肝斑(かんぱん)

肝斑 かんぱん

肝斑(かんぱん melasma)とは、日本人をはじめアジア女性の多くに認めるシミの一つであり、頬骨などに褐色の斑点が現れる症状です。

一般的に30〜40歳代の女性に特に多く見られるこの症状は、紫外線の影響に加えてホルモンバランスの変動、遺伝的要因などが主な原因として挙げられ、通常のシミ(老人性色素斑)とアプローチが大きく異なります。

ここでは肝斑の原因や特徴、治療法など詳しく解説していきましょう。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

肝斑(かんぱん)の症状

肝斑(かんぱん)は、30〜40代のアジア人に好発する色素異常症の一つです。発症頻度は人種間でも差があり、特にアジアやインド、中東といった肌の色(スキンタイプがⅢ〜Ⅴ)の人種で多く認める傾向が1)

これまでの報告で日本人ではおよそ30%近くの女性に認めると言われています2)

肝斑では、日光露出部を中心に不規則な形の淡い褐色斑を認め、メラニン色素の増加が原因です。特に頬などの部位において、左右対称に現れるのが典型的な特徴とされています。

初期段階では淡い褐色斑で周囲との境界が不明瞭なこともありますが、症状が進行すると色が濃く周囲の皮膚との境界がはっきり分かるようになり、褐色斑が融合して大きな面になることも。

肝斑の分類

肝斑は褐色斑の分布によって、主に以下のようなパターンに分類されます3)

引用元:Research Gate

顔面中央型:症例の50〜80%と大部分を占め、おでこ、鼻、上口唇など顔の中央に色素沈着を認め、目周りは避けて頬にも色素沈着が出現します。

メイラー型(顔面周辺型):頬(主に外側)を中心に色素沈着を認めるタイプで、男性ではメイラー型の頻度が高いことが報告されています4)

下顎型:色素沈着をフェイスライン〜顎に認め、紫外線ダメージを長期間受けた閉経後の女性に現れやすいタイプと考えられています5)

これらの他に、上記のタイプが混在した混合型や、顔以外の頚部や胸部、前腕などに認めるタイプも6)

また、病理学的にメラニンが沈着している層によって以下の4つに分類されることがあります7)

  • 表皮型
  • 真皮型
  • 混合型
  • 非分類型

病理学的な分類は、肝斑の治療方針を決定する際に特に重要になってきます。

参考文献

執筆の根拠にした論文等

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3) Oluwatobi A, et al. Melasma: an Up-to-Date Comprehensive Review. Dermatol Ther. 2017;7:305-318.
4) Sarkar R, et al. Melasma in men: a clinical, aetiological and histological study. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2010; 24(7):768-772.
5) Pagan RM, et al. Mandibular melasma. P R Health Sci J. 2000; 19(3):231-234.
6) Ritter CG, et al. Extra-facial melasma: clinical, histopathological, and immunohistochemical case-control study. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2013; 27(9):1088:1094.
7) Kang WH, et al. Melasma: histopathological characteristics in 56 Korean patients. Br J Dermatol. 2002; 146(2):228-237.

肝斑(かんぱん)の原因

肝斑の原因は完全には解明されていませんが、これまでの報告でいくつかの要因が指摘されています。

引用元:Verywell Health

肝斑の主な原因

原因説明
紫外線曝露肝斑の最大のトリガーと言われており、夏に悪化する傾向
ホルモン妊娠や経口避妊薬の内服によって肝斑が発症するケースが
遺伝半数近くで家族歴があることが報告
その他摩擦などが肝斑の原因になり得ることが指摘

紫外線の暴露

肝斑の最大のトリガーは紫外線と考えられています。紫外線にはUVA、UVB、UVCの3種類があり、そのうちUVAとUVBが地表に届き、肝斑の原因に関与。

肝斑の症状は夏に悪化し、冬に軽快するケースが一般的です。紫外線は酸化ストレスをもたらす活性酸素を産生させてメラノサイトの活動性を亢進させ、表皮のメラニン沈着を促します8)

肝斑の患者さんでは酸化ストレスのマーカーが高いことも報告9)

肝斑におけるメラニン生成にはいくつかの経路があると考えられています。

その一つがケラチノサイトや線維芽細胞が関与する経路で、紫外線に暴露されるとチロシンキナーゼ受容体c-kitを通して幹細胞因子(SCF)が分泌され、それによってメラニンが生成。

最近の研究から、肝斑部では、真皮内のSCFや表皮のc-kitの発現が増えていることが示されています10)

また、紫外線ダメージを受けたケラチノサイトは血管内皮増殖因子(VEGF)を産生し、このVEGFが肝斑においてメラノサイトの活性化に関与していると考えられています11)

最近では、ブルーライトなどの可視光線や赤外線が肝斑の原因となる可能性についていくつかの報告があります12)13)が、紫外線に比べるとその影響は低いと考えられており、現時点で十分なエビデンスはありません。

ホルモンの影響

ホルモンバランスの変動が肝斑の原因となることが広く認識されており、特に女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの影響が大きく、皮膚のメラニン産生を増加14)

これまでの報告で、肝斑の患者さんでは卵胞期と黄体期のいずれにおいてもエストラジオール(エストロゲンの前駆体)のレベルが高いこともわかっています15)

妊娠は肝斑のトリガーとして重要で、妊娠女性のおよそ15%程度に肝斑を認めることも報告16)。他にも低用量ピルの内服によって肝斑が発症するケースも多いです。

遺伝的要因

肝斑の発症には遺伝的要因も関与していると考えられており、およそ肝斑の患者さんの半数近くで家族歴があります16)17)

ゲノムワイド解析は行われておらず、関連遺伝子について完全には明らかになってはいませんが、色素形成や炎症、ホルモン、血管反応などに関連する遺伝子が指摘。

スキンタイプがⅣ以上の場合、より家族歴を認めることがわかっています18)

また、最近の研究によれば、肝斑患者の中で脂質代謝に関わる遺伝子の発現が少ないことが明らかにされて、このことから、肝斑の発症には皮膚のバリア機能の低下が関連している可能性も指摘19)

その他 

そのほか、肝斑患者さんでは抑うつ障害やストレス障害の合併率が高いという報告もあり、ストレスも肝斑の発症に影響を与える可能性があります20)

また、これまで拭き取り化粧品やスクラブ、フェイスマッサージといった摩擦によって色素沈着を認めるケースが数多く報告。

「摩擦性肝斑(frictional melasma)」と称され21)、通常の肝斑と分けて考えることが多いですが、広義の肝斑に含まれるという考え方もあります。

このように肝斑の原因は複雑であり、一因では説明できないものが多いです。肝斑の原因を理解することは、予防策を考えるうえでの第一歩となります。

参考文献

執筆の根拠にした論文等

8) Guinot C, et al. Aggravating factors for melasma: a prospective study in 197 Tunisian patients. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2010; 24(9):1060-1069.
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10) Kang HY, et al. The dermal stem cell factor and c-kit are overexpressed in melasma. Br J Dermatol. 2006; 154(6):1094-1099.
11) Kim E, et al. Modulation of vascular endothelial growth factor receptors in melanocytes. Exp Dermatol. 2005; 14(8):625-633.
12) Mahmoud BH, et al. Impact of long-wavelength UVA and visible light on melanocompetent skin. J Invest Dermatol. 2010; 130(8):2092-2097.
13) Duteil L, et al. Differences in visible light-induced pigmentation according to wavelengths: a clinical and histological study in comparison with UVB exposure. Pigment Cell Melanoma Res. 2014; 27(5):822-826.
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15) Mahmood K, et al. Role of estrogen, progesterone and prolactin in the etiopathogenesis of melasma in females. J Pak Assoc Dermatol. 2011;21(4):241–247. 
16) Moin A, et al. Prevalence and awareness of melasma during pregnancy. Int J Dermatol. 2006; 45(3):285-288.
17) Handel AC, et al. Risk factors for facial melasma in women: a case-control study. Br J Dermatol. 2014; 171(3):588-594.
18) Ortonne JP, et al. A global survey of the role of ultraviolet radiation and hormonal influences in the development of melasma. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2009; 23(11):1254-1262.
19) Lee DJ, et al. Defective barrier function in melasma skin. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2012; 26(12):1533-1537.
20) Deshpande SS, et al. Cross-sectional study of psychiatric morbidity in patients with melasma. Indian J Psychiatry. 2018; 60(3):324-328.
21) Mashiko T, et al. Skin hyperpigmentation in Asians: classification, diagnosis, and treatment. In: Aesthetic Plastic Surgery in Asians: Principles and Techniques. 2015:Boca Raton, Fla.: CRC Press; 53–70.

肝斑(かんぱん)の検査・チェック方法

肝斑は頬を中心に淡い褐色斑を認める色素性疾患で、一般的には「シミ」の一つとして認識されていて、シミと称される代表的な疾患には肝斑の他に以下のようなものが挙げられます。

疾患名説明
老人性色素斑紫外線によって頬などに認める境界明瞭な円形〜楕円形の褐色斑
雀卵斑いわゆる「そばかす」のことで、細かい褐色斑を広範囲に認め、遺伝的要因が大きい
後天性真皮メラノーシス(ADM)「アザ」の一種で目周りを中心に褐色〜暗紫色調の斑点を認め、真皮にメラニンの沈着を認める
炎症後色素沈着ニキビやアトピー性皮膚炎など慢性炎症の結果、メラニンが増加することで認める褐色斑
シミ

後天性真皮メラノーシスとの鑑別

上記疾患のうち、特に鑑別が必要になるのが後天性真皮メラノーシス(acquired dermal melanocytosis:ADM)です。

いずれも頬骨周囲に左右対称性の比較的境界不明瞭な褐色斑を認めますが、肝斑では主に基底層のメラニン増加(一部は真皮も)を認める一方、後天性真皮メラノーシスでは真皮にメラニンの増加を認めるため、より青色調になります。

また、肝斑では眼瞼周囲の皮膚は侵されず、後天性真皮メラノーシスではこめかみや鼻根部に小斑点を認め、これらの所見から両者を鑑別22)

後天性真皮メラノーシス

引用元:Austin Journal of Dermatology

肝斑と後天性真皮メラノーシスの鑑別ポイント

特徴肝斑後天性真皮メラノーシス
色調褐色調褐色〜灰色、青色
形状様々な大きさの褐色斑が見られ、しばしば融合する1~3mm大の点状色素斑が多発
配布顔の中心部や頬に対称性に見られることが一般的頬〜こめかみ、鼻根部などに対称性に広く分布する
紫外線の影響悪化を認める影響を受けない

皮膚科での検査

視診に加え、皮膚科では以下のような追加検査を行う場合があります。

Wood’s灯

特殊な紫外線ランプを使用して皮膚を照らし、肝斑の範囲や深さを詳細に視覚化する検査です。所見によって主に表皮性、真皮性、混合性に分類されます23)

引用元:Australian Journal of General Practice

Wood’s灯の紫外線は、メラニンが分布する層の深さによって色が変わって見え、表皮のメラニン濃度が増加している部位では、周囲の皮膚よりも色が濃く強調されて見える特性が。

反対に、メラニン濃度が低下した部分は明るく見えます(白斑など)。

そのため表皮性の肝斑の場合は肉眼と比較して色のコントラストがはっきりと見られ、真皮性の場合はそのような強調所見は認めません(ただし、現在は真皮性の肝斑の存在について賛否両論あります)。

混合型の場合はコントラストがある部位とない部位が混ざっています。

侵襲性も低く簡便に行うことができるため、診断のための補助的な手段としては有効ですが、日焼け止めや外用薬、血管病変などによって影響を受けやすく、その感度や特異度は低いと報告24)

また、スキンタイプがⅤ以上の場合では周囲の皮膚とのコントラストが不明瞭となり、非分類型となります。

ダーモスコピー

ダーモスコピーは、特別なルーペで拡大して皮膚の微小構造を観察する検査方法です。肝斑の場合、ダーモスコピーにて毛包開口部を温存したさまざまな色調の褐色のびまん性網状色素沈着を認めます。

ダーマスコープ

特に表皮性の肝斑の場合、暗褐色の偽網状色素沈着が散在し、色素沈着の程度だけでなく、血管の変化も可視化が可能です。

肝斑では、真皮血管の数や太さが有意に増加することが明らかになっており、さらにその血管の数は色素沈着の程度と比例することも報告されています25)。そのため肝斑の重症度を推測することも可能です。

皮膚生検

確定診断のために皮膚生検が行われることもまれにあります。生検とは皮膚の一部をくり抜き、病理学的な診断を行う検査方法です。

メラニンの沈着部位など詳細に診断することができますが、侵襲性が高い検査であるため一般的にあまり行われることはありません。

以上の方法を利用して肝斑の検査やチェックを行うことで、正確な診断と個別化されたアセスメントの策定が可能となります。

参考文献

執筆の根拠にした論文等

22) Watanabe S. Facial Dermal Melanocytosis. Austin J Dermatolog. 2014; 1(2):1006.
23) Sanchez NP, et al. Melasma: a clinical, light microscopic, ultrastructural, and immunofluorescence study. J Am Acad Dermatol. 1981; 4(6):698-710.
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25) Kim EJ, et al. Modulation of vascular endothelial growth factor receptors in melanocytes. Exp Dermatol. 2005; 14(8):625-633.

肝斑(かんぱん)の治療方法と治療薬

肝斑はさまざまな原因によって皮膚のメラニン色素が増加する色素異常症ですが、その病態は複雑で、それぞれの患者さんの状態に適した治療を選択する必要があります。

ここでは、肝斑の治療方法について解説いたしましょう。

治療方法

肝斑の治療にはいくつかの方法があります。以下の表は主に選択される治療方法をまとめたものです。

治療方法説明
外用治療メラニンの生成を抑制する成分などを含む化粧品や医薬品を皮膚に塗布
内服治療トラネキサム酸などを内服
ケミカルピーリング皮膚の表層を化学物質で剥離することによって皮膚のターンオーバーを促す
レーザー治療特定のレーザー機器を用いた方法で、レーザートーニングなど
マイクロニードルRF微細な針を皮膚に挿入し、その針先からRF(高周波)を照射し血管新生にもアプローチする方法

外用成分

肝斑の治療に使用される外用成分には、医薬品から化粧品までさまざまなものが利用されます。

メラニンの生成を抑制する成分

  • ハイドロキノン
  • アゼライン酸
  • アスコルビン酸
  • コウジ酸
  • アルブチン
  • システアミン

メラノサイトの活性化を抑制する成分

  • トラネキサム酸

その他

  • トレチノイン: ターンオーバーを促してメラニンの排泄を高める
  • ナイアシンアミド: メラニンのケラチノサイトへの輸送を阻害

ハイドロキノンの外用

肝斑治療のゴールドスタンダードと言われているのがハイドロキノンの外用

ハイドロキノン

2価フェノールの一つで、チロシナーゼ酵素阻害によってメラニンの生成を抑制する、強力な漂白成分です。通常クリニックでは2〜4%のハイドロキノンが処方されます。

海外では「Kligman’s formula」と言って2〜4% ハイドロキノンに加えて0.025〜0.05%トレチノインと1%ヒドロコルチゾン酢酸エステル(合成ステロイド、ロコイドの有効成分)の3剤の併用を行う場合が多いです26)

日本ではステロイドの副作用の懸念から、ステロイド外用薬を使用されることはあまりありません。

ハイドロキノンフリーの流れ

近年、世界的に「ハイドロキノンフリー」の風潮となっています。ハイドロキノンの長期使用によって外因性組織褐変症(Ochronosis)という、肌が黒くなる副作用が報告されてるからです。

さらに、発がん性に対する懸念があることから2001年以降ヨーロッパではOTCでの使用を禁止している他、アメリカFDAも2006年に注意喚起が。

発がん性については適切な使用においてそのリスクは極めて低いと言われてはいますが、ハイドロキノンの代わりになる安全性の高い成分に代替するケースが増えてきています。

その一つが「アゼライン酸」です。アゼライン酸は小麦などの穀物に存在する天然由来成分で、安全性の高い特徴を持ちます。

ハイドロキノンは妊娠や授乳期には使用することができませんが、アゼライン酸は妊娠中などでも問題なくご使用いただける成分です。

アゼライン酸はハイドロキノンと同様、メラニンの生成を抑制する効果があり、肝斑の改善効果も期待できます。

日本ではロート製薬から20%のアゼライン酸が配合されたAZAクリアという化粧品がクリニック専売で発売。

4%のハイドロキノンと20%のアゼライン酸では、色素沈着の減少に有意な差はなく、高い有効性が確認されています27)

また、コウジ酸もハイドロキノンに代わる成分として近年注目を集めており、メラニンの生成を抑制し、抗酸化作用や抗糖化作用も有しているのが特徴です。

4%のハイドロキノンと0.75%のコウジ酸と2.5%のビタミンCが配合されたクリームでは、ハイドロキノンの方が肝斑の改善効果が高かったという報告があります28)

しかし、コウジ酸でも肝斑の改善効果は確認されており、市販の成分で改善が期待できる点はコウジ酸のメリットの一つになるでしょう。

また、日焼け止めによる遮光も、肝斑の場合非常に大切です。

通常のUVAおよびUVBに対するカットフィルターに加えて、可視光線のカット波長をもつ酸化亜鉛を含む日焼け止めが、肝斑の再発を予防するのに有効だという報告もあります29)

内服薬

トラネキサム酸: 日本では1979年に慢性蕁麻疹の患者さんにトラネキサム酸を投与したところ、肝斑の改善効果が報告され、以降肝斑に対して広く処方されるようになりました30)

トラネキサム酸には抗プラスミン作用があり、メラノサイトの活性化を抑える働きによって間接的にメラニンの生成を抑制します31)

また、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)とエンドセリン-1の量も減少させる可能性が指摘されており、肝斑形成に関わる血管新生にも関与する成分として注目32)

これまでの報告では1日の内服量は500mg(250mgを1日2回)で有効であるというものが多く、1500mg/日と500mg/日では効果に大きな差は認められないと報告されています33)

日本では第一三共ヘルスケア株式会社からトランシーノというトラネキサムが750mg/日配合された第一類医薬品がOTCとして販売。

トラネキサム酸には副作用として血栓傾向があり、低用量ピル内服中や妊娠中の患者さんには使用を控えるケースが多いです。

トラネキサム酸は内服だけでなく外用も有効で、2〜4%のトラネキサム酸の外用で肝斑の改善効果が示されています。

3%のトラネキサム酸外用と3%のハイドロキノン+0.01%のデキサメタゾンの外用で肝斑の改善効果が同等であったという報告も34)

トラネキサム酸の外用はほとんど副作用を認めることなく安全に使用できる点から、肝斑の患者さんに広く勧められます。

ポリポディウム・ロイコトモス(Polypodium leucotomos: PL)、グルタチオンの内服:トラネキサム酸が内服できない場合は、抗酸化作用を持つポリポディウムやグルタチオンが選択されるケースも。

エビデンスは十分ではありませんが、いずれも抗酸化作用によってメラニンの減少効果が期待されます。

ケミカルピーリング

以前より肝斑に対して試されている治療法で、ハイドロキノンの外用やトラネキサム酸の内服に加えて補助療法として試されることがあります。

ケミカルピーリングはピーリング成分によって皮膚表面の角層を剥がし取ることによってリモデリングを促し、ケラチノサイトのターンオーバーを促進させてメラニンの排泄を増加。

特に表皮性の肝斑に有効と考えられています35)。ピーリング成分の中でも最も効果が高いのはグリコール酸です。

30〜50%のグリコール酸ピーリングを3週間間隔で6ヶ月行なったところ、アゼライン酸20%単独よりも肝斑の改善効果が高かったということがわかっています36)

最近ではグリコール酸に加え、マンデル酸やトリクロロ酸(TCA)などがカクテルされたピーリング剤が、クリニックで使用。

レーザー治療

近年、肝斑治療によく用いられているのがレーザー機器を用いた治療です。「レーザートーニング」と言って低フルエンスのQスイッチのNd:YAGレーザー(レーザートーニング)で肝斑の改善効果が報告。

レーザートーニング

その後ピコレーザーを用いたピコトーニングなども登場し、人気の施術となっています37)。特に表皮型のタイプに有効です。

内服薬などと併用することによってより早く肝斑の改善効果を感じられる一方、高出力で頻回に照射すると白斑のリスクがあるため注意が必要です。

また、肝斑に対してIPLを用いるかどうかは意見が分かれています。高出力でIPLを照射すると肝斑を悪化するリスクがあると考えられており、取り扱いには注意が必要です。

ただし、海外を中心にIPLが肝斑に有効であるという論文はいくつかあり、特に真皮型や混合型の肝斑の場合、血管増生を認めるケースもあり、そのような場合は波長の長いIPLが有効だという考えもあります38)

IPLと低フルエンスQスイッチNd:YAGレーザーを併用療法は、その効果を早く認めることができるという報告もあり、複数の治療を組み合わせることで、より効果的な結果が得られる可能性が39)

また、非蒸散型のフラクショナルレーザーは再発までの期間を延長させる可能性があります40)

他にも、海外では血管新生に対してパルス色素レーザー(Vビーム)をIPLや低フルエンスのQスイッチレーザーと組み合わせるやり方も41)

マイクロニードルRF

近年、注目されている治療法の一つがマイクロニードルRFです。

マイクロニードルRFとは微細な針を皮膚に貫通させ、その針先からRF(高周波)を照射する治療方法で、肝斑だけでなくリジュビネーションやニキビ痕の改善目的で使用されることが。

マイクロニードルRFでは真皮細胞外マトリックス(ECM)の改善(血管増生やマスト細胞に働きかけることによる)やメラニンの排泄を促す作用があり、これらの作用によって肝斑が改善されると考えられています42)

そのため特に真皮型や混合型の肝斑に効果が高い治療方法です。混合型の場合は低フルエンスのQスイッチNd:YAGレーザーと併用することでより高い効果が得られるという報告もあります43)

肝斑の治療の第一選択は遮光とハイドロキノンなどの美白剤の塗布、それからトラネキサム酸の内服薬でレーザー治療などの治療は補助的なものになりますが、治療方法をうまく組み合わせることで治療効果は高まるでしょう。

最初のアセスメントが重要になるので、専門医のアドバイスを受けながら最適な治療薬を選定してください。

参考文献

執筆の根拠にした論文等

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32) Kim SJ, et al. Efficacy and possible mechanisms of topical tranexamic acid in melasma. Clin Exp Dermatol. 2016; 41(5):480-485.
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34) Ebrahimi B, et al. Topical tranexamic acid as a promising treatment for melasma. J Res Med Sci. 2014; 19(8):753-757.
35) Javaheri SM, et al. Safety and efficacy of glycolic acid facial peel in Indian women with melasma. Int J Dermatol. 2001; 40(5):354-357.
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肝斑(かんぱん)の治療期間

肝斑は適切な治療によって症状の改善は期待できるものの、どのような治療法を用いても完治することは難しく、トリガーによって再発を繰り返すことに。

そのため、治療期間については患者さん一人ひとりの病変の範囲や程度、使用する治療法によって変わる他、患者さんのゴールの設定によっても異なります。

治療期間

肝斑の治療期間の個々の患者さんの状態や治療法によって異なりますが、代表的な治療法の文献に基づく平均的な治療期間については以下のとおりです44)

治療方法平均治療期間備考
ハイドロキノン外用1-4ヶ月定期的なフォローアップが必要
トラネキサム酸内服2-6ヶ月血栓のリスクに注意
ケミカルピーリング3-6回のセッションセッション間隔は4-6週
レーザー治療2-6回のセッションセッション間隔は選択するレーザーによって異なる

ホームケアの役割

肝斑の治療における重要な点は治療初期における改善効果が緩やかであっても、継続的な治療を行うことです。特にホームケアが重要となってきます。

肝斑の最大の悪化トリガーである紫外線に対して遮光を徹底して行わないと、他の治療を行なっていても十分な効果は得られません。UVケアを忘れずにしてください。

また、スクラブの多用や拭き取りアイテムなどの誤った使用が摩擦性肝斑を引き起こす可能性があります。

継続的に上記治療を受けても改善が乏しい場合は、摩擦が原因である可能性もあるため、スキンケアの見直しをしてみてください。

個人差による治療期間の変動

肝斑の治療期間は、個々の患者さんの肝斑のタイプや状態、そして治療法の選択によっても大きく異なり、遺伝的要因やホルモンバランスの影響など、個人差が影響を与える要因も多岐にわたります。

いずれのケースも治療には忍耐と継続が大切です。

参考文献

44) Sarkar R, et a. Melasma update. Indian Dermatol Online J. 2014; 5)4): 426-435.

薬の副作用や治療のデメリット

肝斑の治療にはさまざまな方法がありますが、これらの治療法にはそれぞれ副作用やデメリットも。ここでは、肝斑治療における副作用と治療のデメリットについて説明いたします。

治療薬の副作用

肝斑の治療に使用される薬は、一部の患者さんに副作用が出ることがあります。以下は代表的な肝斑の治療薬とその副作用をまとめたものです。

治療薬主な副作用
ハイドロキノン外用皮膚刺激、アレルギー反応、組織褐変症
トレチノイン外用皮膚の乾燥、皮剥け、赤み、刺激感
トラネキサム酸内服胃腸症状、血栓傾向
ケミカルピーリング皮膚刺激、赤み、乾燥

それぞれの副作用

ハイドロキノン外用:最も多い副作用は皮膚への刺激で、中には刺激性接触皮膚炎を認めるケースもあり、濃度が高いとその頻度も高くなる傾向が。

重要な副作用として白斑と外因性組織褐変症があり、白斑は色が抜けてしまう現象で5%以上の高濃度の場合に起こりうると言われています。

外因性組織褐変症はまれな副作用ですが、長期的にハイドロキノンの外用を行った場合に色が反対に濃くなってしまうケースが報告45)

いずれも外見に影響する不可逆的な副作用を持つため慎重な使用が必要です。

ハイドロキノンは使用後4ヶ月でその効果はピークに達すると言われており、4〜6ヶ月程度で一度休薬することが望ましいとされています46)

トレチノイン外用:トレチノインを始めとしたレチノイドには、「レチノイド反応」と言う特有の副作用があり、使用開始後1〜2週間後に刺激感や乾燥、皮剥け、赤みなどの症状を認めることがあります47)

使用継続によってレチノイド反応はおさまることがほとんどです。

トラネキサム酸内服:トラネキサム酸の比較的多い副作用として胃腸症状があげられます。また、トラネキサム酸には抗プラスミン作用があるため、内服により血栓のリスクが高まる可能性が48)

経口避妊薬の内服や妊娠中など血栓傾向がある方や血栓症の既往がある方、また血栓症の家族歴がある方は使用を控えた方が賢明です。

トラネキサム酸の外用はほとんど副作用がないため、そのような方は外用で取り入れると良いでしょう。

ケミカルピーリング:ピーリング成分によって角層を剥がし取るため、刺激や乾燥、赤みといった副作用を認めることがあるので、施術後は保湿や遮光を徹底する必要があります(ピーリング剤の種類や濃度などによる)。

レーザー治療:近年肝斑治療によく使われる低フルエンスのQスイッチNd:YAGレーザー(レーザートーニング)はほとんどダウンタイムがありませんが、副作用として赤みや火傷、炎症後色素沈着などが挙げられます。

中でもしばしば問題になる副作用が白斑で、発生頻度はこれまでの報告では10%程度です49)

白斑のメカニズムは不明ですが、病理組織の所見では正常皮膚と同様、白斑部のメラノサイトは存在しているため、おそらくメラノサイトの機能が低下していると考えられます50)

高いフルエンスを用いて治療した場合や治療間隔が短い場合、セッション数が多い場合に白斑は起こりやすく、白斑を予防する意味でもレーザートーニング以外のIPLやマイクロニードルRFと併用して治療を行うことが推奨51)

IPLもレーザートーニングと同様ほとんどダウンタイムがない治療法ですが、高い出力で照射すると炎症後色素沈着のリスクや肝斑が悪化する可能性があります。

患者さんのスキンタイプ(肌の色)や肝斑の状態を見て総合的に適応を決定することに。

マイクロニードルRFは、副作用としては施術時の痛みや、術後の軽度の赤み、浮腫、場合によっては炎症後色素沈着を認めるケースがあります52)

治療のデメリット

肝斑の場合完治は難しく、再燃を繰り返すことから、治療に際しては以下のようなデメリットがあります。

  • コスト:肝斑の治療はいずれも自費治療となるため、比較的高額。
  • 治療期間の長さ: 効果が現れるまでに長い時間がかかる治療も。
  • 繰り返しの治療が必要: 完全に治るまでには複数回の治療が必要なことも。
  • 再発のリスク:治療によって改善を認めてもまた症状が再発することが多い。
  • 副作用のリスク: 治療薬には副作用のリスク。

患者さんはこれらのデメリットを考慮し、主治医のアドバイスを受けながらご自身に最適な治療方法を選定する必要があります。

参考文献

執筆の根拠にした論文等

45) Mishra SN, et al. Diagnostic utility of dermatoscopy in hydroquinone-induced exogenous ochronosis. Int J Dermatol. 2013; 52(4):413-417.
46) Talakoub L, et al. Cosmeceuticals. Cosm Dermatol. 2009;7-34.
47) Mukherjee S, et al. Retinoids in the treatment of skin aging: an overview of clinical efficacy and safety. Clin Interv Aging. 2006; 1(4):327-348.
48) Lee HC, et al. Oral tranexamic acid (TA) in the treatment of melasma: A retrospective analysis. J Am Acad Dermatol. 2016; 75(2):385-392.
49) Choi CP, et al. Retrospective analysis of melasma treatment using a dual mode of low-fluence Q-switched and long-pulse Nd:YAG laser vs. low-fluence Q-switched Nd:YAG laser monotherapy. J Cosmet Laser Ther. 2015; 17(1):2-8.
50) Kim JE, et al. Histopathological study of the treatment of melasma lesions using a low-fluence Q-switched 1064-nm neodymium:yttrium-aluminium-garnet laser. Clin Exp Dermatol. 2013; 38(2):167-171.
51) Wong Y, et al. Hypopigmentation Induced by Frequent Low-Fluence, Large-Spot-Size QS Nd:YAG Laser Treatments. Ann Dermatol. 2015; 27(6):751-755.
52) Suh DH, et al. Prolonged Inflammatory Reaction After Fractional Radiofrequency Microneedle Treatment. Dermatol Surg. 2018; 44(9):1234-1236.

保険適用について

肝斑の治療は、いずれも健康保険の適用外となり、自費負担となります。

当院でご案内可能な肝斑治療は以下のとおりです。

治療法
ハイドロキノン外用
トレチノイン外用
トラネキサム酸内服
トラネキサム酸外用
トラネキサム酸導入
ケミカルピーリング
レーザートーニング
IPL
マイクロニードルRF

治療を受ける前に確認すべき事項

最後に、治療を受ける前に確認すべき点を挙げておきます。皮膚科専門医と相談し、以下の点を確認してください。

  • 治療方法とそれに関連するコスト
  • 治療の効果と期間
  • 副作用やリスク

これらの点を慎重に考慮し、ご自身に最適な治療方法を選ぶことが大切です。

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

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医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

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