エルゴチオネインは、キノコなどに含まれる硫黄をもったアミノ酸系の抗酸化成分です。ヒトの体内では作れず、専用の入り口を通って細胞に取り込まれる点が特徴で、次世代の抗酸化成分として注目されています。
スキンケアの分野では、紫外線による酸化ダメージをやわらげる働きや、メラニンやコラーゲンに関わる研究が報告されています。断定はできないものの、抗酸化・美白・シワハリの三方向から期待されている成分です。
この記事では、エルゴチオネインとは何かという基本から、期待できる効果、化粧品での使い方、注意点、グルタチオンなど似た成分との違いまで、皮膚科専門医監修のもとでわかりやすく解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
エルゴチオネインとは体内で作れないキノコ由来の抗酸化アミノ酸
エルゴチオネインは、キノコや一部の細菌がつくり出す硫黄を含んだアミノ酸の一種で、強い抗酸化性をもつ成分です。ヒトは自分で合成できず、食事や皮膚に届けるかたちで取り入れる必要があります。
キノコや発酵の力が生み出す天然成分
エルゴチオネインは、ヒスチジンというアミノ酸をもとにキノコ類やある種の細菌が生み出す天然成分です。ひらたけ、まいたけ、タモギタケといったキノコに多く含まれることが知られています。
化学的にはチオール・チオンという硫黄をもつ構造を備え、この硫黄が抗酸化性のよりどころと考えられています。近年は発酵技術によって化粧品原料として安定的に得られるようになりました。
動物や人間はエルゴチオネインを体内で作る仕組みをもちません。そのため、外から補う成分という位置づけが、他の抗酸化物質と大きく異なる点といえるでしょう。
OCTN1という専用の入り口から細胞に届く
エルゴチオネインが注目される理由の一つが、細胞への届き方です。この成分は水になじむ性質のため、そのままでは細胞の膜を通り抜けにくい形をしています。
そこで働くのがOCTN1と呼ばれる専用の入り口(トランスポーター)です。総説でも、この輸送体を介してエルゴチオネインが細胞へ取り込まれ、活性の指標にもなると報告されています。
取り込まれたエルゴチオネインは、酸化ダメージを受けやすいミトコンドリアや核といった場所に集まりやすいとされています。守りたい場所へ選んで届く点が、この成分らしい特徴です。
エルゴチオネインの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 硫黄を含むアミノ酸系抗酸化物質 |
| 主な由来 | キノコ類、発酵(微生物) |
| 体内合成 | できない(外から補う) |
| 細胞への取り込み | OCTN1という専用トランスポーター |
| 集まりやすい場所 | ミトコンドリア、核 |
化粧品では抗酸化・整肌の目的で配合される
化粧品の分野では、エルゴチオネインは肌をととのえ、うるおいや透明感のあるコンディションを支える目的で配合されています。全成分表示では「エルゴチオネイン」と記載されるのが一般的です。
なお、医薬部外品の美白有効成分として承認されているのはトラネキサム酸やビタミンC誘導体などで、エルゴチオネインは主に化粧品成分として扱われます。用途や表現は薬機法の範囲内で考える必要があります。
エルゴチオネインに期待できる抗酸化・美白・シワハリの効果
エルゴチオネインに期待できる効果の中心は、活性酸素をやわらげる抗酸化の働きです。そこから派生して、紫外線による酸化ダメージの緩和、メラニンへの関与、コラーゲンを守る方向の作用が研究されています。
活性酸素をやわらげる抗酸化作用
エルゴチオネインの土台となるのが、活性酸素を打ち消す抗酸化作用です。肌は紫外線や大気の影響で酸化ストレスを受けやすく、これが乾燥やハリの低下に関わると考えられています。
総説では、エルゴチオネインが金属イオンをつかまえたり、細胞内の防御に関わる経路を後押ししたりして、酸化ダメージから細胞を守る方向に働くと整理されています。安定性が高く、穏やかに働く点も特徴です。
同じ抗酸化でも、エルゴチオネインはダメージを受けやすい部位に集まりやすいと報告されています。守りたい場所で力を発揮しやすい設計といえるかもしれません。
紫外線による酸化ダメージをやわらげる働き
紫外線は肌の酸化ダメージや光老化の大きな要因です。エルゴチオネインは、この紫外線由来のダメージをやわらげる方向で研究が進んでいます。
紫外線A波を当てたヒト真皮線維芽細胞の研究では、エルゴチオネインが活性酸素の発生を抑え、細胞内の抗酸化に関わる遺伝子の働きを高めたと報告されています。コラーゲンを分解する酵素の増加をおさえる方向の変化もみられました。
別の研究でも、紫外線による酸化ストレスに対して細胞の防御経路を通じて保護的に働く可能性が示されています。いずれも細胞や動物を用いた基礎段階の知見で、肌トラブルを治療するものではありません。
メラニンやコラーゲンに関わる研究
エルゴチオネインは、シミやくすみに関わるメラニンへの関与でも調べられています。メラニンをつくる酵素チロシナーゼの働きを穏やかにおさえる方向の作用が、実験と理論の両面から報告されました。
また、コラーゲンを分解する酵素の増加をおさえる知見は、ハリやきめのケアという観点からも注目されています。ただし化粧品としての位置づけであり、効果を保証するものではない点は押さえておきたいところです。
研究で報告されている主な働き
| 期待される方向性 | 研究で示された内容 | 段階 |
|---|---|---|
| 抗酸化 | 活性酸素をおさえ細胞の防御経路を後押し | 基礎研究 |
| 紫外線ダメージ緩和 | UVによる酸化ストレスや酵素増加をおさえる | 細胞・動物 |
| 美白の観点 | チロシナーゼやメラニン生成への関与 | 実験・理論 |
エルゴチオネインの使い方とスキンケアへの取り入れ方
エルゴチオネインは、化粧水や美容液などに配合された形で無理なく取り入れられる成分です。抗酸化ケアという性質から、紫外線を受ける日中の前後に使うと役立ちやすいと考えられています。
美容液やクリームなどに配合される
エルゴチオネインは、化粧水、美容液、クリーム、マスクといったスキンケア製品に配合されています。抗酸化やエイジングケアをうたう製品で見かけることが多い成分です。
近年はシャンプーなど頭皮向けの製品に配合される例もありますが、化粧品としての中心はスキンケア用途です。配合量や組み合わせは製品ごとに異なるため、全成分表示や使用感で選ぶとよいでしょう。
朝の紫外線対策と夜のケアに取り入れる
抗酸化を目的とするエルゴチオネインは、紫外線を浴びる前の朝のケアと相性がよいと考えられています。化粧水や美容液でなじませたあと、日中は必ず日焼け止めを併用しましょう。
夜は、日中に受けた酸化ストレスをいたわる目的で取り入れる使い方が向いています。塗る順番は、一般的な化粧水から乳液・クリームへと重ねる流れに沿えば問題ありません。
刺激の少ない成分とされていますが、肌の状態は人それぞれです。まずは少量から試し、肌の様子を見ながら量や頻度を調整すると安心といえるでしょう。
朝と夜の取り入れ方の目安
| タイミング | 取り入れ方の目安 | ワンポイント |
|---|---|---|
| 朝 | 化粧水や美容液でなじませる | 日焼け止めを必ず併用する |
| 夜 | 洗顔後のスキンケアに重ねる | 日中のダメージをいたわる |
| 共通 | 少量から試して様子を見る | 肌に合わなければ中止する |
相性のよい成分と気をつけたい組み合わせ
エルゴチオネインは、他の抗酸化成分と重ねて使うことで、酸化ダメージへのケアを多方向から支えやすくなると考えられています。紫外線対策の観点では、ビタミンCやビタミンEといった成分との併用がよく話題になります。

研究でも、エルゴチオネインをフェルラ酸やグルタチオンと組み合わせて紫外線ダメージを調べた例があり、単独と組み合わせで働き方を比較しています。相乗を過度に期待するより、まずは肌に合うかを確かめる姿勢が大切です。
一方で、ピーリング作用の強い成分やレチノールを使った直後は肌が敏感になりやすいものです。刺激の少ないエルゴチオネインでも、こうした成分と重ねる際は量や順番を調整し、肌の様子を見ながら取り入れましょう。
エルゴチオネインを使う際の注意点
エルゴチオネインは穏やかで安全性の高い成分とされますが、肌に合わない場合や、内服と外用の違い、期待しすぎには注意が必要です。特徴を理解して上手に付き合うことが、トラブルを避けるうえで大切といえます。
副作用や刺激のリスクは低いとされる
エルゴチオネインは、化粧品成分として穏やかで刺激が少ないと考えられています。総説でも安全性の高い抗酸化物質として整理されており、重い副作用の報告は多くありません。
とはいえ、どんな成分でも肌質や体調によって合わないことはあります。赤みやかゆみ、ヒリつきを感じた場合は使用を中止し、症状が続くときは皮膚科に相談してください。
敏感肌や妊娠中の方は少量から試す
敏感肌の方や肌が不安定なときは、初めて使う際に腕の内側などで少量を試すパッチテストを行うと安心です。24時間から48時間ほど様子をみて、異常がなければ顔に使う流れが無理のない方法といえます。
妊娠中や授乳中で成分が気になる場合や、治療中の肌トラブルがある場合は、自己判断で新しい成分を増やす前に医療機関で相談すると安心でしょう。
化粧品と内服では目的も濃度も異なる
エルゴチオネインはサプリメントなど内服の形でも知られますが、化粧品として肌に塗る場合は目的も濃度も異なります。この記事はスキンケア成分としての解説であり、内服の用法や摂取量には踏み込みません。
化粧品はあくまで肌をととのえる目的の製品で、皮膚の病気を治療する薬とは位置づけが違います。シミやシワ、肌荒れが気になる場合は化粧品だけに頼らず、医療機関での相談も選択肢に入れましょう。
- 赤みやかゆみが出たら使用を中止し様子をみる
- 敏感肌や不安定なときはパッチテストで確かめる
- 妊娠中や治療中は自己判断せず医療機関で相談する
- 化粧品と内服は目的も濃度も異なると理解する
エルゴチオネインと似た抗酸化成分との違い
エルゴチオネインは、グルタチオンやアスタキサンチンといった抗酸化成分と混同されがちです。いずれも酸化ダメージをやわらげる点は共通しますが、由来や届き方、得意とする働き方に違いがあります。
グルタチオンとの違いは由来と届き方
グルタチオンは3つのアミノ酸からなる体内でも作られる抗酸化物質で、美白の観点でも知られています。エルゴチオネインは体内で作れず外から補う点、専用のトランスポーターで細胞に届く点が異なります。

研究では、両者を紫外線ダメージの予防という視点で比較した例もあります。似た方向をめざす成分でも、性質や届き方が違うため、組み合わせや使い分けで考えるのが現実的といえるでしょう。
アスタキサンチンやビタミンEとの使い分け
アスタキサンチンは藻類などに由来する赤い色素で、油になじむ抗酸化成分です。水になじみやすいエルゴチオネインとは性質が異なり、肌の中で働く場所も分かれると考えられています。

ビタミンE(トコフェロール)も油性の抗酸化成分で、細胞膜のような油分の多い場所を守る役割で知られています。水になじむエルゴチオネインと油になじむビタミンEは、守る場所がすみ分けられる関係といえます。

似た抗酸化成分の比較
| 成分名 | 主な由来 | 性質の特徴 |
|---|---|---|
| エルゴチオネイン | キノコ・発酵 | 水になじみ専用の入り口で細胞に届く |
| グルタチオン | 体内合成・発酵 | 体内でも作られる代表的な抗酸化物質 |
| アスタキサンチン | 藻類など | 油になじむ赤い色素の抗酸化成分 |
迷ったら目的と肌質で選ぶ
どの抗酸化成分が合うかは、めざすケアの方向や肌質によって変わります。紫外線ダメージへの備えや透明感を意識するなら、水になじむエルゴチオネインは取り入れやすい選択肢といえるでしょう。
複数の抗酸化成分は、守る場所や性質が異なるため組み合わせて使われることもあります。名前の似た成分に惑わされず、由来や表示名称を確かめて選ぶことが、自分に合ったケアへの近道です。
まとめ
エルゴチオネインは、キノコ由来で体内では作れない抗酸化アミノ酸で、専用の入り口から細胞に届く次世代の抗酸化成分です。特徴と注意点を押さえれば、抗酸化ケアに無理なく取り入れられます。
- エルゴチオネインはキノコや発酵に由来し、ヒトの体内では合成できない
- OCTN1という専用トランスポーターでミトコンドリアや核に届きやすい
- 抗酸化を土台に、紫外線ダメージ緩和・メラニンやコラーゲンへの関与が研究されている
- 化粧品として穏やかな成分だが、合わないときは中止しパッチテストが安心
- シミやシワなど気になる症状がある場合は自己判断せず、皮膚科を受診してください
よくある質問
参考文献
Hseu, Y.-C., Gowrisankar, Y. V., Chen, X.-Z., Yang, Y.-C., & Yang, H.-L. (2020). The antiaging activity of ergothioneine in UVA-irradiated human dermal fibroblasts via the inhibition of the AP-1 pathway and the activation of Nrf2-mediated antioxidant genes. Oxidative Medicine and Cellular Longevity, 2020, 2576823. https://doi.org/10.1155/2020/2576823
Li, Y., Gao, J., Liu, S., Chen, S., Wei, X., Guan, Y., Li, X., Li, Y., Huang, Z., Li, G., Zhao, Y., Liu, P., & Zhang, Y. (2024). Ergothioneine protects against UV-induced oxidative stress through the PI3K/AKT/Nrf2 signaling pathway. Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology, 17, 1309–1319. https://doi.org/10.2147/CCID.S449987
Halliwell, B., Cheah, I. K., & Tang, R. M. Y. (2018). Ergothioneine – a diet-derived antioxidant with therapeutic potential. FEBS Letters, 592(20), 3357–3366. https://doi.org/10.1002/1873-3468.13123
Liu, H.-M., Tang, W., Wang, X.-Y., Jiang, J.-J., Zhang, Y., Liu, Q.-L., & Wang, W. (2023). Experimental and theoretical studies on inhibition against tyrosinase activity and melanin biosynthesis by antioxidant ergothioneine. Biochemical and Biophysical Research Communications, 682, 163–173. https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2023.10.007
Gründemann, D. (2012). The ergothioneine transporter controls and indicates ergothioneine activity – A review. Preventive Medicine, 54(Suppl.), S71–S74. https://doi.org/10.1016/j.ypmed.2011.12.001
Liu, H.-M., Tang, W., Wang, X.-Y., Jiang, J.-J., Zhang, W., & Wang, W. (2023). Safe and effective antioxidant: The biological mechanism and potential pathways of ergothioneine in the skin. Molecules, 28(4), 1648. https://doi.org/10.3390/molecules28041648
Tsay, G. J., Lin, S.-Y., Li, C.-Y., Mau, J.-L., & Tsai, S.-Y. (2021). Comparison of single and combined use of ergothioneine, ferulic acid, and glutathione as antioxidants for the prevention of ultraviolet B radiation-induced photoaging damage in human skin fibroblasts. Processes, 9(7), 1204. https://doi.org/10.3390/pr9071204
