急性副腎不全(副腎クリーゼ)とは、副腎皮質ホルモン(特にコルチゾール)の分泌が急激に低下し、体内のホルモンバランスが崩れて重篤な状態に陥る病態です。
ストレスや感染など、わずかな体調の変化をきっかけに急変することがあるため、放置すると命の危険につながる可能性があります。
低血圧、脱力感、嘔吐などを起こしやすく、患者本人も周囲も気づきづらい場合があるため、早めの認識と適切な治療が重要です。
急性副腎不全(副腎クリーゼ)の病型
急性副腎不全(副腎クリーゼ)には、基礎となる副腎の機能障害の有無や、その発症経路によっていくつかの病型が知られています。
患者さんによっては、普段から副腎機能が低下していることに気づかないまま生活を送っている場合もあり、急激なストレスが加わったタイミングで初めて重症化することがあります。
原発性急性副腎不全
原発性の急性副腎不全は、自己免疫や副腎そのものの障害によって副腎皮質が大きく傷害され、コルチゾール分泌が不十分になった状態です。
アジソン病と呼ばれる慢性副腎不全を基礎に持つ人が、何らかの急激な要因でクリーゼを起こす場合が典型例になります。
副腎自体がダメージを受けているので、コルチゾールに加えてアルドステロンなども同時に不足することが多く、急性期には電解質異常などが深刻になりやすいです。
続発性急性副腎不全
続発性の急性副腎不全は、脳下垂体に何らかの機能低下があり、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌量が低下することによって副腎の機能が弱まる状態です。
この場合、コルチゾール分泌は大幅に低下しますが、アルドステロン分泌は比較的保たれやすい傾向があります。
慢性的にACTHが不足した状態で日常生活をしていても、ストレスや感染症などで急に副腎の需要が高まったときに急性期の症状を起こす可能性があります。
ステロイド薬の中断による急性副腎不全
長期にわたってステロイド薬を外部から使用していると、体内の副腎はコルチゾール産生能力が低下したり、脳下垂体によるACTHの分泌が抑制されたりします。
ステロイド薬を急に中断すると、体が必要なコルチゾールを産生できないタイミングが生じ、急性副腎不全を発症しやすくなり、治療上ステロイドが欠かせない方や、自己判断で服用を中止してしまった方に多い病型です。
その他の稀な病型
感染や外傷などで副腎が直接損傷を受けることにより、突発的に発症する病型もあり、重症の髄膜炎によるWaterhouse-Friderichsen症候群は、副腎出血を起こしてコルチゾール産生が急停止する非常に危険な状態を招きます。
こうした稀な病型は特殊な経路で発症するため、迅速な診断と集中治療が欠かせません。
急性副腎不全の代表的な病型
病型 | 特徴 | 症例の一例 |
---|---|---|
原発性急性副腎不全 | 副腎自体が損傷または自己免疫で機能が失われ、コルチゾールとアルドステロンが不足しやすい | アジソン病を基礎とした急性増悪 |
続発性急性副腎不全 | 脳下垂体からのACTH分泌低下で副腎が十分に刺激を受けられずにコルチゾール不足が起こる | 下垂体機能低下症、長期ステロイド治療後のACTH低下 |
ステロイド薬の急な中断による病型 | 外部投与ステロイドが急に減ったために副腎機能が追いつかず、コルチゾール不足になる | 長期ステロイド使用者が自己判断で服薬を中止 |
副腎の直接的な出血や感染によるもの | 副腎組織が損傷することでコルチゾール分泌が一気に落ち込む | 髄膜炎菌感染に伴うWaterhouse-Friderichsen症候群など |
ベースとなる病型が何であるかによって臨床像がやや異なりますが、いずれの場合も迅速な対応が重要で、発症の疑いがある段階で早めに受診することが大切です。
急性副腎不全が疑われる人が注意したい条件
- もともと副腎不全やアジソン病などがあり、日常的にホルモン補充が必要な人
- 脳下垂体の疾患歴があり、ACTHの分泌障害がある人
- 長期間ステロイド薬を使用していて、急に減量や中止を行った人
- 重度の感染症や外傷でストレス負荷が大きい人
症状
急性副腎不全(副腎クリーゼ)の症状は多彩であり、一般的な体調不良と混同されやすいため、早期発見の難しさが指摘されています。
この病態では、体内のホルモンバランスが崩れたことで血圧や血糖値の制御が乱れ、重度の電解質異常が起きることもあります。ここではよくみられる症状やその背景を解説します。
血圧低下とショック症状
急性副腎不全では、コルチゾールが不足して血管収縮能力が低下するとともに、アルドステロン不足でナトリウムの保持力が落ちやすくなり、血圧が大きく下がり、場合によってはショック状態に陥る可能性があります。
急激な血圧低下が続くと全身の臓器に十分な血液が行き渡らず、重症化のリスクが高まります。
食欲不振や嘔気・嘔吐
副腎不全が進行すると消化器系にも影響が及び、食欲低下や吐き気、実際に嘔吐が起こりやすくなり、食事量の減少と体液喪失が重なると脱水が進むので、体力が急速に落ちていきます。
嘔気や嘔吐が続く場合には、重症化の恐れがあるため注意が必要です。
全身倦怠感と脱力
コルチゾールは身体をストレスから守る役割を持つホルモンであるため、不足すると全身のだるさや脱力感が際立ち、急激に症状が悪化すると、歩行や日常動作も困難に感じるほどの筋力低下を招くことがあります。
また、重度の副腎不全では低血糖を伴うこともあり、さらに疲労感や意識低下を強める要因となります。
精神神経症状
急性副腎不全では、意識がもうろうとしたり、不安やイライラが増したりすることがあり、場合によっては錯乱状態に陥り、周囲が症状を把握しにくい状況が起きることもあります。
脳のエネルギー源であるブドウ糖や電解質のバランスが崩れることで、こうした精神神経症状が顕在化するのです。
代表的な症状と臨床的なポイント
症状 | 背景・原因 | 注意すべき点 |
---|---|---|
低血圧、ショック | コルチゾール、アルドステロン不足による血管収縮・体液量不足 | 長引く場合は多臓器不全に陥るリスク |
食欲不振・嘔気・嘔吐 | 消化器症状の制御に関与するホルモンが不足 | 脱水や電解質異常が重なると急速な体力低下を招く |
全身倦怠感・脱力 | 糖新生の低下や低血糖、ナトリウム不足などによるエネルギー不足 | 筋力低下や意識障害が深まる恐れ |
精神神経症状(不安、錯乱) | 低血糖や電解質異常が脳機能に影響 | 軽度でも放置すると重篤化しやすい |
急性期に患者さんが感じやすい訴え
- 朝起きるのが非常に辛い、起き上がろうとしても力が入らない
- 立ち上がるときにめまいが強く、ふらついて倒れそうになる
- 些細なことでイライラし、集中力が大幅に落ちてしまう
- 吐き気が強く、水分すら摂取しにくい状況に陥る
こうした症状が強く出たときは、できるだけ早く医療機関で相談し、必要に応じた検査を受けることが大切です。
急性副腎不全(副腎クリーゼ)の原因
急性副腎不全(副腎クリーゼ)は、基礎にある副腎機能やホルモン分泌の障害が急に悪化することで起こりますが、引き金となる原因は多岐にわたります。
想定外のストレスを受けたり、薬の調節に失敗したりするなど、日常生活の中でも発症契機が潜む場合があります。
慢性副腎不全の増悪
アジソン病など、慢性的に副腎皮質ホルモンの分泌が低下している人の場合、感染症やケガ、あるいは外科手術など身体的なストレスを受けると、体が必要とするコルチゾール量が急に増加します。
しかし、副腎がすでに限界まで機能低下しているため、増えた需要をまかなうことができず一気に急性化するのが典型的な流れです。
ステロイド治療の調整ミス
副腎機能が低下している人や、ほかの疾患でステロイド薬を使用している人は、外部からのステロイド補充によって日常的にホルモンバランスを保っています。
しかし、急に服用をやめたり量を減らしたりすると、脳下垂体や副腎の反応が追いつかず、体がストレスに対応できないリスクがあります。
特に長期間ステロイドを使用しているときは副腎が萎縮傾向になり、自力でのコルチゾール産生が十分に働かない可能性が高いです。
感染症や外傷などの大きなストレス
インフルエンザや肺炎、尿路感染症など何らかの感染症にかかったとき、または骨折や大きな外傷を負ったときには、健康な副腎でもコルチゾール分泌が増加してストレスに対応します。
もともと副腎機能が低下している方やステロイド補充量が足りない方は、必要量を供給できないまま急性発症に至る可能性があります。高熱や痛みは体にとって強いストレスなので、注意が必要です。
外科手術や全身麻酔
大きな外科手術や全身麻酔も身体に大きな負担をかけるため、副腎機能が弱い人は事前にステロイド補充量を調整しないと手術の途中または直後にクリーゼを起こすことがあります。
手術の規模が大きいほど体のストレスも増すため、担当医との綿密な相談が大切です。
主な誘因と注意点
誘因 | 背景 | 注意点 |
---|---|---|
感染症(インフルエンザなど) | 体温上昇や炎症反応でコルチゾール需要増加 | 早めの受診と適切な抗菌・抗ウイルス治療が大切 |
外傷や骨折 | 痛みや出血などで身体的負荷が急増 | 副腎機能が低い場合はステロイド追加を検討 |
外科手術・全身麻酔 | 大きなストレスが持続 | 術前評価と術後の管理でステロイド量の調整が必要 |
ステロイド薬の急な中断 | 体が外部ステロイドに依存した状態 | 減量スケジュールを医師と十分に話し合う |
極端な疲労や精神的ストレス | 睡眠不足や過労が重なり、ホルモン需要増加 | 自律神経の乱れが重なって症状を悪化させやすい |
急性化を招く可能性があるライフイベント
- 季節の変わり目に流行するウイルス感染
- 無理なダイエットや運動負荷を急に増やすこと
- 仕事や家庭環境の大幅な変化による精神的負荷
- 長期休暇後の急な出勤再開など生活リズムの乱れ
検査・チェック方法
急性副腎不全(副腎クリーゼ)が疑われる場合、いかに早期に診断を確定し、治療を始めるかが重要です。実際の診療現場では、血液検査やホルモン負荷試験など、複数の手段を活用して正確に評価を行います。
血液検査
もっとも基本的な検査として、血中のナトリウム、カリウム、糖などのバランスを調べる血液検査があり、急性副腎不全の場合、ナトリウムが低くカリウムが高い状態や低血糖が見られることが少なくありません。
また、コルチゾールとACTHの値を測定し、どの程度分泌が低下しているかを確認し、原発性の場合はACTHが高くなる一方でコルチゾールが低い状態が典型的です。
ACTH刺激試験(コルチゾール負荷試験)
ACTH刺激試験は、副腎がACTH(副腎皮質刺激ホルモン)にどの程度反応し、コルチゾールを分泌できるかを確認するための検査です。
合成ACTHを静脈注射し、時間ごとに血中コルチゾール値がどのように変化するかを測定し、急性期であってもこの検査を行うことで、副腎の予備能を評価し、治療方針の策定に役立てます。
代表的な検査値の目安
検査項目 | 異常所見の一例 | 急性副腎不全との関連性 |
---|---|---|
血清ナトリウム | 低値(例えば130mEq/L以下) | アルドステロン不足によるナトリウム喪失 |
血清カリウム | 高値(例えば5.5mEq/L以上) | 原発性の場合に顕著なカリウム上昇を示すことが多い |
血糖値 | 低血糖(例えば70mg/dL以下) | コルチゾール不足による糖新生の低下 |
血中コルチゾール | 早朝でも著しく低い場合(5µg/dL以下など) | 副腎皮質の機能不全を示唆 |
血中ACTH | 原発性では上昇、続発性では低下 | 病型の鑑別に役立つ |
画像検査
副腎の大きな異常(出血や腫瘍など)が疑われる場合、CTやMRIなどの画像検査も検討されることがあり、急性副腎不全を起こすような原因が副腎自体にあるかどうか、脳下垂体に腫瘍や病変がないかを調べるために行うことが多いです。
ただし、クリーゼの急性期はまずは治療を優先するため、状態が落ち着いてから詳細な画像検査を進めるケースもあります。
臨床症状のチェック
血液検査やホルモン負荷試験と並行して、患者の自覚症状や身体所見の評価も欠かせず、血圧測定や脈拍、体温だけでなく、嘔吐や意識レベルの変化に注目して、症状の進行度を把握します。
特に意識障害が見られる場合には緊急度が高いため、診断を待たずにコルチゾール補充などの治療を開始することもあります。
問診で把握したい主なポイント
- もともとアジソン病や副腎不全を指摘されたことがあるか
- 長期的にステロイド薬を使用している、または最近服用を中断したか
- 直近で強いストレス(感染、手術、外傷、過労など)を受けていないか
- 日常生活に支障が出るほどの疲労や低血圧、脱力感が続いているか
急性の症状が明らかな場合は、検査をすべて待たずとも治療に踏み切ることが求められるため、医療スタッフに対して症状や経過を伝えることが大切です。
急性副腎不全(副腎クリーゼ)の治療方法と治療薬について
急性副腎不全(副腎クリーゼ)の治療は、何よりも迅速にコルチゾールを補うことが重要です。
低血圧や電解質異常などの危機的な状況をいち早く改善するために、まずはステロイドを点滴あるいは注射で投与しつつ、必要な対症療法を並行して行います。
ステロイド補充療法
急性期には水溶性のヒドロコルチゾンやコハク酸ヒドロコルチゾンなどを静脈注射または点滴で投与し、体が必要とするコルチゾールの不足を迅速に補います。
ショック状態が見られる場合や重度の低血圧がある場合は、高用量のステロイドを優先して投与し、落ち着いてきたら徐々に維持量を調整していく流れが一般的です。
ステロイド製剤
製剤名 | 投与経路 | 特徴 |
---|---|---|
ヒドロコルチゾン | 静脈注射、点滴 | 体内でのコルチゾールと近い作用をもつ |
プレドニゾロン | 経口、注射 | 長期維持療法で使用されることが多い |
デキサメタゾン | 経口、注射 | 抗炎症作用が比較的強い |
フルドロコルチゾン | 経口 | アルドステロン作用を補う目的で使用 |
電解質バランスの調整
原発性急性副腎不全の場合、アルドステロンの不足によってナトリウムが失われ、カリウムが蓄積しやすい状態になります。
重症の場合は高カリウム血症による不整脈のリスクもあるため、点滴でナトリウムを含む輸液を行いながらカリウム値を監視し、また、フルドロコルチゾンを補充してアルドステロンの不足を補うケースもあります。
低血圧やショックに対する緊急対応
血圧が著しく低い場合は、血管作動薬(血管収縮薬)を使用することがあります。
ただし、コルチゾールが不足している状態では血管作動薬の効果が十分に得られないこともあるため、まずはステロイド補充を優先し、並行して輸液や血管作動薬の投与を検討します。
重度のショックでは集中治療室でモニタリングを行いながら管理が必要です。
治療中にチェックするポイント
- 血圧と脈拍の変化(回復傾向にあるか)
- 電解質(特にナトリウムとカリウム)のバランス
- 意識状態(低血糖や脳への血流不足が改善しているか)
- 嘔吐などの消化器症状の改善具合
症状が落ち着いてきた段階で、内服ステロイドに移行するなどの調整が行われます。
背景疾患への対応
急性期の安定化が最優先ですが、その後はクリーゼを起こした背景疾患にも着目することが大切です。
慢性副腎不全を基礎に持っているなら、正しい維持量のステロイド治療が継続的に必要ですし、脳下垂体の腫瘍が疑われる場合は外科的治療や放射線治療などを検討することがあります。
ステロイド治療以外のアプローチも組み合わせることで、長期的な再発リスクを下げることが期待されます。
治療プロセス
治療段階 | 目的 | 具体的内容 |
---|---|---|
急性期(ショック) | 命の危険回避、血圧安定 | ヒドロコルチゾンの高用量点滴、輸液、必要に応じて血管作動薬の使用 |
回復期 | ステロイド補充量の調整 | 投与量をやや減らしながら、電解質や血糖値を随時モニタリング |
維持期 | 再発予防と副腎機能の見極め | 経口ステロイドへ移行、フルドロコルチゾン併用、定期受診で状態を把握 |
背景疾患への対応 | 病気の根本原因を取り除くまたはコントロール | 脳下垂体腫瘍の治療、自己免疫対策など個々の原因に合わせた治療選択 |
適切な治療薬の選択と投与量の見極めが、急性副腎不全(副腎クリーゼ)の管理において非常に重要です。
急性副腎不全(副腎クリーゼ)の治療期間
急性副腎不全(副腎クリーゼ)の治療にどの程度の期間を要するかは、発症時の重症度や背景となる副腎機能の状態、そして合併症の有無などに左右されます。
治療期間の目安を把握しておくと、治療計画や生活管理の心構えがしやすくなります。
急性期:数日~1週間程度
ショックや重度の低血圧などがみられる急性期は、数日から1週間程度かけて集中治療または入院治療を行うことが多いです。
高用量のステロイド投与や輸液管理によって、まずは命の危険を乗り越えることを優先し、この間は頻繁に血圧や血液検査の値を確認し、容態をみながら治療内容を微調整します。
早期に回復傾向がみられれば、その後のステロイド量を少しずつ減らし始めることもあります。
回復期:1~2週間程度
急性症状が落ち着いて血圧や電解質バランスが安定すると、点滴中心の治療から経口ステロイド中心の治療へと移行していきます。回復期には外来通院に切り替えられることもあり、ゆっくりと日常生活に戻りながら治療を続ける場合があります。
ただし、回復期でも再発や合併症が起きる可能性はあるため、医師の指示に従って十分に休養を取ることが重要です。
維持期・再発予防:数か月~数年
背景に原発性副腎不全などの慢性的な疾患がある場合は、長期的にステロイドを補充しながら再発を防ぐ生活が必要です。
軽度のストレスでも副腎クリーゼを再燃する方は、医師との相談のもとステロイドの追加投与や調整を行うケースがあります。
比較的軽い続発性の場合や、一時的なステロイド治療の中断が原因だった場合には、数か月ほどで徐々に副腎機能が回復し、投薬量を最小限に抑えられることもあります。
治療期間の目安
治療フェーズ | 期間 | 主な治療目標 |
---|---|---|
急性期 | 数日~1週間 | 血圧安定化、臓器不全回避、電解質バランスの正常化 |
回復期 | 約1~2週間 | 投与ステロイドの調整、外来への移行、再発防止 |
維持期 | 数か月~数年 | 背景疾患の管理、再発予防、生活リズムの安定 |
治療期間を左右する要因
- 副腎機能の残存レベル(慢性疾患か、一過性の障害か)
- 併存症や合併症(心疾患や糖尿病など)の有無
- 重度の感染症に伴う多臓器への影響の有無
- ステロイド投与量を減量する際の副腎の反応速度
最初に重症度が高かったとしても、治療で回復した後は徐々に社会復帰が可能となるケースが多いですが、無理をしすぎて再燃すると再び長期入院が必要になることもあるため、焦らずに治療を継続する姿勢が大切です。
急性副腎不全(副腎クリーゼ)薬の副作用や治療のデメリットについて
急性副腎不全(副腎クリーゼ)を治療するうえで最も重要なステロイド補充療法には、症状をコントロールするうえで多くの利点がありますが、一方で特有の副作用や治療上のデメリットがあります。
ステロイド薬の一般的な副作用
ステロイド薬を中長期的に使用すると、免疫機能の低下や血糖値の上昇、骨粗しょう症などが起こりやすくなり、また、むくみや体重増加、肌のトラブル(にきびや皮膚の萎縮など)が生じるケースもあります。
急性期には高用量のステロイドを使用することが多く、副作用が出やすいタイミングです。
ステロイドの副作用
症状 | 背景 | 対応策 |
---|---|---|
免疫力低下 | 炎症や免疫反応を抑制する効果が強いため | 手洗いやマスクの徹底、感染兆候の早期受診 |
高血糖 | 糖新生が促進され、インスリン抵抗性が増す | 食生活や血糖値測定の管理、必要に応じて内科での加療 |
骨粗しょう症・骨折のリスク | カルシウムの吸収低下や骨形成の抑制 | カルシウムとビタミンDの補給、適度な運動 |
体重増加、満月様顔貌 | ステロイドによる脂肪分布異常など | 徐々にステロイド量を調整し、過度な摂取を避ける |
治療スケジュールの柔軟性が限られる
副腎クリーゼの再発を防ぐには、ステロイド薬の量を適正に保つことが求められます。
日常生活の中で急にストレスがかかったり、感染症にかかったりすると、適宜ステロイドの追加投与が必要になる場合があり、治療スケジュールに柔軟な対応が求められます。
自己判断で薬を止めたり量を変えたりすると、再び急性副腎不全を招くリスクが高まる点がデメリットです。
精神的負担や社会生活への影響
ステロイドの副作用として気分の変化や不眠などが生じることがあり、治療中に精神的な負担が増す方もいます。
さらに、感染症リスクが高まると外出を控えなければならない場合があるなど、社会生活に制限が出ることがストレスになる可能性があり、治療が長引く場合は、主治医や家族と相談しながらバランスを見極めていくことが大切です。
ステロイド副作用に配慮した日常生活のポイント
- 過度の塩分や糖分を控え、栄養バランスを意識した食事を選ぶ
- 急激な体重増加を避けるために適度な運動習慣を身につける
- 気になる皮膚トラブルは皮膚科とも連携し早期にケアを行う
- 心身の疲労がたまらないよう、休養や睡眠時間を十分に確保する
ステロイド薬の副作用は、適正な使用とモニタリングによってある程度抑えられますが、完全にゼロにはできない点を理解し、主治医とこまめに情報を共有すましょう。
急性副腎不全(副腎クリーゼ)の保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
ステロイド薬の費用
ステロイド薬は、ヒドロコルチゾンやプレドニゾロンなどが主な選択肢として使われており、比較的多くの医療現場で利用される一般的な医薬品で、保険診療であれば患者さんの自己負担割合は1割から3割の範囲内です。
治療薬費用
薬剤名 | 処方形態 | 保険適用時の負担目安 (3割負担の場合) |
---|---|---|
ヒドロコルチゾン注射 | 点滴・注射 | 1本数百円前後~ |
プレドニゾロン錠 | 経口錠 | 1錠あたり数十円~ |
デキサメタゾン注射 | 注射 | 1本数百円前後~ |
実際の費用は病院や処方量などで上下しますが、緊急治療の必要なステロイド注射に関しても、保険制度のもとで3割負担か1割負担になるため、複数本使用しても薬剤費だけで数万円になるようなケースは少ないです。
入院治療・検査費用
急性期に入院が必要な場合は、ベッド代や看護管理費、点滴や検査料などが加算され、副腎クリーゼの診断や状態評価には、血液検査やACTH刺激試験、場合によってはCTやMRI検査が含まれます。
検査費用も保険が適用され、自己負担は合計費用の数割程度にとどまりますが、数日の入院や複数の検査が積み重なるとトータルで数万円~十数万円程度になることはあります。
入院・検査
項目 | 保険適用の有無 | 自己負担の目安 |
---|---|---|
一般病棟での入院費 | 保険適用 | 日数×数千円~ |
輸液管理や注射などの処置 | 保険適用 | 処置ごとの費用が数百円~数千円加算 |
血液検査・ホルモン負荷試験 | 保険適用 | 合計数千円~数万円程度 |
画像検査(CT、MRIなど) | 保険適用 | 1回数千円~数万円程度(3割負担なら数千円~程度) |
維持治療の費用
急性期を乗り越えた後も、ステロイド薬を継続する維持治療が必要になる場合があり、この場合も薬剤費や定期受診の費用は保険適用範囲に含まれます。
経口ステロイド薬やフルドロコルチゾンなどの補充療法を続けると、月々数千円前後の自己負担がかかることが一般的です。
以上
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