訪問看護の入浴介助|安全な手順と準備、看護師に頼める範囲を解説

訪問看護の入浴介助|安全な手順と準備、看護師に頼める範囲を解説

ご自宅で療養生活を送る方にとって、入浴は身体を清潔に保つだけでなく、心身をリフレッシュさせる大切な時間です。

しかし、病気や加齢によって、ご自身やご家族の力だけでの入浴が難しくなることも少なくありません。

この記事では、訪問看護による入浴介助について、その目的や看護師に依頼できること、安全な手順、必要な準備などを詳しく解説します。

目次

訪問看護における入浴介助の重要性

訪問看護師が行う入浴介助は、単に身体を洗うだけではありません。ご利用者の健康維持と安楽な生活を支える上で、多くの重要な役割を担っていて、医療的な視点を持つ専門職がかかわるからこそ得られる利点があります。

清潔保持と感染予防

皮膚を清潔に保つことは、皮膚トラブルや感染症を予防する基本です。特に、寝たきりの方や皮膚が弱くなっている方は、汗や皮脂、排泄物などが原因で皮膚炎や褥瘡(床ずれ)のリスクが高まります。

定期的な入浴によって皮膚の汚れを洗い流し、清潔な状態を維持することは、このようなリスクを低減させる上で非常に重要です。

血行促進と心身のリラックス効果

温かいお湯に浸かることで血管が広がり、全身の血行が促進されます。血行が良くなることは筋肉のこわばりを和らげ、痛みを緩和する効果が期待できます。また、浮力によって体が軽くなり、関節への負担が軽減されます。

また、身体的な効果に加え、湯船に浸かる心地よさやさっぱりとした爽快感は、精神的なリラックスにもつながり生活の質を高めます。

入浴がもたらす身体への良い影響

作用内容期待できる効果
温熱作用身体が温まることで血管が拡張する。血行促進、新陳代謝の向上、痛みの緩和。
静水圧作用水中では身体に水圧がかかる。足のむくみ改善、心肺機能への適度な刺激。
浮力作用水中では体重が軽く感じられる。筋肉や関節の緊張緩和、リラックス効果。

皮膚状態の観察と異常の早期発見

入浴介助は、看護師がご利用者の全身の皮膚状態を直接観察できる貴重な機会です。普段は衣服に隠れている部分の発赤、湿疹、乾燥、傷、褥瘡の初期症状などを注意深く確認します。

異常を早期に発見し主治医と連携して適切な処置につなげることは、症状の悪化を防ぐために欠かせません。

ご利用者とご家族の身体的・精神的負担の軽減

ご家族だけで入浴介助を行う場合転倒のリスクや身体的な負担が大きく、精神的なプレッシャーを感じることも少なくありません。

専門的な知識と技術を持つ訪問看護師が介助を行うことで、安全が確保され、ご家族の介護負担を大幅に軽減できます。ご家族が安心して休息できる時間を確保することは、在宅療養を長く続けていく上でとても大切です。

訪問看護の入浴介助で看護師に依頼できること

訪問看護サービスにおける入浴介助は、医療保険または介護保険の適用範囲内で行われ、看護師はご利用者の健康状態を第一に考え、医学的な判断に基づき多岐にわたるケアを提供します。

入浴前後のバイタルサイン測定と健康状態の確認

入浴は体力を消耗し血圧や脈拍にも変動をもたらすため、安全に入浴できるかどうかを判断するために、入浴前に必ず体温、血圧、脈拍、呼吸状態、血中酸素飽和度などのバイタルサインを測定します。

また、ご利用者の表情や言動からその日の体調に変化がないかを入念に確認し、入浴の可否を判断します。入浴後も同様に測定を行い、異常がないことを確認します。

入浴前に行う健康チェックの項目

チェック項目確認する内容判断基準の例
体温発熱の有無。37.5℃以上の場合は原則として中止を検討する。
血圧血圧が著しく高い、または低い状態でないか。普段の値から大きく変動している場合は注意が必要。
全身状態食欲、睡眠、気分、痛みなどの自覚症状。いつもと違う様子が見られる場合は無理をしない。

入浴方法の決定(全身浴・シャワー浴・清拭など)

その日の健康状態や身体機能、住宅環境などを総合的に評価し、最も安全で適切な入浴方法を選択します。

安定していれば浴槽に浸かる全身浴、浴槽をまたぐのが難しい場合はシャワーチェアなどを使用したシャワー浴、体力の消耗が激しい場合や発熱時などはベッド上で体を拭く清拭や、手足だけを洗う部分浴といったように、柔軟に対応します。

洗髪・洗身・陰部洗浄などの身体介助

浴室への移動から衣服の着脱、洗髪、洗身、陰部洗浄まで、一連の動作を安全に行えるよう介助します。ご利用者がご自身でできることは尊重し、能力を維持できるように促しながら、難しい部分を支援します。

皮膚を傷つけないよう優しく洗い、シャワーのお湯が耳や目に入らないように配慮するなど、専門的な技術で快適な入浴を提供します。

創傷処置や軟膏塗布などの医療的ケア

入浴介助と合わせて、主治医の指示に基づいた医療的ケアを行えるのが訪問看護の大きな特徴です。

褥瘡や手術後の傷の洗浄・処置、皮膚トラブルに対する軟膏の塗布、ストーマ(人工肛門・人工膀胱)装具の交換、カテーテル類の管理など、入浴後の清潔な状態で行うことが効果的な医療処置を同時に実施します。

入浴介助と同時に行える医療的ケアの例

  • 褥瘡(床ずれ)の処置
  • ストーマ装具の交換
  • 皮膚保護剤・軟膏の塗布
  • 爪のケア(爪切り、爪の清掃)

安全な入浴介助のための事前準備

安全でスムーズな入浴介助を行うためには、事前の準備が非常に重要です。ご利用者やご家族にお願いする準備と、看護師が行う準備があり、互いに協力し環境を整えることが事故防止につながります。

ご利用者とご家族で準備しておく物品

訪問看護師が持参する物品もありますが、基本的な入浴用品はご家庭で使っているものを用意していただくのが一般的です。肌に直接触れるものは、使い慣れたものが安心です。

ご家庭で準備する物品リスト

分類具体的な物品名備考
入浴用品石鹸やボディソープ、シャンプー、リンス肌に合ったもの、普段お使いのもの。
タオル類バスタオル、フェイスタオル身体を拭く用、頭を拭く用など複数枚あると便利。
着替え下着、寝間着や普段着すぐに着られるように広げて準備しておく。
その他保湿剤、オムツや尿取りパッド入浴後に必要なケア用品。

浴室環境の整備と福祉用具の活用

ご自宅の浴室環境に合わせて、安全対策を講じることが大切です。

浴室の床に滑り止めマットを敷く、浴槽内に手すりを設置するなどの改修が有効な場合があり、また、福祉用具を上手に活用することで、より安全で安楽な入浴が可能になります。

どのような用具が必要かは、看護師やケアマネジャーが専門的な視点から助言します。

看護師が行う準備と物品の確認

訪問時、看護師はまず室温や浴室の温度を確認し、ヒートショック(急激な温度変化による血圧の変動)を防ぐために必要に応じて部屋を暖めます。お湯の温度も、熱すぎずぬるすぎない適切な温度に設定します。

また、持参した血圧計や体温計、処置に必要な医療材料などが揃っているかを確認し、すぐに使えるように準備します。

緊急時の対応計画の共有

万が一、入浴中にご利用者の体調が急変した場合に備え、あらかじめ緊急時の対応についてご家族と共有しておきます。

緊急連絡先やかかりつけ医の連絡先をすぐに確認できるようにし、どのような場合に救急車を要請するかといった行動計画を立てておくことで、いざという時に慌てずに行動できます。

訪問看護による入浴介助の基本的な流れ

訪問看護の入浴介助はご利用者の安全と安楽を最優先に、計画的かつ効率的に進められます。ここでは、一般的な入浴介助の流れを紹介します。

入浴前の準備と健康チェック

看護師がご自宅に到着したらまずご利用者のもとへ伺い、体調の確認から始めます。バイタルサインを測定し、全身状態を観察して入浴が可能かどうかを判断し、同時に、浴室の準備(お湯張り、暖房など)も進めます。

トイレも入浴前に済ませておくと、落ち着いて入浴できます。

入浴直前の最終確認ポイント

確認項目看護師が行うこと
健康状態バイタルサイン測定、自覚症状の聴取、顔色や皮膚の状態の観察。
環境脱衣所・浴室の室温調整、お湯の温度設定、必要な物品の配置。
排泄入浴前にトイレを済ませるよう促す。

浴室への移動と衣服の着脱

ご利用者の身体能力に合わせて安全な方法で脱衣所や浴室へ移動し、必要であれば歩行器や車椅子を使用し、転倒しないように細心の注意を払います。衣服の着脱は寒さを感じさせないよう、手早く行うことも大切です。

洗身・洗髪の介助

シャワーチェアなどに座っていただき、安定した姿勢で洗髪・洗身を行い、同時にお湯の温度をこまめに確認し、声かけをしながら進めます。ご自身で洗える部分は洗っていただき、手の届かない背中や足先などを中心に介助します。

皮膚の状態を観察しながら、優しく丁寧に洗い上げます。

入浴後のケアと着衣、休息

入浴後は、温まった身体が冷えないように素早く水分を拭き取り、指の間や皮膚が重なる部分は、水分が残りやすいので念入りに拭きます。その後、必要に応じて保湿剤や軟膏の塗布、褥瘡の処置などを行います。

清潔な衣服に着替えたらベッドや布団で横になり、水分補給をしながら十分に休息をとっていただきます。最後に再度バイタルサインを測定し、体調に変化がないことを確認して介助を終了します。

入浴が困難な場合の代替方法

ご利用者の体調や身体機能、住宅環境によっては、浴槽での入浴が難しい場合がありますが、身体の清潔を保つために様々な方法があります。

シャワー浴(シャワーチェアの活用)

浴槽をまたぐ動作が困難でも、立ったり座ったりすることが可能な場合は、シャワーチェアを使用して座ったまま身体を洗うシャワー浴が適しています。転倒のリスクを減らし、安定した姿勢で安全に洗身・洗髪ができます。

浴室の広さや形状に合ったシャワーチェアを選ぶことが大切です。

部分浴(手浴・足浴)

全身の入浴が体力的に負担となる場合や、発熱などで入浴できない場合に、手や足だけをお湯に浸ける部分浴を行います。手足の末梢血管が温まることで全身の血行が促進され、リラックス効果や爽快感を得られます。

また、汚れやすい部分を清潔に保つことで、感染予防にもつながります。

部分浴の種類と目的

種類目的・効果方法
足浴(フットバス)足の清潔、血行促進、リラックス、むくみ緩和。洗面器などにお湯を張り、両足をつけて洗う。
手浴(ハンドバス)手の清潔、血行促進、関節のこわばり緩和。洗面器などにお湯を張り、手首までつけて洗う。
陰部洗浄陰部の清潔保持、感染予防、不快感の軽減。ポットなどを使用し、陰部を洗い流す。

清拭(ベッド上での身体の拭き取り)

寝たきりの方や、体力の消耗が激しく起き上がることが難しい方には、ベッドに寝たままの状態で身体を拭く清拭を行い、温かい蒸しタオルで全身を拭き、身体の汚れを取り除いて清潔にします。

全身の皮膚状態の観察や、マッサージ効果による血行促進も期待できる重要なケアです。

訪問入浴介護サービスとの連携

ご自宅の浴槽が使えない、あるいは介助者が看護師1名では安全の確保が難しいといった場合には、専門の訪問入浴介護サービスと連携することもあります。

このサービスは看護師1名と介護職員2名の計3名がチームで訪問し、専用の浴槽を自宅に持ち込んで入浴を提供するものです。

訪問看護の入浴介助を利用するための手続き

訪問看護による入浴介助を利用するには、いくつかの手続きが必要です。基本的には医療保険または介護保険制度に基づいてサービスが提供されます。

サービスの対象となる方

訪問看護は病気や障害があり、ご自宅で療養しながら看護師によるケアを必要とする方であれば、年齢にかかわらず利用できます。入浴介助も、主治医が必要性を認めた場合にサービスの対象です。

保険の種類と対象者の概要

保険の種類主な対象者備考
介護保険65歳以上で要支援・要介護認定を受けた方。ケアプランに基づきサービスが提供される。
医療保険40歳〜64歳で特定疾病の方、要介護認定を受けていない方、厚生労働大臣が定める疾病等の方。年齢に関わらず、主治医の指示書が必要。

主治医(かかりつけ医)への相談と指示書

訪問看護サービスを開始するためには、まず主治医(かかりつけ医)に相談し、訪問看護指示書を発行してもらう必要があります。

指示書にはご利用者の病状や、必要な医療処置、看護の内容などが記載されており、看護師は指示に基づいてケアを行います。入浴介助を希望する場合も、その旨を主治医に伝えることが重要です。

訪問看護ステーションとの契約

主治医から指示書が出たら、利用したい訪問看護ステーションを選んで契約を結び、契約時には、訪問看護師や管理者がご自宅を訪問し、ご利用者の心身の状態やご家族の希望、療養環境などを確認します。

面談で、入浴介助の具体的な内容や曜日、時間などを相談して決定します。

ケアマネジャーとの連携

介護保険を利用してサービスを受ける場合は、担当のケアマネジャーとの連携が大切です。ケアマネジャーは、ご利用者やご家族の希望に基づき、訪問看護を含む様々な介護サービスを組み合わせたケアプランを作成します。

入浴介助をケアプランに組み込んでもらうよう、ケアマネジャーに相談しましょう。

訪問看護の入浴介助に関するよくある質問

最後に、訪問看護の入浴介助について、ご利用者やご家族からよく寄せられる質問にお答えします。

入浴介助の時間はどのくらいかかりますか?

ご利用者の状態や入浴方法によって異なりますが、一般的には準備から後片付けまで含めて40分から60分程度が目安です。介護保険での訪問看護の場合、滞在時間によって20分、30分、1時間、1時間半といった区分があります。

医療保険の場合は、通常30分から1時間半程度の滞在です。具体的な時間は、ご利用者の状態に合わせてケアプランや訪問看護計画で定めます。

家族も一緒に入浴介助をする必要はありますか?

必ずしもご家族が介助に参加する必要はありません。看護師が一人で安全に介助できる場合は、お任せいただいて問題ありません。その間にご家族は休息をとったり、他の用事を済ませられます。

ただし、ご利用者の身体状況や安全上の理由から、ご家族の協力をお願いする場合もあり、その際は、事前に具体的な協力内容について相談します。

どのような福祉用具を準備すれば良いですか?

必要な福祉用具は、ご利用者の身体状況や浴室の環境によって異なります。シャワーチェア、浴槽内手すり、滑り止めマット、バスボード(浴槽の縁に渡して座る板)などが代表的です。

福祉用具は介護保険を利用してレンタルや購入ができる場合があります。まずは担当の看護師やケアマネジャー、福祉用具専門相談員に相談してください。

キャンセルした場合、料金はどうなりますか?

一般的には、訪問予定日の前日や当日にキャンセルした場合、キャンセル料が発生することが多いです。ただし、ご利用者の急な体調不良など、やむを得ない事情の場合はキャンセル料がかからない場合もあります。

キャンセルポリシーについては、契約時に必ず確認しておくことが大切です。急な体調変化で入浴が難しいと判断した場合は、できるだけ早く訪問看護ステーションに連絡しましょう。

以上

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