治療方法や期間、費用をあらかじめ想定しておくと、途中で挫折しにくくなります。
治療計画を立てる際のチェック項目
- 現在の薄毛の進行度
- 遺伝子検査で判明したリスク
- 使える予算と継続の覚悟
- 通院の頻度やスケジュール
生活習慣の改善を同時に進める
AGAは遺伝だけでなく、生活習慣の乱れが進行を加速させることがあります。
検査結果でリスクが高いとわかった場合は、食生活や睡眠習慣、ストレス管理などを同時に見直すと、より効果が実感しやすいです。特に過度な飲酒や喫煙はAGAの進行に影響があると考えられています。
定期的なチェックと治療の修正
治療を始めてから数カ月ごとに頭皮の状態をチェックし、必要に応じて治療プランを見直すことも重要です。
内服薬が効いているのか、外用薬の使い方は適切かなどを、医師やカウンセラーと一緒に確認します。遺伝子検査の結果を踏まえたうえで、効果に変化があれば治療方針を修正していくほうが合理的です。
治療途中で注視したい変化の例
変化の種類 | チェックポイント |
---|---|
抜け毛の減少度合い | お風呂や枕元の抜け毛本数の推移 |
うぶ毛や髪のコシの変化 | 髪の太さがしっかりしてくるか |
頭皮のかゆみや炎症など | 薬剤の刺激が強すぎないか、合わない症状が出ていないか |
モチベーションの維持
AGA治療は数カ月から数年単位で継続することが基本になります。すぐに結果が出ないと感じても焦らず、医師やスタッフの指導に従いながら根気強くケアを続けることが重要です。
遺伝子検査を活用しながら、自分自身の体質に合う治療をコツコツと続けていきましょう。
まとめ
AGA遺伝子検査は、薄毛の進行リスクや治療薬との相性を事前に把握するための有効なツールです。自宅キットと医療機関のどちらを選ぶかは費用やサポート内容、精度の違いなどを考慮して決めるのが大切です。
検査結果をもとに生活習慣の改善や治療方法の選択を行い、継続的に取り組むことで薄毛対策の効果が高まりやすくなります。
医療機関であれば専門的な診断やフォローを受けられるメリットがあり、特にリスクが高いと判定された場合には迅速に対処しやすいです。AGA治療は長期戦になりがちですが、遺伝子検査を活かしつつ、自分に合った治療計画を立てて着実にケアを続けていってください。
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