休止期脱毛(telogen effluvium)とは、毛周期の休止期において、毛髪が大量に抜ける現象のことです。
髪の毛は、成長期、退行期、そして休止期という3つのフェーズを経て成長し、最終的には自然に抜け落ちますが、休止期脱毛は、休止期に入った毛髪が一斉に抜けることにより発生します。
ストレス、栄養不足、ホルモンの変動、疾患、または薬剤の副作用などが原因で、特に女性に多く見られ、頭髪全体が薄くなることが特徴です。
ここでは、休止期脱毛について詳しく解説していきます。
脱毛症の病型
休止期脱毛は、脱毛症の一つです。脱毛症にはさまざまな病型があり、それぞれ特徴的な脱毛パターンを示します。
男性型脱毛症(AGA)
男性型脱毛症は、男性ホルモンの影響を受けやすい頭頂部や前頭部で毛髪が徐々に細くなり、抜け落ちていく脱毛症です。遺伝的素因が関与しており、加齢とともに発症リスクが高まります。
女性型脱毛症(FAGA)
女性型脱毛症は、主に頭頂部で毛髪の細毛化と脱毛が進行する病型です。ホルモンバランスの乱れや加齢、ストレスなどが発症に関与すると考えられています。
びまん性脱毛症
びまん性脱毛症は、頭皮全体で毛髪が均等に抜け落ちる病型です。急性の経過をたどることが多く、ストレスや栄養不足、内分泌疾患などが原因として挙げられます。
円形脱毛症
円形脱毛症は、急に頭皮に円形または楕円形の脱毛斑が出現する病型です。自己免疫機序の関与が示唆されており、ストレスや感染症などが誘因となることがあります。
瘢痕性脱毛症
瘢痕性脱毛症は、全身性エリテマトーデスなど頭皮の炎症や外傷により毛包が不可逆的に損傷され、脱毛が生じる病型です。
主な脱毛症の特徴
病型 | 特徴 |
---|---|
男性型脱毛症(AGA) | 頭頂部や前頭部の毛髪が徐々に細くなり、抜け落ちる |
女性型脱毛症(FAGA) | 頭頂部を中心に毛髪の細毛化と脱毛が進行する |
びまん性脱毛症 | 頭皮全体で毛髪が均等に抜け落ちる |
円形脱毛症 | 頭皮に円形または楕円形の脱毛斑が出現する |
瘢痕性脱毛症 | 炎症や外傷による毛包の不可逆的な損傷により脱毛が生じる |
休止期脱毛の症状
休止期の毛の成長は1~6ヵ月間(平均3ヵ月間)停止しますが、この成長停止に患者さんは気づきません。
毛が再び成長期(anagen)に入ると、休止期(telogen)に休止していた毛が毛包から押し出され、脱毛が観察され、自覚症状として認めるようになります。
休止期脱毛の特徴
急性期脱毛では、比較的突然発症する脱毛を認めます。脱毛が始まる約3ヵ月前(1ヵ月から6ヵ月の範囲)に身体的あるいは精神的ストレスや外傷、感染症などさまざまな原因事象を認めることが多いです。
臨床的特徴
休止期脱毛では、円形脱毛症などと異なり明らかな脱毛斑は認めず、頭皮全体の髪の量が減るのが特徴です。
持続期間
脱毛の持続期間は6ヵ月未満であることがほとんどです。ただし、精神的ストレスが長期にわたって続くと、脱毛の期間が長期化することもあります。
休止期脱毛の原因
休止期脱毛をもたらす原因は多岐にわたります。
よくある原因
- 急性熱性疾患(重症感染症など)
- 大手術、重症外傷
- 精神的ストレス
- 産後のホルモン変化(特にエストロゲンの減少)
- 甲状腺機能低下症
- エストロゲンを含む薬剤の中止
- ダイエット(低タンパク質、鉄欠乏症)
- 薬剤:β遮断薬、レチノイド(過剰なビタミンAを含む)、抗凝固薬、プロピルチオウラシル、カルバマゼピンなど
- 予防接種
ストレスによる毛包への影響
ストレスは、休止期脱毛の大きな誘因の一つです。身体的及び精神的ストレスは、毛包の成長サイクルに影響を与え、休止期への移行を促進することで脱毛を引き起こすと考えられています。
また、ストレスによる血流の低下や栄養供給の減少も、毛包の機能に影響を与える可能性が。
内分泌疾患やホルモン変化による影響
甲状腺機能低下症などの内分泌疾患や産後のホルモン変化は、休止期脱毛の原因となることがあります。ホルモンバランスが乱れることで、毛包の成長サイクルに影響を与え、脱毛を引き起こすのです。
栄養不足と毛包の機能低下
栄養不足は、休止期脱毛の原因となる可能性も。
特に鉄分、亜鉛、ビタミンなどの栄養素は、毛包の正常な成長と機能を維持するために重要な役割を果たしているので、これらの栄養素の欠乏は、毛包の機能低下や脱毛を引き起こします。
休止期脱毛の診断・チェック方法
休止期脱毛の診断の際には、他の脱毛症との鑑別が必要です。
鑑別疾患
- 円形脱毛症
- 男性型脱毛症
- 瘢痕性脱毛症
- 梅毒
- トリコチロマニア
問診と視診
休止期脱毛の診断においては、まず問診と視診です。脱毛の経過、家族歴、既往歴、薬物使用歴などを詳しく聞き、脱毛の分布や形態、頭皮の状態を観察します。
休止期脱毛では、脱毛が始まる約3ヵ月前(1ヵ月から6ヵ月の範囲)に身体的あるいは精神的ストレスや外傷、感染症などさまざまな原因事象を認めることが多いです。
プル(pull)テスト
休止期脱毛では円形脱毛症などと異なり、明らかな脱毛斑は認めません。
鑑別のためにはプルテストが有効で、休止期脱毛で活動性が高い場合、軽く引っ張るだけで少なくとも4本以上の毛髪が抜けます。
ただし、活動期を超えたプルテストは正常です。頭皮に短い産毛の割合が増えていることが観察されます。
血液検査
休止期脱毛の原因を特定するために、血液検査が行われることがあります。
血液検査のチェック項目
- 甲状腺機能検査(TSH、フリーT4など):甲状腺機能低下症の評価
- 女性ホルモン検査(エストラジオール、プロゲステロンなど):ホルモンバランスの評価
- 男性ホルモン検査(テストステロン、DHEAなど):男性ホルモンの影響の評価
- 鉄関連検査(鉄、フェリチン、鉄飽和度など):鉄欠乏性貧血の評価
- 自己抗体検査(抗核抗体、抗甲状腺抗体など):自己免疫疾患の評価
- 感染症検査(BTS 、PATAなど):梅毒に評価
トリコスコピー
トリコスコピーは、頭皮や毛髪を拡大して観察する検査方法で、休止期脱毛の診断に有用です。休止期脱毛では白色の毛球とゼラチン状の毛鞘がないことが確認できます。
毛髪の直径、毛孔の状態、炎症の有無などを詳細に評価することで、脱毛の病型や重症度を判定することが可能です。
病理組織検査
確定診断が困難だったり、脱毛の原因が特定できない場合には、頭皮の一部を採取して病理組織検査を行うことがあります。
毛包の状態や炎症の有無、線維化の程度などを顕微鏡下で観察することで、脱毛の病型や原因を明らかに。
休止期脱毛で行われることがある検査
検査の種類 | 目的 |
---|---|
問診と視診 | 脱毛の経過や所見を確認 |
血液検査 | 脱毛の原因となる全身疾患の有無の評価 |
トリコスコピー | 他脱毛症との鑑別 |
病理組織検査 | 炎症や瘢痕の有無の確認、確定診断 |
休止期脱毛の治療方法と治療薬
休止期脱毛の治療は、原因によって異なります。病歴から原因が特定され、原因に対する治療が行われていれば、それ以上の治療は必要ありません。
そのためホルモンや食生活のアンバランス、代謝性疾患がある場合、要因が改善されれば、毛髪の成長は回復し、薬剤が脱毛の原因となっている場合は、その薬剤を中止すれば発毛が再開します。
ミノキシジル
ミノキシジルは、毛包の血流を改善し、発毛を促進する作用があり、通常5%程度のミノキシジル外用薬が最初に試されます。
内服も有効ですが、動悸や多毛などの副作用があるので、注意が必要です。
休止期脱毛の治療期間
休止期脱毛の治療期間は、一般的に数ヶ月〜半年程度要することが多く、長期的な視点に立った取り組みが必要です。
脱毛の原因による治療期間の違い
ストレスや栄養不足が原因だと、生活習慣の改善とともに比較的短期間で脱毛の改善が期待できることがあります。
一方、内分泌疾患や自己免疫疾患が原因の場合には、根本的な治療に時間を要するため、脱毛の改善に長期間を要することも。
薬の副作用や治療のデメリット
休止期脱毛の治療で用いられる薬には、いくつかの副作用やデメリットがあります。
- ミノキシジル外用薬:頭皮の刺激感、発赤、かゆみ
- ミノキシジル内服薬:動悸、めまい、多毛
保険適用の有無と治療費の目安について
休止期脱毛で用いられるミノキシジル外用薬には、保険が適用されず、自費で購入していただく必要があります。クリニックによって価格は異なるため、詳しくは直接お問合せください。
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