膝裏にできるコブ「ベーカー嚢腫」の症状|圧迫感と破裂した時のリスク

膝裏にできるコブ「ベーカー嚢腫」の症状|圧迫感と破裂した時のリスク

膝の裏側にピンポン玉のような張りを感じたり、曲げ伸ばしの際に窮屈な圧迫感を覚えたりすることはありませんか。それは「ベーカー嚢腫」と呼ばれる、関節液が溜まってできる袋状のコブかもしれません。

多くは良性で痛みも少ないものですが、放置して大きくなると神経を圧迫してしびれが出たり、突然破裂してふくらはぎに激痛をもたらしたりするリスクがあります。

この記事では、なぜ膝裏にコブができるのか、どのような危険信号に注意すべきか、そして適切な対処法について詳しく解説します。

目次

膝裏に水が溜まってコブができてしまう根本的な原因

膝関節の中で起きている炎症が原因で関節液(滑液)が過剰に分泌され、その逃げ場として膝裏にある「滑液包」という袋に流れ込むことでコブが形成されます。

単なる体質の問題ではなく、膝の内部で何らかのトラブルが起きているサインと捉えることが大切です。

関節液が過剰に分泌される仕組み

私たちの膝関節は、本来滑らかに動くように少量の関節液で満たされています。

この液体は潤滑油の働きをしていますが、関節内で炎症が起きると、身体は「火事を消そうとして大量の水を撒く」ような反応を示します。

これが俗に言う「膝に水が溜まる」という状態です。関節内が水で溢れかえると内圧が高まり、膝裏にある関節包の弱い部分が風船のように膨らんでしまいます。これがベーカー嚢腫の正体です。

中高年に多く発症する背景

若い世代でもスポーツによる怪我がきっかけで発症することはありますが、圧倒的に多いのは中高年の方々です。長年使い続けてきた軟骨がすり減り、変形性膝関節症が進行すると慢性的な炎症が続くためです。

関節のクッション機能が低下すると、骨同士が擦れ合ったり、剥がれた軟骨の破片が刺激になったりして、常に関節液が過剰生産される環境が出来上がってしまいます。

他のしこりや腫瘍との見分け方

膝裏のしこりがすべてベーカー嚢腫とは限りません。中には脂肪腫やガングリオン、稀ですが悪性の腫瘍である可能性もゼロではありません。ベーカー嚢腫の大きな特徴は、柔らかく弾力があることです。

そして、膝を曲げると小さくなり、伸ばすと硬く大きくなるという変化が見られる点も特徴です。

しかし、自己判断は危険ですので、硬くて動かないしこりや、急激に大きくなる場合は速やかに専門医の診察を受ける必要があります。

膝裏にできるしこりの種類と特徴

しこりの種類触った感触と特徴痛みの傾向
ベーカー嚢腫ゴムまりのような弾力がある
膝を伸ばすと硬く目立つ
軽度の圧迫感や張り
大きくなると痛みが出る
ガングリオンやや硬めのゼリー状
表面が滑らか
無症状のことが多い
神経に触れると痛む
脂肪腫柔らかい脂肪の塊
皮膚の下ですぐ動く
ほとんど痛みはない

膝を曲げにくくなる圧迫感や張りが強まる具体的な瞬間

ベーカー嚢腫が大きくなってくると、日常生活の何気ない動作の中で強い違和感を覚えるようになります。

特に、膝を深く曲げる動作や、逆に完全に伸ばし切ろうとする動作において、膝裏に何かが挟まっているような不快な圧迫感が生じることが特徴です。

正座や和式トイレが困難になる時

嚢腫が一定以上の大きさになると、物理的に膝の空間を占拠してしまいます。

そのため、正座のように膝を深く折りたたむ姿勢をとると、溜まった袋が押し潰されて内圧が急上昇し、強い張りや痛みを感じます。

  • 正座をしようとお尻をかかとに近づけた時
  • 椅子から立ち上がって膝を真っ直ぐに伸ばした瞬間
  • 長時間立ち仕事をした後の夕方や夜
  • 階段を降りる際、後ろ足で体重を支えた時

和式トイレの使用や、しゃがんで草むしりをするような姿勢が辛くなり、日常生活に制限が出始めます。無理に曲げ続けると袋が破れてしまう恐れもあるため、痛みを我慢して曲げるのは避けるべきです。

朝起きた時や動き始めに感じるこわばり

多くの患者さんが「朝、起きた直後が一番膝が突っ張る」と訴えます。夜間寝ている間は膝を動かさないため、関節液の循環が滞り、嚢腫の中に液が溜まりやすくなるためと考えられます。

起き上がって少し歩いたり動かしたりしているうちに、多少なりとも液が関節内に戻り、圧迫感が和らぐ場合もあります。しかし、これは治ったわけではなく一時的な変化に過ぎません。

神経が圧迫されると出る足先のしびれ

膝の裏側は、坐骨神経から枝分かれした脛骨神経など、足先へ向かう重要な神経や血管が通っている狭いトンネルのような場所です。ベーカー嚢腫が巨大化すると、これらの神経を圧迫してしまうときがあります。

その結果、膝裏だけでなく、ふくらはぎや足の指先にまでピリピリとしたしびれや、冷感を感じるようになるケースがあります。

放置して嚢腫が破裂した時に襲われる激痛とリスク

ベーカー嚢腫で最も恐ろしいのは、袋が限界を迎えて「破裂」してしまうことです。これは単なる水漏れでは済みません。

関節液は炎症物質を含んでいるため、周囲の組織に激しい炎症を引き起こし、救急車を呼びたくなるほどの激痛に見舞われる場合があります。

ふくらはぎに広がる激痛と内出血

嚢腫が破裂すると、溜まっていた液体が重力に従ってふくらはぎの筋肉の間へと流れ落ちます。

これを医学的には「偽性血栓性静脈炎」とも呼びますが、患者さんは「後ろからバットで殴られたような衝撃」を感じるときがあります。

ふくらはぎ全体がパンパンに腫れ上がり、赤くなり、熱を持ちます。場合によっては内出血斑が現れ、見た目にも痛々しい状態になります。

エコノミークラス症候群と間違われやすい危険性

この破裂による症状は、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)と非常に似ています。血栓症は命に関わる病気ですので、見極めが非常に重要です。

破裂と血栓症(DVT)の症状比較

比較項目ベーカー嚢腫の破裂深部静脈血栓症(DVT)
発症の仕方動作時などに突然の激痛徐々に、または急に腫れる
腫れる場所膝裏からふくらはぎにかけてふくらはぎ全体、時に太ももまで
皮膚の色赤くなる、内出血が出ることも赤黒く変色、または青白い

ベーカー嚢腫の破裂であれば命に別状はありませんが、血栓症の場合は肺に血栓が飛ぶリスクがあります。どちらも「片足の急な腫れと痛み」が特徴ですので、自己判断せず直ちに医療機関を受診する必要があります。

破裂した後の経過と再発の可能性

破裂した直後は激痛ですが、漏れ出た液体は数週間かけて徐々に体内に吸収されていきます。そのため、痛みや腫れは時間とともに引いていくのが一般的です。

しかし、安心はできません。「袋が破れた」ということは、一時的に圧力が下がっただけであり、根本的な原因である「関節内の炎症」と「袋の穴(交通口)」はそのまま残っているからです。

炎症が治まっていなければ再び水が溜まり、袋が修復されれば嚢腫が再発します。

病院で行われる検査の種類と診断確定までの流れ

整形外科を受診すると、まずは問診と触診が行われますが、確定診断のためには画像検査が必要です。

外側から触るだけでは、それが液体の袋なのか固形の腫瘍なのかを完全に区別するのは難しいためです。正確な状態を把握すると、適切な治療方針が決まります。

リアルタイムで状態を確認できる超音波検査

最も手軽で身体への負担が少ないのが超音波(エコー)検査です。ゼリーを塗って機械をあてるだけで、袋の大きさ、中の液体の状態、袋の位置関係がその場で分かります。

液体であれば黒く映り、固形の腫瘍であれば白っぽく映るため、判別が容易です。また、ドプラ機能を使えば血流の有無も確認でき、動脈瘤などとの区別もつきます。

根本原因を探るためのMRI検査

嚢腫があることは分かっても、「なぜ水が溜まっているのか」という根本原因を知るにはMRI検査が適しています。

  • いつから膝裏の違和感に気づいたか
  • どのような姿勢や動作で痛みが強くなるか
  • 過去に膝の怪我や手術をした経験があるか
  • 現在、リウマチや痛風などの治療を受けているか

MRIでは、半月板の断裂具合、軟骨のすり減り方、骨の中の浮腫など、レントゲンやエコーでは見えない詳細な情報を得られます。

特に手術を視野に入れる場合や、長引く痛みの原因を特定したい場合には、MRI検査を受けることが非常に有益です。

関節リウマチなどの持病が隠れていないかの確認

変形性膝関節症以外にも、関節リウマチが原因でベーカー嚢腫ができることがあります。リウマチは全身の関節に炎症を起こす病気ですが、膝だけに症状が強く出るケースも珍しくありません。

血液検査を行い、炎症反応の数値やリウマチ因子の有無を調べて、内科的な治療が必要かどうかも判断します。

水を抜くべきか根本治療を目指すべきかの判断基準

ベーカー嚢腫の治療において、多くの患者さんが「とりあえず水を抜いてほしい」と希望されます。確かに水を抜けば一時的にコブは小さくなり、圧迫感も消えます。

しかし、それはあくまで対症療法に過ぎません。ここでは、保存療法から手術まで、段階的な治療の選択肢について解説します。

注射器での穿刺吸引は一時的な解決策

コブが大きくて痛みが強い場合、医師は注射器を使って嚢腫内の液体を抜き取ります(穿刺吸引)。黄色く透明な液体が抜けると、その場で膝が軽くなるのを実感できるでしょう。

しかし、膝関節の中で炎症が続いている限り、蛇口が開いたままの状態と同じです。数日から数週間で再び水が溜まり、元の大きさに戻ってしまうケースが多々あります。

繰り返すときは、ステロイド剤を注入して炎症を抑える場合もありますが、感染のリスクもあるため頻繁には行えません。

炎症を抑えるリハビリと薬物療法

遠回りのように見えて最も大切なのが、膝関節内の炎症を鎮めることです。消炎鎮痛剤の湿布や塗り薬、内服薬を使用しながら、物理療法で患部を温めたり(急性期は冷やす)、リハビリで膝周りの筋肉を鍛えたりします。

大腿四頭筋などを鍛えて膝への負担を減らすと、結果的に炎症が治まり、新たな水の産生が減って嚢腫が自然と縮小していくことを目指せます。

手術が必要になる具体的なケース

保存療法を続けても改善せず、日常生活に大きな支障がある場合や、半月板損傷などの物理的な破損が炎症の原因である場合は、手術が検討されます。

治療法のメリットとデメリット比較

治療法メリットデメリット・注意点
穿刺吸引(水抜き)即効性があり、その場で楽になる再発率が非常に高い
感染のリスクがゼロではない
保存療法(薬・リハビリ)身体への侵襲がなく安全
根本的な膝機能の改善になる
効果が出るまで時間がかかる
嚢腫が完全に消えるとは限らない
手術療法根本原因の解決が期待できる入院やリハビリ期間が必要
神経損傷などの手術リスク

以前は膝裏を切開して嚢腫を摘出する手術が行われていましたが、再発率が高いことが課題でした。

現在は、関節鏡を使って膝の中から嚢腫への交通口を広げたり、弁のような構造を切除したりして、液の出入りをスムーズにする手術や、原因となっている半月板の処置を同時に行う方法が主流になりつつあります。

自宅で実践できるケアと悪化を防ぐための生活習慣

病院での治療と並行して、日々の生活の中で膝への負担を減らす工夫をすることが、早期改善への鍵となります。

膝裏のコブを刺激せず、かつ膝関節を守るための具体的なセルフケア方法を知っておきましょう。

膝裏への物理的な圧迫を避ける工夫

ベーカー嚢腫は物理的な刺激に弱いため、コブを直接圧迫するのは避けてください。例えば、椅子の座面に膝裏が強く当たらないように浅めに座るか、足台を使うと良いでしょう。

また、寝る時には膝の下に薄いクッションや丸めたタオルを入れて、膝が軽く曲がった状態を作ると、嚢腫へのテンションが緩み、朝のこわばりが軽減される場合があります。

サポーターの選び方と使い方の注意点

膝の安定性を保つためにサポーターは有効ですが、選び方を間違えると逆効果になります。

膝裏が完全に閉じているタイプや、締め付けが強すぎるものは、嚢腫を直接圧迫して痛みを増強させたり、血流を悪化させたりします。

  • 和式生活から洋式生活(椅子・ベッド)へ切り替える
  • 長時間同じ姿勢で座り続けないよう、こまめに立つ
  • 重い荷物を持つことは極力避ける
  • 階段よりもエレベーターやエスカレーターを使う

ベーカー嚢腫がある場合は、膝裏部分がくり抜かれているオープンタイプのサポーターか、または支柱が入っていて横揺れを防ぎつつ裏側はメッシュ素材で柔らかいものを選ぶのが賢明です。

適度な運動とストレッチのバランス

「安静にしなくては」と思い込んで全く動かないと、筋肉が落ちて余計に膝への負担が増してしまいます。痛みのない範囲で動かすことが大切です。

水中ウォーキングは浮力が働くため膝への負担が少なくおすすめです。

ストレッチをする際は、膝を無理やり伸ばし切るような動作は嚢腫を潰す力となるため避け、太ももの前やふくらはぎの筋肉を優しくほぐすイメージで行ってください。

早急に受診すべき危険な症状とタイミング

ベーカー嚢腫は良性の疾患であるケースが多いですが、時に緊急性を要する状態や、別の重大な病気が隠れているサインである場合もあります。

「いつものことだから」と我慢せず、身体の変化に敏感になりましょう。

急速に腫れや痛みが強まった時

数時間から半日といった短い単位で急激に膝裏やふくらはぎが腫れてきた場合は、嚢腫の破裂か、あるいは感染症を起こしている可能性があります。

特に関節が熱を持ち、悪寒や発熱を伴う場合は化膿性関節炎の疑いもあり、一刻を争う処置が必要です。ためらわずに救急外来や整形外科を受診してください。

足の色が変わったり冷たくなったりした時

膝裏の巨大な嚢腫が動脈を圧迫すると、足先への血流が阻害されます。

足の色が蒼白になったり、触ると冷たかったり、脈が触れにくかったりする場合は、閉塞性動脈硬化症などの合併や、物理的な血流障害が起きているサインです。

これを放置すると組織が壊死するリスクもあるため、重大な警告サインと捉えてください。

しこりが硬くなり大きくなり続ける時

最初にお伝えした通り、膝裏のしこりのすべてがベーカー嚢腫ではありません。

数ヶ月単位で観察していても小さくならず、むしろ石のように硬くなり、周囲の組織と癒着して動かなくなってくる場合は、稀ですが肉腫などの悪性腫瘍の可能性を否定できません。

自己判断で様子を見ることなく、MRI検査などで正体を突き止める必要があります。

よくある質問

ベーカー嚢腫は自然に治癒しますか?

原因となっている膝関節内の炎症(変形性膝関節症や半月板損傷など)が治まれば、関節液の過剰分泌が止まり、自然に縮小または消失することはあります。

しかし、大人の場合は基礎疾患が慢性化しているケースが多いため、完全に自然治癒することは稀で、大きくなったり小さくなったりを繰り返す傾向があります。

ベーカー嚢腫がある状態でウォーキングをしても大丈夫ですか?

強い痛みや強い圧迫感がない場合は、適度なウォーキングは筋力維持のために推奨されます。ただし、坂道や長時間の歩行は膝への負担となり炎症を悪化させる恐れがあります。

歩いた後に腫れが強くなるようであれば、距離を短くするか、水中ウォーキングなど負担の少ない運動に切り替えてください。

ベーカー嚢腫に対してマッサージを行うと効果がありますか?

嚢腫(コブ)そのものを直接揉んだり潰そうとしたりするマッサージは、破裂の危険があるため絶対に行ってはいけません。

ただし、ふくらはぎや太ももの筋肉をほぐして膝への負担を減らす目的のマッサージは有効です。膝裏のコブには触れず、周囲の筋肉を優しくケアするようにしてください。

ベーカー嚢腫の痛みを和らげるには冷やすべきですか、温めるべきですか?

状態によります。急に腫れて熱を持っている「急性期」や、運動直後で熱感がある場合は、氷嚢などで冷やして炎症を抑えるのが効果的です。

一方で、慢性的で熱感がなく、朝のこわばりや重だるさを感じる場合は、温めて血行を良くすると症状が緩和される人が多いです。入浴時に楽になるなら温めるのが合っています。

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この記事を書いた人

臼井 大記のアバター 臼井 大記 大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

日本整形外科学会認定専門医

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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