免疫チェックポイント阻害剤でがんは完治する?治療効果と今後の展望

免疫チェックポイント阻害剤でがんは完治する?治療効果と今後の展望

免疫チェックポイント阻害剤は、一部のがん種において従来の治療では考えられなかった長期生存をもたらしています。とりわけ悪性黒色腫では、5年以上がんの再発なく過ごす「機能的治癒」に至る方が報告されるようになりました。

ただし、すべてのがんやすべての患者さんに同じ効果が期待できるわけではありません。がんの種類やバイオマーカーの状態、副作用のリスクなど複数の要素が治療効果を左右します。

この記事では、免疫チェックポイント阻害剤で完治を目指せるがんとその条件、副作用への備え方、併用療法や費用の目安まで、治療を検討するうえで必要な情報を幅広くお伝えします。

目次

免疫チェックポイント阻害剤による「完治」は一部のがんで確認されている

免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療で5年以上再発のない長期生存を得た患者さんは、特定のがん種において一定の割合で存在します。ただし「完治」という言葉の意味は、がんの治療においては慎重に用いる必要があるでしょう。

免疫チェックポイント阻害剤は体内の免疫にかかったブレーキを外す薬

私たちの体には、がん細胞を異物として攻撃する免疫のシステムが備わっています。しかしがん細胞は、免疫細胞の表面にある「ブレーキ」に相当する分子を利用して攻撃を逃れる術を身につけています。

免疫チェックポイント阻害剤は、このブレーキを解除する薬です。具体的には、T細胞の表面にあるPD-1やCTLA-4といった分子を標的とし、がん細胞による免疫抑制を阻止して、T細胞ががん細胞を攻撃できる状態に戻します。

2011年に悪性黒色腫の治療薬としてイピリムマブ(抗CTLA-4抗体)が承認されて以降、ニボルマブやペムブロリズマブといった抗PD-1抗体薬が相次いで登場しました。現在は肺がんや腎細胞がんなど多くのがん種で標準治療として使われています。

薬剤名標的分子代表的な対象がん
ニボルマブPD-1肺がん、腎細胞がん、悪性黒色腫など
ペムブロリズマブPD-1肺がん、胃がん、悪性黒色腫など
イピリムマブCTLA-4悪性黒色腫、腎細胞がんなど
アテゾリズマブPD-L1肺がん、肝細胞がんなど
デュルバルマブPD-L1肺がん、胆道がんなど

いずれの薬剤も、がん細胞を直接攻撃するのではなく、患者さん自身の免疫の力を回復させるという点で従来の抗がん剤とは大きく異なります。

「完治」と「長期生存」は医学的にどう使い分けるか

がん治療における「完治」とは、体内のがん細胞がすべてなくなり、再発の兆候がない状態を指します。しかし、目に見えないレベルでがん細胞が残っている可能性は否定できないため、多くの場合は「治癒」よりも「長期寛解」や「機能的治癒」という表現が用いられます。

免疫チェックポイント阻害剤で治療を受けた患者さんの中には、治療終了後も5年以上がんの再燃がないケースが報告されています。

こうした場合、臨床的には「機能的治癒」と見なされることもありますが、再発リスクがゼロになったとは断言できません。定期的な経過観察を続けることが大切です。

がん種によって長期生存率には大きな開きがある

免疫チェックポイント阻害剤の効果はがんの種類によって差があります。悪性黒色腫(メラノーマ)では、ニボルマブとイピリムマブの併用療法で5年生存率が約52%に達したという報告もあり、従来の治療では考えられなかった成績といえるでしょう。

一方、非小細胞肺がんにおけるペムブロリズマブ単剤療法の5年生存率はPD-L1高発現例で約25%、腎細胞がんでのニボルマブ単剤療法では約28%とされています。がんの種類や進行度によって効果は大きく変わるため、「免疫チェックポイント阻害剤=完治」と単純に考えるのは早計です。

免疫チェックポイント阻害剤が高い治療成績を示すがん種はどれか

悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がんの3つのがん種は、長期にわたる追跡データが蓄積されており、免疫チェックポイント阻害剤の有効性が数値として明確に示されています。

がん種代表的な薬剤5年生存率の目安
悪性黒色腫ニボルマブ+イピリムマブ約52%
非小細胞肺がんペムブロリズマブ約15~25%
腎細胞がんニボルマブ約28%

悪性黒色腫(メラノーマ)が免疫療法で高い成績を残している背景

悪性黒色腫は、もともと遺伝子変異の数が多いがんとして知られています。遺伝子変異が多いということは、免疫細胞が認識できる「目印(ネオアンチゲン)」が豊富に存在するということです。

その結果、免疫チェックポイント阻害剤でブレーキが外れたT細胞が、がん細胞を効率よく攻撃できるようになります。

臨床試験(CheckMate 067)では、ニボルマブとイピリムマブの併用群で5年全生存率が52%に達しました。10年前には転移性黒色腫の5年生存率は10%以下だったことを考えると、劇的な変化といえます。

非小細胞肺がんでは治療歴やPD-L1発現率が鍵を握る

非小細胞肺がんにおいても、免疫チェックポイント阻害剤は一定の長期生存をもたらしています。KEYNOTE-001試験の結果では、ペムブロリズマブで治療した未治療患者の5年全生存率は約23%でした。

特にPD-L1発現率が50%以上の患者さんでは5年生存率が25%を超えており、従来の化学療法では到底達成できなかった数値です。ただし、PD-L1発現が低い場合は効果が限定的となるケースもあり、事前のバイオマーカー検査が治療方針の決定に欠かせません。

腎細胞がんや頭頸部がんでの治療効果と課題

腎細胞がんにおけるニボルマブ単剤療法は、従来のエベロリムスと比較して全生存期間を延長しました。第1相試験のデータでは、5年生存率が約28%と報告されています。腎細胞がんでも免疫が関与しやすいがんであることが背景にあるとされています。

頭頸部扁平上皮がんやホジキンリンパ腫など、比較的新しい適応が広がっているがん種でも長期データの蓄積が進んでいます。一方で、膵臓がんや前立腺がんなど「免疫学的に冷たい」と呼ばれるがんでは現時点で目立った効果が得られていないのも事実です。

免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測するバイオマーカー検査

すべての患者さんに等しく効くわけではない免疫チェックポイント阻害剤において、治療前のバイオマーカー検査は治療方針を決めるうえで欠かせない判断材料となっています。代表的な検査を3つ紹介します。

PD-L1発現率が高いほど治療効果は期待できるのか

PD-L1は、がん細胞の表面に発現するタンパク質で、免疫細胞のPD-1と結合してT細胞の攻撃を抑え込みます。免疫染色でPD-L1の発現率(TPS:Tumor Proportion Score)を調べ、50%以上であればペムブロリズマブ単剤の適応となるケースが多いでしょう。

ただし注意が必要なのは、PD-L1発現が低い場合でも治療効果が出ることがある点です。逆にPD-L1が高発現であっても効果が限定的な場合もあります。PD-L1発現率は有用な指標ではあるものの、万能な予測因子ではありません。

腫瘍遺伝子変異量(TMB)が多いがんはなぜ免疫療法が効きやすい

腫瘍遺伝子変異量(TMB:Tumor Mutational Burden)とは、がん細胞がもつ遺伝子変異の総数を数値化したものです。変異が多いほど、免疫細胞が認識する新しいタンパク質(ネオアンチゲン)が増え、攻撃の標的になりやすいと考えられています。

悪性黒色腫や喫煙に関連した肺がんはTMBが高い傾向にあり、実際に免疫チェックポイント阻害剤の効果が出やすいがん種と一致します。一方、TMBが低いがんでは効果が限られる場合が多く、TMBの測定は治療の選択に役立つ情報のひとつです。

マイクロサテライト不安定性(MSI-H)とがん免疫の深い関係

マイクロサテライト不安定性(MSI-H)は、DNA修復遺伝子の異常によって生じるもので、MSI-Hのがんは変異タンパク質を多く産生し、免疫細胞に認識されやすいという特徴をもちます。

バイオマーカー概要治療選択への影響
PD-L1発現率がん細胞表面のPD-L1量を測定高発現ならICI単剤の適応判断に利用
TMBがん細胞の遺伝子変異数を測定高TMBなら免疫療法の効果が期待しやすい
MSI-H/dMMRDNA修復異常の有無を検査がん種を問わずICI適応の根拠となる

MSI-Hは大腸がんや子宮内膜がんなどに多く見られ、ペムブロリズマブは臓器横断的にMSI-Hの固形がんに対する適応を取得しています。がん種にかかわらず「MSI-Hであれば免疫チェックポイント阻害剤を検討する」という治療戦略が確立されてきました。

免疫関連有害事象は免疫チェックポイント阻害剤に特有の副作用

「副作用が少ない」と誤解されがちですが、免疫チェックポイント阻害剤にも特有の副作用があります。免疫が過剰に活性化することで自分の正常な組織を攻撃してしまう現象が「免疫関連有害事象(irAE)」です。

従来の抗がん剤とは異なる副作用が起こる仕組み

通常の化学療法では吐き気や脱毛、骨髄抑制といった副作用がよく知られています。免疫チェックポイント阻害剤の場合は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも免疫が攻撃を加えてしまい、自己免疫疾患に似た症状が全身のさまざまな臓器に出る点が特徴的です。

irAEは治療開始から数週間~数か月で発症するケースが多いものの、治療終了後にも遅発性に現れることがあります。

報告によれば、免疫チェックポイント阻害剤を使用した患者さんの約40%が何らかの慢性的なirAEを経験するとされ、致命的な副作用が0.4~1.2%に生じる可能性も指摘されています。

甲状腺や肝臓など臓器別に注意したい症状

irAEが起こりやすい臓器は皮膚、消化管、内分泌系(甲状腺・下垂体・副腎)、肝臓、肺と多岐にわたります。

影響を受ける臓器おもな症状
皮膚発疹、かゆみ、白斑
消化管下痢、腹痛、大腸炎
甲状腺甲状腺機能低下症・亢進症
肝臓肝機能検査値の上昇、肝炎
間質性肺炎(咳、息切れ)

特に甲状腺機能の異常は頻度が高く、永続的にホルモン補充が必要になる場合もあります。定期的な血液検査で早期に変化をとらえることが、重症化の予防につながるでしょう。

副作用が出ても治療を続けられるケースとは

医療者はirAEの重症度をグレード1(軽症)からグレード4(生命を脅かす重症)まで分類しています。軽度であれば、ステロイドの投与や対症療法で管理しながら免疫チェックポイント阻害剤を継続できる場合が少なくありません。

一方、グレード3以上の重篤なirAEが発生した場合は、治療をいったん中断するか中止を検討します。副作用が落ち着いた後に免疫チェックポイント阻害剤を再投与する「リチャレンジ」が可能なケースもありますが、主治医と十分に相談して判断することが重要です。

化学療法や分子標的薬との併用で免疫チェックポイント阻害剤の治療効果は高まる

免疫チェックポイント阻害剤は単剤でも一定の効果がありますが、他の治療法と組み合わせることでさらに高い治療成績が得られるケースが増えています。

化学療法との併用がもたらす相乗的な治療効果

化学療法でがん細胞を壊すと、細胞内部の抗原が放出されてT細胞の認識を助ける「免疫原性細胞死」が誘導される場合があります。ここに免疫チェックポイント阻害剤を併用すると、化学療法だけでは得られない持続的な抗腫瘍効果を引き出せる可能性があるのです。

非小細胞肺がんにおいては、ペムブロリズマブと化学療法の併用がPD-L1発現にかかわらず全生存期間を延長することが示され、現在では初回治療の選択肢として広く使われています。

分子標的薬や放射線療法を組み合わせた治療戦略

分子標的薬は、がん細胞に特有の遺伝子変異やシグナル伝達経路を狙い撃ちする薬剤です。腎細胞がんではニボルマブとカボザンチニブ(VEGF受容体阻害薬)の併用が承認され、高い奏効率と長期生存の改善が報告されています。

放射線療法との組み合わせにも注目が集まっています。放射線が照射された部位以外の腫瘍が縮小する「アブスコパル効果」が免疫チェックポイント阻害剤によって増強される現象が報告されており、臨床試験での検証が進行中です。

抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体を組み合わせる2剤併用レジメン

免疫チェックポイント阻害剤を2種類組み合わせる方法も確立されています。代表的なのがニボルマブ(抗PD-1)とイピリムマブ(抗CTLA-4)の併用で、悪性黒色腫や腎細胞がんで承認されています。

この併用療法は、免疫応答のリンパ節での「初動」と腫瘍局所での「攻撃」の2段階をそれぞれ強化する狙いがあります。ただし、単剤と比べて副作用の頻度と重症度が高まる傾向があるため、リスクとベネフィットのバランスを慎重に評価する必要があるでしょう。

  • ニボルマブ+イピリムマブ:悪性黒色腫、腎細胞がん、大腸がん(MSI-H)
  • デュルバルマブ+トレメリムマブ:肝細胞がん、非小細胞肺がん

2剤併用は単剤よりも強い治療効果が期待できる反面、irAEの管理がより複雑になります。治療チーム全体で副作用のモニタリング体制を整えておくことが治療成功の要といえます。

免疫チェックポイント阻害剤の治療費用と治療期間はどのくらいかかるのか

治療内容によって異なりますが、免疫チェックポイント阻害剤は薬価が高額なため、公的支援制度の活用が前提となります。以下に一般的な治療スケジュールと費用の目安をまとめます。

一般的な投与スケジュールと治療が続く期間

免疫チェックポイント阻害剤の多くは、2~4週間ごとの点滴投与で行われます。たとえばニボルマブは2週間ごとまたは4週間ごと、ペムブロリズマブは3週間ごとまたは6週間ごとに投与するスケジュールが一般的です。

治療期間は原則として2年間を上限とする試験デザインが多いものの、がんの進行や副作用の状況に応じて主治医が延長や中止を判断します。完全奏効が得られた場合は、主治医と相談のうえ2年を待たずに治療を終了することもあります。

高額療養費制度を利用した場合の自己負担の目安

免疫チェックポイント阻害剤の薬価は1回あたり数十万円に達するケースも珍しくありません。しかし、日本の公的医療保険制度のもとでは高額療養費制度が利用でき、月ごとの自己負担額には上限が設けられています。

  • 70歳未満・年収約370~770万円の場合:月あたりの自己負担上限はおよそ8万円程度
  • 年収約770万円以上の場合:月あたりの自己負担上限はおよそ17万円程度

限度額適用認定証を事前に取得しておくと、窓口での支払いを上限額までに抑えられます。治療を開始する前に、病院の相談窓口やソーシャルワーカーに確認しておくとよいでしょう。

治療終了後に必要な経過観察と長期フォローアップ

免疫チェックポイント阻害剤による治療が終了した後も、定期的な経過観察が必要です。治療終了後に遅れて現れるirAEや、がんの再発を早期に発見するため、血液検査や画像検査を半年~1年ごとに継続します。

特に甲状腺機能や副腎機能の低下は治療終了後も持続することがあり、長期にわたるホルモン補充療法が求められるケースもあります。「治療が終わったから安心」ではなく、主治医との連携を続ける姿勢が再発や後遺症の早期対応に直結します。

よくある質問

免疫チェックポイント阻害剤はすべてのがんに効果がありますか?

免疫チェックポイント阻害剤はすべてのがんに等しく効果があるわけではありません。悪性黒色腫や非小細胞肺がん、腎細胞がんなど免疫が関わりやすいがん種では比較的高い効果が報告されていますが、膵臓がんや前立腺がんのように免疫が入り込みにくいがんでは効果が限られる傾向にあります。

治療効果はPD-L1発現率やTMBなどのバイオマーカーの状態にも左右されるため、事前の検査で適応を慎重に判断することが大切です。主治医と相談のうえ、自分のがんの特徴に合った治療法を選んでいただくことをおすすめします。

免疫チェックポイント阻害剤の副作用はいつごろ現れますか?

免疫関連有害事象(irAE)は、治療開始後の数週間から数か月の間に発症することが多いとされています。ただし、治療を終了した後に遅れて現れるケースも報告されており、皮膚症状や甲状腺の機能異常は比較的早期に出やすく、肝障害や肺炎はやや遅れて現れる傾向があります。

副作用の出方は個人差が大きいため、治療中だけでなく治療終了後も定期的な検査と体調の変化に注意を続けることが重要です。気になる症状があれば早めに主治医へ相談してください。

免疫チェックポイント阻害剤で完治した場合、再発のリスクはありますか?

免疫チェックポイント阻害剤で画像上がんが消失し、5年以上再発のない状態を維持している方でも、再発のリスクを完全に否定することはできません。長期間にわたる追跡調査では、治療後3年以降に再発する患者さんの割合はごくわずかですが、ゼロではないと報告されています。

「機能的治癒」と呼ばれる状態であっても、年に1~2回の画像検査や血液検査を継続し、再発の兆候を早期にとらえることが大切です。主治医と経過観察のスケジュールを決めて、安心して日常生活を送れるようにしましょう。

免疫チェックポイント阻害剤と従来の抗がん剤(化学療法)はどう違いますか?

従来の化学療法はがん細胞を直接攻撃して増殖を抑える治療法であり、正常な細胞にもダメージを与えるため吐き気や脱毛、骨髄抑制などの副作用が出やすい特徴があります。免疫チェックポイント阻害剤は、患者さん自身の免疫を活性化してがん細胞を排除するという全く異なるアプローチをとります。

免疫チェックポイント阻害剤は効果が長期間持続しやすい反面、免疫が正常な組織も攻撃してしまう免疫関連有害事象が起こりうる点が特徴です。どちらが優れているかは一概にいえず、がんの種類や進行度に合わせて選択される治療法が変わります。

免疫チェックポイント阻害剤を受ける前に必要な検査はありますか?

免疫チェックポイント阻害剤の投与前には、いくつかの検査を行います。がんの組織を用いたPD-L1発現率の測定は多くのがん種で必須とされ、場合によっては腫瘍遺伝子変異量(TMB)やマイクロサテライト不安定性(MSI)の検査も実施します。

加えて、甲状腺機能や肝機能、血糖値などのベースラインデータを治療前に取得しておくことで、治療中に起こりうる免疫関連有害事象の早期発見に備えられます。検査の内容や費用については、主治医や病院の相談窓口でお尋ねください。

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