非びらん性GERD(NERD)

非びらん性GERD(Non-Erosive Reflux Disease:NERD)とは、胃食道逆流症(GERD)の一種で、食道粘膜にびらんや潰瘍などの異常がない状態を指します。

胸焼けや呑酸などの症状はありますが、内視鏡検査で食道粘膜の異常は見られないため、従来のGERDの診断基準では見落とされがちでした。

近年、NERDは従来のGERDよりも患者数が多く、日常生活に支障をきたすケースも少なくないと分かってきました。そのため、NERDの診断と治療が重要視されるようになっています。

目次

非びらん性GERD(NERD)の病型

非びらん性GERD(NERD)は、大きく2つの病型に分類されます。

酸逆流関連型NERD(胃酸逆流が関係しているタイプ)

NERDの約30%を占めるのが、胃酸の逆流が症状の主な原因となっているタイプです。食道内のpHモニタリングで、酸逆流が確認される点が特徴となります。

非酸逆流関連型NERD(胃酸以外の原因で症状が起きるタイプ)

NERDは症状の出現に胃食道逆流が関係しているのが大前提ではあるものの、約70%で胃酸以外の要因が原因で胸やけが起きています。

具体的には、以下のような要因が症状に関与していると示唆されています。

  • 胆汁や膵液などの非酸性の逆流
  • 食道の知覚過敏
  • 食道運動機能の異常
  • 心理的ストレス

このタイプは酸逆流が主な原因ではないため、食道内pHモニタリングで異常が検出されません。

機能性胸やけとの違い

胃食道逆流と関係ない胸焼けを「機能性胸やけ」ともいい、胃食道逆流症(GERD)としての分類ではなく、消化管機能異常症(FGIDs)の一つの病型と考えられています。

機能性胸焼けの診断基準
  1. 胸骨後方の灼熱感を伴う不快感または痛み
  2. 症状の原因となるような胃食道酸逆流が確認できない
  3. 病態生理学的に確認できる食道運動障害がない

診断の6カ月以上前から症状があり、最近3カ月は上記の基準を満たしていること

非びらん性GERD(NERD)の症状

非びらん性逆流性食道炎(NERD)の代表的な症状は、胸やけや逆流感、咽頭痛などです。

  • 胸やけ・逆流感
  • 咽頭痛・咳嗽
  • 嚥下困難感
  • 非心臓性胸痛

胸やけ・逆流感

胃酸の食道への逆流により、胸の奥が熱くなったり、酸っぱい液体が喉まで上がってくる感覚が生じます。特に、食事の後や就寝時に症状が現れるのが特徴です。

咽頭痛・咳嗽

NERDでは、胃酸の逆流が喉まで及び、咽頭痛や慢性的な咳嗽を引き起こす場合があります。

夜間の咳嗽は特に問題で、夜何度も起きてしまったり、よく眠れずに睡眠不足につながったりと睡眠の質を低下させます。

嚥下困難感

食道の炎症や過敏性の亢進により、食べ物や飲み物を飲み込む動作が難しく感じられます。

非心臓性胸痛

NERDによる食道の過敏性亢進は、心臓由来ではない胸痛(非心臓性胸痛)を引き起こす場合があります。胸痛は心臓発作に似た症状を示すため、患者さんの不安の原因ともなります。

非びらん性GERD(NERD)の原因

非びらん性逆流性食道炎(NERD)は、複数の要因が複雑に絡み合って発症する病気です。胃酸の逆流、食道粘膜の過敏性、ピロリ菌の感染、生活習慣の影響など、さまざまな原因が関与しているとされています。

胃酸の逆流が主な原因

NERDの主な原因は、胃酸の食道への逆流です。

胃と食道の境目にある括約筋の緩みや、お腹の中の圧力が高まることなどによって、胃酸が食道内に逆流し症状が引き起こされます。

原因詳細説明
下部食道括約筋の弛緩食道と胃をつなぐ括約筋が十分に閉じないため、胃酸が逆流しやすくなります
腹圧の上昇肥満や妊娠などでお腹の中の圧力が高くなると、胃酸が食道へ逆流しやすい状態になります

食道粘膜の感受性が高い

NERDの患者さんは、食道粘膜の刺激に対する感受性が亢進していることが分かっています。ごくわずかな酸の刺激でも、胃酸逆流や食道炎などの症状を起こしやすいです。

この過敏性が生じる原因としては、以下のようなものが考えられています。

  • ストレスや精神的な緊張
  • 食道粘膜に生じた軽度の炎症
  • 神経の感受性が高まっている

生活習慣も発症に影響する

食事が不規則、お酒の飲み過ぎ、喫煙などの生活習慣も、NERDの原因です。

こうした習慣は胃酸の分泌を促したり、食道の入り口にある括約筋の働きを悪くしたりして、酸逆流を引き起こします。

非びらん性GERD(NERD)の検査・チェック方法

非びらん性GERD(NERD)の検査では、内視鏡検査や酸逆流モニタリング検査などを用いて診断を行います。

内視鏡検査

NERDの診断には内視鏡検査が欠かせません。内視鏡検査では、食道粘膜の傷害の有無を直接確認します。

NERDでは、内視鏡検査で明らかな粘膜傷害が認められないのが特徴です。ただし、軽微な発赤や浮腫などの所見が見られる場合もあります。

NERDの診断だけでなく、他の食道疾患との鑑別のためにも重要な検査です。

24時間食道pHモニタリング

食道内のpHを24時間以上連続して測定し、胃酸の逆流状態を評価する検査です。この検査により、逆流の頻度や程度、症状との関連性を客観的に評価できます。

検査項目基準値
酸逆流回数1日あたり50回未満
酸逆流時間1日の総時間の4%未満
最長酸逆流時間5分未満

食道内圧検査

食道内圧検査は、食道の運動機能を評価する検査です。

この検査では、食道内の圧力変化を測定し、食道の蠕動運動や下部食道括約筋の機能を調べます。NERDの患者さんでは、食道運動機能の異常を伴う場合があります。

非びらん性GERD(NERD)の治療方法と治療薬について

非びらん性GERD(NERD)の治療では、生活習慣の改善を第一として、薬物療法を検討します。

生活習慣の改善

NERDの治療では、生活習慣の改善が非常に大切です。

生活習慣の改善項目具体的な方法
食事の取り方少量ずつ、ゆっくりと食べる
就寝前の食事就寝の3時間前までに済ませる
喫煙・飲酒控えるか、できれば禁煙・禁酒する
体重管理適正体重を維持する

薬物療法

NERDの治療には、主にプロトンポンプ阻害薬(PPI)が使用されます。PPIは胃酸の分泌を強力に抑える薬剤で、NERDの症状改善に効果があります。代表的なPPIには次のようなものがあります。

  • オメプラゾール
  • ランソプラゾール
  • ラベプラゾール
  • エソメプラゾール

PPIによる治療は、通常4〜8週間行われます。症状が改善した後も、再発を防ぐために継続して服用する場合があります。

H2受容体拮抗薬の使用

H2受容体拮抗薬は胃酸分泌を抑制する薬剤で、PPIほど強力ではありませんが、NERDの治療に使われます。代表的なH2受容体拮抗薬には、ファモチジンやラニチジンなどがあります。

外科的治療

生活習慣の改善や薬物療法でも症状のコントロールが難しい場合、外科的治療が検討される場合があります。代表的な手術は、腹腔鏡下噴門形成術(ニッセン手術)です。

この手術では、下部食道括約筋の機能を補強し、胃内容物の逆流を防ぎます。

非びらん性GERD(NERD)の治療期間と予後

NERDの治療期間は患者さんによって異なりますが、多くの場合、数週間から数ヶ月で症状が改善します。

ただし、慢性的な疾患であるため、定期的な受診が推奨されます。

症状を改善するための治療期間

治療法期間
生活習慣の改善継続的に実施
PPI4〜8週間

長期的な症状管理の必要性

NERDは慢性的な病気であるため、症状が改善した後も長期的な管理が必要不可欠です。症状が再発した際には、再度PPIを使うケースもあります。

NERDの合併症には、バレット食道や食道狭窄などがあります。これらの合併症を予防するためには、症状のコントロールに加え、定期的に内視鏡検査を行って食道粘膜の状態を確認することが重要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

NERDの治療では、薬の副作用や長期使用による影響、治療効果が不十分な際の対応などの注意点があります。

副作用の可能性がある薬剤

NERDの治療に用いられる薬剤には、プロトンポンプ阻害薬(PPI)や制酸薬などがあります。これらの薬は胃酸分泌を抑制する効果がありますが、一方で副作用のリスクも伴います。

薬剤名主な副作用
プロトンポンプ阻害薬(PPI)下痢、頭痛、腹痛
制酸薬便秘、下痢、電解質異常

症状の改善のために薬を長期的に使用する場合がありますが、PPIの長期使用は、骨粗鬆症のリスク増加や腸内細菌叢の変化、肺炎のリスク増加などのデメリットがあります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

非びらん性GERD(NERD)の治療は、多くの場合で健康保険が適用されます。

保険適用説明
一般的な薬物療法PPI(プロトンポンプ阻害剤)などの薬剤が多く用いられ、保険適用となるのが一般的です。
特定の治療特定の手術や高度な治療が必要な場合、保険適用外となることもあります。

一般的な治療費の目安

非びらん性GERDの治療費は治療方法や病院によって大きく異なりますが、一般的な薬物療法の場合の費用は以下の通りです。

項目費用
初診料約3,000円〜5,000円
再診料約500円〜2,000円
薬剤費月額約2,000円〜10,000円

保険適用の範囲や条件は、治療の種類や使用する薬剤によって異なるため、具体的な内容は医師の診断と相談が必要です。

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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