下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)

下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症 pituitary gigantism)とは、下垂体腺腫による成長ホルモンの過剰分泌が原因で起こる疾患です。

手足や顔面の肥大化、全身の軟部組織の肥厚などがみられ、心血管系や代謝系への影響もあります。

希少な疾患と言われ、発症頻度は10万人に1人程度です。

ここでは、下垂体性巨人症について、病態や症状、診断方法などを詳しく解説していきます。

目次

下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の病型

下垂体性巨人症には、いくつかの病型があり、それぞれの病型の特徴について詳しく説明します。

巨人症と末端肥大症

巨人症と末端肥大症は、下垂体性成長ホルモン分泌亢進症の代表的な病型です。

骨端線閉鎖前に発症した場合は巨人症、骨端線閉鎖後に発症した場合は末端肥大症と呼ばれます。

巨人症では、全身の骨が過剰に成長することで、非常に大柄な体型になる一方、末端肥大症では、骨端線がすでに閉鎖しているため、四肢末端部の軟部組織が肥大。

先端巨大症

先端巨大症は、下垂体性成長ホルモン分泌亢進症のうち、顔貌の変化が特に顕著な病型です。

下顎や鼻、眉弓などの骨の肥大により、特徴的な顔貌を呈し、先端巨大症の患者さんは、靴のサイズが大きくなることもよくあります。

先端肥大症

先端肥大症は、先端巨大症と似ていますが、骨の変化よりも軟部組織の肥大が主体となる病型です。

手足の指の太さが増すことで、手袋や靴のサイズが大きくなり、また、舌の肥大により、歯列不正や開咬を生じることもあります。

末端肥大を伴わない成長ホルモン分泌亢進症

末端肥大を伴わない成長ホルモン分泌亢進症は、比較的まれな病型です。

成長ホルモンの分泌亢進はあるものの、骨や軟部組織の肥大が目立たないものの、内臓の肥大や代謝異常などの合併症を伴うことがあります。

下垂体性巨人症の病型

病型発症時期主な特徴
巨人症骨端線閉鎖前全身の骨の過剰成長
末端肥大症骨端線閉鎖後四肢末端部の軟部組織の肥大
先端巨大症骨端線閉鎖後顔貌の変化が顕著
先端肥大症骨端線閉鎖後手足の軟部組織の肥大が主体

各病型の骨変化の特徴

病型骨変化の特徴
巨人症全身の骨の過剰成長
末端肥大症骨の変化は軽度
先端巨大症顔面骨の肥大が顕著
先端肥大症骨の変化は軽度

下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の症状

下垂体性巨人症では、体のさまざまな部分に変化が現れます。

手足や顔面の肥大化

下垂体性巨人症の最も分かりやすい症状の一つが、手足や顔が異常に大きくなることです。

成長ホルモンが多く出すぎることで、軟骨や骨が通常より大きく成長してしまいます。

  • 手足が大きくなる(靴や指輪のサイズが合わなくなる)
  • 顔の形が変わる(あごが前に出る、鼻や耳が大きくなる)
  • 歯と歯の間隔が広がる

【H3だ】全身の軟部組織の肥厚

成長ホルモンの過剰分泌は、軟らかい組織にも影響を与えます。

以下の表は、下垂体性巨人症で見られる軟部組織の変化をまとめたものです。

軟部組織変化
皮膚肥厚、多汗、皮脂分泌増加
肥大化(巨舌症)
声帯肥厚による声の低音化

内臓の肥大化

下垂体性巨人症では、内臓も大きくなることがあります。

臓器での変化

  • 心臓が大きくなる
  • 肝臓が腫れる
  • 腎臓が腫れる

代謝・内分泌系の変化

成長ホルモンは、体の代謝や他のホルモンの働きにも大きな影響を与えます。

代謝・内分泌系変化
血糖値上昇(耐糖能異常、糖尿病)
インスリン抵抗性の増大
脂質代謝異常(高脂血症)
甲状腺機能変化(甲状腺機能亢進症または低下症)

下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の原因

下垂体性巨人症の原因は、下垂体にできた良性の腫瘍による成長ホルモンの過剰分泌であることが分かっています。

下垂体腺腫による成長ホルモン過剰分泌

下垂体性巨人症の主な原因は、下垂体の前の部分に発生した腺腫という良性の腫瘍による成長ホルモンの過剰分泌です。

下垂体腺腫は、腫瘍化した細胞が大量の成長ホルモンを分泌するようになります。

その結果、体内の成長ホルモン濃度が異常に高くなり、巨人症や手足の先が大きくなる症状などを引き起こすのです。

下垂体腺腫の種類と頻度

下垂体腺腫には、以下のような種類があります。

  • 成長ホルモンを作る腺腫
  • プロラクチンを作る腺腫
  • ACTHを作る腺腫
  • ホルモンを作らない腺腫

下垂体性巨人症の原因となるのは、主に成長ホルモンを作る腺腫です。

下垂体腺腫の発生要因

下垂体腺腫の正確な発生要因は、まだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関係している可能性があります。

要因説明
遺伝的要因一部の遺伝する病気では、下垂体腺腫の発生リスクが高い
ホルモンバランスの変化性ホルモンや甲状腺ホルモンの変化が、下垂体腺腫の発生に関係する可能性がある
環境因子放射線を浴びるなどの環境因子が、下垂体腺腫の発生に関係する可能性がある

遺伝性疾患と下垂体腺腫

いくつかの遺伝する病気では、下垂体腺腫の発生リスクが高いことが知られています。

病気の名前特徴
多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)下垂体、すい臓、副甲状腺などに腫瘍ができやすい
カーニー複合皮膚の色素斑、心臓粘液腫、下垂体腺腫などを伴う
家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症高カルシウム血症、低カルシウム尿症、下垂体腺腫などを伴う

これらの遺伝する病気では、特定の遺伝子の変化が下垂体腺腫の発生に関係していると考えられているのです。

下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の検査・チェック方法

下垂体性巨人症を見つけるには、いくつかの検査が行われます。

身体計測と視診

下垂体性巨人症の初期評価には、体の大きさを測ったり、見た目をチェックしたりすることが大切です。

評価項目内容
身長年齢に応じた身長の増加率を確認
体重体重増加の程度を評価
手足のサイズ手足の肥大化の有無をチェック
顔貌下顎の突出、鼻や耳の肥大化を観察

血液検査

下垂体性巨人症の診断には、血液検査が欠かせません。

  • 成長ホルモン(GH)
  • インスリン様成長因子-1(IGF-1)
  • 血糖値 ・甲状腺機能(TSH、フリーT4)

特に、空腹時の成長ホルモンとIGF-1の値が高いことは、下垂体性巨人症の強い手がかりになります。

画像検査

下垂体にできものがあるかどうかを確認するため、画像検査が行われます。

検査方法目的
MRI下垂体腺腫の有無、大きさ、周囲組織への影響を評価
CT下垂体周囲の骨構造の変化を確認

糖負荷試験

下垂体性巨人症では、成長ホルモンの分泌が抑えられにくいという特徴があります。

この特徴を利用した検査が、糖負荷試験です。

ブドウ糖を飲んでもらった後、一定時間ごとに成長ホルモンの値を測定します。

健康な人では、ブドウ糖を飲むと成長ホルモンの分泌が抑えられますが、下垂体性巨人症の患者さんでは抑えが不十分ではありません。

下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の治療方法と治療薬

下垂体性巨人症の治療には、主に手術、薬、放射線の3つの方法があります。

手術療法

下垂体性巨人症の治療で最初に選ばれるのは、鼻の奥から下垂体腫瘍を取り除く手術です。

ただし、腫瘍が大きかったり、重要な血管に入り込んでいたりすると、完全に取り除くのが難しい場合もあります。

良い点注意点
鼻の奥からの手術成長ホルモンの分泌量が正常に戻ることが期待できる腫瘍の大きさや広がり方によっては、完全に取り除けないことがある

薬物療法

手術後も成長ホルモンの分泌量が高いままの場合や、手術ができない患者さんには、薬による治療が選ばれます。

主な治療薬

  • ソマトスタチンアナログ製剤:成長ホルモンの分泌を抑える薬
  • GH受容体拮抗薬:成長ホルモンの働きを妨げる薬
  • ドパミン作動薬:一部の患者さんで成長ホルモンの分泌を抑える薬

これらの薬は、単独で使われたり、組み合わせて使われたりします。

放射線療法

手術や薬による治療で十分な効果が得られない場合、放射線治療が検討されることがあります。

治療法適応
手術療法最初に選ばれる治療。腫瘍を取り除くことで成長ホルモンの分泌量を正常に戻すことを目指す
薬物療法手術後も成長ホルモンの分泌量が高いままの場合や、手術ができない患者さん
放射線療法手術や薬による治療で十分な効果が得られない場合。下垂体の機能が低下するリスクを考慮する必要がある

治療後のフォローアップ

下垂体性巨人症の治療後は、定期的な経過観察が欠かせません。 成長ホルモンの分泌量の評価、腫瘍の再発の有無、下垂体の機能の評価などを行い、必要であれば追加の治療を検討します。

下垂体性巨人症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の治療期間と予後

下垂体性巨人症の治療は長期間にわたることが多く、早期発見と継続的な経過観察が大切です。

外科的治療の役割

下垂体性巨人症の治療の中心は、下垂体にできたできもの(腺腫)を手術で取り除くことです。

鼻腔から蝶形骨洞を通って下垂体に達する方法(経蝶形骨洞手術:TSS)が広く用いられ、熟練した脳神経外科医による手術が推奨されます。

手術方法特徴
経蝶形骨洞手術(TSS)鼻腔から蝶形骨洞を経由して下垂体に到達し、腺腫を切除
開頭術頭蓋骨を開けて下垂体に到達し、腺腫を切除(TSSが困難な場合)

薬物療法の役割

手術後も、残ったできものから成長ホルモンが出続ける場合があります。

このようなときは、薬物療法が有効です。

  • ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチド)
  • 成長ホルモン受容体拮抗薬(ペグビソマント)
  • ドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン)

放射線療法の役割

手術やお薬での治療で十分な効果が得られないこともあり、そのような際は、放射線療法が検討されることがあります。

放射線療法特徴
定位放射線治療高精度で腺腫に集中的に放射線を照射
従来の放射線治療下垂体周囲の正常組織にも放射線が照射される

長期的な経過観察の重要性

下垂体性巨人症の治療後も、長期的な経過観察が欠かせません。

治療効果の判定、合併症の早期発見、再発の有無のチェックなどを目的として、定期的な評価が行われます。

  • 身体計測(身長、体重、手足のサイズなど)
  • 血液検査(成長ホルモン、IGF-1、血糖値、甲状腺機能など)
  • 画像検査(MRI、CTなど)

薬の副作用や治療のデメリット

下垂体性巨人症の治療には、外科的治療、薬物療法、放射線療法などがありますが、それぞれに副作用やデメリットがあります。

外科的治療の副作用及びデメリット

副作用・デメリット説明
術後の合併症髄液漏、感染、出血などの合併症が起こる可能性がある
ホルモン分泌障害下垂体の他のホルモン分泌が障害される場合がある
再発のリスク腺腫の完全摘出が困難な場合、再発のリスクがある

薬物療法の副作用及びデメリット

下垂体性巨人症の薬物療法の副作用及びデメリット

  • 消化器症状(悪心、下痢など)
  • 注射部位の疼痛や硬結
  • 肝機能障害 ・高血糖

放射線療法の副作用及びデメリット

下垂体性巨人症の放射線療法の副作用及びデメリット

副作用・デメリット説明
放射線誘発性の下垂体機能低下症放射線照射により、下垂体機能が低下する可能性がある
二次性腫瘍のリスク放射線照射による二次性腫瘍の発生リスクがある
効果発現までの時間放射線療法の効果発現には数年を要することがある

保険適用の有無と治療費の目安について

下垂体性巨人症という病気の治療では、健康保険が適用される場合と、自費診療となる場合があります。

保険適用となる治療

下垂体性巨人症の治療で、健康保険が適用される治療法

・手術療法(経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術)

・薬物療法(ソマトスタチンアナログ製剤、GH受容体拮抗薬)

・放射線療法(定位放射線治療、ガンマナイフ治療)

自費診療となる治療

最新の治療法は、自費診療となる可能性があります。

・新しい薬物療法(国内未承認薬の使用)

・先進的な放射線治療(陽子線治療、重粒子線治療)

・再生医療(幹細胞移植)

これらの治療は、健康保険の適用外となるため、全額自己負担です。

一般的な治療費の目安

治療法費用の目安
手術療法100万円~300万円
薬物療法(ソマトスタチンアナログ製剤)月額20万円~40万円
薬物療法(GH受容体拮抗薬)月額30万円~50万円
放射線療法(定位放射線治療)200万円~400万円
放射線療法(ガンマナイフ治療)300万円~500万円

ただし、これらの費用は治療内容や期間、医療機関によって異なることがあります。

高額療養費制度の活用

下垂体性巨人症の治療費が高額になった場合、高額療養費制度を利用することで自己負担額を減らせる可能性があります。

所得区分自己負担限度額(月額)
低所得者35,400円
一般80,100円+(医療費-267,000円)×1%
上位所得者150,000円+(医療費-500,000円)×1%
現役並み所得者252,600円+(医療費-842,000円)×1%

ただし、世帯の所得によって自己負担限度額は変わります。 また、入院時の食事代や差額ベッド代などは対象外となりますので、ご留意ください。

実際の治療費は上記の目安より高くなる場合もございますので、あらかじめご了承ください。 保険適用の可否については、診察時に担当医師に直接ご確認いただくことをお勧めします。

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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