二次性下垂体炎

二次性下垂体炎

二次性下垂体炎とは、下垂体そのものに問題がある一次性とは異なり、周囲の病変や全身性の疾患などによって下垂体が影響を受け、結果として炎症を起こしてしまう病態です。

下垂体は成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンなど、体全体のホルモンバランスをコントロールする重要な役割を担う組織であり、異常が生じると多岐にわたる症状が出ることがあります。

日常生活の中で「なんとなく疲れが取れない」「体重が増えたり減ったりしやすい」「生理不順や性機能低下を感じる」といった漠然とした不調を抱えていても、二次性下垂体炎の初期段階だとは思いませんが、実際に下垂体の働きが乱れると、全身のホルモンバランスに影響が及びます。

目次

二次性下垂体炎の病型

二次性下垂体炎には、下垂体周辺の異常や免疫・感染症・腫瘍などの要素が絡み合い、複数の病型があります。

周辺組織の腫瘍や嚢胞による圧迫

下垂体は鞍上部(頭蓋骨のトルコ鞍付近)という部位に存在し、その近くには視床下部や視神経、海綿静脈洞などの重要な器官があります。

ここに腫瘍や嚢胞ができると下垂体を圧迫し、血液循環やホルモン分泌に支障が出る場合があり、腫瘍そのものは良性悪性問わず、炎症を引き起こすリスクがあり、それが下垂体炎の発症につながります。

腫瘍や嚢胞による圧迫の特徴

  • 良性腫瘍でも大きさによっては下垂体機能に影響を及ぼす
  • 下垂体茎が引き延ばされるとホルモン伝達が乱れやすい
  • 周囲組織との癒着があると炎症が長期化する場合がある
  • 悪性腫瘍の場合は急激に機能低下を起こすケースがある

圧迫や浸潤によって起きる病型を把握しておくと、画像検査などで周辺組織の状態を確認する際に役立ちます。

下垂体周辺にできやすい代表的な腫瘍や嚢胞

種類特徴下垂体への影響
下垂体腺腫良性腫瘍が多いが大型化しやすいホルモン分泌過剰または低下
頭蓋咽頭腫小児~若年成人に多い先天性腫瘍視神経圧迫や下垂体の機能障害
ラトケ嚢胞ラトケ嚢という胚の遺残に由来嚢胞の拡大による構造的圧迫
神経膠腫など脳のグリア細胞由来下垂体周囲に拡がって炎症を誘発する場合あり

感染や肉芽腫性疾患による炎症

結核や真菌感染、サルコイドーシスなど、全身に波及する感染や肉芽腫性疾患が、下垂体付近で炎症反応を高めることがあり、これらの疾患はリンパ節だけでなく、視床下部・下垂体を含む中枢神経系にも病変を及ぼします。

感染症や肉芽腫性疾患による二次性下垂体炎は、病原体の根本治療や免疫反応のコントロールが治療上のポイントです。

下垂体炎を引き起こす可能性のある代表的な感染症や肉芽腫性疾患

  • 結核の播種による下垂体・視床下部病変
  • 真菌感染(特に免疫抑制状態にある場合)
  • サルコイドーシスによる全身性肉芽腫形成
  • リンパ球性下垂体炎に近い炎症反応

炎症の部位が下垂体や視床下部に及ぶかどうかを早めに確認すると、早期の治療計画を立てやすくなります。

感染性および肉芽腫性病変

疾患名病変の主な部位下垂体炎との関連
結核肺、リンパ節、骨など播種性結核で中枢神経が侵される可能性
サルコイドーシス目、肺、皮膚、神経系など肉芽腫が下垂体茎に及ぶ場合に炎症を起こす
真菌感染免疫力が低下した部位中枢への波及による炎症リスク
寄生虫感染消化管、脳など極めてまれだが病巣が下垂体に及ぶ例もある

外傷や医原性の刺激による炎症

頭部の外傷や放射線治療、手術などで下垂体周辺に物理的な刺激が加わると、炎症が長引く形で二次性下垂体炎を発症することがあります。

脳腫瘍の摘出手術で下垂体近くを操作した場合や、頭部への放射線照射によって血管や組織がダメージを受けた場合に起こり、医療処置が原因となるケースでは、術後フォローや定期検査の段階で症状を拾い上げることが多いです。

外傷や医原性のケースでは以下のような特徴が見られます。

  • 受傷や治療後、時間をおいてホルモン異常が生じる
  • 物理的刺激により下垂体血流が変化する
  • 炎症と瘢痕形成が重なり慢性化する可能性がある
  • 定期的な画像検査とホルモン検査が早期発見の手段になる

医原性の場合、原因となった治療の目的自体は患者の命や健康を守るためだったことが多いですが、副作用的に二次性下垂体炎が起きる可能性は否定できません。

自己免疫との関連

下垂体周囲に免疫細胞が集積してリンパ球性の炎症を起こすタイプは一次性下垂体炎でも知られていますが、別の自己免疫疾患が存在する場合、二次性下垂体炎として扱われることがあります。

シェーグレン症候群や甲状腺疾患、膠原病などを背景に、自己免疫の過剰反応が下垂体に波及するケースで、症状の発現パターンが比較的ゆるやかで、ホルモン低下症状がじわじわと進むことが多い点が特徴です。

自己免疫関連の疾患が二次性下垂体炎に及ぶときのチェックポイント

  • 他の自己免疫症状(ドライアイ、関節痛、皮膚硬化など)の有無
  • 抗体価や免疫学的検査(抗核抗体、自己抗体など)
  • 家族歴や既往歴を含めた総合的な病歴把握
  • ステロイドや免疫調整薬の効果判定

症状

二次性下垂体炎の症状は、下垂体が分泌するホルモン(もしくは制御されている末梢ホルモン)によって左右され、下垂体機能が低下する方向に働くケースが多く、疲労感や性ホルモン分泌低下、体重増減などが起こりやすくなります。

ホルモン低下による全身倦怠感

下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が減少すれば、ストレスへの対処に重要な役割を持つコルチゾールの分泌が不足し、また、倦怠感が強まり、甲状腺ホルモン不足による寒がりや疲れやすさ、代謝低下が起こりやすくなります

これらが重なると、普通に暮らしているだけでも極端な疲れを感じたり、活動意欲が落ち込むことがしばしばあります。

下垂体ホルモン低下による全身症状

  • 朝起き上がるのがつらく、日中も強い眠気が続く
  • 少し動いた程度で息切れや疲労感が出てしまう
  • 食欲や意欲が低下して家事や仕事の能率が落ちる
  • 寒さに敏感になり、暑さには比較的鈍感になる

日常の中でこうした症状が続く場合、二次性下垂体炎を含め、ホルモン関連の問題を考えてみるのも大切です。

主要ホルモンの不足がもたらす症状

ホルモン名不足による主な症状影響する臓器または系統
副腎皮質刺激ホルモン倦怠感、低血圧、食欲不振副腎皮質(コルチゾール分泌低下)
甲状腺刺激ホルモン代謝低下、寒がり、体力低下甲状腺(甲状腺ホルモン分泌低下)
成長ホルモン筋力低下、体脂肪増加、骨密度低下骨格筋、脂肪組織、骨など
性腺刺激ホルモン月経異常、性欲減退、不妊症など卵巣・精巣(エストロゲン/テストステロン)

視野障害や頭痛

下垂体近辺の腫瘍や嚢胞によって、視神経交叉が圧迫されると、両耳側半盲(左右の視野の外側が見えにくくなる)などの視野異常が生じる場合があり、また、下垂体部の炎症や周辺組織の腫れが原因となり、慢性的な頭痛を訴える方もいます。

ときには脳圧亢進による吐き気を伴うケースもあるため、単なる偏頭痛だと思って放置すると症状を見落とす危険があります。

視野障害や頭痛を感じたときに気をつける点

  • 定期的に眼科検査を受けて視野の変化をチェックする
  • 眩しさや視力低下など異常を感じたら早めに医師に相談
  • 頭痛がいつ、どの程度の頻度で起きるか記録する
  • 仕事や勉強の集中力低下が視野障害と関係するか検討する

こうした神経学的症状は腫瘍性病変や著しい炎症を示唆するサインになりやすいため、早期対応が重要です。

二次性下垂体炎に伴う神経学的症状の特徴

症状原因の可能性チェック方法
視野障害下垂体や鞍上部の腫瘍による視交叉圧迫眼底検査、視野検査、MRIによる画像評価
慢性頭痛炎症による硬膜刺激、圧迫感など頻度と強さの記録、頭部MRI
吐き気・嘔吐脳圧亢進または炎症性刺激胃腸科的原因以外の頭部所見を検討

性ホルモン異常による症状

性腺刺激ホルモン(FSH、LH)が十分に分泌されない場合、女性であれば月経不順や無月経、男性であれば性欲低下や勃起不全が起きることがあり、不妊に悩んで検査を進めたところ、下垂体の機能低下が発見されたという例も珍しくありません。

また、性ホルモンの減少は骨密度の低下や筋力低下、気分の落ち込みなどにも波及するので、生活の質に大きく影響する場合があります。

性ホルモン低下を示唆する変化

  • 女性の生理周期が乱れやすい、あるいは生理が止まる
  • 男性の体毛が薄くなり、筋肉量が落ちてしまう
  • 不妊治療を行っても成果が得られにくい
  • 更年期障害のようなホットフラッシュや発汗過多

性ホルモン不足に関する男女別の症状

性別主な症状背景
女性月経不順、無月経、不妊、骨密度低下エストロゲンの不足が原因になる
男性性欲低下、勃起不全、筋力低下テストステロンの分泌低下が大きい要素

その他の自律神経症状

下垂体炎は自律神経にも影響しやすい傾向があり、動悸やめまい、汗のかき方に異変が生じることがあり、さらに、下垂体が分泌をコントロールする抗利尿ホルモン(ADH)の機能が乱れると、多尿や口渇感の増大などを招きやすくなります。

これらは一見、日常のストレスや気温変化で起こる症状と似ているため、見逃されがちな点に注意が必要です。

自律神経症状やADH異常に注目点

  • 夜間頻尿や水分摂取量の異常増加
  • 急に汗が止まらなくなる場面が増える
  • 動悸と息切れが同時に起こりやすい
  • 朝起きたときや立ち上がったときのめまい感

二次性下垂体炎の原因

二次性下垂体炎は、下垂体そのものに初発の問題があるというより、外部要因や全身の疾患がきっかけで起こるケースが大半です。

腫瘍や嚢胞の存在

下垂体そのもの、または周辺部に存在する腫瘍や嚢胞が、炎症の引き金になり、腫瘍が小さいうちは無症状でも、ある時点で急激に大きくなり、下垂体を圧迫したり浸潤したりする可能性があり、急性または慢性の炎症を発症します。

腫瘍関連で想定される主な原因要素

  • 下垂体腺腫が大型化し周辺組織と接触
  • 悪性腫瘍の転移が下垂体まで及ぶ
  • 嚢胞の拡大に伴う圧迫と血流障害
  • 腫瘍摘出術後の二次的炎症

腫瘍や嚢胞の悪性度と進行度

分類進行速度下垂体炎への影響
良性腫瘍比較的ゆるやか慢性炎症や部分的機能低下を起こす
境界悪性個々で差が大きい炎症の波が急に強まる可能性がある
悪性腫瘍進行が速い急激な機能障害と重度炎症のリスク
嚢胞性病変拡大速度に個人差大きくなると圧迫症状が生じやすい

全身性疾患や感染症

全身に及ぶ感染症や免疫疾患が原因となり、二次性下垂体炎を引き起こすケースでは、背景疾患の治療が欠かせません。

播種性結核が脳まで及んだ場合や、サルコイドーシスが下垂体に肉芽腫を形成した場合など、全身疾患の一部として下垂体が損なわれ、また、真菌感染などの機会感染が下垂体まで波及する例もあり、特に免疫力が低下している人は注意が必要です。

全身性疾患や感染症に由来する可能性

  • 結核による中枢神経病変
  • サルコイドーシスやベーチェット病などの膠原病
  • ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染後の二次感染
  • 真菌や寄生虫が脳組織に侵入するケース

全身性疾患や感染症を疑う際に注目する検査や指標

疾患/感染症主な検査下垂体炎を疑うきっかけ
結核ツベルクリン反応、IGRA検査、胸部画像など中枢神経病変によるホルモン異常や炎症所見
サルコイドーシス血清ACE値、リンパ節生検など肉芽腫が下垂体に及ぶ可能性
HIVや免疫低下疾患抗体検査、CD4陽性リンパ球数など機会感染で中枢神経が侵されるリスク
真菌・寄生虫感染血清学的検査や培養検査重度感染時、頭蓋内に病巣を形成する恐れ

医療処置による影響

頭蓋内手術の後遺症や放射線治療の副作用など、医療処置によって下垂体がダメージを受け、炎症へ進むことがあり、脳腫瘍などで放射線治療を行った場合、照射が下垂体にまで及ぶと、血管や組織に不可逆的な変化が生じることがあります。

また、ステロイド投与などの治療によって自己免疫のバランスが崩れ、リンパ球性の炎症に移行するケースも考えられます。

医療処置による二次性下垂体炎の背景として考えられる事例

  • 腫瘍摘出術の際に下垂体や周辺血管が損傷
  • 放射線照射による血流障害や細胞障害
  • ステロイド離脱後のリバウンドで下垂体に免疫反応
  • まれに免疫チェックポイント阻害薬の副作用による下垂体炎

医療処置と二次性下垂体炎の関連

処置内容下垂体への影響のメカニズム予防・管理策
脳腫瘍摘出術直接操作や止血処置による下垂体・血管の損傷術後のホルモン検査と画像検査を定期的に行う
放射線治療照射範囲に下垂体が含まれ、細胞・血流障害が起きる放射線量の調整と定期的なホルモン検査
ステロイド投与・離脱長期使用後の急激な離脱で自己免疫が活性化する減量計画を慎重に立て、医師が経過を見る
免疫チェックポイント阻害薬免疫活性の急上昇が自己免疫性下垂体炎を誘発投与期間中のホルモン値と症状モニタリング

生活習慣やストレスとの関係

二次性下垂体炎は、明確な物理的・病的要因が存在しない限り、生活習慣のみで直接誘発されることはまれですが、過度なストレスや不規則な生活リズムによってホルモンバランスが乱れ、下垂体や視床下部の調整機能が弱くなっているところに他の要因が加わると、炎症を起こしやすくなる可能性は否定できません。

あくまで誘因や悪化要因としての位置づけですが、既存疾患がある場合には生活習慣を正すことが病気の進行を遅らせるうえで大切です。

ストレスや生活習慣が悪化要因となる例

  • 慢性的な睡眠不足で免疫機能が低下する
  • 不摂生な食事で全身的な代謝異常が進む
  • 喫煙や過度のアルコールが血管障害を誘発
  • 極度の精神的ストレスで中枢神経系が不安定になる

検査・チェック方法

二次性下垂体炎を疑うときには、下垂体や視床下部の形態的異常と機能的なホルモンバランスの両方を検査する必要があり、また、原因とされる疾患(腫瘍や感染症、自己免疫病など)を特定するために、血液検査や画像検査、場合によっては病理検査を組み合わせます。

ホルモン検査による評価

血液中の主要ホルモン値を測定することで、下垂体が十分に指令を出しているかを推定でき、ACTH、TSH、FSH、LH、成長ホルモン(GH)、プロラクチンなど、複数のホルモンを同時に確認し、それらが低値を示していれば二次性の低下が疑われます。

また、必要に応じて、動態試験(刺激試験や抑制試験)を行うことで、下垂体や副腎・甲状腺・性腺などの応答性を細かく調べます。

ホルモン検査で注目する代表的な項目

  • 血清コルチゾール値とACTH
  • 遊離T4やTSH
  • 性腺刺激ホルモン(FSH、LH)と性ホルモン濃度
  • 成長ホルモンとIGF-1

ホルモンがどの程度欠乏しているかを把握すると同時に、何がその欠乏をもたらしているかを探るための追加検査を検討します。

下垂体ホルモン検査の組み合わせと結果の評価方法

検査項目意義備考
ACTH刺激試験副腎皮質への刺激反応を調べ、コルチゾール産生能を評価副腎不全との鑑別に活用
TRH負荷試験甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンへのTSH応答を測定中枢性甲状腺機能低下を区別
GnRH負荷試験ゴナドトロピン(FSH、LH)の放出反応を調べる性腺機能不全の鑑別に寄与
成長ホルモン分泌刺激試験アルギニンやGHRHによるGH分泌反応を評価成長ホルモンの欠乏を検出

画像検査による評価

MRIやCTなどの画像検査は、下垂体の形態や腫瘍の有無を確認するために不可欠です。

造影剤を使ったMRIでは、下垂体や周囲組織の炎症や腫瘍性変化をより詳しく把握しやすくなり、二次性が疑われる場合は、鞍上部やトルコ鞍周辺に異常がないかをしっかり調べます。

画像検査で重視する点

  • 下垂体の大きさ、形状の異常(肥大や萎縮、変形)
  • 腫瘍や嚢胞の存在、周囲組織との境界明瞭度
  • 炎症や浮腫を示唆する造影効果の違い
  • 視神経交叉や海綿静脈洞への広がり

画像検査の所見は原因特定だけでなく、手術の適応や侵襲度を評価する上でも大切です。

二次性下垂体炎を評価する際のMRIとCTの比較

検査方法特徴メリットデメリット
MRI造影剤使用で軟部組織や炎症を詳細に把握しやすい腫瘍や炎症、血流状態を正確に捉えやすい検査時間が長く、金属インプラントがあると実施困難
CT骨などの硬組織評価に優れる検査時間が短く、緊急時にも対応しやすい軟部組織や炎症の描出はMRIに比べやや低解像度

免疫学的検査や感染症検査

自己免疫性の二次性下垂体炎を疑うときや、感染症が原因の可能性を検討するときには、血液中の自己抗体や炎症マーカー、病原体に対する抗体価などを測定します。

サルコイドーシスであれば血清ACE値、結核であればIGRA検査など、個々の疾患に応じた特異的検査が必要で、免疫学的検査で異常を認めるときには、膠原病やほかの自己免疫疾患の存在も含めて慎重に評価します。

免疫学的・感染症検査の例

  • 抗核抗体(ANA)や抗甲状腺抗体など自己抗体
  • CRPや赤沈など炎症性マーカー
  • 免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM)の濃度
  • 結核菌特異的IFN-γ放出試験(IGRA)
  • 病原菌培養やPCR検査

下垂体炎と関連する可能性がある免疫学的異常

検査項目意義関連疾患の例
抗核抗体自己免疫疾患全般のスクリーニングSLE、シェーグレン症候群など
抗甲状腺抗体甲状腺自己免疫性疾患の指標橋本病、バセドウ病
血清ACE値肉芽腫性疾患の活動性評価サルコイドーシス
IGRA検査結核感染の有無を判定播種性結核
抗HIV抗体HIV感染のスクリーニングHIV/AIDSに伴う免疫低下

病理検査(必要に応じて)

腫瘍や肉芽腫を摘出または生検できる場合、病理組織を調べることで炎症の性質や悪性度、感染の有無などを確定的に把握できますが、脳や下垂体への侵襲的な検査にはリスクが伴うため、画像所見や血液所見から病理検査を行うかどうかを慎重に検討します。

腫瘍性病変が疑われる場合や治療方針の決定に必要性が高い場合、神経外科などの専門チームと連携しながら進めることが多いです。

病理検査の注意点

  • 術前に血液凝固機能や全身状態を十分に評価する
  • 位置や大きさによっては経蝶形骨洞アプローチを検討する
  • 摘出組織の量が少ない場合、診断が困難になる可能性がある
  • 術後感染や出血などの合併症に注意し、回復をモニターする

病理所見をもとに、化学療法や放射線療法の必要性、ステロイド・免疫抑制療法の適否などを判断する材料が得られる点は大きなメリットです。

二次性下垂体炎の治療方法と治療薬について

二次性下垂体炎の治療は、原因となる疾患のコントロールと下垂体機能の補正という二本柱で考えることが基本で、腫瘍性病変であれば腫瘍の切除や放射線療法、感染症であれば抗菌薬・抗真菌薬などの投与、自己免疫性であればステロイドや免疫調整薬の使用など、それぞれに応じたアプローチを行います。

原因疾患へのアプローチ

腫瘍が大きく下垂体を圧迫しているケースでは、神経外科的手術による腫瘍摘出を検討し、腫瘍の位置や性質によって、開頭手術か経蝶形骨洞アプローチかを選択し、術後のホルモン管理が必要です。

感染症による下垂体炎の場合は、病原菌や真菌に対応した抗菌薬や抗真菌薬を投与し、炎症の進展を抑えることを目指します。

原因疾患に対して検討できる主な治療手段

  • 手術(神経外科的摘出、ドレナージなど)
  • 放射線治療(腫瘍が切除困難な場合、補助的に実施)
  • 抗菌薬・抗真菌薬療法(感染源に合わせた選択)
  • 免疫抑制療法(サルコイドーシスやリンパ球性下垂体炎)

下垂体炎の原因に応じた主な治療選択

原因/疾患治療の基本方針補助的措置・注意点
腫瘍性病変手術、放射線療法、化学療法の組み合わせ術後のホルモン低下リスクをモニター
感染症(結核など)抗結核薬、抗真菌薬、必要に応じた手術長期治療を見据え、肝機能・腎機能にも配慮
自己免疫性副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬他の自己免疫疾患の有無を合わせて管理
外傷・医原性手術後の管理、放射線後のフォローアップ侵襲的処置でできた損傷や瘢痕を考慮

ホルモン補充療法

下垂体からのホルモン分泌が低下すると、末梢の内分泌腺(副腎皮質、甲状腺、性腺など)の機能が落ち込み、深刻な症状を招く場合があります。

不足したホルモンを補うために、副腎不全を起こしている場合はグルココルチコイド(ヒドロコルチゾンなど)、甲状腺機能低下にはレボチロキシン、性ホルモン不足にはエストロゲンやテストステロンなどを補充し、成長ホルモンの補充を検討するケースもありますが、注意深い判断が必要です。

ホルモン補充療法で使用される代表的な薬剤

  • 副腎皮質ステロイド(ヒドロコルチゾン、プレドニゾロンなど)
  • 甲状腺ホルモン(レボチロキシンナトリウム)
  • 性ホルモン製剤(エストロゲン剤、テストステロン製剤)
  • 成長ホルモン製剤(小児・成人GH欠損に応じた使用)

補充療法を行う場合は、投与量の調整や副作用チェックのために定期的なホルモン測定が欠かせません。

ホルモン補充療法と目的

補充するホルモン目的投与量調整のポイント
コルチゾール副腎機能の維持、ストレス対処日内変動に合わせて分割投与すること
甲状腺ホルモン基礎代謝やエネルギー産生を正常化過剰投与にならないよう少量から開始
エストロゲン/テストステロン性機能維持、骨密度保護患者の年齢や性別、希望を考慮する
成長ホルモン筋力や骨密度維持、脂質代謝改善糖代謝への影響を見ながら漸増する

免疫抑制薬やステロイドの利用

自己免疫が強く関与する場合や、腫瘍ではないがリンパ球浸潤が著しいケースでは、ステロイド(プレドニゾロンなど)や免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムスなど)を使用し、過剰な炎症反応を鎮め、下垂体機能のさらなる悪化を食い止めることを狙います。

ただし、ステロイドの長期使用には副作用がつきものであり、血糖値や血圧、骨密度などを常にモニターする必要があります。

免疫抑制療法の注意点

  • 感染症リスクが上がるため、うがいや手洗いを徹底する
  • ステロイド離脱時には減量計画を慎重に組む
  • 骨粗鬆症や高血糖、高血圧などの副作用に注意する
  • 併用薬との相互作用を把握し、重篤な副作用を防ぐ

免疫抑制薬とステロイドの概要

薬剤種類主な目的副作用・注意点
ステロイド炎症抑制、免疫抑制、リンパ球の活性低下長期連用で骨粗鬆症、糖尿病、高血圧などが懸念
シクロスポリンT細胞などの免疫細胞活性を抑制腎機能障害や血圧上昇に注意が必要
タクロリムス同上効力が強く、血中濃度を定期的にモニタリング
メトトレキサート免疫抑制作用があり、関節リウマチなどに使用肝機能障害や粘膜障害のリスクがある

二次性下垂体炎の治療期間

二次性下垂体炎の治療期間は、原因の性質や下垂体のダメージ度合い、個々の患者さんの回復力によって大きく変わります。

急性期と慢性期

二次性下垂体炎の経過には、急性期と慢性期が存在することがあり、急性期には強い炎症や急激なホルモン低下で症状が目立ち、ステロイドや免疫抑制薬、手術などの介入をして症状を安定化させることが目標です。

慢性期に移行すると、下垂体機能の低下が固定化される場合があるため、ホルモン補充療法を継続的に行う必要があります。

時期主な状況治療目標
急性期炎症が強く、症状が急激に進行原因への直接アプローチと速やかな安定化
移行期症状が落ち着き始めるが再燃リスクあり治療効果の判定と副作用管理
慢性期下垂体機能低下が固定化する可能性があるホルモン補充療法や再発予防策の徹底

腫瘍性病変での治療期間

腫瘍による二次性下垂体炎の場合、腫瘍の切除または放射線治療を行ってから、炎症が収まるまでに数か月から半年程度かかることもあります。

腫瘍が大きくて完全切除が難しい場合や、悪性度の高い病変では、化学療法や再手術、追加の放射線療法などで長期戦になることもあり、さらに、ホルモン補充が生涯必要になるケースもあり、継続的なフォローアップが必要です。

腫瘍性病変の治療期間の目安

  • 小さな良性腫瘍の切除後は数か月の通院でホルモンバランスが安定
  • 大きな腫瘍や悪性腫瘍では半年以上の闘病と治療継続
  • 放射線治療後は定期MRIで再発や進行の有無を確認
  • ホルモン補充の調整にさらに数か月かかる可能性もある

個々の状況によって差が大きいため、医師とよく相談して治療スケジュールを把握することが重要です。

感染症や自己免疫の場合

結核や真菌感染による下垂体炎は、感染コントロールのために数か月から1年以上の薬物療法が必要になる場合があり、自己免疫性の下垂体炎でステロイド治療を行うときも、徐々に減量しながら長期的に様子を見ることが多いです。

再燃を防ぐためには、血液検査や画像検査を定期的に受け、病勢がぶり返さないかを確かめながら治療期間を調整します。

感染症や自己免疫での治療期間

背景疾患治療期間の目安注意点
結核6か月~1年以上(肺結核に準ずる)薬剤耐性や副作用管理が課題
真菌感染数か月~長期免疫力の状態によって変動が大きい
サルコイドーシスステロイド治療を半年以上行う例が多い副作用と寛解状態のバランス
リンパ球性下垂体炎免疫抑制療法を数か月~1年程度継続することも症状の再燃リスクを考慮してフォローが必要

二次性下垂体炎薬の副作用や治療のデメリットについて

二次性下垂体炎の治療では、腫瘍摘出や放射線治療、免疫抑制薬の投与など、多方面からのアプローチを行うため、副作用やデメリットを完全に避けることは困難です。

ステロイド治療の副作用

ステロイドは炎症を抑える力が強く、自己免疫性やリンパ球浸潤が強い下垂体炎では大きな効果を発揮しますが、その反面、副作用が多いことも知られています。

骨粗鬆症や糖尿病、高血圧、感染症リスク増大などが代表的な副作用であり、長期連用すると発症リスクが上がりますが、急激な投与中断は副腎不全を招く恐れもあるため、医師の指導下で慎重に減量計画を進めることが大切です。

ステロイド副作用

  • 血糖値上昇や脂質異常で生活習慣病が悪化
  • 骨量減少による骨折リスクの増加
  • 精神的不安定や不眠、高揚感
  • 肌荒れやむくみ、体重増加

こうした副作用を最小限に抑えるために、定期的な血液検査や骨密度測定、適度な運動や食事管理が必要です。

ステロイド治療の副作用と管理

副作用概要管理・予防策
高血糖インスリン抵抗性の増大血糖測定を定期的に行い、食事療法を取り入れる
骨粗鬆症骨代謝のバランスが崩れ、骨折リスク増加ビタミンDやカルシウム補給、運動療法
感染症リスク増加免疫抑制効果で細菌やウイルスにかかりやすい手洗い・うがいの徹底、必要時の予防接種
精神・行動面の影響不眠、うつ状態、躁状態などが発生投与量や期間に留意、専門家との連携

免疫抑制薬のリスク

シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制薬は、自己免疫的な炎症を抑える一方で、感染症や腎機能障害、血圧上昇などの副作用を伴うことがあるので、定期的な血液検査で濃度や腎機能、肝機能などを監視します。

免疫抑制薬の代表的なデメリット

  • 感染症の重症化リスクが高まる
  • 腎機能障害により血清クレアチニンが上昇する場合がある
  • 血圧コントロールが乱れやすくなる
  • 薬価が高い薬剤も多く、長期治療で経済的負担になる

治療のメリットとリスクを秤にかけながら、適切な薬選択を行うことが求められます。

手術・放射線治療による後遺症

腫瘍摘出や嚢胞ドレナージなどの神経外科手術は、下垂体だけでなく周囲の脳組織や血管にリスクを伴い、視神経や海綿静脈洞が近くにあり、手術中の損傷や出血により神経麻痺や合併症を引き起こす可能性があります。

また、放射線治療の場合、数年後に放射線性の下垂体機能低下が起こることがあり、長期的な観察が必要です。

手術や放射線治療のデメリット

治療手段主なリスク合併症例
開頭手術出血、感染、脳神経損傷視野障害の悪化、脳脊髄液漏など
経蝶形骨洞アプローチ組織損傷による髄液漏下垂体茎への影響でホルモン低下が進行
放射線治療晩期放射線障害、下垂体機能低下血管障害、放射線性腫瘍発生の可能性など

ホルモン補充療法のデメリット

ホルモン補充療法は、不足したホルモンを補うために大切ですが、体内リズムと合わなかったり、過剰投与となると、副作用を招くリスクがあります。

甲状腺ホルモンを過剰に補充すれば、頻脈や高血圧、不安感などが出やすくなり、コルチゾールが不足している状況で甲状腺ホルモンだけ補充すると副腎不全を助長することもあります。

ホルモン補充療法のデメリット

  • 投与タイミングを誤ると体内リズムが崩れる
  • 一種類のホルモンを補うと他のホルモンバランスに影響する場合がある
  • 過剰投与で動悸や不眠、発汗過多などが起こる
  • 生涯にわたる補充が必要になると経済負担や通院回数が増える

こうしたリスクを理解したうえで、効果と副作用のバランスを常にモニターしながら治療を続ける姿勢が重要です。

二次性下垂体炎の保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

保険適用の範囲

MRI検査やホルモン負荷試験、腫瘍摘出手術、放射線治療、免疫抑制薬などは、二次性下垂体炎の診断および治療に必要であれば保険適用です。

ただし、一部の最新医療や自由診療の先進的技術(ロボット手術など)が適用される場合は自費になる可能性があります。

保険適用となる主な項目

  • MRIやCTなどの画像検査
  • ホルモン負荷試験や血液検査
  • 腫瘍摘出手術や内視鏡手術
  • 放射線治療(ガンマナイフなど)
  • ステロイドや免疫抑制薬の処方
治療/検査項目費用目安備考
MRI検査(造影なし)5,000円~8,000円程度検査部位や病院により変動
ホルモン負荷試験3,000円~10,000円程度負荷薬剤や回数で大きく差が出る
手術(開頭または内視鏡)5万円~数十万円程度(入院費含む)手術の難易度や入院日数による
放射線治療(外部照射)1回あたり数千円~1万円程度合計回数や照射範囲で総額が増減
ステロイド(1か月分)数百円~1,000円程度ジェネリック医薬品かどうかで差がある

高額療養費制度と医療費控除

高額療養費制度を利用すれば、1か月あたりの医療費が自己負担限度額を超えた分について、後日払い戻しを受けられます。
また、年間の医療費(自己負担)が10万円を超えた場合、確定申告時に医療費控除を受けることができ、所得税や住民税が減額される可能性があります。

高額療養費制度や医療費控除を利用するうえで意識する項目

  • 手術や入院日数が多い月は請求額が高くなるので限度額適用認定証を事前に取得する
  • 薬局で購入した市販薬や通院時の交通費などは医療費控除の対象にならないケースもある
  • 領収書や処方箋、診療明細をきちんと保存しておく
  • 所得に応じて自己負担限度額が変わるため、事前に確認する

以下の表は、高額療養費制度の簡単な自己負担限度額例(70歳未満、所得区分多数あり)を示します。

所得区分外来+入院の自己負担限度額(1か月)備考
区分ア(高所得層)約25万2千円~医療費が高額の場合、超過分は後日払い戻し
区分イ(中間層)約8万~9万円程度条件により多数該当高額療養費の適用がある場合あり
区分ウ(一般)約8万円程度過去12か月に3回以上超過した場合、4回目以降は負担軽減あり
区分エ(低所得)約5万7千円程度被保険者の所得に応じて限度額が設定

以上

参考文献

Yuen KC, Popovic V, Trainer PJ. New causes of hypophysitis. Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism. 2019 Apr 1;33(2):101276.

Chiloiro S, Capoluongo ED, Tartaglione T, Giampietro A, Bianchi A, Giustina A, Pontecorvi A, De Marinis L. The changing clinical spectrum of hypophysitis. Trends in Endocrinology & Metabolism. 2019 Sep 1;30(9):590-602.

Fukuoka H. Hypophysitis. Endocrinology and Metabolism Clinics. 2015 Mar 1;44(1):143-9.

Joshi MN, Whitelaw BC, Carroll PV. Mechanisms in endocrinology: hypophysitis: diagnosis and treatment. European journal of endocrinology. 2018 Sep;179(3):R151-63.

Cheung CC, Ezzat S, Smyth HS, Asa SL. The spectrum and significance of primary hypophysitis. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2001 Mar 1;86(3):1048-53.

Sautner D, Saeger W, Lüdecke DK, Jansen V, Puchner MJ. Hypophysitis in surgical and autoptical specimens. Acta neuropathologica. 1995 Dec;90:637-44.

Kluczyński Ł, Gilis-Januszewska A, Rogoziński D, Pantofliński J, Hubalewska-Dydejczyk A. Hypophysitis—new insights into diagnosis and treatment. Endokrynologia Polska. 2019;70(3):260-9.

Faje A. Hypophysitis: evaluation and management. Clinical Diabetes and Endocrinology. 2016 Sep 6;2(1):15.

Imber BS, Lee HS, Kunwar S, Blevins LS, Aghi MK. Hypophysitis: a single-center case series. Pituitary. 2015 Oct;18:630-41.

Flanagan DE, Ibrahim AE, Ellison DW, Armitage M, Gawne-Cain M, Lees PD. Inflammatory hypophysitis–the spectrum of disease. Acta neurochirurgica. 2002 Jan;144:47-56.

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

掲載情報の信頼性

当記事の内容は、信頼性の高い医学文献やガイドラインを参考にしていますが、医療情報には変動や不確実性が伴うことをご理解ください。また、情報の正確性には万全を期しておりますが、掲載情報の誤りや第三者による改ざん、通信トラブルなどが生じた場合には、当院は一切責任を負いません。

情報の時限性

掲載されている情報は、記載された日付の時点でのものであり、常に最新の状態を保証するものではありません。情報が更新された場合でも、当院がそれを即座に反映させる保証はございません。

ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

  • URLをコピーしました!
目次