赤みやニキビのようなブツブツが顔に現れ、ときにはかゆみやヒリヒリ感を伴う場合もある「酒さ」。
最初のうちは赤みが出たり消えたりを繰り返すので、経過を様子見している間に悪化させてしまう方も少なくありません。
当ページでは、酒さの原因やかゆみについて、食べ物やストレスとの関係や誤ったスキンケアなど日常生活で気をつけるべきことを解説しています。
酒さの治療方法もまとめていますので、酒さを改善したいとお考えの方はぜひ参考にしてくださいね。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
酒さとは
酒さは、赤み・ブツブツ・かゆみなどの肌荒れが起こる、いわゆる「赤ら顔」の一つです。
30代以降の女性に認めることが圧倒的に多く、近年では酒さで悩む人が増えていると言われています。
「世界中で酒さと診断された方は4億2000万人以上いる」との研究結果もあり、決して珍しい疾患ではありません1)。
赤ら顔=酒さではない
酒さでクリニックにいらっしゃる方のなかには、酒さであると診断されるまでに非常に長い時間がかかった方が多くいます。
実際に、私たち皮膚科医にとっても、酒さは判断が難しい疾患の一つです。
なぜ皮膚の専門家である皮膚科医であっても酒さの判断がむずかしいのかというと、赤ら顔=酒さではないからです。
酒さのほかにも赤ら顔を呈する皮膚疾患がありますので、次で解説します。
酒さ以外の赤ら顔を呈する皮膚疾患
赤ら顔を呈する皮膚疾患はさまざまで、たとえば接触皮膚炎が挙げられます。
接触皮膚炎とはいわゆる「かぶれ」のことですが、かぶれと一言でいっても例えば金属アレルギーに代表されるアレルギー性の接触皮膚炎から花粉などが肌に付着して引き起こされる一次刺激性のかぶれも含まれます。
それ以外にも、脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎なども赤ら顔を呈する皮膚疾患の一つです。
- 酒さ
- 接触皮膚炎
(金属アレルギー、花粉や洗剤などの一次刺激性のかぶれ) - 脂漏性皮膚炎
- アトピー性皮膚炎
赤ら顔の症状があったときは、原因は何なのか、どの皮膚疾患に該当するのかを慎重に見極め、適切に治療する必要があります。
酒さと脂漏性皮膚炎を併発している場合も
酒さの患者さんのなかには純粋な酒さの方もいらっしゃいますが、脂漏性皮膚炎を併発している方も多く見受けられます。
脂漏性皮膚炎など併発しているほかの病態に酒さが隠れてしまっている患者さんも非常に多いので、酒さであると診断されるまで時間を要するケースが少なくありません。
酒さの原因についての解説動画(YouTube)
一般的な酒さの経過
私たち皮膚科医が酒さと診断するには問診が非常に大切で、なかでも重要なのが、酒さの経過と悪化因子です。
ここでは、一般的な酒さの経過を解説します。
紅斑毛細血管拡張型
一般的な酒さの経過は、まずはほてりを伴う赤みが眉間や頬、鼻に出ます。
最初のうちは、赤みが出たり引いたりを繰り返しますが、時間が経つにつれて持続するようになってきます。
丘疹膿疱型
さらに症状が進行するとニキビのような丘疹、膿疱が頬を中心に出始め、徐々に顔全体へと広がっていきます。
こういった症状に加えて、かゆみを伴うケースも見受けられます。
腫瘤型(鼻瘤)
比較的稀なのですが、腫瘤型(鼻瘤)といって、鼻の先端がミカンの皮のように凸凹になってしまう症状もあります。
肥厚した皮膚や大きくなった鼻が特徴で、女性よりも男性の患者さんが多いです。
眼型(腫れ・結膜炎・角膜炎)
ほかにも、目の周りが腫れたり結膜炎や角膜炎を伴ったりする眼型の酒さがあります。
眼型では多くの場合、紅斑毛細血管拡張型や丘疹膿疱型など顔の酒さの症状も同時に起こります2)。
酒さの原因・悪化因子
上記のような経過のチェックが酒さの診断に非常に重要ですが、それに加えて悪化因子があるか否かの確認もとても大切です。
残念ながら、酒さの原因について現時点ではまだ完全に解明されている訳ではないのですが、悪化因子がいくつかあると分かっています。
自然免疫の亢進(過剰反応)
酒さの悪化因子として挙げられるものに、自然免疫の亢進(過剰反応)があります。
ウイルスや細菌などの異物から身体を守るのが免疫ですが、細かくいうと「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類があります。
自然免疫は、ウイルスなどが皮膚に侵入した際に、真っ先にやっつけようとする防御システムを指します。
生まれたときから備わっているシステムで、かぶれなどのアレルギー性のものとは異なり、誰にでも起こり得る免疫応答です。
対して、獲得免疫は後天的に身につく防御システムで、侵入してきた病原体に対して対処法を学習し、それぞれの病原体に合わせた抗体を作って攻撃します。接触皮膚炎のかぶれは、獲得免疫の応答です。
酒さの悪化因子になる
自然免疫(非自己に対する迅速な免疫応答)
マクロファージ、顆粒細胞 など
アレルギーの原因になる
獲得免疫(抗原特異的な免疫応答)
T細胞、B細胞 など
自然免疫、獲得免疫のどちらも私たちの身体に欠かせないものですが、過剰に反応してしまうと何らかの疾患が起きる原因となります。
酒さの患者さんは自然免疫が亢進していると言われ、ちょっとした刺激でもすぐに反応してしまう「超敏感肌」のような状態です。
自然免疫を亢進させる刺激(原因)には、次のようなものが挙げられます。
自然免疫を亢進させる原因
- 紫外線
- 温暖差
- ニキビダニ
紫外線
自然免疫を亢進してしまう原因の代表的なものが紫外線です。
紫外線は自然免疫のカテリシジンを過剰に誘導してしまい、それが引き金となってプロテアーゼと呼ばれるほかのたんぱく質の活動を刺激します。
その結果として炎症や毛細血管の増殖による赤みをもたらします。
温暖差
暑いお風呂に入る、クーラーの効いた室内から暑い屋外に出る、などの急激な温暖差は、酒さを悪化させる原因です。
また、反対に寒いところで自然免疫が亢進して、酒さが悪化する方も稀にいます。
温暖差で酒さが悪化する仕組みは、紫外線と同じで「カテリシジンの過剰誘導 → プロテアーゼの活発化 → 炎症、毛細血管の増殖」です。
ニキビダニ
ほぼすべての人の皮膚に存在するニキビダニ(毛包虫性ざ瘡)も、自然免疫を亢進させる原因です。
自然免疫を司る細胞に存在するTLR-2をニキビダニが活性化させ、さらにプロテアーゼが活発に働いて赤みや丘疹、膿疱など酒さの症状が引き起こされます。
酒さの患者さんの肌は、酒さではない人に比べてニキビダニの数が多いケースがよくあります3)。
誤ったスキンケア
近年酒さの患者さんが増えている背景の一つとして、誤ったスキンケアがあるのではないか、と考えられています。
誤ったスキンケア
- 日焼け止めを塗らずに過ごす
- 多機能なスキンケアアイテムを塗り重ねる
- 過剰な洗顔、摩擦を伴う洗顔
紫外線は酒さの悪化因子ですので、日焼け止めを塗らないで過ごしてしまうと酒さが悪化してしまいます。
また、赤みや肌荒れを改善しようと、いろいろなスキンケアアイテムを塗り重ねているケースもあるかと思いますが、誤ったケア方法が酒さの悪化因子になっている可能性があります。
近年の化粧品は、昔に比べて多機能になっています。そのぶん配合されている化粧品成分が増えている傾向があり、そのいずれかの成分によって症状が悪化してしまう方がたくさんいらっしゃるのも事実です。
なかでも界面活性剤や防腐剤に反応する場合が多いですが、それに加えて近年では美白成分で症状が悪化してしまうケースが多く報告されています。
さらに、過剰な洗顔や摩擦を伴う洗顔を行っていると、バリア機能の低下によって酒さの症状が悪化してしまう可能性があります。
食べ物
食生活の変化も酒さの方が増えている原因の一つと考えられます。
酒さを悪化させる食べ物
- アルコール
- カフェイン
- スパイス・香辛料
昔ならではの日本食には辛い食品はほとんどありませんが、アジア料理に代表される香辛料を含む食事が近年では一般的になっていますよね。
こういった食生活の変化も、酒さの患者さんが増えている一因ではないかと考えられます。
アルコール、カフェイン、スパイス・香辛料などの刺激物は酒さの悪化因子となるので、スキンケアなどの外的な要因だけでなく、ふだんの食生活についても「悪化原因があるのではないか」と確認してみましょう。
ストレス
精神的なストレスも、酒さを悪化させるきっかけになり得ます。
米国酒さ協会による酒さ患者544人を対象とした調査では、62%の人が「少なくとも月に1回はストレスによる酒さの再発を経験している」と回答しました4)。
仕事や子育て、人間関係などの日常的なストレスはもちろんですが、酒さであること自体をストレスに感じ、それが原因で酒さが悪化してしまう可能性も。
そうなってしまうと、酒さがどんどん悪化していく負のループに陥ってしまいますので、酒さを改善してストレスから解放されるために、できるだけ早く治療をスタートさせましょう。
ステロイド
「酒さと脂漏性皮膚炎を併発している場合も」の項目で少し触れましたが、酒と診断されるまでの間、脂漏性皮膚炎と診断を受けてステロイド外用薬を塗っていた方がいらっしゃいます。
ステロイドは酒さの治療薬にはならないだけでなく、「酒さ様皮膚炎」が起こる原因になります。
酒さ様皮膚炎が起こっている場合はもちろん、ステロイドを塗っている酒さの患者さんは、直ちに使用を中止する必要があります。
ただし、ステロイドは「リバウンド現象」といって、塗るのをやめると悪化する場合がありますので、主治医と相談しながら酒さの治療薬へ移行していきましょう。
ステロイドが“悪”なのではなく正しく使用すればとても有効な薬ですが、とくに顔に使用する際には医師の診断に従って慎重に扱わなければならない点を覚えていただければと思います。
酒さの治療
酒さの治療は、タイプ(病型)によって適した方法が選択されます。
タイプ別の酒さの治療
紅斑毛細血管拡張型 | 外用薬・レーザー治療 |
丘疹膿疱型 | 外用薬・内服薬・レーザー治療 |
腫瘤型(鼻瘤) | 切除手術・炭酸ガスレーザー |
眼型(腫れ・結膜炎・角膜炎) | 点眼薬 |
上記の治療法と併用して、日本では漢方薬が処方される場合があります。
酒さを改善するまでには、基本的には数カ月以上の治療期間が必要ですので、根気強く通院していきましょう。
酒さの治療について詳しくは下記の記事をご覧ください。
酒さの方のスキンケア
酒さについては日本ではまだガイドラインがありませんが、欧米(ヨーロッパ・アメリカ)ではガイドラインが作成されている国が多いです。
欧米のガイドラインでは薬物療法にも触れていますが、どのガイドラインでも薬物療法を行う以前に適切なスキンケアを行うように明記されています。
ここで言う適切なスキンケアとは、以下の3つを指します。
- シンプルなスキンケア
- 徹底したUVケア
- 優しい洗顔
もちろん薬物療法も酒さの改善には非常に重要なのですが、薬物療法を行う以前に適切なスキンケアを行っていないと、薬を使ってもなかなか改善しません。
「皮膚科で薬をもらい治療していても一向に良くならない」となれば精神的なダメージも大きいかと思いますので、そのような事態を避けるためにも、酒さにお悩みの方はまず、ご自身のスキンケアを見直していただければと思います。
シンプルなスキンケアが重要
多機能な化粧品を、化粧水、乳液、美容クリームといったように塗り重ねてしまうと、それだけ化粧品の成分も多くなりますので、酒さが悪化してしまう原因になります。
そのため、酒さの方はとにかくシンプルなケアが重要です。
シンプルなケアと言うと、化粧水、乳液、美容クリームの一連を塗るイメージをされている方が多いのが現状です。
しかし、ここで皮膚科医の私たちが言う「シンプルなケア」とは、ワセリンのみ、ヒルドイドのみ、のような使うアイテムを極限まで減らしたケアを言います。
酒さの方は超敏感肌の状態にありますので、前提として「使う化粧品のアイテムをできるだけ少なくするのが非常に重要」だと押さえていただければと思います。
過剰な洗顔を避ける
酒さの方はバリア機能の低下が伴っていると考えられますので、とにかく優しく洗顔を行うのがとても重要です。
たっぷりの泡を肌の上で転がすように、クルクルと優しく洗顔するようにしましょう。
「ニキビダニを減らし清潔を保つためには、こまめに洗顔したほうが良いのか?」との質問を受けることもありますが、洗顔の頻度は1日2回でじゅうぶんです。
過剰な洗顔は肌に強い刺激を与え、ターンオーバーの乱れを引き起こす原因になりますので、洗顔の仕方にも注意していただけたらと思います。
紫外線対策を徹底する
紫外線対策は、夏だけでなく一年中必要です。
紫外線と言えば夏のイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、寒い時期であっても地上に届いていますし、酒さの方にとって時期を問わずの大敵です。
SPF30・PA+++以上の日焼け止めを選び、1円玉2個分を顔全体に塗るのが目安です。
酒さを悪化させてしまわないように年間を通して日焼け止めを必ず塗り、日傘や帽子なども活用しながら紫外線対策の徹底を図りましょう。
まとめ
酒さの原因は現在のところ100%明確になっておらず、未だ研究途中であると言えます。
とはいえ、悪化因子がいくつかあることは分かっていて、それぞれの症状に合った治療方法もあります。
酒さの原因まとめ
- 赤ら顔=酒さではなく、酒さと脂漏性皮膚炎を併発している場合もある
- 酒さと見られる症状があるときは、初期診断が非常に重要である
- 酒さの一般的な経過は赤みが出たり引いたりを繰り返すことから始まる
- 酒さの悪化因子は複数あるため、多方面から悪化因子を排除するのが大切
- 薬物治療はもちろん、スキンケアにも注意
酒さの赤みやブツブツ、かゆみやヒリヒリ感などを改善するためには、まずは皮膚科での治療を検討してください。
スキンケア、食べ物、ストレスなどで悪化してしまう可能性がありますので、治療と同時に普段の生活も見直しながら、酒さを早期改善させていきましょう。
酒さの原因でよくある質問Q&A
参考文献
1) New Study Finds 415 Million People May Suffer From Rosacea Worldwide/National Rosacea Society
2) 酒さ – 17.皮膚の病気/MSDマニュアル
3) Causes Of Rosacea: Demodex Mites & Microbes/National Rosacea Society
4) Addressing Stress Can Minimize Flare-Ups,New Survey Confirms/National Rosacea Society