膝裏の痛みが坐骨神経痛ではない見分け方|腰由来か膝関節由来かの判別点

「膝の裏が突っ張るように痛いけれど、湿布を貼っても一向に良くならない」。そんな悩みを抱えていませんか。実は、膝裏の痛みは整形外科医にとっても診断が難しいエリアの一つです。
なぜなら、膝関節そのもののトラブルだけでなく、腰からの神経痛、さらには血管の病気までもが複雑に症状を引き起こす場所だからです。
原因を間違えたまま膝のマッサージを続けても、痛みが引かないどころか、腰の神経圧迫を悪化させてしまうリスクさえあります。
この記事では、長引く膝裏の痛みの正体を突き止めるために必要な知識を網羅しました。ご自身の症状と照らし合わせながら読み進めることで、今やるべき対策が明確に見えてくるはずです。
膝裏が痛むのは動いた瞬間か?それとも安静時か?痛みの出るタイミングで見分ける
痛みの原因を特定するための最大の手がかりは、「いつ、どんな動きをしたときに痛むか」というタイミングに隠されています。
膝関節の構造的な問題と、神経由来の問題とでは、痛みの発生パターンが明確に異なります。
椅子から立ち上がる瞬間の痛みは膝関節のSOSサイン
朝起きて布団から出るときや、長時間座っていた椅子から立ち上がろうとしたその瞬間に、膝裏に「ズキッ」と鋭い痛みが走りませんか?
このような「動作開始時痛(スターティングペイン)」は、変形性膝関節症や半月板損傷など、膝関節の内部に物理的な問題がある場合の典型的な特徴です。
関節内の軟骨がすり減って滑らかさを失っていると、動き出しの際に摩擦係数が高くなり、骨や滑膜に強い負荷がかかります。
動き始めてしばらくすると痛みが和らぐのも特徴の一つです。関節液が循環し始めると潤滑が良くなるためで、これも膝由来であることを示唆しています。
夜寝ている時やじっとしている時の痛みは神経痛を疑う
逆に、激しい運動をしたわけでもないのに、夜布団に入ってリラックスしている時に膝裏がジンジンと痛む方もいるのではないでしょうか。
動作に関係なく、安静にしていても持続する痛み(安静時痛)や夜間痛は、坐骨神経痛などの腰由来の神経トラブルである可能性が非常に高いです。
物理的な負荷がかかっていない状態で痛むということは、関節の磨耗ではなく、神経そのものがどこかで興奮・圧迫されているサインだからです。
また、お風呂に入って体が温まると一時的に楽になるものの、冷えるとすぐに痛みがぶり返すというパターンも、血流低下による神経痛の悪化を示しています。
姿勢を変えるだけで痛みが変化するかを確認する
膝を動かさずに、腰の角度を変えるだけで膝裏の痛みが変わるかどうかを試してみてください。
例えば、立ったまま前かがみ(お辞儀)をしたときに膝裏や太もも裏に痛みが走るなら、椎間板ヘルニアによる神経圧迫が疑われます。
逆に、腰を後ろに反らしたときに足にしびれが走るなら、脊柱管狭窄症の可能性が高まります。
膝由来の痛みであれば、腰をどう動かそうと膝裏の痛みに直接的な変化はありません。膝を深く曲げたり、体重をかけたりした時に初めて痛みが出るはずです。
「腰を動かして足に響く」なら腰、「膝を使って膝に響く」なら膝。この原則を覚えておくだけで、原因の絞り込みがグッと楽になります。
症状別の痛み方の違い
| チェック項目 | 膝関節由来の可能性大 | 腰(神経)由来の可能性大 |
|---|---|---|
| 痛むタイミング | 立ち上がり、階段、歩き始め | 安静時、就寝時、長時間座っている時 |
| 痛みの質 | ズキッとする鋭い痛み、激痛 | ジンジン、ビリビリする痛み、しびれ |
| 痛みの範囲 | 膝裏のピンポイント、関節の隙間 | お尻から太もも裏、膝裏、ふくらはぎへ続く |
なぜ腰が悪いのに関節ではなく膝裏が痛むのか?坐骨神経痛のメカニズム
「腰が悪い」と言われても、実際に痛いのは膝裏であるため、納得がいかない方も多いでしょう。しかし、人間の体の配線図を理解すれば、この現象は決して不思議なことではありません。
ここでは、腰のトラブルが遠く離れた膝裏に「飛び火」するメカニズムについて、詳しく掘り下げていきます。
人体最長の神経「坐骨神経」が膝裏を通過している
坐骨神経は、腰椎から出てお尻を通り、太ももの裏側を駆け下りて足先まで伸びる、人体で最も太く長い神経です。
この神経の走行ルートにおいて、膝裏(膝窩:しつか)は重要な中継地点にあたります。ここで神経は総腓骨神経と脛骨神経に枝分かれしていきます。
川の上流(腰やお尻)で土砂崩れ(圧迫や炎症)が起きれば、その影響は下流(膝裏や足先)に及びます。これを医学用語で「放散痛」や「関連痛」と呼びます。
脳は、痛みの信号が神経のどの部分から発せられたかを厳密に区別するのが苦手です。そのため、腰での圧迫を「神経が通っている膝裏が痛い」と誤認してしまうのです。
腰椎椎間板ヘルニアが引き起こす膝裏の激痛
比較的若い世代から働き盛りの世代に多く見られるのが、腰椎椎間板ヘルニアによる膝裏の痛みです。
背骨のクッションである椎間板の中身が飛び出し、神経の根元を直接刺激することで、電気が走るような激しい痛みを引き起こします。
特に第4腰椎と第5腰椎の間、あるいは第5腰椎と仙骨の間のヘルニアは、まさに坐骨神経の領域を直撃します。
重い荷物を持ち上げた瞬間や、くしゃみをした拍子に、腰だけでなく膝裏からすねの外側にかけて「ビリッ」と激痛が走るのが典型的なパターンです。
この痛みは筋肉痛とは異なり、皮膚の表面がピリピリしたり、感覚が鈍くなったりする神経症状を伴うのが特徴です。
脊柱管狭窄症による間欠性跛行(かんけつせいはこう)
中高年以降の方で「長く歩くと膝裏やふくらはぎが痛くなって歩けなくなる」という症状がある場合、最も疑われるのが脊柱管狭窄症です。
加齢により背骨の中の神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、歩行によって神経の血流が不足することで痛みが発生します。
特徴的なのは、前かがみになって少し休むと、神経の通り道が広がって血流が回復し、また歩けるようになる点です。
「膝が悪くて歩けない」と思い込んでいる方の多くが、実はこの狭窄症による神経性の痛みが原因であるケースが後を絶ちません。
自転車に乗っているときは姿勢が前傾になるため、いくら漕いでも痛くならないというのも、狭窄症を見分ける大きなポイントです。
- 範囲の広がり:膝裏だけでなく、ふくらはぎの外側や足の甲、親指などにしびれを感じる。
- 排尿・排便の異常:重度になると、尿が出にくい、頻尿になるなどの排泄障害を伴う場合がある(至急受診が必要)。
- 筋力の低下:つま先立ちができない、スリッパが脱げやすいなど、足の力が入らなくなる。
膝関節そのもののトラブルで膝裏が痛くなる具体的要因
神経痛の可能性が低いとなれば、やはり膝関節そのものに構造的な破綻が起きていると考えられます。
膝裏の痛みは、膝の前側の痛みに比べて原因が複雑で、外見からは分かりにくい内部のトラブルが隠れています。
ベーカー嚢腫(のうしゅ)による圧迫と違和感
膝裏にピンポン玉や卵のような大きさの柔らかいコブができていませんか?それは「ベーカー嚢腫」と呼ばれる液体の溜まりです。
膝関節の中で炎症が起きると、関節液(潤滑油)が過剰に分泌されます。行き場を失った関節液が膝裏の袋状の組織(滑液包)に流れ込み、風船のように膨らんでしまうのです。
このコブが大きくなると、膝を深く曲げたとき(正座など)に圧迫されて痛みが生じたり、膝を伸ばしたときに突っ張ったりします。
注射で水を抜くと一時的に楽になりますが、大元の炎症(変形性膝関節症など)を治さない限り、すぐにまた水が溜まって再発を繰り返す厄介な症状です。
変形性膝関節症による骨棘(こつきょく)と筋肉の拘縮
変形性膝関節症が進行すると、すり減った軟骨の代償として骨の縁に「骨棘」というトゲが形成されます。
このトゲが膝裏の複雑な靭帯や関節包を物理的に刺激すると、しつこい痛みが発生します。
また、O脚変形が進むと、膝の内側の筋肉は常に縮こまり、逆に外側の筋肉や膝裏の筋肉は引き伸ばされて過緊張状態になります。
この筋肉のアンバランスが慢性化すると、筋肉が硬くこわばる「拘縮(こうしゅく)」が起き、膝が完全に伸びなくなってしまいます。
「膝が伸びきらない」という状態自体が、立つたびに膝裏の筋肉に過度な負担をかけ続け、痛みの悪循環を生み出す最大の要因となります。
半月板の後節損傷とロッキング現象
膝のクッションである半月板は、加齢とともに水分が失われ、ささくれ立つように脆くなっていきます。
特に半月板の後ろ側(後節)が損傷すると、膝を深く曲げた時に断裂部分に負荷がかかり、膝裏の奥深くに鋭い痛みが生じます。
断裂した半月板の欠片が関節の隙間に挟まり込むと、膝が急に動かなくなる「ロッキング現象」を起こす場合があります。
こうなると激痛で歩行困難になりますが、軽微な損傷の場合は「膝裏になにか挟まっているような違和感」「カクっとなる音」として感じられるケースもあります。
膝由来の痛みのメカニズム
| 原因となる病態 | 主な症状と感覚 | 特徴的なサイン |
|---|---|---|
| ベーカー嚢腫 | 膝裏の腫れ、圧迫感、曲げにくさ | 膝裏にコブのような膨らみがある |
| 筋肉・腱の炎症 | 膝裏の上下の筋張った痛み | ストレッチで痛みが誘発される |
| 半月板損傷(後節) | 膝の奥深くの痛み、引っかかり感 | 深く曲げると痛みが強くなる |
自宅ですぐできるセルフチェック!痛みの正体を絞り込むテスト法
病院へ行く前に、自分の痛みが腰からきているのか、膝からきているのかをある程度予測できれば、医師への説明もスムーズになります。
ここでは特別な道具を使わずに、自宅で簡単にできる鑑別テストを紹介します。ただし、痛みが強すぎる場合は無理に行わないでください。
SLRテスト(下肢伸展挙上)で坐骨神経の圧迫を確認
SLRテストは、坐骨神経痛の有無を調べる最もポピュラーな検査法です。仰向けに寝て、膝を伸ばしたまま片足ずつゆっくりと持ち上げていきます。
もし、足を上げている途中で(床から30度〜70度の間)、お尻から太ももの裏、膝裏にかけて電気が走るような痛みやしびれが出て、それ以上上げられない場合は「陽性」です。
これは、足を上げる動作によって坐骨神経がピンと引き伸ばされ、腰の部分での神経圧迫が強調されるために起こります。
単に「太ももの裏が硬くて突っ張る」という筋肉の痛みとは区別してください。神経痛の場合は、お尻の奥から突き抜けるような鋭い痛みを伴います。
FNSテストで太もも前面の神経痛もチェック
坐骨神経痛だけでなく、腰の上部(第2・第3腰椎)の問題で起こる大腿神経痛も膝周りの痛みの原因になります。
うつ伏せに寝て膝を90度に曲げ、誰かに太ももを上へと持ち上げてもらうか、自分でかかとをお尻に近づけてみてください。
このとき、太ももの前側や膝の前面、すねの内側に強い痛みが走るようなら、上位腰椎椎間板ヘルニアなどの可能性があります。
膝が悪いと思っていたら、実は腰の上の方が悪かったというケースは見逃されやすいため、このテストも併せて行うことが重要です。
パトリックテストと圧痛点の確認
股関節や膝関節自体の問題をあぶり出すテストです。仰向けになり、片方の足首をもう片方の膝の上に乗せ、足で「4の字」を作ります。
その状態で曲げた方の膝を床に向かってゆっくり押していきます。股関節の付け根や膝に痛みが出て、膝が床につかない場合は、関節自体の炎症や可動域制限が疑われます。
また、単純に膝裏を指で押してみて、痛む場所(圧痛点)が明確にあるかどうかも確認しましょう。
ベーカー嚢腫ならブヨブヨした感触がありますし、腱炎ならスジ張った部分を押すと痛みます。逆に、どこを押してもはっきりした痛点がないのに全体が痛い場合は、神経痛の可能性が高まります。
- SLRテスト陽性:お尻〜膝裏に電撃痛が走り足が上がらない(坐骨神経痛の疑い)。
- ケンプテスト:立った状態で腰を斜め後ろに反らし、足にしびれが出れば脊柱管狭窄症の疑い。
- ブラガードテスト:SLRで痛みが出た位置から足首を反らすと、さらに痛みが強まる(神経伸張の証拠)。
原因別に見る適切な治療アプローチと手術の判断基準
痛みの震源地が特定できれば、治療の方針はおのずと決まります。腰が原因なら腰を、膝が原因なら膝を治療しなければ、症状は一向に改善しません。
ここでは、それぞれの原因に合わせた医学的に推奨される治療法と、手術を検討すべきタイミングについて解説します。
腰由来(坐骨神経痛)に対する保存療法
腰が原因の場合、膝に湿布を貼っても効果は限定的です。最優先すべきは、圧迫されている神経の炎症を鎮めることです。
急性期には、消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)や神経障害性疼痛治療薬(リリカなど)の内服、神経ブロック注射などが選択されます。
痛みが落ち着いてきたら、運動療法にシフトします。腹筋や背筋のインナーマッスルを鍛えて「天然のコルセット」を作り、腰椎を安定させることが再発防止の鍵です。
また、硬くなったお尻の筋肉(梨状筋)をストレッチで緩め、神経の絞めつけを解放してあげることも、足への痛みを軽減するのに即効性があります。
膝関節由来(変形性膝関節症)に対する多角的治療
膝そのものが原因であれば、関節軟骨の保護と炎症の抑制が治療の柱となります。
ヒアルロン酸注射で関節の動きを滑らかにしたり、自身の血液から修復成分を抽出して注入するPRP療法(再生医療)なども選択肢として普及してきました。
物理的には、足底板(インソール)を使ってO脚を補正し、膝の内側にかかる荷重を分散させる装具療法も有効です。
運動療法としては、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)の強化が王道です。筋肉が強くなれば、それが衝撃吸収材となり、軟骨への負担を劇的に減らせます。
手術に踏み切るべきタイミングとは
保存療法を3ヶ月以上続けても改善が見られず、日常生活や仕事に深刻な支障が出ている場合は、手術も視野に入れるべき段階です。
腰由来であれば、内視鏡でヘルニアを摘出したり、骨を削って神経の通り道を広げたりする手術が行われます。
膝由来の場合、変形が軽度なら関節鏡視下手術で半月板を整えますが、軟骨が消失して骨同士がぶつかっている末期状態なら、人工膝関節置換術が検討されます。
「痛くて動けない」期間が長引くと、全身の筋肉が衰え、心肺機能まで低下してしまいます(ロコモティブシンドローム)。
活動的な生活を取り戻すために、タイミングを逃さずに専門医と相談することが大切です。
日常生活のちょっとした工夫で痛みを遠ざける予防策
医師による治療と同じくらい重要なのが、患者さん自身の生活習慣の見直しです。日々の何気ない動作が、知らず知らずのうちに痛みを増幅させている場合があります。
今日からすぐに取り入れられる、膝と腰を守るための生活の知恵を確認していきましょう。
座り方の改善で腰椎への負担を最小化する
腰由来の痛みを防ぐには、座り方の見直しが不可欠です。柔らかすぎるソファは、骨盤が後ろに倒れて腰が丸まり、椎間板への圧力が最大化するため避けてください。
適度な硬さのある椅子に深く腰掛け、骨盤を立てて座る習慣をつけましょう。背もたれと腰の間にクッションを挟むのも有効です。
デスクワークの際は、1時間に一度は立ち上がって腰を反らしたり、軽く歩いたりして、神経への血流を回復させてください。
また、寝具選びも重要です。高反発マットレスなど、寝返りが打ちやすい寝具を選ぶと、睡眠中の筋肉の固まりを防げます。
膝裏の柔軟性を取り戻すストレッチ習慣
変形性膝関節症の方は、膝が完全に伸びない「屈曲拘縮」に陥っていることが多々あります。
膝が伸びないと、常に中腰のような状態で歩くことになり、太ももや膝裏の筋肉に過度な負担がかかり続けます。
床に足を投げ出して座り、膝の上を手で優しく押して床に近づけるストレッチを毎日行いましょう。
バスタオルを足の裏に引っ掛けて手前に引くタオルストレッチも、ふくらはぎと膝裏を同時に伸ばせるためおすすめです。
ただし、神経痛がある場合に無理に伸ばすと逆効果になる場合があるため、「痛気持ちいい」範囲で止めるのが鉄則です。
冷えを撃退して血流を確保する
「冷え」は痛みの最強の増幅因子です。血管が収縮すると、発痛物質が患部に滞留し、筋肉も硬直してますます痛くなるという悪循環に陥ります。
特に膝裏は皮膚の近くを太い血管が通っているため、外気の影響をダイレクトに受けます。夏場でもサポーターやひざ掛けを使い、冷房の風から守ってください。
入浴は最高の治療タイムです。38度〜40度のぬるめのお湯に15分以上浸かると、全身の血行が促進され、副交感神経が優位になり筋肉が緩みます。
お風呂上がりの体が温まっているタイミングでのストレッチは、筋肉の伸びが良く、効果が倍増します。
日常生活のOK/NGリスト
| 場面 | 推奨される行動(OK) | 避けるべき行動(NG) |
|---|---|---|
| 座り方 | 骨盤を立てて座る、足裏を床につける | 脚を組む、横座り、あぐら、ずっこけ座り |
| 履物 | クッション性のあるスニーカー、紐靴 | ヒールが高い靴、底が薄いサンダル、サイズが合わない靴 |
| 荷物 | リュックサックで両肩に分散させる | 重いショルダーバッグを片方の肩ばかりにかける |
危険なサインを見逃さない!今すぐ受診すべき緊急症状
膝裏の痛みの大半は、適切なケアで改善に向かいますが、中には放置してはいけない危険な病気が隠れている場合があります。
「ただの膝痛だろう」と高を括っていると、取り返しのつかない事態になりかねません。以下のようなサインがあれば、迷わず専門医を受診してください。
足の感覚麻痺や排泄障害は緊急事態
痛みやしびれを通り越して、足を触られている感覚がない、スリッパが脱げても気づかない、足に力が入らずカクンと折れる。これらは神経が壊死しかけている深刻なサインです。
さらに、おしっこが出ない、漏らしてしまう、便秘がひどいといった「膀胱直腸障害」が現れた場合、巨大ヘルニアによる神経の束(馬尾神経)の圧迫が疑われます。
この状態を放置すると、手術をしても排泄機能が戻らない可能性があるため、救急レベルでの対応が必要です。
エコノミークラス症候群と血管のトラブル
整形外科的な問題以外で怖いのが、血管の病気です。特に「深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)」には注意が必要です。
ふくらはぎや膝裏の静脈に血の塊ができ、それが肺に飛ぶと命に関わります。
片足だけが急に赤黒く腫れ上がったり、ふくらはぎを軽く握っただけで激痛が走ったりする場合は、絶対にマッサージをしてはいけません(血栓を飛ばしてしまうため)。
また、膝裏の動脈がコブのように膨らむ「膝窩動脈瘤」も、破裂や閉塞のリスクがあるため、脈打つようなコブがある場合は血管外科への受診が必要です。
よくある質問
- 変形性膝関節症による膝裏の痛みに湿布は効きますか?
-
炎症が起きて熱を持っている急性期であれば、消炎鎮痛成分入りの湿布は一時的な痛みの緩和に役立ちます。
しかし、変形性膝関節症の根本原因は関節の構造変化や筋肉の緊張にあるため、湿布だけで治癒することはありません。
特に慢性的な痛みで血流が悪くなっている場合、冷湿布で冷やしすぎると逆効果になるケースもあります。あくまで補助的な手段と割り切り、運動療法などをメインに行うことが大切です。
- 変形性膝関節症の人が避けるべき運動はありますか?
-
膝に強い衝撃がかかる運動や、深くねじる動作は避けるべきです。
具体的には、ジャンプを伴うバレーボールやバスケットボール、急な方向転換が必要なテニスやサッカー、重いバーベルを持ってのスクワットなどは関節軟骨の摩耗を早めるリスクがあります。
また、平泳ぎのキックも膝の内側に強い負担がかかるため推奨されません。ウォーキングや水中歩行、固定式自転車など、膝への負担が少なく持続できる運動を選びましょう。
- 坐骨神経痛と変形性膝関節症は同時に起こりますか?
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はい、非常に高い頻度で併発します。これを専門的には「膝腰(ようしつ)症候群」と呼ぶこともあります。
加齢により腰椎と膝関節の両方が同時に老化していくことが多いうえ、互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。
膝が痛いとかばって歩くために骨盤が歪み腰痛を引き起こしたり、逆に腰が悪くて姿勢が崩れると膝への負担が増えたりします。どちらか一方だけでなく、両方を同時にケアしていく視点が必要です。
- 変形性膝関節症の痛みは温めるべき?冷やすべき?
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基本的には、急に痛くなったときや、触って熱を持っているとき、腫れているときは「冷やす」のが正解です。
一方で、何ヶ月も続いている慢性的な痛みや、朝のこわばり、重だるい痛みに関しては「温める」ほうが効果的です。
温めると血流が良くなり、筋肉の緊張もほぐれるため、痛みが和らぎます。お風呂上がりなどに痛みが楽になるなら、温めるのが合っている証拠ですので、積極的に温めてください。
- 手術を避けるために今すぐできる最善の対策は?
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最も確実で効果が高いのは「適正体重への減量」と「大腿四頭筋の強化」の2点です。
体重が1kg減ると、歩行時の膝への負担は3kg〜5kgも減ると言われています。これはどんな高価な薬よりも効果的な「治療」です。
食事の見直しとともに、無理のない範囲での筋力トレーニングを継続すると、変形の進行を食い止め、手術を回避できる可能性は十分にあります。諦めずにコツコツ続けることが最大の近道です。
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