清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)は、赤いにきびなどの皮膚トラブルを改善していく漢方で、「清上」とは、横隔膜よりも上部、とくに顔面、頭部にうっ滞した熱を清解させるという意味です。
漢方医学では体内にこもった熱が上半身にのぼり、皮膚にこもることで、にきび、顔面・頭部の湿疹や皮膚炎として現れると考えられています。
この記事では、清上防風湯について詳しく解説していきましょう。
清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)の有効成分と効果、作用機序
有効成分
清上防風湯には、12種類の生薬が配合されています。
- 黄芩(オウゴン)
- 桔梗(キキョウ)
- 山梔子(サンシシ)
- 川芎(センキュウ)
- 浜防風(ハマボウフウ)
- 白芷(ビャクシ)
- 連翹(レンギョウ)
- 黄連(オウレン)
- 甘草(カンゾウ)
- 枳実(キジツ)
- 荊芥(ケイガイ)
- 薄荷(ハッカ)
作用機序
「清上防風湯」の名前にも一部入っている「浜防風」は、発散作用をもつ代表的な生薬で、同様の作用を持つ「薄荷」や「荊芥」なども皮膚疾患への効果が認められています。
そのほか、熱を冷まし炎症をしずめる「黄連」「黄芩」「山梔子」、排膿を助ける「桔梗」、血の巡りをよくする「川芎」など、ニキビ治療に有効な複数の生薬が配合。
これらの生薬が相乗効果を発揮し、ニキビの改善に役立っています。
効果
清上防風湯の効果
- 肌の赤み、腫れ、つまり感の改善
- 抗炎症作用によるニキビの赤み、腫れ、痛みの改善
- 皮脂の分泌抑制
- 抗菌作用によるアクネ菌の増殖抑制、ニキビの改善
清上防風湯はさまざまな生薬を用いてニキビの原因にアプローチし、肌の状態の改善効果をもたらします。
清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)の使用方法と注意点
使用方法
通常、成人1日7.5gを2~3回に分け、食前または食間に経口投与しますが、年齢や体重、症状に応じて適宜増減します。
注意点
- 清上防風湯の成分にアレルギーがある方は使用を避ける。
- 妊娠中や授乳中の方は医師に相談してから使用。
- 他の薬剤を服用している場合は医師や薬剤師に相談。
- 室温で保管し、直射日光や高温多湿を避ける。
- 用法・用量を守り、過剰摂取は避ける。
- 小児に服用させる際は、保護者の監督のもとで行う。
- 1包を分割したり残りを服用する際は、袋の口を折り曲げて保存し、二日以内に使用。
- 生薬を用いているので、製品により多少の色の違いがある。
服用に関して不明な点がある場合は、医師や薬剤師に相談してください。
適応対象となる患者さん
清上防風湯は、体力が中等度以上で、赤ら顔、ときにのぼせがある方の以下のような症状に効果があります。
- 炎症性にきび
- 顔面・頭部の湿疹・皮膚炎
- あかはな(酒さ)
具体的には、
- 顔が脂っぽく赤いニキビがある
- 顔や頭に化膿している湿疹がある
などといった症状で、炎症性のニキビに対してはガイドラインにおいてもC1(選択肢の一つとして推奨する)とされており、特に青年でオイリー肌のニキビや、膿が多く尖った隆起が目立つニキビに対して有効です。
他のニキビ治療薬との併用
清上防風湯は、ニキビに対して単独で用いられることはなく、以下のような外用薬と併用します。
- 外用薬:
・ベピオゲル・ベピオローション
・ディフェリンゲル
・デュアック配合ゲル
・エピデュオゲル
- 抗菌薬:そのほか、ゼビアックスローションなどの外用薬やミノマイシン、ビブラマイシンなどの内服薬を併用することで、アクネ菌の増殖を抑制できます。
特定の背景を有する方への使用
清上防風湯を使用する際、以下に該当する方は注意が必要です。
著しく胃腸の虚弱な方への使用
食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等があらわれることがあります。
食欲不振、悪心、嘔吐のある方への使用
これらの症状が悪化するおそれがあります。
お子さまへの使用
お子さまに対しては、安全性が確立されていません。ただし、状態によっては処方を検討するケースもあるため、主治医にご相談ください。
妊娠中や授乳中の方への使用
妊娠中、または妊娠の可能性がある場合、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に限り使用されます。
また、授乳中の方に対しては、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討したうえで処方します。
ご高齢の方への使用
加齢により一般に生理機能が低下しているため、症状や体格に応じて減量する必要があります。
清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)の治療期間
漢方薬は、西洋医学の薬剤とは異なり、即効性があるというよりも緩やかに効果を発揮し、体質を改善することで症状を緩和するため、清上防風湯の治療期間は比較的長期にわたります。
一般的な治療期間
清上防風湯の効果は早ければ1ヶ月程度で認めることが多く、一般的な治療期間は、3~6ヶ月程度です。この期間は、ニキビの重症度、体質、生活習慣の改善などの要因によって変わってきます。
長期的な使用について
清上防風湯は、長期的に使用することで、ニキビの再発を防ぐ効果が期待できるので、ニキビが改善した後も、医師の指示に従って、数ヶ月間は継続して服用することが推奨されます。
ただし、漫然と長期服用することは避け、定期的に医師の診察を受けながら、服用期間を調整してください。
清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)の副作用やデメリット
清上防風湯は、他の薬剤と同様に、副作用やデメリットがあります。
副作用
重大な副作用として、いくつか報告されているものがあります。
- 偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加などの偽アルドステロン症があらわれることがあります。
異常を認めた場合は、薬の使用を中止し、カリウム剤の投与などの適切な処置を行います。 - ミオパチー:低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあります。
観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺などの異常が認められた場合は、薬の使用を中止し、カリウム剤の投与などの適切な処置を行います。 - 肝機能障害、黄疸:血液検査でAST、ALT、Al-P、γ-GTPなどの著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあります。
- 腸間膜静脈硬化症:非常にまれなケースですが、長期にわたる投与により腸間膜静脈硬化症があらわれることがあります。
腹痛、下痢、便秘、腹部膨満などの症状が繰り返しあらわれたり、便潜血陽性になった場合は、使用を中止し、CTや大腸内視鏡などの検査を実施するとともに、適切な処置を行う必要があります。
なお、外科的な処置(腸管切除術)に至った症例も報告されています。
その他の副作用
副作用 | 症状 |
---|---|
消化器症状 | 食欲不振、胃部不快感、悪心、腹痛、下痢など |
アレルギー反応 | 発疹、発赤、かゆみ、蕁麻疹など |
副作用が現れた場合は、速やかに服用を中止し、医師に相談してください。
漢方薬特有のデメリット
漢方薬は、西洋医学の薬剤とは異なる特性を持つため、デメリットがあります。
- 即効性が低い:漢方薬は、体質を改善することで症状を緩和するため、即効性は期待できません。数ヶ月の服用が必要なことがあります。
- 独特の味と匂い:漢方薬は、生薬を煎じたものを服用するため、独特の味と匂いがあり、慣れるまでに時間がかかる方もいます。
デメリットは、漢方薬の特性によるものであり、患者さんごとに受け止め方が異なります。清上防風湯の服用に不安を感じる方は、医師や薬剤師にご相談ください。
清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)で効果がなかった場合
清上防風湯は、すべての方に効果があるわけではなく、十分な効果が得られなかった場合、他の治療薬を検討します。
他の漢方薬について
清上防風湯は漢方薬の中でも「清熱剤」に分類されます。清上防風湯以外の清熱剤には以下のようなものがあります。
・荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう): 膿が多い炎症性のニキビに効果的です。
・十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう): 炎症性ニキビに効果が期待できます。
他に、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などの駆瘀血剤と呼ばれる漢方薬は、ホルモンバランスを整える作用があります。漢方薬は、患者さんの症状や体質に合わせて選択されます。
漢方以外の治療薬
清上防風湯は単独で使用されることはなく、一般的な保険治療薬と併用して投与されます。
それでも改善効果が乏しい場合は、イソトレチノインやスピロノラクトン、低用量ピルの内服などへの変更を検討することに。
特にイソトレチノインは皮脂腺を強力に縮小する作用があり、高いニキビ改善効果があります。
ただし、ホルモン療法には胎児奇形など重篤な副作用のリスクがあるうえ、日本では保険が適用されません。
他の治療薬との併用禁忌
清上防風湯は、ニキビの治療に効果的な漢方薬ですが、他の薬剤と併用する際には注意が必要です。
本剤には甘草が配合されているので、甘草を含む他の漢方薬との併用により、偽アルドステロン症などの副作用のリスクが高まる可能性があります。
- 芍薬甘草湯
- 補中益気湯
- 抑肝散 など
また、グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤との併用で、偽アルドステロン症があらわれやすくなります。
清上防風湯を服用する際や、清上防風湯の服用中に新たに薬剤を使用する場合は、医師や薬剤師に伝えてください。
特定の薬と併用することにより、重大な副作用が発生するリスクがあるため、注意が必要です。
保険適用と薬価について
清上防風湯はニキビに対して保険適用となります。
薬価は、顆粒剤は12.5円/gなので1包(2.5g)あたり31.25円です。
タイプ | 薬価に基づく薬の価格 |
---|---|
顆粒剤(ツムラ医療用) | 12.5円/gなので1包(2.5g)あたり31.25円1日3包→2812.5円/30日 (3割負担 843.75円) |
保険の適用を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他に初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
参考文献
尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023
https://doi.org/10.14924/dermatol.133.407
ツムラ清上防風湯エキス顆粒(医療用) 添付文書
https://medical.tsumura.co.jp/products/058/pdf/058-tenbun.pdf
栁原茂人. 痤瘡 (ニキビ)×荊芥連翹湯, 清上防風湯, 十味敗毒湯. The journal of practical pharmacy, 2021;72(11):3263-3266.
具志明代, et al. 標準的皮膚科治療に抵抗性の痤瘡に対する漢方治療の有効性の検討. 日本東洋医学雑誌. 2016;67(2):123-130.
小林裕美, et al. にきび治療最前線 ニキビに対する漢方療法. 日本臨床皮膚科医会雑誌. 2009;26(5):475-480.
Hiramatsu K, et al. Mesenteric phlebosclerosis associated with long-term oral intake of geniposide, an ingredient of herbal medicine. Aliment Pharmacol Ther. 2012;36(6):575-86.
Higaki S, et al. The correlation of Kampo formulations and their ingredients on anti-bacterial activities against Propionibacterium acnes. J Dermatol. 1995;22(1):4-9.
Saruwatari J, et al. Effects of Seijo-bofu-to, a traditional Japanese herbal medicine containing furanocoumarin derivatives, on the drug-metabolizing enzyme activities in healthy male volunteers. Basic Clin Pharmacol Toxicol. 2014;115(4):360-5.
Higaki S, et al. Seijo-bofu-to, Jumi-haidoku-to and Toki-shakuyaku-san suppress rashes and incidental symptoms in acne patients. Drugs Exp Clin Res. 2002;28(5):193-6.