変形性膝関節症でPRP療法を受けるべき人・受けられない人|血液疾患やがんの既往

PRP療法(多血小板血漿療法)は、変形性膝関節症の痛みを軽減し、関節機能を改善する可能性がある再生医療の一つです。しかし、すべての方が安全に受けられるわけではありません。
とくに血液疾患やがんの既往がある方は、PRP注射によるリスクと効果のバランスを慎重に見極める必要があります。
この記事では、PRP療法が適している方と避けるべき方の条件を、医学的な根拠にもとづいて解説します。
変形性膝関節症のPRP療法が向いている方の特徴
PRP療法は、軽度から中等度の変形性膝関節症で、保存療法(薬物療法や理学療法)だけでは十分な効果を感じられない方に適した治療法です。ご自身の血液から作る注射なので、薬物アレルギーの心配が少ない点も特徴といえます。
軽度から中等度の変形性膝関節症で痛みに悩んでいる方
PRP療法で改善が期待しやすいのは、Kellgren-Lawrence分類(変形性膝関節症の進行度を評価するレントゲン指標)でグレード1からグレード3に該当する方です。
関節の変形がまだ進みすぎていない段階であれば、血小板に含まれる成長因子が軟骨の修復を促し、炎症を抑える効果を発揮しやすいとされています。
逆に、グレード4のように関節の隙間がほとんどなくなった重度の変形性膝関節症では、PRP療法だけで十分な改善を得るのは難しいでしょう。そうした場合には人工膝関節置換術などの外科的治療が検討されます。
ヒアルロン酸注射やステロイド注射では効果を感じにくくなった方
関節内注射の定番ともいえるヒアルロン酸は、関節液の粘性を補って関節の動きを滑らかにする働きがあります。
ステロイド注射は即効性のある抗炎症作用が強みですが、繰り返し投与すると軟骨へのダメージが指摘されるケースもあります。
これらの治療で効果が薄れてきた方にとって、PRP療法は別のアプローチとして検討に値するでしょう。複数の研究で、PRP注射はヒアルロン酸と比較して痛みの軽減と機能改善において同等以上の効果を示すことが報告されています。
PRP療法が適しやすい方の主な条件
| 条件 | 詳細 |
|---|---|
| 進行度 | Kellgren-Lawrence分類グレード1〜3の軽度から中等度 |
| 年齢 | 65歳以下で効果が出やすいとする報告が多い |
| 既存治療の反応 | ヒアルロン酸やステロイドの効果が減ってきた方 |
| 希望 | 手術をできる限り回避・先延ばしにしたい方 |
| 血液状態 | 血小板数や凝固機能に大きな異常がない方 |
手術を避けたい・できるだけ先延ばしにしたいと考えている方
人工関節の手術は確かに高い成功率を誇りますが、入院期間やリハビリの負担、術後合併症のリスクなど、決して軽い決断ではありません。
まだ手術に踏み切りたくないと感じている方にとって、PRP療法は保存療法と手術の間を埋める選択肢になりえます。
ただし、PRP療法は変形性膝関節症を根本的に治す治療法ではなく、症状を和らげて生活の質を維持するためのものだと考えてください。効果の持続期間も個人差があるため、定期的な経過観察が求められます。
PRP療法を受けられない方に該当する主な条件
PRP療法は自己血を使うため比較的安全性が高い治療法ですが、全身の状態や疾患によっては注射自体がリスクになる場合があります。該当する条件を事前に把握し、安全な治療計画を立てることが大切です。
活動性のがんがある方はPRP注射を避けるべき
血小板に含まれる成長因子には、細胞の増殖や血管新生(新しい血管を作ること)を促す作用があります。
この作用は、正常組織の修復には有益に働きますが、活動性のがんがある場合には腫瘍の成長や転移を促進するリスクが否定できません。
2025年に発表された国際的な専門家のコンセンサス(GRIIP)でも、活動性の固形がんがある患者へのPRP注射は原則として禁忌とされています。例外的に行う場合でも、腫瘍内科医との十分な協議が前提条件です。
重度の血小板減少症や凝固異常がある方は安全に治療を実施できない
PRP療法は血液中の血小板を濃縮して注射する治療法ですから、そもそも血小板の数が著しく少ない方(重度の血小板減少症)では、十分な濃度のPRPを作ること自体が困難になります。
さらに、凝固因子に異常がある方は採血や注射部位からの出血リスクが高まるため、安全面で問題が生じます。
血液検査で血小板数や凝固機能に明らかな異常が見つかった場合は、まずその原因を特定し、必要な治療を優先してからPRP療法を再検討するという流れになるでしょう。
注射部位に活動性の感染症がある場合は治療を延期する
膝関節やその周辺に細菌感染が起きている状態でPRP注射を行うと、感染を悪化させたり関節内に広げたりする危険があります。皮膚の傷や蜂窩織炎(ほうかしきえん:皮下組織の感染症)がある場合も同様です。
感染症が完全に治癒したことを確認してから、改めてPRP療法のスケジュールを組み直すのが安全な進め方といえます。
PRP療法の主な禁忌・注意事項
| 状態 | 対応 |
|---|---|
| 活動性の固形がん | 原則禁忌。腫瘍内科医との相談が必須 |
| 重度の血小板減少症 | 十分な濃度のPRP作成が困難なため原則不可 |
| 凝固異常 | 出血リスクが高いため慎重に判断 |
| 注射部位の感染症 | 感染治癒後に再検討 |
| 全身性の敗血症 | 全身状態の安定が優先 |
血液疾患がある方がPRP療法で注意すべきポイント
血液疾患を抱えている方の場合、PRP療法を受けられるかどうかは疾患の種類と活動性によって異なります。一律に「受けられない」と決めつける必要はありませんが、血液内科医との連携のもとで判断するのが前提です。
血小板の数や機能に異常がある場合、PRPの品質に影響が出る
PRP療法は血小板を高濃度に含む血漿を関節内に注入する治療法ですので、血小板自体に問題があれば、治療効果が十分に得られない可能性があります。
たとえば、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)のように血小板数が慢性的に低い方では、濃縮しても通常のPRPと同等の血小板濃度に達しないことが考えられます。
また、血小板機能異常症のように血小板の数は正常でも機能が低下している場合、成長因子の放出量が減少し、期待通りの組織修復効果が得にくくなるかもしれません。
こうしたケースでは、治療前に血小板機能検査を追加で行い、PRPの品質を予測することが賢明です。
抗凝固薬を服用中の方はPRP注射のリスクが高くなる
ワルファリンやDOAC(直接経口抗凝固薬)などを服用中の方は、採血時や関節内注射の際に出血が止まりにくくなるおそれがあります。
また、抗凝固薬がPRPの調製に影響し、血小板の活性が十分に発揮されない場合もあると指摘されています。
服薬の一時的な休薬が可能かどうかは、原疾患(心房細動や深部静脈血栓症など)のリスクとの天秤になります。自己判断で薬を止めるのは絶対に避け、処方医と整形外科医の双方に相談してください。
PRP療法に影響を与えうる主な血液関連の条件
- 血小板減少症(ITPなど)で血小板数が著しく低い状態
- 血小板機能異常症で成長因子の放出が十分に見込めない場合
- ワルファリンやDOACなどの抗凝固薬を服用中の方
- 骨髄異形成症候群など血球産生に異常がある疾患
- 単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)の経過観察中の方
血液内科の主治医と整形外科医の連携が欠かせない
血液疾患がある方がPRP療法を受ける場合、血液内科医と整形外科医が互いに情報を共有しながら治療方針を決める体制が必要です。
血液の状態が安定しているかどうか、PRP注射がその安定を崩すリスクがないかを多角的に評価すると、より安全に治療を進められます。
とくに造血器腫瘍(白血病やリンパ腫など)の既往がある方は、治癒もしくは寛解の状態が確認されていることがPRP実施の前提条件となります。血液疾患が安定しているからといって自分だけで判断せず、必ず専門医の見解を仰ぎましょう。
がんの既往がある方がPRP療法を受けられるかどうかの判断基準
「過去にがんを患ったことがある」というだけで、PRP療法が一律に禁止されるわけではありません。がんの種類、治療の経過、現在の状態によって、受けられるケースと慎重になるべきケースが分かれます。
治療を終えて「治癒」と判定された方はPRP療法を受けられる
腫瘍内科医が「治癒(キュア)」と判定した場合、つまりがんの再発リスクが十分に低いと医学的に評価された状態であれば、PRP療法を行うことに大きな障壁はないとされています。
過去のがんの治療歴があるだけで治療の選択肢を狭める必要はありません。ただし、治癒判定の基準はがんの種類によって異なります。
5年無再発をもって治癒と判断するがんもあれば、10年以上の経過観察を要するがんもあるため、ご自身のがんの種類に応じた判断が求められます。
「寛解」の段階にある方は腫瘍内科医の許可が必要になる
寛解(かんかい)とは、がんの症状が消失または大幅に縮小した状態のことですが、完全に治ったとまでは言い切れない段階を指します。
非転移性の固形がんで寛解に達している方は、腫瘍内科医が問題ないと判断すればPRP療法を受けられる可能性が高いでしょう。
一方で、転移性のがんで寛解中の方はより慎重な対応が求められます。
転移性がんの場合、血液中に微小ながん細胞が残存している可能性を完全には否定できないため、PRP注射によってそれらの細胞が注射部位に運ばれるリスクを考慮しなければなりません。
転移性がんの既往がある方は腫瘍内科医との十分な協議が前提になる
転移性がんの既往がある方がPRP療法を希望する場合、腫瘍内科医の明確な同意がなければ実施すべきではないとGRIIPのコンセンサスでも述べられています。
成長因子ががん細胞の再活性化につながる理論的リスクを考えると、整形外科医の独断で判断できる範囲を超えています。
腫瘍内科医から「問題ない」との判断が得られた場合でも、PRP注射後の経過を腫瘍内科医にも報告する体制を整えておくと、万一の変化にも迅速に対応できます。
がんの状態別・PRP療法の適否
| がんの状態 | PRP療法の適否 | 条件 |
|---|---|---|
| 治癒と判定済み | 実施可能 | 腫瘍内科医の治癒判定が前提 |
| 非転移性がんで寛解中 | 条件付きで可能 | 腫瘍内科医の許可が必要 |
| 転移性がんで寛解中 | 慎重に判断 | 腫瘍内科医の明確な同意が必須 |
| 活動性のがん | 原則禁忌 | 例外は腫瘍内科医との協議のみ |
PRP療法の副作用や注射後に起こりうる合併症を事前に知っておく
PRP療法は自己血由来の治療であるため、薬剤アレルギーや拒絶反応のリスクが極めて低い治療法です。しかし、注射という医療行為に伴う一般的な副作用や合併症は存在するため、事前の理解が安心感につながります。
注射後の痛み・腫れ・赤みは一時的な反応がほとんど
PRP注射を受けた後、注射部位に軽い痛みや腫れが出る方は珍しくありません。これは関節内に液体を注入したことによる物理的な刺激と、成長因子が炎症反応を一時的に活性化させることが原因です。
多くの場合、これらの症状は24時間から72時間以内に自然に治まります。激しい運動を数日間控え、アイシングを適切に行えば、日常生活に大きな支障が出ることはまずないでしょう。
感染症は発生頻度が低いものの無視できないリスク
PRPの調製は無菌環境で行われますが、注射器具の取り扱いや皮膚の消毒が不十分であった場合、細菌が関節内に侵入する可能性がゼロではありません。
関節内感染(化膿性関節炎)は重篤な合併症であり、発症した場合は速やかな抗菌薬治療や関節洗浄が必要になります。
感染リスクを下げるためには、清潔な環境と適切な技術を備えた医療機関でPRP注射を受けることが大切です。注射後に発熱や膝の激しい痛み、発赤の急激な増大がみられた場合は、すぐに受診してください。
PRP注射後に注意すべき主な症状
- 注射部位の強い痛みが72時間以上続く場合
- 膝関節の急激な腫脹(はれ)が悪化する場合
- 38度以上の発熱を伴う場合
- 注射部位の皮膚が熱を持って赤くなる場合
アレルギー反応が起こる可能性はごくまれ
PRP療法は自分の血液を使う治療法なので、他家血液製剤と比べてアレルギーや免疫拒絶のリスクは格段に低いといえます。
ただし、PRPの調製に使用する抗凝固剤や、活性化に使うカルシウム製剤などの添加物に対して過敏反応が起こる可能性はわずかながら存在します。
過去に薬剤アレルギーの経験がある方は、事前に担当医へ伝えておくと、使用する試薬の選択肢を検討してもらえる場合があります。
PRP療法を安心して受けるために事前に行う検査と医師への相談
PRP療法を安全かつ効果的に受けるためには、治療前の血液検査と問診が欠かせません。とくに血液疾患やがんの既往がある方は、通常よりも詳しい検査と、複数の診療科にまたがる相談が求められます。
血液検査で血小板数や凝固機能を確認する
PRP療法を受ける前には、一般的な血液検査に加えて血小板数、PT(プロトロンビン時間)、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)などの凝固関連の検査を行います。
これらの値に明らかな異常がある場合は、その原因を血液内科で精査したうえで治療の可否を判断することになります。
血小板数が基準値の範囲内にあっても、たとえばアスピリンなどの抗血小板薬を常用している方は血小板の機能が抑制されている場合があるため、担当医への申告が大切です。
既往歴を正直に伝えることが安全な治療につながる
がんの既往、血液疾患、自己免疫疾患、現在服用中の薬など、担当医に伝えるべき情報は多岐にわたります。
「もう治ったから関係ない」と考えて申告しない方もいますが、治癒後であっても治療歴は医師の判断材料として極めて重要です。
整形外科の問診だけでなく、必要に応じて血液内科や腫瘍内科への紹介状を書いてもらい、多角的な評価を受けると治療の安全性は格段に高まります。遠慮なく情報を共有してください。
信頼できる医療機関を選ぶためのチェックポイント
PRP療法は再生医療に分類されるため、実施する医療機関には一定の設備や専門知識が求められます。
PRP調製の設備が清潔に管理されているか、注射の経験が豊富な医師が在籍しているか、治療前の説明が十分に行われるかといった点を、受診前に確認しておくと安心です。
また、PRP療法の効果やリスクについて過度に楽観的な説明しかしない医療機関は避けたほうがよいでしょう。リスクも含めて誠実に説明してくれる医師であれば、治療中や治療後のトラブルにも適切に対応してもらえるはずです。
PRP療法を受ける前に担当医と確認したい項目
| 確認項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 血液検査の結果 | 血小板数・凝固機能に異常がないか |
| 既往歴の共有 | がん・血液疾患・自己免疫疾患の有無と治療経過 |
| 服用中の薬 | 抗凝固薬・抗血小板薬・免疫抑制剤の有無 |
| 専門医への紹介 | 血液内科・腫瘍内科との連携体制の有無 |
| 治療の限界 | 効果の持続期間や再注射の必要性 |
よくある質問
- 変形性膝関節症に対するPRP療法は何回くらい注射が必要ですか?
-
PRP療法の注射回数は、患者さんの症状の程度や医療機関の方針によって異なりますが、一般的には1回から3回の注射を1つの治療シリーズとして行うことが多いです。注射の間隔は2週間から4週間程度が目安とされています。
1回の注射で十分な改善が得られる方もいれば、複数回の注射を経て徐々に効果を実感する方もいます。担当医と相談しながら、ご自身の膝の状態に合った治療計画を立てましょう。
- PRP療法はがんが完治した後どのくらい経てば受けられますか?
-
明確な「待機期間」は一律に定められていませんが、腫瘍内科の主治医が「治癒」と判定していることがPRP療法を受ける前提条件です。
がんの種類によっては5年間の無再発期間が治癒判定の基準となるケースがありますが、判断は個々のがんの特性やステージによって変わります。
自己判断で「もう大丈夫だろう」と考えるのではなく、腫瘍内科医に現在の状態を確認してもらい、PRP療法に対する許可を書面またはカルテ上で明示してもらうと安心でしょう。
- 変形性膝関節症のPRP療法で使う血液はどのくらいの量を採取しますか?
-
PRP療法では通常、腕の静脈から30mlから60ml程度の血液を採取します。これは一般的な献血(400ml)と比べるとかなり少量であり、健康な方であれば採血による身体への負担はほとんどありません。
ただし、貧血の傾向がある方や血小板減少症をお持ちの方は、採血による影響が出やすい場合がありますので、事前の血液検査で状態を確認することが大切です。
- PRP療法を受ける際に抗凝固薬の服用は中止する必要がありますか?
-
抗凝固薬を服用中の方がPRP療法を受ける場合、薬の一時的な休薬が検討されることがあります。
しかし、抗凝固薬を処方している理由(心房細動や人工弁、深部静脈血栓症など)によっては、休薬が血栓症のリスクを高める危険があるため、自己判断で中止するのは絶対に避けてください。
必ず抗凝固薬を処方している医師と整形外科医の両方に相談し、休薬の是非やその期間、代替薬の使用などを慎重に決定する必要があります。
- 変形性膝関節症のPRP療法は効果が出るまでどのくらいかかりますか?
-
PRP療法の効果が現れ始めるまでには、一般的に注射後2週間から6週間程度かかるとされています。ヒアルロン酸やステロイド注射のような即効性はなく、血小板から放出された成長因子が組織の修復を徐々に促していく治療だからです。
効果のピークは注射後3か月から6か月頃に訪れることが多く、その後は個人差がありますが6か月から12か月程度持続するという報告があります。
効果の出方には膝の状態や年齢、体質なども影響しますので、焦らず経過をみていくことが大切です。
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