当院に勤務する理学療法士の安藤と申します。当院がある岐阜県は新型コロナウィルスの新規感染者の増加が今のところ落ち着いております。みなさんの地域ではいかがでしょうか。この新型コロナウィルスの影響で学生スポーツの全国大会が中止になったという情報に触れます。特に最終学年の選手たちには残酷な現状をつきつけられて、かける言葉が思いつきません。
私自身は高校水球部のトレーナー活動をしており、選手が今まで練習してきたことを発揮する場が奪われる姿を目の当たりにしております。心が挫けそうになるかもしれませんが、いつか試合ができる日が来ると信じて練習を続けてもらいたいです。
さて、今回は膝の痛みがお尻の状態を改善して消えた水球選手のZ君についてです。Z君は高校の男子水球部に所属するゴールキーパーです。水球は水深2m以上のプールで行う球技です。水面に浮いているために「巻き足」(図1)という技術を使います。
ゴールキーパーはゴール前でずっと巻き足を続けて浮いている必要があります。ゴールキーパーにとって巻き足はとても大切な技術であり、他のポジションの選手以上に巻き足の練習に時間を多く費やします。
Z君はこの巻き足の練習を集中的にした後に左膝の外側が痛くなりました。湿布を貼って様子をみていたのですが、痛みが一向に治まらないので当院を受診されました。
医師から「腸脛靭帯摩擦症候群」と診断され、リハビリを開始することになりました。
腸脛靭帯摩擦症候群は、太ももの骨の外側(大腿骨外側上顆)と靭帯(腸脛靭帯)(図2)の摩擦が原因で靭帯が炎症を起こし運動時に痛みを生じます。
Z君は痛みが強く、十分に膝を曲げることができなくなっていました。
腸脛靭帯は大腿筋膜張筋という筋肉とつながっております。
この筋肉を伸ばして強すぎる靭帯の緊張を改善することが痛みを取る第一歩となります。
必要なストレッチ(図3:大腿筋膜張筋のストレッチ)を指導し、実施していただくことで、痛みは軽くなりました。
しかし、完全に痛みを取り除くことができなかったため、改めて巻き足動作に着目して考え直しました。巻き足動作が上手な選手は足の位置が高い(図4)ことが言われており、足の位置を高くするには、股関節をしっかり曲げ、膝を上げなければいけません。
Z君の股関節は硬く、動かせる範囲が狭くなっていました。また左側のお尻の筋肉を伸ばすと痛みが出ました。お尻には大殿筋という筋肉が覆っています。この大殿筋の一部は腸脛靭帯とつながっています。大殿筋が硬いことで、腸脛靭帯を緊張させて膝に痛みを起こしていることが考えられました。
そこで大殿筋の硬さを改善するストレッチ(図6)を指導し、実施してもらいました。その後は痛みが消失し、水球に打ち込むことができるようになりました。
スポーツごとに特徴的な技術があり、その技術は隣り合う関節が相互に影響しあっています。患部のみの治療で痛みが改善しないとき、その痛みの原因は他の部位にあるかもしれません。