シミは、大きく「肝斑」「老人性色素斑」「そばかす」「炎症後色素沈着」の4つに分類されます。
肝斑は一般的なシミとは治療法が異なり、誤った方法でケアすると肝斑が悪化するため、初回の診察で正しく見分ける必要があります。
当ページでは、肝斑とシミの見分け方について、違いやそれぞれの治療法を解説しました。
気になるシミが肝斑なのかどうかを見極め、悪化させずに正しい治療ができるように、ぜひ参考にしてくださいね。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
肝斑とシミ(老人性色素斑)の見分け方
「肝斑」と、狭義のシミである「老人性色素斑」は、できている場所や左右対称かどうか、形などで見分けます。
肝斑とシミの見た目の違い
肝斑 | シミ | |
---|---|---|
できやすい場所 | 頬骨、おでこ、鼻の下、あご | 頬骨の高いところ、こめかみ |
左右 | 対称 | 非対称 |
形 | 蝶が羽を広げたような形 | 円形 |
輪郭 | 不明瞭 | 明瞭 |
色の濃さ | 淡褐色、暗褐色など | 薄い茶色~黒 |
大きさ | さまざまだが、比較的大きい | 直径数㎜~数十㎜ |
シミの病態は個人差が大きく、肝斑の特徴が分かりやすく現れているものもあれば、一般の方がパッと見ただけでは肝斑なのかシミなのか判断しにくいものもあります。
上記はあくまでも典型的な特徴を表したものですが、とくに左右対称な点、輪郭がモヤッと不明瞭な点、色の濃さは、見分ける際の参考になります。
肝斑の特徴
肝斑は、左右対称にできる点が最も分かりやすい特徴です。
輪郭は不明瞭で、ぼんやりと蝶が羽を広げた形になるものが多く見られます。
頬骨辺りにできやすいですが、前額、鼻の下、下あごなどにできる場合もあり、30~40代の女性に多いシミです。
シミの特徴
いわゆる「シミ」と呼ばれる老人性色素斑は、30~40代から出現する方もいれば、60代を過ぎてから目立つようになる方もいます。
輪郭が不明瞭な肝斑に対して、シミははっきりとした明瞭な輪郭が特徴です。
大きさは人によりさまざまですが、初めは薄い茶色から、しだいに濃い黒へと変化していきます。
肝斑とシミを見分ける際のポイント
肝斑とシミを見分ける際は「左右対称であるか否か」をチェックしてみましょう。左右のシミを確認して、対称にできているのであれば肝斑の可能性が高いです。
また、周りの肌との境界がハッキリしていて円形の場合はシミ、ぼんやりと境界がハッキリしない・形が分かりにくい場合は肝斑が疑われます。
ただし、肝斑の症状が進行すると、濃い茶色になり周りの肌との境界がハッキリしてくるケースもあります。
肝斑とシミは分かりやすいものであればご自身でも見分けられますが、どちらも混在している場合もあり、分かりにくい方も多いです。
ご自身では判断しにくく、それぞれ治療方法が異なりますので、いちど皮膚科で診断を受けてみてください。
肝斑・シミができる原因の違い
メラノサイトでメラニンがつくられる点は肝斑もシミも同じですが、メラノサイトが活性化する原因に違いがあります。
肝斑ができる原因
肝斑ができる原因は今のところ明確に分かっていませんが、関係性が疑われるものにはいくつかあり、その代表的なものに女性ホルモンがあります。
- 女性ホルモン
- 紫外線
- 物理的な刺激
- 遺伝
妊娠・出産、ピルの服用などで女性ホルモンのバランスが変化すると、肝斑が悪化する場合があります。
また、紫外線によるダメージや摩擦などの物理的な刺激も悪化原因のため、UVケアや肌を労わった優しい洗顔が重要です。
さらに、肝斑には遺伝的要因があるとも言われています1)。親族に肝斑の方がいれば必ずしも肝斑を発症する訳ではありませんが、遺伝的要因がある点も覚えておくと良いでしょう。
シミができる原因
シミの主な原因は、紫外線ダメージと加齢です。
- 紫外線
- 加齢
- 物理的な刺激
紫外線を浴びると皮膚の中で起きた炎症がきっかけで、メラニン生成が促されてシミができます。
さらに、加齢によって肌の再生機能が衰え、ターンオーバーでメラニンをじゅうぶんに排出できないと、シミとなって残ってしまいます。
ターンオーバーとシミの関係
顔の表皮は約28日間かけて生まれ変わりますが、この生まれ変わりを「ターンオーバー」と呼びます。
加齢によるターンオーバーの低下は、シミができる原因の一つです。
洗顔時に力を入れて洗う、タオルでゴシゴシこするなどの摩擦もメラノサイトが活性化してシミができる原因になりますので、過度な刺激を与えないのも大切です。
そばかすとの違い
医療用語で雀卵斑(じゃくらんはん)と呼ばれる「そばかす」は、スズメの卵の模様に似た見た目から、その名前がつけられました。
頬や鼻を中心にして散らばるように点在するシミの一種ですが、大人になってから発生する肝斑に対して、そばかすは幼児期からでき始めて思春期になると目立つ傾向があります。
季節や年齢によって色が濃くなったり薄くなったりしますが、完全に消えるケースは稀で、20代から新しいそばかすができる方もいます。
そばかすの主な原因は、遺伝と紫外線です。
肝斑とそばかすの違い
肝斑 | そばかす | |
---|---|---|
できる時期 | 30~40代 | 幼児期(20代~できるケースも) |
できる場所 | おでこ、頬骨、鼻の下などに左右対称にできる | 鼻を中心に散らばるように点在 |
大きさ | さまざまだが、比較的大きい | 直径1~3㎜ |
輪郭 | 不明瞭 | 明瞭 |
色 | 淡褐色、暗褐色など | 薄い茶色 |
原因 | 女性ホルモン、紫外線、摩擦、遺伝 | 遺伝、紫外線 |
そばかすは、小さな点状のシミがたくさん散らばって見えますが、近くでよく見てみると一つひとつの形は三角や四角のものが多いです。
また、境界が不明瞭な肝斑に比べて、斑点の輪郭が明瞭なのがそばかすの特徴です。
肝斑・シミそれぞれの治療法
肝斑とシミはそれぞれに、違ったアプローチで治療を行います。
誤った治療を行うと逆に肝斑が悪化してしまう可能性もありますので、正しい診断を受けられるクリニック選びが重要なポイントです。
肝斑の治療法
肝斑は炎症性のシミですので、ちょっとした刺激で悪化してしまう可能性があります。
そのため、ほかのシミとは異なりアグレッシブな治療ができません。
いわゆる「シミ取りレーザー」のようなスポットレーザー治療は肝斑が悪化する可能性が高いです。
より慎重な治療が望まれる肝斑で選択される治療法は、主に下記の5つです。
肝斑には美容機器を使った治療は第一選択にはならず、まずは外用薬や飲み薬などのレーザー以外の治療法が推奨されます。
肝斑を早く改善したくて最初から美容施術を受けに来る方も非常に多いのですが、とくに肝斑の範囲が広い、色が濃いような場合は、トラネキサム酸の飲み薬やハイドロキノン・アゼライン酸などの外用薬から始めます。
なぜかと言うと、内服薬や外用薬である程度改善してからレーザートーニングを行うほうが、トラブルなく治療が成功する確率が高いためです。
ただ、肝斑の症状がそこまでひどくなく、早く治したい方であれば、最初からレーザートーニングと内服薬を併用する場合もあります。
ご自身の症状に適した治療法について、副作用等のリスク、かかるコストなどを総合的に主治医と相談しながら肝斑をケアしていきましょう。
シミの治療法
シミに選択される治療法は、主に下記の5つです。
シミに選択される治療法
- スポットレーザー
- IPL
- 外用薬
- 内服薬
- ケミカルピーリング
シミ治療の第一選択はスポットのレーザー治療です。具体的には、Qスイッチレーザーやピコレーザーが挙げられます。
シミの原因となるメラニンを破壊する治療法で、1回の施術で効果を実感しやすいのがメリットですが、その分ダウンタイムが長いデメリットもあります。
シミの範囲が広い方やダウンタイムを短くしたい方であれば、IPL(光治療)も選択肢となりますので、主治医と相談してみましょう。
レーザー治療やIPLに加えて、外用薬や内服薬を併用する場合もあります。
肝斑・シミのセルフケア
肝斑やシミを治療する際は、皮膚科でどの治療を選択するかもポイントですが、ご自宅でのセルフケアも非常に重要です。
せっかく皮膚科で治療を行っても、ご自身でのケアを怠ると「シミが改善しない」「シミがまた復活してしまう」などの事態にもなりかねません。
セルフケアで気をつけていただきたいのが、以下の点です。
- 紫外線対策の徹底
- 過度な摩擦を与えない
- 美白成分が含まれる化粧品等でのスキンケア
紫外線対策の徹底
紫外線は肌の大敵ですので、日常的に日焼け止めを塗るなどして、UVケアを徹底しましょう。
クリームや乳液タイプの日焼け止めの場合、パール玉4個分を顔~首に塗るのが目安です。
日焼け止めには「紫外線吸収剤」と「紫外線散乱剤」の2タイプの原料がありますが、どちらも配合された日焼け止めを推奨しています。
ただし、紫外線吸収剤は稀にアレルギー反応を起こす方もいますので、肌荒れが起きたときはただちに使用を中止し、ノンケミカルの日焼け止めに切り替えましょう。
過度な摩擦を与えない
誤ったスキンケアで、肌に過度な摩擦を与えて肝斑やシミが悪化している方もいます。
誤ったスキンケアの例
- スクラブ剤の頻繁な使用
- クレンジング剤の使用量が少なすぎる
- ゴシゴシこする洗顔
- 化粧品を塗る際に力を入れすぎる
とくにクレンジング剤の使用量が少なすぎて肌に摩擦を与えているパターンや、皮脂の気になる部分をゴシゴシとこすって洗顔しているパターンが多いです。
また、クレンジングシートは手軽に使えて便利ですが、過度な摩擦によって肝斑やシミを悪化させる原因になりますのでおすすめできません。
肌に過度な摩擦を与えないように、クレンジング、洗顔、化粧品の塗り方をいちど見直してみましょう。
美白成分が含まれる化粧品等でのスキンケア
スキンケアのおすすめはアゼライン酸が配合された化粧品「DRX®AZAクリア®」(クリニック専売)ですが、ドラッグストアなどで購入できる美白成分が含まれた化粧品でのケアも有効です。
コウジ酸、アルブチン、トラネキサム酸 | メラニンをつくらせない |
---|---|
ビタミンC誘導体 | メラニンを排出 |
ナイアシンアミド | メラニンの輸送を阻害、ターンオーバー促進 |
美白の有効成分として承認されている上記のようなものを配合した化粧品でのケアを同時に行うと、シミ治療の効果アップが期待できます。
ただし、美白化粧品のみではシミを完全には消せないので、やはり医療機関での治療がマストになる点は押さえておいてください。
まとめ
30~40代のアジア人に多いとされる肝斑。一般的なシミとは治療方法が異なり、誤った治療を行うと悪化する可能性もある厄介な皮膚疾患ですが、正しい治療とセルフケアで改善できます。
肝斑とシミの見分け方、治療法まとめ
- 肝斑は左右対称にぼんやりと広がっているのが特徴
- シミ(老人性色素斑)と混在している場合もある
- 治療の第一選択は外用薬や内服薬
- 治療と同時にセルフケアも重要
肝斑は、シミやそばかす以外にも「後天性真皮メラノサイトーシス」との見分けも重要なポイントになりますので、肝斑が疑われる方はいちど皮膚科に足を運んでいただくのがおすすめです。
肝斑とシミの見分け方でよくある質問Q&A
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