原発性副甲状腺機能亢進症とは、副甲状腺という小さな内分泌腺が過度に働き、血中のカルシウム濃度が持続的に高くなる病気です。
副甲状腺ホルモンの分泌量が増えることで骨のカルシウムが血中に放出されたり、腎臓から排泄されるべきカルシウムが再吸収されたりしてしまい、さまざまな不調が起こりやすくなります。
症状は多彩で、倦怠感や骨粗しょう症、うつ様状態など体や心に影響し、生活の質を落とす要因になります。
病型
原発性副甲状腺機能亢進症には、大きくわけると副甲状腺の腫瘍が原因となるタイプや、複数の副甲状腺の過形成によって副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が多くなっているタイプなどがあります。
一見すると骨や腎臓だけの問題かと思われがちですが、血中カルシウム値の変動は全身に影響するため、各病型によって症状や治療方針に違います。
単発性副甲状腺腺腫と特徴
単発性副甲状腺腺腫は、副甲状腺のうち1つが腫瘍化することでホルモン分泌が過剰になる病型で、良性腫瘍が副甲状腺内で形成される状況が多く、外科的に腫瘍を切除すると比較的安定して症状が改善しやすいです。
通常は血液検査や画像検査によって肥大している副甲状腺を特定し、その部位を摘出し、切除後は、残存している正常副甲状腺がホルモン調節を担うため、大きな後遺症を残さずに経過を追うケースがしばしばあります。
副甲状腺過形成と症状の経過
複数の副甲状腺に過形成があるケースもあり、この場合は単発性腺腫とは異なり、どの副甲状腺もホルモン分泌を増やしている状態です。
そのため、外科的治療を行う際に複数の副甲状腺を切除する必要が生じる可能性があり、過形成が原因の場合、1つの副甲状腺だけを切除しても、他の副甲状腺が過活動のまま残るとカルシウム値が高止まりすることがあります。
遺伝性症候群との関連
一部の患者さんではMEN1(多発性内分泌腺腫瘍症1型)などの遺伝性症候群と関連して発症する場合が知られています。MEN1では副甲状腺だけでなく、膵臓や下垂体などにも腫瘍が発生しやすく、家族性に複数の内分泌腺に問題が起こります。
このような背景を持つ場合は、単独の副甲状腺の腫瘍だけにとらわれず、ほかの内分泌器官の状態も意識しながら長期的にフォローアップする姿勢が大切です。
病型の違いや主な原因、治療の傾向
病型 | 主な原因 | 治療の方針 |
---|---|---|
単発性副甲状腺腺腫 | 副甲状腺の良性腫瘍 | 腫瘍の外科的切除 |
多発性副甲状腺腺腫 | 副甲状腺の複数腺腫 | 複数の部位の外科的切除 |
副甲状腺過形成 | 全体的な細胞増殖 | 必要に応じて複数の副甲状腺切除や経過観察 |
遺伝性症候群(MEN1など) | 遺伝子変異と内分泌腺腫瘍の発生 | 全身管理と複数の内分泌器官に対する治療 |
病型は多彩であり、原因となる副甲状腺腫瘍が1つか複数か、または遺伝性かどうかによって治療アプローチが変わります。
単発性の場合は比較的シンプルに腫瘍を切除する方法を検討することが多いですが、過形成や遺伝性疾患の場合は、長期的な管理が必要になる点に注意が必要です。
病型を把握するためのポイント
- 単発性なのか、複数の副甲状腺が対象なのかを検査で確認する
- 遺伝性症候群の可能性があれば別の内分泌器官の状態にも着目する
- 治療方針は病型によって異なるため、医師との相談を重ねる
病型の判別は治療の出発点となる重要な段階なので、血液検査や画像検査を行い、総合的に判断していくことが大切です。
原発性副甲状腺機能亢進症の症状
原発性副甲状腺機能亢進症は、血液中のカルシウム濃度が高い状態(高カルシウム血症)をもたらし、それによって全身に多様な症状を起こす可能性があります。
骨や腎臓だけでなく、神経や筋肉、さらには精神面にも影響が及ぶことがあり、症状の重さや表れ方は人それぞれです。
骨への影響と痛み
カルシウムが血中に溶け出すことで骨のカルシウム量が減りやすくなり、骨粗しょう症や骨折リスクの上昇につながります。
また、慢性的に骨の代謝が乱れると、腰や背中、膝といった関節部位に痛みを覚えるケースもあり、生活の質を落とす大きな原因になります。加えて背骨の骨密度が低下すると、ちょっとした衝撃で圧迫骨折を起こしやすくなるため注意が必要です。
腎臓への負担
高カルシウム血症が持続すると、腎臓でカルシウムを排出する作業が増えるため、腎機能に大きな負担がかかり、腎結石も起こりやすくなり、結石が大きくなれば腎盂腎炎などのリスクが高まります。
腰や背中に突然の激痛が走る腎仙痛を起こす可能性もあるので、健診などで結石を指摘された方は早めにチェックすると安心です。
神経・筋肉系のトラブル
血清カルシウム値が高い状態は、神経伝達や筋肉の収縮に影響を及ぼし、筋力低下や倦怠感、しびれなどが生じやすく、ひどい場合は手足がこわばるような感覚に悩まされることもあります。
神経・筋肉系の不調は、日常生活での動作に支障をきたし、疲れやすさにつながる点が見逃せません。
精神面での変化
イライラ感や気分の落ち込み、集中力低下、うつ様の状態といった精神面の影響がみられることがあります。
これらは高カルシウム血症による神経伝達の乱れと関連するだけでなく、長引く倦怠感や体調不良からくる心理的なストレスも要因になりえます。
影響を受けやすい部位 | 具体的な症状 | 関連するメカニズム |
---|---|---|
骨 | 骨粗しょう症、骨痛、骨折リスクの上昇 | 骨からのカルシウム流出による密度低下 |
腎臓 | 腎結石、腎機能低下、頻尿 | カルシウム排泄増大による負荷 |
筋肉・神経 | 筋力低下、しびれ、倦怠感 | 高カルシウム血症による神経伝達の乱れ |
精神 | イライラ感、抑うつ、集中力の低下 | 神経活動やホルモン分泌のバランス崩壊 |
多彩な症状を伴うため、最初は別の疾患と勘違いしてしまうこともありますが、一つ一つの症状を振り返り、総合的に把握すると異常に気づきやすくなります。特に骨や腎臓、神経系の違和感があれば早めの相談が大切です。
症状面でのヒント
- 倦怠感や骨の痛みなど漠然とした不調が長引いていないか
- 腰痛や関節痛、繰り返す腎結石に苦しんでいないか
- 気分の落ち込みが顕著に続き、ストレスの原因が特定できない場合
心当たりがあれば、血中のカルシウムや副甲状腺ホルモンの数値を一度確認してみることも検討してください。
症状に関するポイント
ポイント | 内容 |
---|---|
骨の症状 | 骨密度の低下や骨折リスクの上昇に注意 |
腎臓の症状 | 結石や腎機能低下、排尿トラブルを引き起こしやすい |
筋力・神経の症状 | 倦怠感、手足のしびれ、集中力の低下を感じやすい |
精神面の症状 | 抑うつ気分、不安感、イライラなど心理的変調 |
原因
原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺そのものの病変によって引き起こされるという意味で「原発性」と呼ばれます。
副甲状腺に異常がなければ、一般的には血中カルシウムの恒常性がうまく保たれますが、腺腫などが生じると副甲状腺ホルモンの制御が乱れます。
良性腫瘍によるもの
単発性の副甲状腺腺腫が原因の場合が最も多く、原発性副甲状腺機能亢進症の原因の大部分を占め、腺腫は良性であることが多いですが、副甲状腺ホルモンの産生が亢進して血中カルシウム値を上昇させます。
良性腫瘍の正確な原因は解明されていない部分もありますが、細胞レベルでの突然変異が関与していると考えられています。
多発性腺腫や過形成
複数の副甲状腺が同時に腫瘍化する多発性腺腫や、全体が過形成を起こすタイプもあり、こちらも細胞分裂や増殖のエラーがきっかけになるケースがあります。
過形成の場合は、遺伝性の要因や内分泌系全体のフィードバック機構の問題なども含め、多角的に考えることが必要です。
遺伝的要因
多発性内分泌腺腫瘍症(MEN)1型や2A型などの遺伝性疾患が関わることがあり、特定の遺伝子変異が内分泌腺細胞に影響を及ぼし、副甲状腺だけでなく、膵臓や下垂体などにも腫瘍を形成しやすいことが特徴です。
家族内に原発性副甲状腺機能亢進症の患者が多いといった場合、このような遺伝的背景がある可能性を疑いながら診断を進めます。
その他のリスク要因
放射線被曝や特定の医薬品など、環境因子によるリスクもいくらか指摘されており、例えば甲状腺がんなどで放射線治療を受けた経歴がある方は、副甲状腺の細胞にも遺伝子変異が起こるリスクが上がる可能性があります。
生活習慣や食生活だけで直接的に原発性副甲状腺機能亢進症を引き起こすケースは少ないと考えられますが、カルシウムやビタミンDの過剰摂取といった特殊な状況も検討する必要があります。
原因 | 主な要因 | 備考 |
---|---|---|
良性腫瘍(単発性腺腫) | 細胞の突然変異など | 原発性副甲状腺機能亢進症の過半数を占める |
多発性腺腫・過形成 | 複数の副甲状腺が肥大 | 病変が複数存在するため、切除範囲が広くなる傾向 |
遺伝性疾患(MEN1、MEN2Aなど) | 遺伝子変異 | 副甲状腺以外の内分泌腺にも腫瘍が発生しやすい |
放射線被曝、医薬品など環境因子 | 細胞へのダメージ | 絶対的ではないがリスク上昇の一因となる可能性あり |
原因に関するポイント
- 単発性腺腫か複数性かで治療方針が変わる
- 遺伝性疾患の可能性があれば早期の家族検査も視野に入れる
- 放射線治療や特殊な薬剤使用歴があれば医師に伝える
単発性腺腫や過形成の判断には画像検査や血液検査の組み合わせが重要です。原因を正確に突き止めることで、将来の治療計画やフォローアップ期間にも影響が及ぶため、専門医の見解を聞きながら慎重にアプローチしていくことが求められます。
原因を考えるうえで重要な点
- 良性腫瘍である単発性副甲状腺腺腫が大半を占める
- 複数の腺腫や過形成は遺伝的要因を含む場合がある
- 放射線被曝歴や内分泌腺への薬剤影響も念頭に置く
- 遺伝性疾患の家族歴を確認し、検査方針を決める
原発性副甲状腺機能亢進症の検査・チェック方法
原発性副甲状腺機能亢進症が疑われるときには、まず血液検査で血中カルシウム値と副甲状腺ホルモン(PTH)値を測定します。
その後、超音波検査やCT、MRI、シンチグラフィといった画像検査を組み合わせることで、どの副甲状腺が大きくなっているかや腫瘍の位置、状態を特定していきます。
血液検査(カルシウム、PTH、リンなど)
血液検査は原発性副甲状腺機能亢進症を疑う場合の基本的かつ重要なアプローチで、高カルシウム血症がみられたら、それと連動してPTH値も測定し、高カルシウム血症と高PTH血症が同時に存在すれば原発性が強く疑われます。
加えてリンやアルカリフォスファターゼなど、骨代謝に関連する数値も参考にして全体像を把握します。
血液検査で確認する主な項目
項目 | 意味 | 異常値の傾向 |
---|---|---|
血清カルシウム | 骨や歯の構成要素で、神経・筋肉活動に必要 | 原発性副甲状腺機能亢進症で上昇 |
PTH(副甲状腺ホルモン) | 血中カルシウム濃度を調整するホルモン | 原発性の場合、カルシウム高値とともに上昇 |
リン(リン酸) | 骨やエネルギー代謝に関わるミネラル | PTHの増加に伴い低下する傾向 |
クレアチニン | 腎機能評価に使用 | 腎障害の有無を把握する目安になる |
画像検査(超音波、CT、MRI、シンチグラフィ)
血液検査で原発性副甲状腺機能亢進症が強く疑われたら、画像検査を行い病変部位の特定を行い、頸部超音波(エコー)は、侵襲が少なく簡便に行えるため、最初のスクリーニングによく用いられます。
その後、CTやMRIで腫瘍の形態や大きさ、周囲組織との関係を詳細に調べることが多いです。シンチグラフィでは、放射性同位元素(99mTc-MIBIなど)を用いて副甲状腺腺腫の取り込みを画像化し、機能している病巣を映し出します。
骨密度検査
骨への影響が大きい病気なので、骨密度検査もよく実施され、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)によって骨密度を測定することで、骨粗しょう症リスクや骨折リスクを評価します。
カルシウムが血中に過剰に出ている場合、骨のカルシウムが抜け出て骨密度が低下する可能性があるので、治療の必要性や方針を決める重要な参考資料です。
腎機能検査・腎結石の評価
腎臓への負担をチェックするために、尿中カルシウムの排泄量を調べたり、腎結石の有無を確かめる画像検査(エコーやCT)を実施します。繰り返し腎結石を発症している方や、排尿時に血尿がみられる方は要注意です。
原発性副甲状腺機能亢進症の主なチェック項目
- 血清カルシウムとPTHの組み合わせで診断の糸口をつかむ
- 腫瘍の局在診断に超音波検査、CT、MRI、シンチグラフィを活用する
- 骨密度検査で骨への影響度合いを評価する
- 腎機能の状態や腎結石の有無を確認して合併症リスクを把握する
検査を受ける流れとしては、まず血液検査で疑いを深め、必要に応じて画像検査で腫瘍の位置や大きさを確認し、骨密度検査や腎機能評価も加えて総合的に診断します。
単発性の腺腫があるかどうかは、外科的治療を検討するうえで重要な情報になるため、医療機関での精密検査を受けることが推奨されます。
検査の手順とポイント
段階 | 内容 | ポイント |
---|---|---|
血液検査 | カルシウム、PTHなどを測定 | 原発性の疑いが高いかどうかをまず見極める |
画像検査 | 超音波、CT、MRI、シンチグラフィなど | 腫瘍の局在診断と大きさの把握 |
骨密度検査 | DXA法などで骨量を測定 | 骨粗しょう症リスクや治療方針の判断材料になる |
腎機能評価 | 尿検査、腎エコー、CTで結石や機能低下を評価 | 腎臓への負担や合併症の可能性をチェック |
検査時に意識しておきたいこと
- 血液検査は空腹状態が望ましい場合があるため指示に従う
- 画像検査のために造影剤を使うケースもあるのでアレルギー歴を伝える
- 骨密度測定前の過度な運動は測定値に影響を及ぼす可能性がある
- 腎機能が低下している方は造影検査時に注意が必要
原発性副甲状腺機能亢進症の治療方法と治療薬について
原発性副甲状腺機能亢進症の治療では、手術による副甲状腺腺腫や過形成した部位の切除が基本的な選択肢になることが多いですが、患者さんの年齢や全身状態、合併症の有無に応じて薬物治療が行われることもあります。
ここでは治療の概要と薬物療法のポイントを見ていきましょう。
外科的治療(副甲状腺切除術)
単発性の副甲状腺腺腫が確認された場合は、腫瘍を含む副甲状腺を外科的に切除する方法が主流です。
頸部に小さな切開を加え、腫瘍化した副甲状腺を取り除き、副甲状腺が4つとも確認できるようなら、他に腫瘍の兆候がないかどうかも慎重に確認しながら手術を進めます。
過形成で複数の副甲状腺に問題がある場合は、複数か所を切除する場合も想定され、手術後はカルシウムやPTHの値が急激に変動することがあり、一時的に低カルシウム血症をきたす可能性があるので、術後管理が重要です。
外科的治療の流れと注意点
手術前 | 術中 | 術後 |
---|---|---|
全身状態の評価 | 目視・触診で副甲状腺を確認 | カルシウム値の変動をモニタリング |
画像検査で局在確認 | 腫瘍化した副甲状腺を切除 | 低カルシウム血症への対応 |
血液検査でPTH確認 | 他の副甲状腺も病変がないかチェック | 術後フォローアップ |
薬物治療
手術が困難なケースや、早急な手術が難しい場合、あるいは症状が軽度の場合には薬物治療でカルシウム値とPTHのコントロールを図り、カルシウム模倣薬であるシナカルセトが使われます。
シナカルセトは、副甲状腺細胞上のカルシウム受容体に作用し、PTH分泌を抑制することでカルシウム濃度を低下させる効果が期待できます。
また、骨密度の低下が著しい場合にはビスホスフォネート系薬剤(例:アレンドロネートなど)を併用し、骨吸収を抑制することも選択肢です。
補助的な治療・対症療法
カルシウム値が高すぎるときは、生理食塩水の点滴や利尿剤(ループ利尿薬)などで急性期の高カルシウム血症をコントロールすることもあります。
腎機能の状態や他の合併症にも配慮しながら、適切な補液と電解質バランスの調節が行われることがあるため、自宅療養中でも水分摂取を意識するなど、医師の指示に沿った生活管理が大切です。
治療方針を決める際のポイント
患者さんそれぞれに異なる病態やライフスタイルがあるため、下記のような要素を総合的に考慮して治療方針を決めます。
- 手術のリスクとベネフィット
- 年齢や合併症の有無
- 骨密度や腎機能の状態
- 血中カルシウム値の高さと症状の重さ
- 患者本人の希望
治療方法と薬剤を選択する際の概略
外科的治療と薬物治療の選択に影響する要因
- 単発性腺腫による重篤な症状の場合は手術が有力な選択肢
- 高齢で手術リスクが高い場合は薬物療法を優先する
- 骨密度が著しく低下している場合はビスホスフォネート系薬剤を併用する
- 急激な高カルシウム血症には点滴や利尿薬で対応する
原発性副甲状腺機能亢進症は放置すると合併症が進行するリスクがあるため、症状があまりなくても医師と相談のうえで早めに治療を開始することが重要です。
治療法と治療薬の特徴
治療法 | 特徴 | 向いている患者 |
---|---|---|
外科的切除 | 原因となる腺腫を直接取り除き、根本的改善を目指す | 単発性腺腫や複数腺腫の明確な局在がある場合 |
シナカルセト | カルシウム受容体を刺激し、PTH分泌を抑制 | 手術が難しい、あるいは術後再発など |
ビスホスフォネート系 | 骨吸収を抑制し、骨密度低下を抑える | 骨粗しょう症リスクが高い患者 |
補助的治療 | 生理食塩水やループ利尿薬などで急性期対応 | 高カルシウム血症が著しい緊急時 |
原発性副甲状腺機能亢進症の治療期間
治療期間は患者の病態や選択する治療法、合併症の有無によって大きく異なり、単発性腺腫を外科的に切除した場合、術後の経過が順調であればカルシウム値が正常化し、症状が軽減するまでの期間は比較的短くなります。
一方、薬物療法を選択する場合は、症状やカルシウム値のコントロールに時間を要する場合があり、長期的な内服管理が必要です。
外科的治療にかかる期間
入院から退院までの期間は、術式や患者の体力、回復力によって異なりますが、通常は1~2週間程度の入院が見込まれ、手術後、血中カルシウム値やPTH値が安定するまで数日かかり、低カルシウム血症にならないかどうかを観察します。
術後の通院は最初は頻回に行う必要がありますが、数か月後には受診間隔が空いていくことが多いです。半年から1年後に再評価を行い、骨密度や腎機能がどの程度改善しているかチェックします。
薬物治療にかかる期間
薬物治療をメインとする場合は、血液検査でカルシウム値やPTH値を定期的に確認しながら用量を探る必要があります。
シナカルセトの効果を安定させるにはある程度の期間が必要であり、症状や数値が落ち着いてきたかどうかを見極めながら継続的に投与を続けます。
ビスホスフォネート系薬剤は骨のリモデリングサイクルを踏まえて処方されるため、半年から1年ごとの骨密度検査で効果を判断します。
場合によっては数年単位の継続投与が行われることがあるため、長期的な視点で治療計画を立てることが重要です。
継続的なフォローアップの必要性
原発性副甲状腺機能亢進症は、たとえ手術で原因部位を切除したとしても、他の副甲状腺での腫瘍発生や再発リスクを完全に否定できるわけではありません。また、骨粗しょう症の進行状態や腎機能などの合併症面にも注意が必要です。
術後もしくは長期薬物療法中は定期的な血液検査と画像検査、骨密度検査を続けることで、異常の再発や進行を早期に捉えられるようにします。
治療期間に関連するポイント
- 手術を行う場合は術後の通院があり、数か月~1年ほどで大まかな落ち着きが得られる
- 薬物治療の場合は長期にわたる内服が必要になるケースがある
- 定期的な血液検査や骨密度検査で治療効果をチェックする
治療経過のおおまかなイメージ
治療法 | 治療開始~効果安定までの期間 | 継続期間の目安 |
---|---|---|
外科的切除 | 入院期間1~2週間、その後数か月で安定 | 術後の再発チェックを数年単位で実施 |
シナカルセト | 投与開始から数週間~数か月で数値安定 | 必要に応じて年単位で内服を継続 |
ビスホスフォネート系 | 骨代謝サイクルを踏まえて数か月ごとに評価 | 1年以上の投与が一般的 |
補助的治療 | 急性期の高カルシウム血症に対して即時効果 | 状況に応じて都度、必要量を調整 |
長期的視点で注意すること
- 再発リスクをゼロにはできないので、定期検査が必要
- 骨粗しょう症や腎機能など合併症面のモニタリングが続く
- ライフスタイルの見直し(適度な運動、栄養バランスなど)
治療期間を踏まえた予定を立てると、予期せぬ長期入院や体調不良の悪化を回避しやすくなります。治療期間を理解したうえで、医療スタッフと連携しながら自分のペースに合った治療計画を組み立てることが大切です。
原発性副甲状腺機能亢進症薬の副作用や治療のデメリットについて
原発性副甲状腺機能亢進症の治療では、手術や薬物が効果的な方法として知られていますが、いずれの方法にも一定のリスクやデメリットがあることを理解することが必要です。
ここでは主な副作用やデメリットについて詳しく解説し、患者が情報を得たうえで納得して治療を進めるためのポイントを探ります。
外科的治療におけるリスク
手術中に神経や血管を損傷する可能性は低いですが、首の部分には重要な神経や血管が走行しているため、専門的な外科医の手技が求められます。まれに声帯を動かす反回神経を傷つけてしまうと、嗄声(声がれ)が生じる恐れがあります。
また、複数の副甲状腺を切除する場合、低カルシウム血症をきたして手足のしびれやけいれんが起こるケースが考えられ、術後はカルシウムやビタミンDの補充を行いながら慎重に経過を見ることが必要です。
薬物療法の副作用
シナカルセトは副甲状腺ホルモンの分泌を抑える薬ですが、人によっては消化器症状(吐き気や嘔気、食欲不振)がみられることがあります。
過度にカルシウム値を下げると、低カルシウム血症によるしびれ感やけいれんが出る可能性もあるため、定期的に血中カルシウムをチェックし、用量を調節します。
ビスホスフォネート系薬剤を使用すると、まれに顎骨壊死や消化管の不調が報告されることがあり、特に顎骨壊死は抜歯や歯科処置をきっかけに発症するリスクがあるといわれており、歯科医とも連携して注意することが大切です。
薬物療法で起こりうる代表的な副作用
- シナカルセト:吐き気、下痢、低カルシウム血症
- ビスホスフォネート系:顎骨壊死、消化管障害、骨の痛み
手術しないデメリット
腫瘍を切除せずに薬物だけでコントロールを試みる場合、原因そのものを除去していないため、病気の根本的な完治には至らないことがあります。
副甲状腺からのホルモン分泌亢進状態が持続するリスクもあり、投薬により症状が緩和されても、長期的にみると骨粗しょう症が進行したり、腎結石のリスクが続いたりする可能性があります。
日常生活への影響
手術の場合は入院や術後のリカバリーが必要になるので、仕事や家族のサポートの段取りを考慮しなければなりません。薬物療法では定期的な通院と血液検査で数値を管理する必要があり、副作用が強いときは日常生活に支障が出る場合があります。
患者さん本人だけでなく、家族や周囲の理解を得ておくと療養生活をスムーズに進めやすくなるでしょう。
主なデメリットやリスク
方法 | デメリット・リスク | 対応策 |
---|---|---|
外科的治療 | 術中・術後の合併症(神経損傷、低カルシウムなど) | 経験豊富な医師の下で手術、術後のカルシウム補充 |
シナカルセト | 消化器症状、低カルシウム血症のリスク | 定期的に血液検査を実施し、用量を調節 |
ビスホスフォネート系 | 顎骨壊死や消化器症状 | 歯科管理を含めた総合的なフォロー |
手術しない選択 | 根本的な治癒が難しく、長期的合併症リスクが残る | 症状と合併症のバランスを医師と相談し、適切に判断 |
どの治療法にも一長一短があるため、主治医と十分に話し合い、副作用やリスクを理解したうえで治療方針を決めることが大切です。
原発性副甲状腺機能亢進症の保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
外科的治療の費用目安
頸部の副甲状腺切除術や入院費用を含めると、保険適用後の自己負担(3割負担の場合)であれば約15万円~30万円程度が一つの目安です。
薬物療法の費用目安
シナカルセトなどの副甲状腺ホルモン分泌抑制薬も保険適用の対象で、薬価や処方される用量、服用期間によって変わりますが、1か月あたり数千円から1万円程度の自己負担になることが多いです。
ビスホスフォネート系薬剤も同様に保険適用となるため、1か月あたり数百円から数千円の範囲で、複数の薬剤を併用するケースや長期にわたる投与が必要な場合は、その分コストが積み重なります。
検査費用
頸部超音波検査や血液検査だけであれば、合計数千円程度の負担に収まることが多いです。一方でCTやMRI、シンチグラフィなどを複数回受けると、数万円規模になる可能性があります。
治療・検査 | 保険適用後の負担目安(3割負担の場合) | 主な内容 |
---|---|---|
外科的治療(手術) | 約15~30万円 | 入院費、手術費、術後管理 |
シナカルセト | 1か月あたり数千円~1万円程度 | 用量と処方日数で変動 |
ビスホスフォネート系 | 1か月あたり数百円~数千円 | 内服薬・注射製剤によって異なる |
血液検査 | 数百円~数千円 | カルシウム、PTH、腎機能など |
画像検査 | 数千円~数万円 | エコー、CT、MRI、シンチグラフィなど |
以上
参考文献
Yashiro T, OKAMOTO T, TANAKA R, ITO K, HARA H, YAMASHITA T, KANAJI Y, KODAMA T, ITO Y, OBARA T, FUJIMOTO Y. Prevalence of chondrocalcinosis in patients with primary hyperparathyroidism in Japan. Endocrinologia japonica. 1991;38(5):457-64.
KOBAYASHI T, SUGIMOTO T, CHIHARA K. Clinical and biochemical presentation of primary hyperparathyroidism in Kansai district of Japan. Endocrine journal. 1997;44(4):595-601.
Kondo Y, Nagai H, Kasahara K, Kanazawa K. Primary hyperparathyroidism and acute pancreatitis during pregnancy: Report of a case and a review of the English and Japanese literature. International journal of pancreatology. 1998 Aug;24:43-7.
Tominaga Y, Kakuta T, Yasunaga C, Nakamura M, Kadokura Y, Tahara H. Evaluation of parathyroidectomy for secondary and tertiary hyperparathyroidism by the Parathyroid Surgeons’ Society of Japan. Therapeutic Apheresis and Dialysis. 2016 Feb;20(1):6-11.
Masatsugu T, Yamashita H, Noguchi S, Nishii R, Koga Y, Watanabe S, Uchino S, Yamashita H, Ohshima A, Kuroki S, Tanaka M. Thyroid evaluation in patients with primary hyperparathyroidism. Endocrine journal. 2005;52(2):177-82.
Inaba M, Ishikawa T, Imanishi Y, Ishimura E, Nakatsuka K, Morii H, Nishizawa Y. Pathophysiology and diagnosis of primary hyperparathyroidism—strategy for asymptomatic primary hyperparathyroidism. Biomedicine & pharmacotherapy. 2000 Jun 1;54:7s-11s.
Kanai T, Oba T, Morikawa H, Amitani M, Chino T, Shimizu T, Ono M, Maeno K, Ito KI, Ito T. Changes in the pathophysiology of primary hyperparathyroidism and analysis of postoperative recurrence cases at a regional core hospital in Japan: experience of 35 years in Shinshu University Hospital. Annals of Palliative Medicine. 2023 Jan 30;12(1):366-46.
Takami H, Ikeda Y, Okinaga H, Kameyama K. Recent advances in the management of primary hyperparathyroidism. Endocrine journal. 2003;50(4):369-77.
Kihara M, Miyauchi A, Ito Y, Yoshida H, Miya A, Kobayashi K, Takamura Y, Fukushima M, Inoue H, Higashiyama T, Tomoda C. MEN1 gene analysis in patients with primary hyperparathyroidism: 10-year experience of a single institution for thyroid and parathyroid care in Japan. Endocrine journal. 2009;56(5):649-56.
Manaka K, Sato J, Kinoshita Y, Ito N, Fujita M, Iiri T, Nangaku M, Makita N. Effectiveness and safety of cinacalcet for primary hyperparathyroidism: a single center experience. Endocrine Journal. 2019;66(8):683-9.