足関節捻挫を受傷したバスケットボール選手 ‐重心の高さに着目して‐

理学療法士の小寺孝拓です。

大垣中央病院ではスポーツリハビリといったスポーツでのケガに対して特化した外来リハビリを行っています。各曜日のスポーツリハビリにそれぞれ担当理学療法士が勤務しており、そのサブとして私は携わっています。まだまだスポーツ選手に対しての経験は浅いですが、知識、技術を向上させ、患者様と関わりながら成長していけたらと思います。

私は小学生の頃から、バスケットボールをしており、現在でも社会人のチームで趣味の範囲で続けています。高校生の時に足首の靭帯を損傷し、理学療法士の方にお世話になり、最後の引退試合では大敗しましたが、テーピングを巻きながらでも試合にでることができました。

リハビリの先生にはとても感謝しており、自分も治療者側に立ちたいと思ったのがきっかけでこの職業を目指し、今仕事をしています。

今日は、そんなバスケットボールでケガをすることの多い、骨折を伴った足首の捻挫を受傷した選手についての紹介をします。今回はバスケットボールの競技特性を中心に書きます。

捻挫の詳しい病態については、以前のブログで紹介されているのをご覧ください。

目次

選手紹介

B選手 20歳代 女性 バスケットボール選手

診断名:左足関節捻挫(初回)、左腓骨遠位端骨折

競技レベル:県リーグ

受傷機転および経過

バスケットボールの試合中、頭上を越える相手のパスボールをカットする際に左足着地にて捻挫をし、足首の外側の靱帯損傷と腓骨を骨折した。骨折に対して手術をした後、状態に合わせて徐々にリハビリを開始していった。

バスケットボール競技の特性

 ストップやジャンプ、切り返しなどを繰り返す競技であり、運動方向やスピードが変化する動作においては、瞬間的に足首に対して大きな外力が加わります。

足関節捻挫は、バスケットボールにおける全外傷のおよそ25%を占め、練習中に21%、試合中に39%で受傷していると報告されています。

具体的な動きとしては、ステップやストップ動作時に多く、過度な足部の外側荷重により、内側に捻るような力が加わることで足首の外側の靭帯を損傷します。さらに、外側へのストレスが大きいと靭帯が付着している腓骨の骨折が同時に生じます。

足首の捻挫は、バスケットボール中に起こる外傷のなかでも比較的軽度なものと捉えられがちですが、十分な治療、リハビリテーションを行わずに競技復帰すると、足首の可動域制限などの後遺症に悩む選手が多いのが現状です。

もちろん、足首のケガなので、そこを中心とした治療を行うのが基本となります。

しかし、捻挫をしてしまった原因を探求することで、予防策を講じることができます。特に捻挫の発生しやすいステップ、ストップ動作には足関節のみならず、股関節、体幹の機能が必要不可欠で、足首以外のトレーニングを行い、バスケットボールの競技動作に必要な機能を獲得することが再発防止につながります。

評価、治療

B選手は、足首の可動域に左右差がほとんどみられない状態まで改善し、リハビリを段階的に行うことで実際にバスケットボール動作を行えるレベルまできました。

選手のステップ、ストップ動作の姿勢を確認したところ、足首の踏み込み角度の減少、股関節、膝関節の曲がり角度の減少と足部の過度な前方荷重といった特徴がみられました。下肢の筋力をそれぞれの関節において評価したところ、足関節はもちろん、特に股関節周囲の筋力低下が目立ちました。

ステップ、ストップ、切り返し、ジャンプ、着地などはバスケットボールにおいての基本動作であり、それらはディフェンス時のサイドステップ、リバウンドやレイアップシュート後の両脚および片脚着地、ドライブ時の切り返しなど試合を通して頻回に行います。これらの動きに共通し、重要なのが低重心です。

低重心
高重心

左の写真はパワースタンスといってすべての動作の基本であり、シュートやドライブなど、次の動作の質を高めます。もちろん、右の写真のように足が伸びきって重心が高くても動作は行えますが、素早い動きはできず、何よりケガに繋がるリスクが高まります。

バスケットボールをしている人なら漫画のスラムダンクを読んだことがある人が多いと思います。登場人物にでてくる前年の覇者である山王工業高校キャプテンの深津(180cm)という選手は相手選手の宮城リョータ(168cm)をディフェンスするとき、頭の位置が相手よりも低いところまで腰を落としているシーンがありますよね。

自分よりも10cm以上も身長が低い選手よりも低いというのはかなりの低重心ということです。ディフェンスはシュートとドライブインの両方を防ぐために前方にも後方にも対応しなければならなく、そのために重心は低くした方が良いのです。

B選手は股関節や膝関節の筋力が弱いため、股関節と膝関節の曲げが少なく、高重心になっています。曲げを大きくすることで股関節、膝関節に関与する大きな筋肉が働きやすく、安定性が得られます。

しかし、下肢の関節を曲げず、高重心だとこれらの筋肉が働きづらくなり、足首に負担をかける動作になってしまいます。

これらの機能低下に対して、それぞれの関節周囲の筋力訓練や低重心を意識させたステップやジャンプなどの基本動作訓練を行いました。当初に比べると筋力は向上していますが、捻挫を再発しないためにリハビリを続けています。

各動作の分析

各動作の分析を行ったので紹介します。

ジャンプ動作

ジャンプ動作
ジャンプ動作
  • ジャンプした後に腰が反りすぎているため、腰のケガに繋がります。
  • 床から足が離れる際、床を蹴る力が弱いです。

ジャンプ後の着地

ジャンプ後の着地
ジャンプ後の着地
  • 股関節、膝関節の曲がりが浅く、さらに体幹が直立しているため、重心位置が高いです。着地時の衝撃吸収が不十分となり足部に負担をかけています。
  • 股関節周囲の筋力低下により、膝が内側にはいっており、膝の靭帯に負担をかけています。

クロスオーバードリブル(左から右への切り返し)

クロスオーバードリブル
クロスオーバードリブル
クロスオーバードリブル
クロスオーバードリブル
  1. 切り返す際に股関節、膝関節の曲がりが少なく、体幹も起き上がってしまっています。左膝が内側へ向いており膝のケガにもつながりかねないです。
  2. ここでは右への推進力を出すため、下肢を曲げて重心を落とす必要がありますが、B選手は曲げが少ないです。
  3. 体幹は前屈していますが、膝が伸びてしまい低い姿勢を保持できていません。股関節、膝関節で踏ん張れないため、足部に頼った動作になっており、再受傷のリスクがあります。
  4. 右手へドリブルチェンジしていますが、完全に下肢が伸びきってしまっています。これではディフェンスと接触した際にすぐにバランスを崩してしまいますし、相手を抜くためのスピードが得られません。

まとめ

今回のような非接触型の捻挫受傷例では下肢や体幹などの筋力低下が生じているケースがあります。捻挫経験者やそうでない方も予防のために足首のみならず、股関節や膝関節、体幹の筋力トレーニングを行い、下肢を曲げた低重心で安定した姿勢を作ることが大切です。

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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