高プロラクチン血症

高プロラクチン血症

高プロラクチン血症(hyperprolactinemia)とは、下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンが過剰に分泌される状態のことです。

高プロラクチン血症は、女性では月経異常や乳汁分泌、男性ではテストステロン低下による性機能障害などの症状が現れることがあります。

ここでは、高プロラクチン血症の症状、原因、診断方法について詳しく解説していきましょう。

目次

高プロラクチン血症の病型

下垂体から分泌されるプロラクチンが過剰に分泌される疾患である、高プロラクチン血症の主な病型について、説明します。

特発性高プロラクチン血症

特発性高プロラクチン血症は、明らかな原因が特定できない場合に診断が下されるタイプで、高プロラクチン血症全体の約30%を占めます。

特発性高プロラクチン血症頻度
高プロラクチン血症全体に占める割合約30%
診断の際に重要なこと他の原因の除外

プロラクチン産生下垂体腺腫

プロラクチン産生下垂体腺腫は、高プロラクチン血症の最も一般的な原因で、下垂体前葉にプロラクチンを産生する腺腫が存在するのが特徴です。

腺腫のサイズに応じて、微小腺腫(10mm未満)とマクロ腺腫(10mm以上)に分類されます。

  • 微小腺腫:高プロラクチン血症全体の約50%を占める
  • マクロ腺腫:高プロラクチン血症全体の約20%を占める

薬剤性高プロラクチン血症

抗精神病薬、抗うつ薬、消化性潰瘍治療薬などにより、高プロラクチン血症が起こることがあります。

薬剤性高プロラクチン血症代表的な薬剤
抗精神病薬フェノチアジン系、ブチロフェノン系
抗うつ薬三環系抗うつ薬、SSRI
消化性潰瘍治療薬H2受容体拮抗薬

視床下部・下垂体茎の障害

視床下部や下垂体茎の障害が原因で、高プロラクチン血症が生じるケースもあります。

この病型では、腫瘍、炎症、外傷などが原因となり、ドパミンの分泌が抑制されることが主な発生メカニズムです。

MRI検査を行うことで、視床下部や下垂体茎の異常を確認することができます。

高プロラクチン血症の症状

ここでは、高プロラクチン血症の主な症状について、みていきましょう。

女性における高プロラクチン血症の症状

高プロラクチン血症の女性患者さんでは、以下のような症状が現れやすいことが分かっています。

  • 無月経や乳汁分泌
  • 不妊
  • 性欲低下
  • 骨粗鬆症のリスク増加

男性における高プロラクチン血症の症状

男性の高プロラクチン血症患者さんでは、次のような症状が見られることがあります。

  • 性欲低下
  • 勃起不全
  • 不妊
  • 女性化乳房

高プロラクチン血症に伴う全身症状

高プロラクチン血症による全身症状

  • 頭痛
  • 視野異常
  • 全身倦怠感

高プロラクチン血症の原因

高プロラクチン血症は、さまざまな原因によって引き起こされる疾患です。

プロラクチン産生下垂体腺腫

プロラクチン産生下垂体腺腫は、高プロラクチン血症の最も一般的な原因です。

下垂体前葉にプロラクチンを産生する腺腫があり、腺腫のサイズに応じて微小腺腫とマクロ腺腫に分けられます。

腺腫の種類定義頻度
微小腺腫10mm未満高プロラクチン血症全体の約50%
マクロ腺腫10mm以上高プロラクチン血症全体の約20%

視床下部・下垂体茎の障害

視床下部や下垂体茎の障害も、高プロラクチン血症の原因です。

腫瘍、炎症、外傷などが原因で、ドパミンの分泌が抑制され、MRI検査で異常を確認します。

  • 腫瘍:頭蓋咽頭腫、髄膜腫など
  • 炎症:サルコイドーシス、自己免疫性下垂体炎など
  • 外傷:頭部外傷、下垂体茎断裂など

薬剤性

抗精神病薬、抗うつ薬、消化性潰瘍治療薬などが、原因になることもあります。

薬剤性高プロラクチン血症代表的な薬剤
抗精神病薬フェノチアジン系、ブチロフェノン系
抗うつ薬三環系抗うつ薬、SSRI
消化性潰瘍治療薬H2受容体拮抗薬

その他の原因

その他にも、甲状腺機能低下症、慢性腎不全、多嚢胞性卵巣症候群などの疾患が高プロラクチン血症の原因となることがあります。

また、妊娠・授乳期には生理的な高プロラクチン血症が認められることも。

高プロラクチン血症の検査・チェック方法

高プロラクチン血症は、早期発見と対処が大切です。

高プロラクチン血症の診断に用いられる血液検査

高プロラクチン血症の診断には、血液検査が欠かせません。 医師が血液サンプルを採取し、プロラクチン値を測定します。

プロラクチン値基準範囲
女性1.2~29.2 ng/mL
男性1.2~17.7 ng/mL

高プロラクチン血症の原因を特定するための画像検査

高プロラクチン血症と診断された患者さんには、下垂体腫瘍の有無を確認するための画像検査が行われます。

  • MRI検査
  • CT検査

検査により、下垂体腫瘍の存在や大きさ、周囲組織への影響などを評価することが可能です。

高プロラクチン血症の治療方法と治療薬

高プロラクチン血症の治療は、原因や症状、重症度に応じて選ぶことが大切です。

ドパミンアゴニスト

ドパミンアゴニストは、高プロラクチン血症の第一選択薬です。

これらの薬剤は、下垂体のドパミン受容体を刺激し、プロラクチン分泌を抑制する働きがあります。

ドパミンアゴニスト特徴
カベルゴリン長時間作用型で、週1回の投与が可能
ブロモクリプチン短時間作用型で、1日2~3回の投与が必要

手術療法

薬物治療が奏効しなかったり、腺腫が大きく周囲の組織を圧迫しているケースでは、手術療法を検討します。

経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術が一般的です。

放射線療法

手術が困難な場合や、手術後に腺腫が残存したときには、放射線療法が選択されることも。

ガンマナイフやサイバーナイフなどの定位放射線治療が用いられ、腺腫の縮小と病勢のコントロールをします。

下垂体疾患の一種である高プロラクチン血症の治療期間と予後

高プロラクチン血症の治療期間と予後は、患者さんの状態や治療への反応性によって異なります。

薬物療法による高プロラクチン血症の治療期間

代表的な治療薬と治療期間

治療薬治療期間
ブロモクリプチン数週間~数ヶ月
カベルゴリン数週間~数ヶ月

手術療法による高プロラクチン血症の治療期間

薬物療法で効果が不十分な場合や、腫瘍が大きいときには、手術療法が選択されることがあります。

手術後の回復期間

  • 経蝶形骨洞手術:2~3週間
  • 開頭手術:4~6週間

手術後は定期的なフォローアップが必要となりますが、多くの患者さんで良好な予後が見込めます。

高プロラクチン血症の長期的な予後

高プロラクチン血症の長期的な予後は、原因や治療への反応性によって異なります。

原因予後
プロラクチン産生腺腫良好
下垂体茎の圧迫比較的良好
視床下部や下垂体の炎症性疾患疾患によって異なる

薬の副作用や治療のデメリット

高プロラクチン血症の治療には、副作用やデメリットが伴う可能性があります。ここでは、各治療法の主な副作用とデメリットについて詳しく説明します。

ドパミンアゴニストの副作用

・悪心、嘔吐 ・めまい、立ちくらみ ・頭痛 ・鼻づまり

特に治療開始時や増量時に副作用が出現しやすいとされ、症状が強いときは減量や中止を検討します。

ドパミンアゴニスト主な副作用
カベルゴリン吐き気、めまい、頭痛
ブロモクリプチン悪心、嘔吐、低血圧

手術療法のデメリット

手術療法のデメリット

  • 術後の下垂体機能低下症のリスク
  • 術後の尿崩症のリスク
  • 術後の髄液漏のリスク

放射線療法の副作用

放射線療法の副作用

放射線療法主な副作用
ガンマナイフ下垂体機能低下症、視神経障害
サイバーナイフ下垂体機能低下症、視神経障害

保険適用の有無と治療費の目安について

高プロラクチン血症の治療は、健康保険の適用対象です。

・診察費 ・血液検査費 ・画像検査費(MRI、CT等) ・薬物療法費(ブロモクリプチン、カベルゴリン等) ・手術療法費(経蝶形骨洞手術、開頭手術等)

高プロラクチン血症の診察費と検査費の一般的な費用

高プロラクチン血症の診察費と検査費の一般的な費用

項目費用
初診料2,000~5,000円
再診料1,000~3,000円
血液検査費3,000~10,000円
MRI検査費20,000~40,000円
CT検査費10,000~20,000円

高プロラクチン血症の薬物療法費の一般的な費用

高プロラクチン血症の薬物療法費の一般的な費用

治療薬費用(1ヶ月あたり)
ブロモクリプチン3,000~5,000円
カベルゴリン5,000~10,000円

高プロラクチン血症の手術療法費の一般的な費用

高プロラクチン血症の手術療法費の一般的な費用

・経蝶形骨洞手術:50万~100万円

・開頭手術:100万~200万円

手術療法費は、手術の複雑性や入院期間によって大きく異なることがあります。

上に記載した治療費より高くなる場合もありますので予めご了承ください。

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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