ビブラマイシン（テトラサイクリン系）｜抗菌剤

ビブラマイシンとはテトラサイクリン系の抗菌薬で、優れた抗菌作用と安定した吸収率があります。

抗菌作用に加えて抗炎症作用もあり、皮膚科領域においてはニキビや酒さに使用されることが多いです。

また、ビブラマイシンは他の抗菌薬と異なり、特定の菌に対する耐性が少ないことで知られています。

この記事では、ビブラマイシンについて詳しく解説していきましょう。

ビブラマイシンの有効成分と効果、作用機序

有効成分

ビブラマイシンの有効成分は「ドキシサイクリン」で、テトラサイクリン系抗菌薬に分類されます。

作用機序

ビブラマイシンの抗菌作用の作用機序

メカニズムのステップ	説明
リボソームへの結合	細菌の30Sリボソームサブユニットに結合
mRNAの読み取りの妨げ	結合により、mRNAからタンパク質への情報伝達を妨げる
タンパク質合成の阻害	細菌のタンパク質合成が阻害され、細菌の成長と増殖が抑制

ビブラマイシンには、リパーゼ活性抑制作用や白血球の遊走抑制作用、活性酸素抑制作用などにより炎症を軽減する作用もあります。

効果

ビブラマイシンは多くのグラム陽性菌、グラム陰性菌、特定の寄生虫や原虫に対して効果があります。

• 皮膚感染症：表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、外傷・熱傷・手術創の二次感染、慢性膿皮症
• 呼吸器感染症：咽頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎
• 尿路感染症：尿道炎、膀胱炎、腎盂腎炎
• その他：梅毒、腹膜炎、子宮内感染、中耳炎

皮膚科領域でビブラマイシンがよく処方される疾患は、ニキビと酒さです。

ニキビには、通常毛穴詰まりを改善するアダパレンや過酸化ベンゾイルなどの外用薬が処方されますが、中等度以上で炎症性ニキビが多発する方には、抗菌薬の内服薬が追加されます。

ビブラマイシンやミノマイシンといったテトラサイクリン系の抗菌薬は、炎症性ニキビに対してガイドラインでは推奨度A（強く推奨する）です。

また、赤ら顔の原因の一つとなる慢性皮膚炎症疾患である酒さに対して、ビブラマイシンはガイドラインでは推奨度C1です。

ビブラマイシンの使用方法と注意点

使用方法

適応疾患となる感染症に対しての服用法

（成人の場合）

• 初回：1回1錠（100mg）あるいは2錠（50mg）を1回または2回、1日量200mgを経口投与
• 2日目以降：1回1錠（100mg）あるいは2錠（50mg）を1回、1日量100mgを経口投与

ニキビの場合

ニキビや酒さでは、他の疾患よりも投与量が少ないことが多いです。

1日100mgでニキビに対する有効性が確認されていて、ビブラマイシン50mgとミノマイシン（別のテトラサイクリン系の抗菌薬）100mgの比較試験では、改善効果は同じという結果が出ています。

ニキビの場合、1日100mgで開始し、1ヶ月程度で症状の改善を認めれば、50mgに減らすことも。抗菌薬の反応は人により異なり、年齢や体重、症状に応じて増減を検討します。

服用のタイミングは食後ですが、食べ物と同時に摂取しても吸収に問題はありません。

酒さの場合

酒さもニキビと同様、1日50〜100mg/日投与されます。

海外の文献ではドキシサイクリン40mgで酒さに対する有効性が報告されていますが、日本では採用がなく、ビブラマイシンにおける酒さの改善効果についても十分なエビデンスが揃っていないのが現状です。

注意点

適応対象となる患者さん

ビブラマイシンは、皮膚科の領域ではニキビや毛包炎などの表在性皮膚感染症、蜂窩織炎などの深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染に適応となっています。

その他に適応の感染症

乳腺炎、骨髄炎、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎を含む)、急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎(急性症、慢性症)、精巣上体炎(副睾丸炎)、尿道炎、淋菌感染症、梅毒、腹膜炎、感染性腸炎、外陰炎、細菌性腟炎、子宮内感染、涙嚢炎、麦粒腫、 外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎、化膿性唾液腺炎、歯周組織炎、歯冠周囲炎、上顎洞炎、顎炎、炭疽、つつが虫病、オウム病

特定の背景を有する方への使用

ビブラマイシンは患者さんによって、使用が制限されることがあります。

お子さんへの使用

ビブラマイシンは、通常8歳未満のお子さんには処方されません。

ビブラマイシンなどテトラサイクリン系抗菌薬は、歯の発達に影響を与え、着色（歯牙着色）やエナメル形成不全を引き起こす可能性があるためです。

骨の成長にも影響を及ぼす可能性があるため、テトラサイクリン系以外の抗菌薬を投与し、他の治療薬が副作用のため使用できなかったり、効果がなかった場合にのみ、ミノマイシンの使用が検討されます。

ご高齢の方への使用

ご高齢の方に対するビブラマイシンの使用には、注意が必要です。高齢者の方は加齢により薬剤の代謝や排泄が低下していることが多く、副作用のリスクを高めることがあります。

また、複数の薬を併用していることもあるため、他の薬剤との相互作用にも気を付けてください。

妊娠または妊娠している可能性がある方の使用

妊娠後半期の投与により、胎児に一過性の骨発育不全、歯牙の着色・エナメル質形成不全を起こすことがあります。

FDAによる薬剤胎児危険度分類基準では、ドキシサイクリン（ビブラマイシンの有効成分）はカテゴリーD（危険性を示すエビデンスあり）。

ニキビや酒さの治療では、比較的安全性の高いロキシスロマイシン（ルリッド）などへの変更を検討することが多いです。

授乳中の方の使用

ドキシサイクリンは母乳中に移行することが報告されています。授乳の継続または中止を検討したうえで、処方することも。

その他

・食道通過障害のある方：薬が食道に留まることで食道潰瘍を引き起こす恐れが。

・経口摂取不良や全身の栄養状態の悪い方：ビタミンK欠乏症により出血傾向が現れることが。

・肝機能障害のある方：副作用が強く現れることも。

ビブラマイシンの治療期間

ビブラマイシンの一般的な治療期間

ビブラマイシンの治療期間は、疾患や症状の重症度、治療への反応などによって変わってきます。ニキビの場合、およそ1ヶ月程度で症状の改善を認めること多く、酒さは、症状の改善に数ヶ月要することも。

ビブラマイシンに限らず、抗菌薬は長期使用することで耐性菌が出現する可能性があります。最長でも3ヶ月を目安に使用を中止することに。

ビブラマイシンの副作用やデメリット

ビブラマイシンにはいくつかの副作用があり、服用時には注意が必要です。

一般的な副作用

一般的な副作用

• 胃腸障害（吐き気、嘔吐、下痢）
• めまいや頭痛
• 皮膚や爪などへの色素沈着
• 光線過敏症

めまいや色素沈着はテトラサイクリン系の抗菌薬で認められやすい副作用で、同じテトラサイクリン系でもビブラマイシンよりもミノマイシンの方がリスクが高いです。

光線過敏症はミノマイシンよりもビブラマイシンの方が報告数も多く、光毒性が高い（日光に晒された際に皮膚が通常よりも強く反応し、日焼けや炎症を起こしやすい）と考えられています。

ビブラマイシン内服中は直射日光を避けたり、日焼け止めを使用するなど必ずUVケアを行ってください。

重大な副作用

非常にまれですが、重大な副作用もあります。

• ショック・アナフィラキシー（呼吸困難、血管神経性浮腫等）
• 中毒性表皮壊死融解症（Toxic Epidermal Necrolysis：TEN）
• 皮膚粘膜眼症候群（Stevens-Johnson症候群）
• 剥脱性皮膚炎
• 薬剤性過敏症症候群
• 血液障害
• 肝不全など重篤な肝機能障害
• 急性腎障害・間質性腎炎
• 呼吸困難・間質性肺炎・PIE症候群
• 膵炎
• 痙攣・意識障害などの精神神経障害
• 出血性腸炎・偽膜性大腸炎

6ヶ月以上の長期にわたって使用した際に多く報告されている副作用

• ループス様症候群
• 結節性多発動脈炎
• 顕微鏡的多発動脈炎
• 自己免疫性肝炎

服用中に異変を感じたら、専門医に相談してください。

ビブラマイシンで効果がなかった場合

ここでは、ニキビと酒さにビブラマイシンで効果がなかった場合の対応について解説します。

ニキビの場合

ニキビ治療では、初期症状である毛穴の詰まり（面皰）から適切な治療を行い、ニキビの炎症を未然に防ぐことが大切です。

アダパレンやトレチノインなどのレチノイド（ビタミンA）や過酸化ベンゾイルが有効で、抗菌薬だけの使用は推奨されていません。

ビブラマイシンの内服のみを行っている方は、主治医と相談し、外用薬も使用してください。

他の抗菌薬への変更

ミノマイシンで効果がないときは、他の抗菌薬への変更が考慮されます。

ニキビに対してガイドラインで推奨されている主な抗菌薬

商品名	一般名	種類	推奨度
ミノマイシン	ミノサイクリン	テトラサイクリン系	A
ルリッド	ロキシスロマイシン	マクロライド系	B
ファロム	ファロペネム	ペネム系	B

抗菌薬内服でも改善が乏しい重症例に対して

イソトレチノインやスピロノラクトン、低用量ピルの内服などを検討することがあります。

イソトレチノインは皮脂腺を強力に縮小する作用がありニキビに対して有効ですが、胎児奇形など重篤な副作用があり、日本では自費診療です。

詳しくは専門医にご相談ください。

酒さの場合

酒さは、症状によって

• 紅斑毛細血管拡張型：赤みのみ
• 丘疹膿疱型：ブツブツも伴う
• 腫瘤型：鼻に凹凸を認める
• 眼型：結膜炎など

に分けられます。

このうち、ビブラマイシンが有効なのは丘疹膿疱型です。赤みのみの場合、ビブラマイシンでは効果を感じないことが多く、IPLやパルス色素レーザー（Vビーム）が適応となります。

ただし、丘疹膿疱型はビブラマイシン単独よりもメトロニダゾールやアゼライン酸、イベルメクチンといった外用薬と併用した方が、より効果が高いです。

ビブラマイシンに加え、外用薬を併用することが推奨されます。

他の治療薬との併用禁忌

ビブラマイシンと併用禁忌となる薬剤はありませんが、併用するときに注意すべき薬剤はいくつかあります。

併用注意の薬剤

併用注意薬剤	理由
鉄、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムを含む製剤	ミノマイシンの吸収を阻害する可能性があり、これらの製剤との間に4時間程度空ける
抗凝血剤（ワルファリンなど）	抗凝固剤の効果が増強し、出血しやすくなる恐れ
メトトレキサート	メトトレキサートの作用が増強する可能性
ポルフィマーナトリウム	光線過敏症を起こすことがあるので、日焼け止めを使用し、直射日光を避ける
経口避妊薬・女性ホルモン剤	経口避妊薬や女性ホルモン剤の効果が弱まったり、不正性器出血が起ったりする可能性
糖尿病治療薬	スルホニル尿素系の血糖降下薬は、作用が増強することが
内服のビタミンA関連製剤(イソトレチノインなど)	頭蓋内圧が上昇することも

ビブラマイシンを服用する際は、使用している他の薬剤について医師に伝えることが大切です。また、新たな薬剤を開始する前にも必ず医師に相談し、併用のリスクを確認してください。

保険適用について

ビブラマイシンが保険適応となる疾患は、皮膚科の領域では、表在性皮膚感染症、蜂窩織炎などの深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染です。

その他にも呼吸器感染症や尿路感染症などで、適応となっています。詳しくは添付文書をご覧ください。

https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00054327#par-10

薬価は、ミノマイシン錠50mgは12.5円/錠、100mgは22円/錠です。

保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。

詳しくはお問い合わせください。

参考文献

添付文書　医療用医薬品：ビブラマイシン

日本皮膚科学会 尋常性痤瘡・酒さ治療ガイドライン2023

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