エクトインは、塩分の多い環境などにすむ微生物が細胞の水分を守るためにつくる保湿成分です。水と強く結びつく性質があり、化粧水やクリームなどの化粧品に配合されて肌のうるおいを保ちます。
角層の水分を抱え込み、バリア機能を支えて乾燥を防ぐ働きが期待されています。欧州では肌荒れケア用の医療機器クリームにも使われますが、日本の化粧品は病気を治す薬ではなく毎日の保湿に使うものです。
この記事では、エクトインの特徴や肌への効果と研究の範囲、化粧水などでの使い方、敏感肌での注意点、ヒアルロン酸やセラミドなど他の保湿成分との違いを解説します。

この記事の執筆者
小林 智子こばやし ともこ
こばとも皮膚科 院長
日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医・医学博士
経歴を開く
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
関連医療機関:医療法人社団豊正会 大垣中央病院
エクトインとはどのような成分か
過酷な環境にすむ微生物が身を守るためにつくり出す天然由来の物質で、水分子を引き寄せて離さず、乾燥しやすい肌にうるおいを与える保湿成分として化粧品に配合されています。
塩分の多い環境にすむ微生物がつくる保護物質
塩分が濃い環境では浸透圧で細胞から水分が奪われやすくなります。そこにすむ多くの細菌や一部の古細菌・真核生物は、水が抜けるのを防ぐため「適合溶質(エクストリモライト)」という低分子の物質をためこみます。
エクトインはその代表格で、1986年にエジプトの砂漠の高塩分環境にすむ微生物から見つかったと開発企業のbitop AGは説明しています。同社は、化学合成ではなく発酵でつくっているとしています。
工業生産には好塩菌のハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)が使われ、この工程は「細菌の乳しぼり(bacterial milking)」とも呼ばれます。エクトインはスキンケアや医療の分野で利用されています。
水を抱え込んで離さない性質のしくみ
分子内にプラスとマイナスの電荷をもつ「両性イオン」の性質があり、水分子と強く結びついて乾燥下でも水分が逃げにくい状態をつくります。
さらに、たんぱく質などのまわりに安定した水の層(ハイドロコンプレックス)をつくり、乾燥や温度変化のストレスから細胞の働きを保つ「化学シャペロン」として振る舞います。
分子シミュレーションではグリセリンより水のかたまりが長く安定していましたが、計算上の比較であり、人の肌での保湿力の優劣を表すものではありません。
| 項目 | エクトインの基本情報 | 補足 |
|---|---|---|
| 化粧品の表示名称 | エクトイン | 英語表記(INCI名)はEctoin |
| 化学的な分類・由来 | 複素環式化合物(微生物がつくる適合溶質) | 好塩菌のHalomonas elongataを使った発酵工程で生産される |
| 性質の特徴 | 両性イオン・水溶性の低分子 | 水と強く結びつき、たんぱく質のまわりに水の層をつくる |
| 化粧品での主な役割 | 保湿・角層の保護 | 角層にうるおいをとどめ、乾燥から肌のバリア機能を支える |
化粧品の表示名称と日本での扱い
日本の全成分表示では「エクトイン」、英語では「Ectoin」や「ectoine」と表記される複素環式化合物です。関連成分の「ヒドロキシエクトイン」も好塩菌がつくる適合溶質ですが、別の成分として区別されます。
日本で医薬部外品の有効成分として承認されているかは確認されておらず、市販品では肌を保湿して整える一般化粧品の保湿成分として配合されています。
エクトインに期待できる肌への効果
主な目的は角層の水分を保ちバリア機能を支えることです。臨床試験や細胞実験の報告もありますが、医療機器クリームや培養細胞での結果が、そのまま化粧品に当てはまるわけではありません。
角層の水分を保ち肌のバリア機能を支える保湿効果
角層は水分を蓄えて乾燥や摩擦から肌を守ります。エクトインは水と結びついてうるおいをとどめ、水分の蒸発を抑える働きが報告されています。
人の皮膚にエクトイン配合の水中油型乳液を塗った実験では経表皮水分蒸散量(TEWL)が下がっています。界面活性剤による細胞膜の傷みを抑えた実験もあり、洗浄や乾燥で乱れがちな肌を守ると考えられています。
健康な女性104人の二重盲検比較試験では、2%配合品が保湿や肌表面の構造、弾力の指標で基剤より好まれ、副作用もありませんでした1)。ただし、シワを消すような作用が確かめられたわけではありません。
乾燥による肌荒れやかゆみを和らげる働き
欧州では乾燥や炎症が起きやすい肌向けに医療機器の専用クリームが使われ、アトピー性皮膚炎の試験も行われています。
軽症〜中等症のアトピー性皮膚炎の成人65人(18〜65歳)で、7%配合クリームと非ステロイド性抗炎症クリームを1日2回・28日間比べた試験があります2)。重症度点数やかゆみは同等で、刺激も少ないことが確認されました。
軽症〜中等症の2〜18歳の子ども70人(解析57人)が、エクトイン1%とヒアルロン酸0.1%を含む医療機器クリームを1日2回・4週間使った試験もあります3)。28日後の重症度点数やかゆみの改善は、基剤より大きかったと報告されています。
臨床研究6本(計523人、配合品使用455人、濃度5.5〜7.0%)をまとめた系統的レビューでも、乾燥やかゆみ、重症度点数の改善が報告されています4)。
イソトレチノイン内服による皮膚炎でデクスパンテノールと同程度だった研究や、薬の必要量が減った報告も含まれます。ただ、いずれも海外の専用クリームでの結果で、日本の化粧品でアトピー性皮膚炎が治るわけではありません。
紫外線ストレスに対する培養細胞での研究
培養細胞を使った紫外線A波(UVA)の実験では、UVAによる細胞内の信号放出や転写因子AP-2の活性化、炎症に関わる細胞接着分子(ICAM-1)の発現、ミトコンドリアDNA変異の一部をエクトインが防いだと報告されています。
人の肌で光老化やシミ・シワを防ぐことは確かめられていません。日焼け止めの代わりにもなりません。
| 研究の対象・種類 | 確認された主な結果 | 結果を読むときの注意点 |
|---|---|---|
| 健康な女性104人(二重盲検比較試験) | 2%配合品が保湿や肌表面・弾力の指標で基剤より好まれ、副作用はなかった | 期間の記載がなく健康な女性での結果であり、老化の改善を保証するものではない |
| 成人65人のアトピー性皮膚炎(左右比較試験) | 7%配合の専用クリームを28日間使い、非ステロイド性比較クリームと同等の結果だった | ステロイドとの比較ではなく、製造会社の関係者が著者に含まれる医療機器の試験 |
| 小児70人のアトピー性皮膚炎(基剤対照試験) | 1%エクトイン・0.1%ヒアルロン酸配合の医療機器で4週間後の症状点数が基剤より改善した | ヒアルロン酸との配合品であり、製品会社の助成による海外の医療機器クリームの試験 |
| 臨床研究6本の系統的レビュー(計523人) | 5.5〜7.0%配合外用剤で乾燥やかゆみが改善し、中止は455人中7人と少なかった | 非盲検の試験も含まれ研究数が少なく、日本の化粧品の効能を示すものではない |
| 培養細胞の実験(UVAストレスモデル) | 紫外線A波による細胞内の信号放出やミトコンドリアDNA変異の一部を防いだ | 試験管内の実験であり、人の肌での光老化予防や日焼け止め効果は意味しない |
エクトインの使い方とスキンケアへの取り入れ方
水に溶けやすく、基礎化粧品に配合されています。比較的穏やかとされる保湿成分で、朝夜どちらのお手入れにも使われます。
エクトインが配合されている化粧品の種類
水になじみやすい低分子のため、化粧水や美容液などに配合されています。
乳液やクリームなど油分を含む製品にも配合されています。組み合わせる保湿成分や油分量で使用感が変わるため、夏や朝は化粧水・乳液、冬や乾燥時はクリームなど好みに合わせて選んでみてください。
効果的な使い方と朝夜のスキンケア手順
保湿成分なので朝夜のお手入れに取り入れられます。朝は日中の乾燥対策になり、夜は入浴後の水分が逃げやすい肌を整えます。日中は日焼け止めを併用してください。
洗顔後の清潔な肌に、水分の多い化粧水、美容液、油分の多い乳液やクリームの順で重ねるのが基本です。製品の説明があればそれに従ってください。
強くこすらず手のひらで優しく広げ、洗顔や入浴の後は水気を軽く押さえて早めに保湿を始めましょう。
- 洗顔後の清潔な肌に、化粧水などの水分が多いアイテムから順番になじませる
- 乾燥が気になる目元や口元には、こすらず手のひらで優しく押さえるように重ね塗りする
- 朝のスキンケアで使う場合も、外出前には別途日焼け止めを塗って紫外線対策を行う
- 化粧水だけで終わらせず、最後に乳液やクリームを重ねて水分の蒸発を防ぐ
エクトインと一緒に配合される成分と重ね方
水分を抱えるヒアルロン酸や角層のすき間を埋めるセラミド、肌荒れを防ぐパンテノール(プロビタミンB5)などと一緒に配合されることもあります。ただ、組み合わせて効果が上乗せされるかや、併用したときの安全性を確かめた化粧品の研究は見当たりません。

油分を含む乳液やクリームを重ねると水分の蒸発を防ぎやすくなります。レチノールやビタミンC誘導体、角質ケアの酸を使う際に保湿として合わせる方法もありますが、重ねる場合は敏感なときほど1品ずつ試してください。


エクトインを使う際の注意点
比較的穏やかな保湿成分ですが、すべての人に肌トラブルが起きないわけではありません。軽い刺激感の可能性や、皮膚疾患がある場合の医療との使い分けを知っておきましょう。
副作用や肌への刺激のリスク
健康な女性104人の2%配合品の試験では副作用はありませんでした1)。一方、アトピー性皮膚炎患者を含む455人のレビューでは副作用による中止が7人で、多くは塗ったときの軽いヒリヒリ感やチクチク感で時間とともにおさまっています4)。
小児のアトピー性皮膚炎でエクトイン1%・ヒアルロン酸0.1%配合の医療機器クリームを使った試験では、軽い皮膚の有害事象が配合群8人(23.5%)、基剤群2人(5.7%)にみられました3)。肌荒れ時は一時的な刺激を感じることがあります。
市販品では防腐剤や香料、アルコール、界面活性剤などが合わない場合もあります。赤みやかゆみ、腫れ、強いヒリつきが続くときは中止して洗い流してください。
使用を避けた方がよい人や場面
過去にエクトイン配合品で赤みやかゆみなどのアレルギー反応や接触皮膚炎が出た人は使用を避けてください。傷やただれ、じゅくじゅくした湿疹、強い赤みがある部位に自己判断で化粧品を塗ると悪化するおそれがあります。
肌が敏感な時期は、腕の内側などで少量を試してから使い始めると安心です。
化粧品と皮膚科の処方薬との違い
欧州では5.5〜7.0%配合の専用クリームが医療機器として使われています4)。日本の市販品は配合濃度が不明な一般の化粧品で、病気を治したり炎症を抑えたりする薬ではありません。
海外の専用クリームの併用でステロイド外用薬などの必要量が減った報告はありますが、日本の化粧品に当てはめて処方薬を自己判断で減らしたり中断したりせず、主治医の指示に従ってください。
強いかゆみや赤みがあるときは化粧品で様子を見ず、皮膚科を受診して日常の保湿品と処方薬を使い分けましょう。
| 確認したい場面 | 主な注意点 | 対処の目安 |
|---|---|---|
| 塗った直後の違和感 | 肌荒れ時は軽いヒリヒリ感やチクチク感が出ることがある | おさまらない場合や赤み・かゆみが出る場合は洗い流して中止する |
| 傷や強い湿疹があるとき | 化粧品の基剤や添加成分が刺激になり悪化するおそれがある | 化粧品の自己判断での塗布は避け、皮膚科で診察を受ける |
| 皮膚科で治療中のとき | 市販の化粧品は処方薬や海外の医療機器クリームの代わりにはならない | 自己判断で処方薬を中断せず、併用する保湿品は医師に相談する |
| 敏感肌で新しく試すとき | エクトイン以外の配合成分が肌に合わない可能性がある | 顔全体に塗る前に、腕の内側などで少量を試して様子を見る |
エクトインと似た成分との違い
同じく保湿やバリア機能の補助に使われるヒアルロン酸、グリセリン、セラミド、ヘパリン類似物質とは、水分を抱える仕組みや働き方が異なります。
ヒアルロン酸やグリセリンとの違い
ヒアルロン酸は皮膚などにもある高分子の多糖類で、角層表面にとどまりうるおいの膜をつくります。エクトインは低分子の適合溶質で、水分子と強く結びついて水の層をつくる点が異なります。

グリセリンは吸湿性に優れた基本的な多価アルコールです。エクトインは両性イオンとしてたんぱく質や細胞膜のまわりに安定した水のかたまりをつくる特徴があり、グリセリンと一緒に配合されることもあります。

セラミドとの違い
セラミドは角層細胞のすき間を満たす細胞間脂質の主成分で、水分と油分が重なるラメラ構造をつくり水分の蒸発や外部刺激を防ぎます。

水溶性のエクトインはすき間を直接埋める脂質ではなく、水を抱え込んで水分の蒸発を抑える働きが報告されています。水分を保つエクトインと脂質の壁を補うセラミドは、一緒に配合されることもあります。
| 成分名 | 主な性質と由来 | 肌での働き方の特徴 |
|---|---|---|
| エクトイン | 好塩菌などがつくる水溶性の適合溶質 | 水分子と強く結びつき、水の層をつくって角層のうるおいとバリアを支える |
| ヒアルロン酸 | 生体にも存在する高分子の多糖類 | 肌表面で多くの水分を抱え込み、うるおいの膜をつくる |
| グリセリン | 水になじみやすい基本的な多価アルコール | 吸湿性によって水分を引き寄せ、しっとり感を保つ |
| セラミド | 角層の細胞間脂質を構成する脂質成分 | 角層細胞のすき間を埋め、水分の蒸発を防ぐバリアをつくる |
| ヘパリン類似物質 | 生体成分に似た構造をもつ水溶性の保湿成分 | 医薬部外品や処方薬で、親水性と保水性により角層の水分を保つ |
ヘパリン類似物質との違い
ヘパリン類似物質は処方薬や医薬部外品の有効成分として使われる水溶性成分で、多くの親水基により角層の水分保持機能を高めて乾燥肌や肌荒れ、ひび・あかぎれを防ぎます。

エクトインは日本で医薬部外品の有効成分として承認されているか確認されておらず、一般化粧品の保湿成分として扱われます。肌荒れ予防の医薬部外品ならヘパリン類似物質、日々の化粧水や美容液ならエクトインと目的に応じて選べます。
まとめ
エクトインは、塩分の多い過酷な環境にすむ微生物が水分を守るためにつくる成分で、化粧品では角層のうるおいを保ちバリア機能を支える保湿成分として使われています。記事の要点を整理します。
- 塩分の濃い環境にすむ好塩菌などがつくる適合溶質で、水分子と強く結びつく性質をもつ
- 角層の水分蒸散を抑えてうるおいを保ち、乾燥から肌のバリア機能を支える働きが期待できる
- 化粧水や美容液、クリームなどに配合され、朝夜の保湿ケアに取り入れられる
- 海外の医療機器クリームの臨床研究はあるが、日本の市販化粧品は病気を治す薬ではない
毎日の保湿ケアに取り入れやすい成分ですが、肌に合わない場合や強い乾燥・かゆみ・赤みなどの気になる症状がある場合は皮膚科を受診してください。
よくある質問
参考文献
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2) Marini, A., Reinelt, K., Krutmann, J., & Bilstein, A. (2014). Ectoine-containing cream in the treatment of mild to moderate atopic dermatitis: A randomised, comparator-controlled, intra-individual double-blind, multi-center trial. Skin Pharmacology and Physiology, 27(2), 57–65. https://doi.org/10.1159/000351381
3) Alexopoulos, A., Dakoutrou, M., Nasi, L., Thanopoulou, I., Kakourou, T., Kontara, L., Douladiris, N., Galani, M., Xepapadaki, P., Doxani, C., Mprotsis, T., Zintzaras, E., Papadopoulos, N. G., Kanaka-Gantenbein, C., & Chrousos, G. P. (2023). A randomized, observer-blind, vehicle-control, multi-center clinical investigation for assessing the efficacy and tolerability of a 1% ectoine and hyaluronic acid 0.1%-containing medical device in pediatric patients with mild-to-moderate atopic dermatitis. Pediatric Dermatology, 40(1), 78–83. https://doi.org/10.1111/pde.15117
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