陥入爪(かんにゅうそう, Ingrown toenails, Onychocryptosis)とは、爪の一部が周囲の皮膚に食い込んでいる状態です。
主に足の親指に発生しやすく、痛みや腫れなどの自覚症状が現れ、感染を引き起こす可能性があります。
遺伝的要因や不適切な爪の切り方、つま先の狭い靴の長時間使用などが主な原因です。
この記事では、陥入爪(かんにゅうそう)の進行度に応じた分類や症状、原因や治療方法などを詳しく解説します。
陥入爪の病型(ステージ)
陥入爪(かんにゅうそう)には進行度に応じた3つのステージが存在し、それぞれが異なる特徴を持っています。
分類 | 特徴 |
---|---|
ステージ1 | 爪の端が皮膚にわずかに食い込み、軽度の紅斑浮腫と圧迫による疼痛が生じます。 |
ステージ2 | 爪が深く皮膚に食い込み、著明な紅斑や浮腫、局所感染や排液がみられます。 |
ステージ3 | 爪が皮膚深くに埋まり込み、重度の炎症や感染症、肉芽組織の形成や肥大が認められます。 |
陥入爪の段階ごとの特徴
ステージ1の陥入爪は、主に爪の角が皮膚に食い込んで発生します。多くの人は歩行時のわずかな不快感や圧迫感によって爪の異常に気づきます。
ステージ2では爪の食い込みが深くなり、腫れや赤みを伴うのが特徴です。この段階で皮膚への圧迫感が強まり、ときには痛みを感じます。
ステージ3ではさらに爪が皮膚の下に深く埋まり込み、重度の炎症が起こります。また、爪周囲に肉が盛り上がり、肉芽が生じます。この状態は非常に不快であり、日常生活に影響を与えます。
似たような疾患である巻き爪※1と間違われやすいですが、爪の形で見分けられます。
※1 巻き爪:爪の端が内側に巻いた形をしている状態。巻き爪があると陥入爪を生じやすくなる。
陥入爪の症状
陥入爪(かんにゅうそう)は10歳未満での発症は稀で、10代からみられるようになり、加齢とともに発症率が増加します。
主な症状は痛みや腫れ、赤みや熱感です。
症状 | 説明 |
---|---|
痛み | 爪が皮膚に食い込んで痛みが発生。とくに圧迫時に痛みを感じる。 |
腫れ | 爪の周囲が赤く腫れ上がり、感染を伴う例もある。 |
赤み | 爪の周囲の皮膚が赤くなり、感染の兆候としても現れる。 |
熱感 | 感染があると爪の周囲が温かく感じられるケースがある。 |
膿 | 重度の感染によって膿が発生する。 |
肉芽組織 | 爪の周囲に赤く柔らかい組織が形成されて痛みを伴う。 |
痛みと腫れ
陥入爪の最も一般的な症状は、爪の周囲の痛みと腫れです。
爪が皮膚に食い込んで歩行時や靴を履いた際に圧迫感が増し、痛みが強くなるときもあります。
感染の兆候
感染が起こると爪の周囲がさらに赤くなり、腫れが増します。他にも、患部の周囲の熱感、黄色や緑色の膿が出る、悪臭の発生などが感染の兆候です。
感染が広がると、膝の裏にある膝窩リンパ節が腫れるケースもあります。
肉芽組織の形成
陥入爪を長期間放っておくと、爪の周囲に肉芽組織が形成される場合があります。
赤く柔らかい組織が爪の周りに生じている状態で、痛みを訴える人が多いです。
陥入爪の原因
爪が皮膚に食い込む陥入爪(かんにゅうそう)の根本的な原因は、異物反応です。
爪の切り方や遺伝、靴や靴下による圧迫や菌類への感染などによって引き起こされる可能性があります。
原因 | 説明 |
---|---|
不適切な爪の切り方 | 爪を短く切り過ぎる、角を深く切り込むなどの行為によって、成長方向が変わり食い込む。 |
遺伝的要因 | 爪の形状や厚みが遺伝によって決まり、陥入爪を引き起こす。 |
靴や靴下の圧迫 | 狭く圧迫感のある靴や靴下を履くと、爪に過度の圧力がかかり陥入爪を引き起こす。 |
足の形状や姿勢の問題 | 扁平足や足の指の異常な曲がり、歩行や立ち姿によっても陥入爪を引き起こす。 |
菌類感染 | 爪に菌類が感染して形状が変わり、陥入爪を引き起こす。 |
不適切な爪の切り方
陥入爪の最も一般的な原因は、不適切な爪の切り方です。
爪を短く切り過ぎたり爪の角を深く切り込んだりしてしまうと、爪の遠位が拘束されなくなり、爪の成長方向が変わって皮膚に食い込む原因となります。
遺伝的要因
爪の形状や厚みが遺伝によって決まる場合がありますので、遺伝的な要因も陥入爪の原因の一つと考えられます。
例えば、狭い爪や広い爪、爪の不整列、爪甲の肥厚などが危険因子である可能性が指摘されています。
靴や靴下の圧迫
狭くて圧迫感のある靴や靴下を長時間履き続けると、足の指や爪に過度の圧力がかかって、爪が切断面となります。
その結果、爪が周囲組織に食い込んで陥入爪を引き起こします。
足の形状や姿勢の問題
足の形状や姿勢の問題も陥入爪の原因の一つです。
扁平足※2や外反母趾※3などの足の形状に関連する問題、歩行や立ち姿勢の問題でも、陥入爪を引き起こすリスクが懸念されます。
爪の菌類感染
爪に菌類が感染すると爪の形状が変わり、陥入爪を引き起こすケースがあります。
菌類による感染は、爪を脆くして正常な成長を妨げるため、陥入爪のリスクを高める原因です。
重い物の落下や足の指の怪我
強い衝撃によって爪が異常な方向に成長する可能性があります。
そのため、重い物が足の指に落下したり、スポーツ中に怪我をしたりといった足の指への直接的な衝撃も、陥入爪になる一因です。
陥入爪の検査・チェック方法
陥入爪(かんにゅうそう)の検査は、視診や触診が基本です。また、医療機関に行く前に自宅で行えるチェック方法もあります。
自己チェックの方法
- 爪の両側が肉に食い込んでいないか、とくに爪の角が肌に埋まっていないかを見る。
- 爪の周りの皮膚が赤くなっていないか、腫れていないか、痛みを感じるかどうかを確認する。
- 爪の成長方向が異常ではないか、とくに爪が肉に向かって成長しているかどうかを観察する。
- 歩行や靴を履く際、痛みが増すかどうかを観察する。
自己チェックで患部を触る際は、清潔な手で行い、痛みを確認するためであっても強く押しすぎないように注意しましょう。
陥入爪の自己診断は簡単です。自宅であれば気軽に行えますので、定期的に実施すると陥入爪の初期症状を見逃さずに済みます。
専門医による検査方法
- 視診:医師が爪とその周囲の皮膚の状態を詳しく観察します。赤み、腫れ、痛みの有無など、陥入爪の典型的な兆候のチェックです。
- 触診:患部をやさしく触って、痛みの度合いや腫れの範囲を確認します。
- 爪の形状と成長の評価:爪がどのように成長しているか、また、爪の形状が陥入爪を引き起こしていないかを評価します。
通常、画像診断や特別な検査は必要ありません。ただし、爪下結節(しこり)を認めたときは、爪下外骨腫症※4を除外するためにX線検査が必要になるケースがあります。
※5 爪下外骨腫症:爪の下にある骨の表面が突出する良性腫瘍。比較的稀な疾患で、爪の変形により気づく人がほとんど。基本的には手術が適応となる。
陥入爪の治療方法と治療薬、リハビリテーション
陥入爪(かんにゅうそう)の治療方法は、内科的治療から外科的治療まで多岐にわたります。
一般に、軽度から中等度の病変では保存的治療が推奨されますが、障害を引き起こす重度の病変の場合は外科的治療が必要となるケースが多いです。
治療方法 | 説明 |
---|---|
一般的な対策 | 足の形に合った靴選び、正しい爪切り |
外科的治療 | 部分的な爪の切除、爪床の一部除去 |
薬物療法 | NSAIDs(イブプロフェン、ロキソニン)、抗生物質(フシジン酸軟膏、クリンダマイシン、アモキシシリン) |
リハビリテーション | 足の指の運動、正しい爪の切り方の指導、足の保護 |
一般的な対策
陥入爪の一般的な対策は、足の形に合った靴選びと正しい爪切りです。
足の形に合う靴とは、足趾が圧迫されることなくフィットし、歩行時に足趾が正常に広がるような大きさのトゥボックス(靴の踏み返し位置からつま先部分にあたる、足趾を収める部分)があるものです。
また、爪の側縁を短く切るのは厳禁です。爪甲の側縁を曲線的に切り落とすのを避けてまっすぐ横に切るようにしましょう。
さらに、根本的な要因(多汗症、爪甲真菌症)の管理も必要です。
患部の足指を温かい石鹸水またはエプソム塩水に数分間浸し、その後、抗生物質軟膏を外用すると緩和される場合があります。肥厚性肉芽組織には、ステロイド外用剤を塗布すると炎症が軽減します。
外科的治療
重度の陥入爪や、一般的な対策としての保存的治療に反応しない例には、外科的治療が検討されます。
部分的な爪の切除や爪床の一部を除去する手術が含まれ、フェノールのような薬剤を用いた化学的な処置も一般的です。
手術は局所麻酔下で行われ、痛みを最小限に抑えながら、爪の成長を正常な状態に戻すのが目的です。
薬物療法
陥入爪の強い痛みや炎症を和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方されます。
具体的には、イブプロフェンやロキソニンロキソニンなどが使用され、局所的に適用する抗生物質軟膏も感染がある場合に有効です。
重度の感染には、内服する抗生物質(例:クリンダマイシン、アモキシシリン)や点滴での抗生物質投与が必要になる例もあります。
リハビリテーション
手術後の回復過程では、足の指を正常に機能させるためのリハビリテーションが重要です。
- 足の指の運動:手術後の炎症や腫れを抑えて血流を改善するために、足の指の軽い運動が推奨されます。
- 正しい爪の切り方の指導:爪を適切な長さで真っ直ぐに切り、再発を防ぐための指導が行われます。
- 足の保護:足の形やサイズに合った靴を選んで圧力から足を保護し、陥入爪のリスクを減らします。
陥入爪の治療期間と予後
陥入爪(かんにゅうそう)の治療期間は2週間から3カ月が一つの目安で、予後は基本的に良好です。
ただし、再発リスクがある点については注意が必要です。
状態 | 治療期間 | 予後 |
---|---|---|
軽度 | 2〜4週間 | 良好、正しいケアで再発予防可能 |
中度〜重度 | 2〜3カ月 | 手術が必要な場合もあり、良好だが再発のリスクあり |
治療期間について
陥入爪の治療期間は症状の重さや治療方法により大きく異なりますが、軽度の場合は数週間程度で改善が見られる人が多いです。
一方、重度や手術が必要な状況では、完全な回復に数ヶ月を要するケースもあります。
- 軽度: 自宅でのケアや医師の処置により、2〜4週間で改善するのが一般的です。
- 中度から重度: 手術をした際は手術後の回復期間を含めて2〜3カ月程度を見込む必要があります。
予後について
陥入爪の治療後は、ほとんどの人で良好な予後が期待できます。
ただし、再発を防ぐためには爪の正しい切り方を学び、ケアの継続が重要です。
- 再発:間違ったケアを続けると、陥入爪が再発する可能性があります。再発率は10~30%です。
- 長期的な管理:予防策として、爪を適切な長さに保って過度の圧力がかからないような工夫が推奨されます。
予防と正しいケア
- 爪はまっすぐに切り、角を丸くしすぎないようにします。
- 足のサイズに合った通気性の良い靴を選び、足にかかる圧力を分散させます。
- 定期的に足の検査を行い、初期段階での対応を心がけます。
陥入爪の薬と治療法の副作用及びデメリット
陥入爪(かんにゅうそう)の治療法には、副作用やデメリットがあります。
治療方法 | 副作用 | デメリット |
---|---|---|
抗生物質 | アレルギー反応、腸内フローラの乱れ | 長期使用による耐性菌の発生 |
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | 胃腸の不調、腎機能障害 | 継続的な使用による副作用の増大 |
外科的治療 | 痛み、感染リスク | 回復期間が必要、再発の可能性 |
薬物治療の副作用とデメリット
- 抗生物質:感染のリスクを減少させるために処方されますが、腸内フローラの乱れ、下痢、アレルギー反応などの副作用が報告されています。
- 抗炎症薬:痛みや腫れを和らげるために使用されますが、胃腸の不調や腎機能障害を引き起こす可能性があります。
抗生物質や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)抗炎症薬は、とくに長期間の使用で副作用が出やすい傾向があります。
基礎疾患がある人は事前に医師に申告し、万が一副作用が認められたときは直ちに使用を中止し、受診するようにしてください。
外科的治療の副作用とデメリット
- 痛み:手術後、一時的に痛みが増す場合があります。
- 感染リスク:手術部位が感染するリスクがあります。
- 再発:根本的な原因が解決されない限り、陥入爪の再発リスクがあります。
- 回復期間:手術後には一定期間の回復が必要であり、日常生活への影響が考えられます。
陥入爪の手術には即効性がありますが、術後の痛みや感染リスクなどのデメリットが存在します。
回復期間を短くして再発させないためにも、術後は医師の指示に従って定期的に受診しましょう。
陥入爪の保険適用の有無と治療費の目安について
陥入爪(かんにゅうそう)の治療は、健康保険が適用されます。
保険適用の治療内容には、食い込んだ爪を取り除く処置、内服薬や外用薬の処方、診察時のセルフケアの指導などが含まれます。
1カ月あたりの治療費の目安
3割負担の人で、手術費用は診察・検査や処方薬など含めて片足1万円以内、治療薬は数千円程度が目安です。
治療方法 | 保険適用 | 1カ月当たりの治療費の具体的な金額 |
---|---|---|
手術 | 適用 | 片足1万円以内(自己負担3割) |
治療薬 | 適用 | 数千円程度(自己負担3割) |
詳しい治療内容や金額については、各医療機関にお問い合わせください。
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