PRP療法とAPS療法の違い|変形性膝関節症の炎症抑制に特化した次世代PRPの特徴

変形性膝関節症の痛みに悩む方のあいだで、PRP療法やAPS療法への関心が高まっています。どちらも自分の血液を利用した注射治療ですが、成分の濃縮方法や炎症への作用が大きく異なります。
APS療法はPRPをさらに加工し、炎症を抑えるタンパク質を高濃度に集めた「次世代のPRP」ともいえる治療法です。この記事では、両者の違いを医学的根拠にもとづいてわかりやすく整理します。
PRP療法とは?自分の血液から成長因子を取り出して膝に届ける注射治療
PRP療法は、患者さんご自身の血液を採取し、遠心分離機で血小板を濃縮した液体(多血小板血漿)を膝関節内に注射する治療法です。血小板に含まれる成長因子が組織の修復を促し、痛みや炎症の緩和を期待できます。
PRP療法で使われる「多血小板血漿」の基本的な作り方
まず患者さんの腕から少量(おおむね15〜60mL程度)の血液を採ります。それを専用の遠心分離機にかけると、赤血球と血漿の層に分かれます。
この血漿層のうち、血小板が多く集まっている部分だけを取り出したものがPRP(Platelet-Rich Plasma)です。採血から注射まで30分ほどで完了するため、外来で受けられる手軽さも特徴でしょう。
PRP療法に含まれる成長因子と期待される効果
PRPにはPDGF(血小板由来成長因子)、TGF-β(トランスフォーミング成長因子β)、VEGF(血管内皮増殖因子)など複数の成長因子が含まれています。これらが軟骨細胞や滑膜細胞に働きかけ、組織修復と痛みの軽減を助けます。
ランダム化比較試験のメタアナリシスでは、ヒアルロン酸注射やステロイド注射よりも6〜12か月後の痛みスコアで有意に優れた結果が報告されています。
ただし、効果の持続期間や効果の程度には個人差がある点も覚えておきましょう。
PRP療法とAPS療法の基本比較
| 比較項目 | PRP療法 | APS療法 |
|---|---|---|
| 原料 | 自己血液 | 自己血液 |
| 加工回数 | 遠心分離1回 | 遠心分離2回 |
| 主な有効成分 | 成長因子中心 | 抗炎症性サイトカイン+成長因子 |
| 注射回数の目安 | 複数回が多い | 原則1回 |
PRP療法が変形性膝関節症で注目されている背景
変形性膝関節症は加齢とともに膝の軟骨がすり減り、関節内に慢性的な炎症が続く病気です。鎮痛薬や湿布だけでは限界を感じている方も少なくありません。
手術を避けたい、あるいは手術までの時間を稼ぎたいという方にとって、自分の血液を活用するPRP療法は身体への負担が少ない選択肢として関心を集めています。
APS療法はPRP療法とどこが違うのか|炎症を抑える成分を高濃度に集めた次世代PRP
APS(Autologous Protein Solution=自己タンパク質溶液)療法は、PRPをベースにさらにもう一段階の処理を加え、炎症を抑えるタンパク質を選択的に濃縮した治療法です。
従来のPRPが「成長因子で組織修復を促す」ことに重点を置くのに対し、APS療法は「炎症そのものを鎮める」方向にも力を発揮します。
APS療法の製造工程はPRPから「もうひと手間」加える
APS療法ではまずPRPを作製し、そのPRPをポリアクリルアミドビーズという特殊な乾燥剤に接触させます。水分が吸収されることで、抗炎症性サイトカインや成長因子がぎゅっと凝縮されるのです。
結果として、IL-1ra(インターロイキン1受容体拮抗物質)やsTNF-RI/RII(可溶性TNF受容体)といった炎症を抑える分子が、通常のPRPよりも大幅に高い濃度で含まれます。
APS療法で特に注目される抗炎症性サイトカインの種類
APS療法で濃縮される抗炎症性サイトカインの代表格は、IL-1raです。IL-1raは、変形性膝関節症の炎症を引き起こす主犯格であるIL-1βの働きを直接ブロックします。
加えて、sTNF-RIとsTNF-RIIはTNF-αという炎症性サイトカインを中和する役割を果たします。研究データでは、APS中の抗炎症性サイトカイン濃度が炎症性サイトカインを大きく上回ることが確認されています。
APS療法はなぜ「次世代PRP」と呼ばれるのか
PRPは組織修復を後押しする成長因子が豊富ですが、炎症性サイトカインも一定量含まれています。その点APS療法は、抗炎症性の分子を選択的に高めて「炎症を火消しする力」を強化しました。
変形性膝関節症の痛みは慢性炎症に起因するケースが多いため、炎症を集中的に抑制できるAPS療法は「次世代のPRP」と評価されることがあります。
APS療法に含まれる代表的な成分
| 分類 | 代表的な成分 | おもな作用 |
|---|---|---|
| 抗炎症性 | IL-1ra | IL-1βの作用を阻害 |
| 抗炎症性 | sTNF-RI / sTNF-RII | TNF-αを中和 |
| 成長因子 | TGF-β、PDGF | 組織の修復を促進 |
| 抗炎症性 | IL-4、IL-10 | 炎症反応を鎮静化 |
変形性膝関節症で膝に炎症が続くと軟骨はどんどん壊れていく
変形性膝関節症の進行には、関節内で繰り返される慢性炎症が深く関わっています。炎症性サイトカインが軟骨の分解酵素を活性化させ、軟骨のすり減りを加速させるからです。
IL-1βとTNF-αが膝の軟骨を破壊する引き金になる
変形性膝関節症の関節液には、IL-1β(インターロイキン1ベータ)やTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)と呼ばれる炎症性サイトカインが過剰に存在しています。
これらは軟骨細胞に作用し、MMP-13(マトリックスメタロプロテアーゼ13)などの分解酵素を大量に作らせます。
分解酵素が軟骨のコラーゲン線維を切断し、軟骨の構造が崩れていきます。痛みだけでなく、関節の動きにくさや腫れの原因にもなるため、炎症を早い段階で食い止めることが大切です。
滑膜炎が痛みと腫れを悪化させる悪循環
- 炎症性サイトカインが滑膜を刺激し、滑膜炎を引き起こす
- 炎症を起こした滑膜がさらにIL-1βやTNF-αを放出する
- 関節液が過剰にたまり、膝の腫れや水がたまった状態になる
- 痛みで動けなくなると筋力低下が進み、関節への負担が増大する
炎症を放置すると変形性膝関節症の進行を止められなくなる
初期段階では軟骨の表面だけが傷んでいた状態でも、炎症が長引くと軟骨下骨(軟骨のすぐ下にある骨)にまでダメージが及びます。骨同士がぶつかり合う段階まで進むと、保存的な治療だけでは対応が難しくなるかもしれません。
だからこそ、炎症を早めに制御する治療介入が求められているのです。PRP療法やAPS療法が注目される理由もまさにこの点にあります。
APS療法が変形性膝関節症の炎症を集中的に抑え込む仕組み
APS療法は、膝関節内の炎症性サイトカインに対抗する「天然の消火剤」を大量に送り込む治療です。IL-1raがIL-1βの受容体を先回りしてふさぎ、TNF-αに対してもsTNF受容体が中和に働くため、複数の炎症経路を同時にブロックできます。
IL-1raがIL-1βの受容体をブロックして軟骨分解を防ぐ
IL-1raは、細胞表面にあるIL-1受容体にIL-1βより先に結合し、炎症シグナルの伝達を遮断します。いわば受容体の「鍵穴」にダミーの鍵を差し込むようなイメージです。
基礎研究では、APS中のIL-1raがIL-1βとTNF-αによって刺激された軟骨細胞のMMP-13産生を有意に抑制したと報告されています。軟骨を壊す酵素の生成を元から断つことが、APS療法の大きな特徴です。
sTNF受容体がTNF-αを中和して炎症の連鎖を断ち切る
TNF-αは炎症を強力に推進するサイトカインですが、APS中に高濃度で含まれるsTNF-RI・sTNF-RIIがTNF-αを捕まえて無力化します。IL-1βとTNF-αの両方を同時に抑制できる点が、従来のPRPにはない強みといえるでしょう。
動物実験では、メニスカス損傷モデルのラットにAPSを関節内投与したところ、軟骨の変性スコアが対照群と比べて有意に低い値を示したという結果も出ています。
M1マクロファージからM2マクロファージへの切り替えを促す
APSには、炎症促進型のM1マクロファージを修復促進型のM2マクロファージへと変化させる作用も示唆されています。マクロファージは免疫細胞の一種で、M2タイプに切り替わると組織の修復を助ける物質を分泌します。
この作用は、単純に炎症を抑えるだけでなく、関節内を「修復モード」に移行させる可能性を秘めています。
- IL-1ra → IL-1βの受容体を先取りして炎症伝達を遮断
- sTNF-RI / sTNF-RII → TNF-αを直接捕捉して中和
- IL-4、IL-10 → 炎症反応全体をトーンダウンさせる
- M1→M2マクロファージ誘導 → 修復優位の環境をつくる
PRP療法とAPS療法を比べてわかる具体的な違い|成分・回数・対象の差
PRP療法とAPS療法はどちらも自己血液由来の注射治療ですが、加工の深さ、含まれる有効成分、注射回数などに明確な違いがあります。ご自身の膝の状態や治療目標に合わせて比較検討することが大切です。
成長因子の量だけでなく抗炎症成分の濃度で大きな差がつく
PRP療法には血小板由来の成長因子が豊富に含まれますが、炎症性サイトカインもある程度混在しています。
一方、APS療法は追加の濃縮工程を経ることで、抗炎症性サイトカインの濃度を飛躍的に高めています。
研究によれば、APS中では抗炎症性サイトカイン濃度が炎症性サイトカインを上回る結果が98%の患者さんで確認されました。炎症のコントロールを重視するなら、APS療法に分がある可能性があります。
PRP療法とAPS療法の治療スケジュール比較
| 項目 | PRP療法 | APS療法 |
|---|---|---|
| 注射回数 | 2〜3回(数週間おき) | 原則1回 |
| 1回の採血量 | 15〜60mL程度 | 55mL程度 |
| 効果の持続 | 数か月〜12か月 | 12〜36か月の報告あり |
| 通院負担 | 複数回の通院が必要 | 1回で済むケースが多い |
適応となる変形性膝関節症の重症度にも差がある
PRP療法は軽度から中等度の変形性膝関節症に広く検討されており、比較的若い患者さんで良好な成績が報告されています。APS療法も軽度〜中等度(Kellgren-Lawrence分類のグレード2〜3)が主な対象です。
一方、重度(グレード4)の患者さんでは、APS療法の効果が軽度・中等度の方よりも低い傾向が報告されています。どちらの治療法でも、軟骨が大幅に失われた段階では効果が限定的になる点は共通です。
APS療法を受ける前に確認しておきたい注意点と限界
APS療法は有望な選択肢ですが、すべての方に同じ効果をもたらすわけではありません。期待しすぎず、冷静に判断するために知っておきたいポイントがあります。
すべての患者さんに効果があるとは限らない
臨床研究では、APS療法による痛みの改善率は55%前後と報告されています。つまり、約半数の方には十分な効果が出ない可能性があるということです。
効果が出にくい要因としては、関節の変形が進んでいること、BMI(体格指数)が高いこと、関節内の炎症パターンの個人差などが指摘されています。治療を受ける前に、主治医とよく相談して見通しを確認してください。
一時的な痛みや腫れが出ることもある
APSを注射した直後から数日間は、膝に一時的な痛みや腫れ(フレア反応)が起きる場合があります。臨床試験では、注射後1か月以内に軽〜中程度の関節痛が約46%、関節の腫れが約29%の頻度で報告されました。
こうしたフレア反応は通常、数日から1週間程度で自然におさまります。重篤な副作用はほとんど報告されておらず、安全性プロファイルは良好です。
軟骨を再生させる治療ではない
APS療法は炎症の抑制と痛みの緩和を目的とした治療です。すり減った軟骨を元通りに戻すこと(完全な再生)は現時点では確認されていません。
一部の研究で軟骨の厚みが改善した症例の報告はあるものの、統計的に有意な結果には至っていないのが現状です。あくまで進行を遅らせ、日常生活の質を守るための治療と捉えましょう。
| 確認すべき項目 | 内容 |
|---|---|
| 効果の個人差 | 改善率は約55%前後。全員に効くわけではない |
| フレア反応 | 注射後数日間の一時的な痛み・腫れの可能性 |
| 軟骨再生 | 軟骨を完全に再生させるエビデンスは未確立 |
| 重症度の影響 | グレード4では効果が限定的になりやすい |
PRP療法やAPS療法を検討するときに主治医へ確認すべきポイント
治療法を選ぶ際は、メリットだけでなくリスクや費用面も含めて総合的に判断する必要があります。主治医との対話で確認しておきたいポイントを整理しました。
膝の画像検査による重症度の確認を最初に行う
変形性膝関節症の重症度はレントゲンやMRIで評価します。Kellgren-Lawrence分類でグレード2〜3(軽度〜中等度)の場合に、PRP療法やAPS療法の効果が期待しやすいとされています。
グレード4まで進行している場合は、人工膝関節手術など他の治療法のほうが有効な場合もあります。自分の膝がどの段階にあるのかを把握することが、適切な治療選択の出発点です。
主治医との相談時に押さえたい質問例
| 質問の観点 | 具体的な質問例 |
|---|---|
| 重症度 | 自分の膝はKL分類でどのグレードですか |
| 適応 | PRP療法とAPS療法のどちらが合っていますか |
| 効果 | 同じ重症度の方の改善率はどのくらいですか |
| リスク | 注射後に起こりうる副反応はどんなものですか |
治療後のリハビリテーションや生活指導も確認する
PRP療法やAPS療法は注射だけで完結する治療ではありません。治療効果を長持ちさせるためには、膝周囲の筋力トレーニングや体重管理などの生活習慣の改善も組み合わせる必要があります。
注射後にどの程度の安静が必要か、いつから運動を再開できるのかなど、術後の生活について事前に主治医から説明を受けておくと安心です。
他の保存療法と組み合わせる選択肢も検討してみる
PRP療法やAPS療法は単独でも一定の効果が期待できますが、ヒアルロン酸注射や装具療法、物理療法などと組み合わせて使うことも検討に値します。
担当医と相談しながら、現在受けている治療との併用が可能かどうか、治療スケジュールをどう組むかを計画的に決めていくことが、良い結果につながるでしょう。
よくある質問
- APS療法はPRP療法と比べて痛みを抑える効果に差がありますか?
-
APS療法はPRP療法をベースにさらに抗炎症性サイトカインを濃縮しているため、炎症由来の痛みに対してはより集中的に働きかけると考えられています。
ランダム化比較試験では、APS療法を1回注射した患者さんのWOMAC疼痛スコアが12か月後に約65%改善したと報告されています。
ただし、PRP療法にも複数のメタアナリシスで6〜12か月後の疼痛軽減効果が確認されており、両者を直接比較した大規模な臨床試験はまだ多くありません。
どちらが優れているかは、膝の状態や炎症の程度によっても変わりますので、主治医とご相談のうえ判断されることをおすすめします。
- APS療法の注射は1回で済みますか?
-
APS療法は原則として1回の関節内注射で完了します。臨床試験でも、1回の注射後12か月〜36か月にわたって痛みの改善が持続したという報告があります。
とはいえ、効果が十分でなかった場合には2回目の注射を検討するケースもあります。1回目で効果を実感できなかった方の2回目の改善率はやや低い傾向が報告されているため、追加注射の判断は慎重に行う必要があるでしょう。
- APS療法は変形性膝関節症の重症度が高くても受けられますか?
-
APS療法はKellgren-Lawrence分類のグレード2〜3(軽度〜中等度)を主な対象としています。グレード4(重度)の方にも施術自体は可能ですが、臨床研究の結果ではグレード4の改善率がグレード2〜3と比べて低いことが示されています。
軟骨がほとんど失われた段階では、注射治療だけで十分な効果を得るのが難しい場合もあります。重症度に応じた治療法の選択については、画像検査の結果をもとに主治医とよく相談なさってください。
- PRP療法やAPS療法に副作用やリスクはありますか?
-
PRP療法・APS療法ともに、ご自身の血液を原料として使用するため、アレルギー反応や感染のリスクは低いとされています。臨床試験でも重篤な副作用の報告はほとんどありません。
一方で、注射直後から数日間にかけて一時的な膝の痛みや腫れ(フレア反応)が生じることがあります。多くの場合は自然に軽快しますが、症状が長引くときは速やかに担当医に相談してください。
- APS療法を受けた後の日常生活で気をつけるべきことはありますか?
-
APS療法の注射後、数日間は激しい運動や長時間の歩行を控えることが一般的に推奨されています。安静にしすぎると筋力が落ちてしまうため、主治医の指示に従って無理のない範囲で日常動作を続けることが大切です。
効果を長く維持するためには、適切な体重管理と膝周りの筋力トレーニングの継続も重要です。注射だけに頼るのではなく、リハビリテーションや生活習慣の見直しと組み合わせると、より良い結果が期待できるでしょう。
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