酸化鉄は、赤・黄・黒の色を作る無機顔料です。ファンデーションや色付き日焼け止めに配合し、肌になじむ色調やカバー力を整え、化粧膜の色を支える基本成分です。
色があるため、紫外線だけでなく可視光線の一部を通しにくくする働きも期待できます。ただし、役割は補助的で、酸化鉄そのものがシミや肝斑を治療するわけではありません。
化粧品で使う3種類の違い、酸化亜鉛や酸化チタンとの使い分け、安全性、毛穴詰まりが心配なときの落とし方まで、研究結果の限界と選び方を具体的に解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
酸化鉄とは?化粧品で使う種類と色
化粧品の酸化鉄は、鉄と酸素を主体とする赤・黄・黒の粉末です。水や油に溶けにくく、少量でも色を調整しやすいため、肌色になじむ着色顔料として色持ちも支えます。
酸化鉄は肌色を作る無機顔料
無機顔料とは、鉱物由来または合成した無機物の粉末で色を付ける材料です。有機色素とは性質や安定性が異なり、化粧品用には色調や粒子、不純物を管理した原料が使われています。
酸化鉄は古くから赤色や黄色の顔料として利用されてきた、身近な材料です。現在の化粧品では、品質と色の再現性をそろえやすいように製造・精製した原料が中心です。
赤・黄・黒の酸化鉄で作る肌色
赤色の三二酸化鉄、黄色の黄酸化鉄、黒色の黒酸化鉄を組み合わせると、明るいベージュから深い褐色まで幅広い色調を作れます。配合比率は肌色に合わせ、仕上がりを左右します。
酸化鉄の色は、肌自体を変化させるものではなく、塗っている間の見え方を整えるものです。洗い落とせば着色による補整はなくなるため、治療による色素改善とは区別します。
| 化粧品で使う色 | 日本語の原料名 | 国際的な表示 |
|---|---|---|
| 赤 | 三二酸化鉄 | Iron Oxides/CI 77491 |
| 黄 | 黄酸化鉄 | Iron Oxides/CI 77492 |
| 黒 | 黒酸化鉄 | Iron Oxides/CI 77499 |
化粧品の成分表示で名称が違うのはなぜ?
全成分表示では「酸化鉄」とまとめる場合があり、原料規格では三二酸化鉄、黄酸化鉄、黒酸化鉄などの名称も使います。海外表示のINCI名はIron Oxidesです。
CI 77491・77492・77499は色材を識別する番号です。名称が異なって見えても、赤・黄・黒の酸化鉄を示す場合があるため、色番号まで見ると成分欄から判断しやすくなります。
酸化鉄は主に着色のための添加成分で、美白や紫外線防止の有効成分として扱うものではありません。医薬部外品に配合する場合も、有効成分と添加成分を分けて考える必要があります。
酸化鉄に期待できる効果は着色と光の補助遮蔽
酸化鉄を化粧品に入れる主な目的は、色調補整とカバー力の調整です。色付きの膜は可視光線の一部も吸収・散乱し、日焼け止めの守備範囲を補うことが2つ目の役目です。
顔料として肌の色むらを自然に見せる
赤・黄・黒を混ぜた酸化鉄は、ファンデーション、コンシーラー、色付き下地などの色を作ります。光の反射と透過を調整し、色むらや赤みを目立ちにくくして仕上がりを整えます。
見た目を補整する働きは、皮膚の炎症やメラニン量を減らす作用とは別です。肌悩みを隠せても原因が解消したとは限らないため、長引く変化は化粧だけで判断しないでください。
色素沈着が気になる肌には色付き日焼け止め
地表に届く光には紫外線のほか、目に見える約400〜700nmの可視光線があります。一般的なSPFやPAは紫外線を基準にした指標で、可視光線への防御力を直接示しません。
酸化鉄を含む色付き製剤は、無色に近い日焼け止めより可視光線を通しにくい傾向が研究で示されています。ただし、遮り方は酸化鉄の色、量、分散状態、塗膜の厚さで変わります。
酸化鉄だけで十分な紫外線防御が得られるとは限りません。役割を混同せず、紫外線散乱剤や紫外線吸収剤との併用を前提に、表示されたSPF・PAと使用方法を確認してください。
ブルーライト域も製剤によって通しにくくなる
可視光線のうち、短い波長側の約400〜500nmを高エネルギー可視光線、通称ブルーライトと呼びます。青く見える光の一部で、酸化鉄はこの波長域も吸収・散乱します。
試験管内の測定では、赤・黄・黒の酸化鉄がブルーライト域を弱めました。一方、電子機器の画面と太陽光では照度や距離、浴びる量が異なるため、同じ影響とは断定できません。
可視光線が濃い肌色の人の持続的な色素反応や、肝斑などの色素沈着に関与しうるとの報告があります。酸化鉄配合品で肝斑を治したり、完全に防いだりできるという意味ではありません。
| 期待する働き | 酸化鉄が担うこと | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| 色調補整 | 赤・黄・黒で肌色を作る | 塗布中の見え方を整える |
| 可視光線対策 | 色のある膜が光を弱める | SPF・PAとは別の性質 |
| 紫外線対策 | 他の防御成分を補助する | 酸化鉄単独では判断しない |
酸化鉄配合化粧品の使い方・日常ケア
酸化鉄は色付き日焼け止めやベースメイクから取り入れられます。主に日中にむらなく塗り、汗や摩擦で落ちたら補うことが基本で、夜に使う必要は通常ありません。
酸化鉄を使う日焼け止めとベースメイク
配合例は、色付き日焼け止め、化粧下地、ファンデーション、コンシーラー、フェイスパウダーなどです。製品によって着色だけを目的とする場合と、光対策も考えた場合があります。
酸化鉄が入ったファンデーションでも、SPF・PAの表示がなければ日焼け止めの代用にはなりません。紫外線対策が必要な日は、表示を確認して用途に合う日焼け止めを使ってください。
朝はむらを作らず、こすらずに重ねる
洗顔と保湿の後、日焼け止めを顔の数か所に置き、塗り残しが出ないようやさしく広げます。色付きタイプは、生え際、小鼻、耳の前、まぶた周辺のむらも鏡で確かめましょう。
一度に厚く置くと筋や色むらが出る場合は、適量を分けて薄く重ねます。均一な膜を保つため、汗をかいた後や長時間屋外で過ごすときは、表示に沿って塗り直しましょう。
- 保湿後に日焼け止めを塗る
- 生え際や小鼻も均一にする
- 汗や摩擦の後に補う
- 夜は表示に合う方法で落とす
他の成分との違い・役割分担
酸化鉄と酸化亜鉛、酸化チタン、紫外線吸収剤を組み合わせること自体に、一般的な使用上の矛盾はありません。併用例は多く、紫外線と可視光線への働きを補う設計があります。
保湿剤との併用も通常は可能です。刺激が出る場合は、酸化鉄との相性より、香料、アルコール、保存料、紫外線吸収剤など製剤全体への反応を、一度に多く変えず確かるようにしましょう。
治療成分を使用している場合は自己判断で追加せず、肌状態に応じて医療機関へ相談してください。
酸化鉄は危険?人体への影響と注意点
化粧品用の酸化鉄は広く使われていますが、すべての人に刺激が起こらないとは言い切れません。「危険」という語だけで決めず、根拠と製剤全体、肌状態から安全性を判断しましょう。
赤みやかゆみの原因は酸化鉄とは限らない
酸化鉄は水に溶けにくく、通常の塗布で皮膚から大量に取り込む成分ではありません。それでも肌質による差があり、使用部位に赤み、かゆみ、腫れ、ヒリつきが出ることはあります。
原因は酸化鉄とは限らず、ほかの成分や原料中の微量不純物、摩擦が関係する場合もあります。原因を切り分けるため、洗い流して使用を中止し、症状が続くときは皮膚科を受診してください。
金属アレルギーがある人でも、金属イオンと水に溶けにくい酸化鉄への反応は同じとは限りません。ただし、ニッケルやコバルトなどへの強い反応歴があれば、事前相談が安心です。
敏感肌や傷が気になるなら、まずは少量から
湿疹、日焼け直後の炎症、傷がある部位では、普段使える化粧品でも刺激を感じやすくなります。無理な使用を避け、炎症が落ち着くまで新しい製品を休みましょう。
敏感肌の人は、腕などの狭い範囲に少量を塗り、翌日まで変化を見てから顔に使う方法があります。過去に化粧品で腫れた人は、自己流の試用より皮膚科での確認を優先してください。
粉末製品は舞い上がった粉を吸い込まないように扱い、目や粘膜には入れないでください。粉の扱いにも注意し、乳幼児が触れる場所を避け、誤って入った場合は十分に洗い流しましょう。
ナノ粒子と毛穴詰まりは製品全体で判断
ナノ粒子は一般に100nm程度以下の粒子を指しますが、化粧品中では凝集したり表面処理を施したりします。同じ名称でも条件はさまざまで、成分名だけでは皮膚への挙動を読めません。
ヒトの摘出皮膚に乾いた酸化鉄ナノ粒子を置いた研究では、多くが角層表面に残りました。ただし、実際の化粧品は油分や分散剤を含むため、この結果を全製品へそのまま当てはめられません。
酸化鉄だけが毛穴を詰まらせると示す十分な臨床データは見当たりません。個人差も大きいため、油分、皮膜剤、塗布量、落とし残し、本人の皮脂やニキビ傾向を含めて考えます。
夜は製品に「石けんで落とせる」「クレンジングが必要」などの表示があれば従います。色や膜感が残る場合は、落とせる洗浄料を使い、強くこすらず丁寧にすすいでください。
化粧品と処方薬の違いを混同しないこと
酸化鉄そのものは、シミや肝斑を治す処方薬ではなく、医薬品の代わりにはなりません。化粧品は色調補整や日常の光対策に使い、診断や治療が必要な色素変化と区別してください。
| 気になる変化 | まず行うこと | 相談の目安 |
|---|---|---|
| 赤み・かゆみ | 洗い流して中止 | 続く、腫れる、水ぶくれ |
| 毛穴詰まり | 使用量と落とし方を確認 | ニキビが増える、痛む |
| 目への混入 | こすらず洗い流す | 痛みや違和感が残る |
酸化鉄と酸化亜鉛・酸化チタンの違い
3成分はいずれも無機の粉体ですが、日焼け止めで担う中心的な働きは異なります。この違いが選び分けの基準で、酸化鉄は着色、ほかの2成分は主に紫外線防御に使います。
酸化亜鉛は紫外線散乱剤として使う
酸化亜鉛はUVAからUVBまでの紫外線を防ぐ目的で日焼け止めに配合する成分です。白い粉体で、皮脂を吸着する感触や収れん感を持たせる場合もあり、用途を表示から確認します。
微粒子化した酸化亜鉛は透明感を出しやすい一方、可視光線を十分に遮るとは限りません。酸化鉄を加えると色が付き、紫外線と可視光線を分担できる点が色付き設計の利点です。
酸化チタンはUVBから短波長側UVAを防ぎ、顔料級は可視光線も遮る
酸化チタンも紫外線散乱剤として用い、UVBから短波長側のUVA(UVA2、約320〜340nm)までを防ぐ目的で配合します。微粒子(透明タイプ)は白浮きを抑えやすい一方、可視光線を十分に遮るとは限りません。
顔料級(白く見えるタイプ)の粒子は白色顔料として隠ぺい力を出し、酸化鉄とともに可視光線を遮る担い手になります。
白色の酸化チタンだけでは、自然な肌色を作りにくいことがあります。赤・黄・黒の酸化鉄を混ぜると色幅が広がり、複数の粉体を生かして見た目のなじみと可視光線への遮蔽を調整できます。
| 成分 | 中心となる用途 | 光に対する特徴 |
|---|---|---|
| 酸化鉄 | 赤・黄・黒の着色顔料 | 可視光線を補助的に遮る |
| 酸化亜鉛 | 紫外線散乱剤 | UVA〜UVBを広く防ぐ |
| 酸化チタン | 紫外線散乱剤・白色顔料 | UVB〜短波長側UVAを防ぎ、顔料級の粒子は可視光線も遮る |
3成分は優劣ではなく目的で組み合わせる
酸化鉄と酸化亜鉛の違いを比べても、目的が異なるため、どちらか一方だけが優れているとはいえません。紫外線、可視光線、色調、使用感のどれを重視するかで組み合わせは変わります。
色付き日焼け止めを選ぶ際も、酸化鉄の有無だけで決めず、SPF・PA、耐水性、落とし方、肌への刺激、色のなじみを確認します。毎日続けられる使用感も大切な判断材料です。
酸化鉄の化粧品での役割まとめ
酸化鉄は治療成分ではなく、肌色を作りながら可視光線への守りを補う顔料です。期待しすぎず、成分単独の印象ではなく、製品全体の表示と自分の肌状態を見て取り入れましょう。
- 赤・黄・黒を組み合わせる着色顔料
- 色付き日焼け止めやベースメイクに配合
- 可視光線の一部を補助的に遮蔽
- 安全性は製剤全体と肌状態で判断
- 夜は表示に合う方法で丁寧に洗浄
酸化鉄による補整は塗布中の見え方を整えるもので、シミや肝斑の治療とは異なります。光対策をしても色素変化が濃くなる、赤みやかゆみが続く場合は、原因の確認が必要です。
急に現れた色素変化や、形・色が変わる斑点を化粧品だけで隠し続けず、診察で原因を確かめることも大切です。気になる症状がある場合は皮膚科を受診してください。
よくある質問
参考文献
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