褐色細胞腫・パラガングリオーマとは、副腎や副腎外の神経組織に由来し、カテコールアミンと呼ばれるホルモンを過剰に分泌する性質をもつ腫瘍のことです。
カテコールアミンが過度に放出されると血圧が大きく変動し、動悸や発汗、頭痛など、多彩な症状が断続的あるいは慢性的に起こる可能性があります。
腫瘍の発生部位や分泌されるホルモン量、遺伝的素因などによって状態は大きく異なり、まれな疾患ではあるものの、未治療のまま放置すると心血管系の合併症を招く恐れがあるため、早期発見と治療が大切です。
褐色細胞腫・パラガングリオーマの病型
褐色細胞腫やパラガングリオーマは体内でカテコールアミンを産生する細胞が腫瘍化した状態を指しますが、発生部位や性質によっていくつかの病型に分類できます。
副腎褐色細胞腫と副腎外パラガングリオーマ
腫瘍が副腎の髄質に発生している場合を褐色細胞腫と呼び、一方で、頸部や胸部、腹部などにある副腎外の神経節部位に発生している場合がパラガングリオーマです。
両者はカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリンなど)を過剰に分泌する可能性がある点では共通していますが、副腎外に発生するパラガングリオーマでは症状が比較的ゆるやかに進行することもあり、気づきにくいケースがあります。
単発性と多発性
病変が単独の腫瘍として存在する場合だけでなく、複数個の腫瘍が同時に発生している多発性のケースもあり、多発性が見られるときには、家族性の素因を検討する必要が高まります。
遺伝子変異を伴う症候群の一部として褐色細胞腫やパラガングリオーマが出現していることが考えられるので、家族歴や遺伝子検査を含めた包括的な評価が望ましいです。
良性と悪性
褐色細胞腫・パラガングリオーマは、良性と悪性の区別が画像検査だけでは難しい場合があります。
腫瘍細胞が遠隔転移をきたしたときに、ようやく悪性と判断されるケースもあるため、良性とみなしていた腫瘍が長期間を経て悪性の振る舞いを示す場合も否定できません。
分泌されるホルモンによる分類
褐色細胞腫・パラガングリオーマが分泌するカテコールアミンには、主にアドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンなどが含まれますが、腫瘍がどのホルモンを優勢に分泌しているかによって症状の出方や重症度が異なります。
ノルアドレナリン産生が中心の腫瘍は、血圧上昇や血管収縮の作用をより強く示すことが多く、アドレナリン産生が多い場合には、心悸亢進や発汗が顕著です。
病型 | 発生部位 | 産生ホルモンの特徴 | 良性・悪性の判断 |
---|---|---|---|
副腎褐色細胞腫 | 副腎髄質 | アドレナリンやノルアドレナリンが中心 | 転移で悪性と確定されるケースあり |
副腎外パラガングリオーマ | 頸部、胸部、腹部の神経節など | ノルアドレナリン産生が優位の場合が多い | 病理や転移状況で評価 |
多発性腫瘍 | 遺伝子異常や家族性で発生 | 複数個の腫瘍が各部位でホルモンを分泌 | 遺伝子検査や症候群診断がポイント |
ドーパミン産生腫瘍 | ドーパミン量が多いケース | 下痢や消化管症状などの特徴が出ることもある | 数が少なく診断に時間がかかる場合 |
症状
褐色細胞腫・パラガングリオーマは、体内に放出されるカテコールアミン量が増加することで、高血圧や動悸、頭痛などの症状を起こすことが知られています。
発作性高血圧
代表的な症状として挙げられるのが、高血圧の発作で、突然血圧が極端に上昇し、脈拍が速くなることで動悸が強まり、胸の苦しさや恐怖感を覚える方もいます。
発作が収まると、血圧が急激に下降して倦怠感や疲労感を訴えるケースが見られ、時には激しい頭痛や発汗、顔面紅潮などを伴い、症状の度合いによっては日常生活に大きな負担を感じるかもしれません。
発作性高血圧のときに見られる主な症状
主な症状 | 背景 | 注意点 |
---|---|---|
強い頭痛 | 血圧急上昇による脳血管への負荷 | 突然の頭痛に警戒が必要 |
動悸・胸部不快感 | カテコールアミン過多による心拍数の増加 | 不整脈が生じるリスクあり |
発汗・紅潮 | 交感神経亢進による血管拡張 | 体表面での熱感や湿潤を自覚 |
不安感 | 急激な身体変化によるストレス反応 | 過呼吸などを伴う場合がある |
持続性高血圧
発作的ではなく常に高めの血圧が続く持続性高血圧の形をとることもあり、長期間にわたって血圧が高いと、心臓や腎臓、脳の血管に大きなダメージを与えやすくなり、最終的には心不全や脳卒中、腎不全のリスクが高いです。
カテコールアミンによる血管収縮作用が絶えず続いている場合、軽度の頭痛や倦怠感などの症状が慢性的に起こるため、病院を受診して初めて褐色細胞腫・パラガングリオーマが疑われることもあります。
代謝や神経症状
アドレナリンやノルアドレナリンの過剰分泌は、代謝亢進や血糖値上昇にも影響を及ぼすため、体重減少や頻回の動悸、イライラ感が続くケースがあります。
また、ノルアドレナリンに加えてドーパミンを多く分泌する腫瘍では、下痢などの消化器症状や精神神経症状に悩まされることが報告されています。
カテコールアミン過剰による影響
身体部分 | 具体的症状 | ホルモン作用との関連 |
---|---|---|
循環器 | 高血圧、動悸、頻脈、息切れ | 血管収縮や心拍数増加による負荷 |
中枢神経・精神面 | 不安感、焦燥感、イライラ | 交感神経刺激による過覚醒状態 |
代謝系 | 血糖値上昇、体重減少 | エネルギー消費が高まりやすくなる |
消化器 | 下痢、腹痛 | ドーパミン産生がある場合に起こりやすい |
心血管イベントのリスク
高血圧を背景に、心臓や血管への負荷が非常に強まることから、心筋梗塞や脳卒中、動脈瘤の破裂などの心血管イベントが突発的に発生するリスクがあります。
特に中高年以降では、もともと動脈硬化傾向があるところへカテコールアミンの過剰分泌が重なると、血管事故につながりやすいので注意が必要です。
褐色細胞腫・パラガングリオーマの原因
褐色細胞腫・パラガングリオーマは、大半が体内の交感神経系や副腎に由来しますが、原因としては遺伝子変異や家族性の要素、または特定の遺伝症候群との関連が指摘されています。
ただし、多くの症例でははっきりとした家族歴や遺伝子異常が見当たらない孤発性のパターンもあります。
遺伝的要因と家族性
特定の遺伝子変異を持つ場合、褐色細胞腫やパラガングリオーマが多発性に発生したり、若年期から腫瘍がみつかるケースが報告されています。
MEN2型(多発性内分泌腫瘍症2型)やVHL病(フォン・ヒッペル・リンドウ病)、SDHBやSDHDなどの遺伝子変異が挙げられ、これらの症候群を持つ方では褐色細胞腫やパラガングリオーマを合併する確率が高いです。
孤発性の腫瘍発生
一方で、家族性の素因がまったくない孤発性の褐色細胞腫・パラガングリオーマも多数あり、具体的原因は多くの場合明確に特定されていません。
遺伝子異常が検出されない場合や、一部の遺伝子変異を持っていても腫瘍の形成に直接関わっているかどうか判断が難しい場合もあります。
環境因子やホルモン
高血圧やストレス、生活習慣などが原因として取り沙汰されることもありますが、腫瘍の発生そのものを直接的に促す要因とは言い切れないケースが多いです。
しかしながら、普段から血圧が高い人や肥満、糖尿病などの代謝異常を抱える方では、褐色細胞腫・パラガングリオーマが現れた際に重症化するリスクが高いのではないかと推測されます。
腫瘍形成に影響を与える背景要素
- 遺伝子変異(MEN2、VHL病、SDHB、SDHDなど)
- 家族に似た疾患を持つ方がいる
- 代謝障害や高血圧との併発で重症化しやすい
- ストレスや肥満が血圧コントロールを難しくする
突発性と再発リスク
褐色細胞腫・パラガングリオーマを手術や内科的治療で一度治癒した場合でも、遺残腫瘍があったり、新たな部位で腫瘍が発生する再発リスクがゼロにはならない点に注意が必要です。
特に家族性の素因がある患者さんでは再発リスクが高いとされるため、術後も定期的な検査や血圧管理を続けます。
家族性と孤発性の特徴
区分 | 発生パターン | 主な特徴 | 再発リスク |
---|---|---|---|
家族性 | 多発性腫瘍として若年期に発症する場合が多い | 遺伝子異常が確認されることが多く、合併症もあり | 高め(追加腫瘍発生に要注意) |
孤発性 | 単発性で中高年に見つかることが多い | はっきりした遺伝子変異がない場合が多い | 個別の状態による |
褐色細胞腫・パラガングリオーマの検査・チェック方法
褐色細胞腫やパラガングリオーマは、カテコールアミンの過剰産生がキーワードとなるため、ホルモン濃度の測定や画像検査によって診断が進められます。
血液・尿検査でのカテコールアミン測定
血中や尿中のカテコールアミン濃度を確認することで、褐色細胞腫・パラガングリオーマを強く疑う材料が得られます。
アドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの実測値を調べるだけでなく、代謝物質であるメタネフリンやノルメタネフリンを測定することが一般的です。これらの値が基準範囲を大きく超える場合、腫瘍による過剰分泌が示唆されます。
主な血液・尿検査項目
項目 | 意味 | 特徴 |
---|---|---|
血中メタネフリン | カテコールアミンの代謝産物 | 副腎腫瘍があると高値に出やすい |
尿中VMA(バニリルマンデル酸) | アドレナリンやノルアドレナリンの最終代謝産物 | 24時間尿で測定する方法が多い |
血中ノルメタネフリン | ノルアドレナリン代謝の指標 | パラガングリオーマで特に上昇する可能性あり |
画像診断で腫瘍の位置と大きさを把握
カテコールアミンが高値を示した場合、CTやMRI、MIBGシンチグラフィーなどの画像検査によって腫瘍の位置、数、大きさを特定します。
副腎に腫瘍があるかどうかを確認するCTやMRIは初期診断としてよく用いられますが、副腎外パラガングリオーマを見つけるために全身をスキャンしたり、MIBGシンチでカテコールアミンの取り込みが強い部位を探す手法も有効です。
主な画像検査
検査方法 | 用途 | 特徴 |
---|---|---|
CT(コンピューター断層撮影) | 腫瘍の解剖学的形態を把握 | 比較的短時間で撮影可能、造影剤使用時は腎機能に注意 |
MRI(磁気共鳴画像) | 軟部組織の描出が得意 | 放射線被ばくがなく、副腎外病変にも有用 |
MIBGシンチグラフィー | カテコールアミン産生腫瘍の集積を確認 | 腫瘍の機能を評価でき、転移病変発見にも役立つ |
PET/CT | 腫瘍の代謝活性を捉える | 特殊な放射性薬剤を用い、全身の病変を探索可能 |
負荷試験や薬物試験
カテコールアミンの分泌を誘導または抑制する薬剤を投与し、血圧やホルモンレベルの変化を観察する負荷試験が用いられることもあります。
フェントラミンテストやクロニジン抑制試験などが古くから知られていますが、検査実施には安全管理が欠かせません。血圧変動が大きくなる可能性があるため、医療機関で厳重なモニタリング体制を敷きながら行います。
遺伝子検査
家族性が疑われる場合や腫瘍が多発する場合、遺伝子検査を行ってSDHB、SDHD、RETなどの関連遺伝子変異を調べることがあります。
この情報は、将来的に再発や新たな腫瘍の発生リスクを予測したり、家族への遺伝カウンセリングを進めたりする上で役立ちます。
褐色細胞腫・パラガングリオーマの治療方法と治療薬について
検査によって褐色細胞腫・パラガングリオーマが診断された場合、まずは血圧を安定させるための内科的アプローチと、腫瘍そのものを除去する外科的治療が中心です。
血圧管理と降圧薬の使用
カテコールアミンによる高血圧は、急激に下げすぎると血流の変化で合併症を起こす懸念があるため、慎重に段階的に降圧を行います。
アルファ遮断薬(フェントラミン、ドキサゾシンなど)を優先して用いることで、血管収縮作用を抑え、血圧を安定に近づけます。
アルファ遮断薬導入後、必要に応じてベータ遮断薬(プロプラノロールなど)を追加し、動悸や頻脈を制御することが多いです。
治療に用いられる主な薬剤
薬剤分類 | 代表薬名 | 主な目的 | 注意点 |
---|---|---|---|
アルファ遮断薬 | フェントラミン、ドキサゾシンなど | 血管収縮を抑制し、血圧を下げる | 急激に下げすぎないよう投与量を調整する必要がある |
ベータ遮断薬 | プロプラノロールなど | 心拍数のコントロール | アルファ遮断が不十分な状態で投与すると血圧上昇の可能性 |
カルシウム拮抗薬 | アムロジピンなど | 補助的な降圧効果 | 腎機能や心機能によって使用を検討 |
利尿薬 | フロセミドなど | 余分な水分を排出し血圧低下 | 電解質バランスを常にチェック |
手術による腫瘍摘出
血圧がコントロールできたら、外科手術による腫瘍の摘出が根治を目指す最も確実な手段で、副腎褐色細胞腫の場合、腹腔鏡手術で副腎を摘出する方法が一般的ですが、大きさや場所によっては開腹手術が選択される場合もあります。
副腎外パラガングリオーマでは、発生部位によって手術の難易度が変わるため、経験豊富な外科医による十分な準備が欠かせません。
放射線治療や核医学的療法
腫瘍が悪性化して他臓器への転移がある場合、完全に外科的除去が難しいケースもあり、そうした場合には放射線治療や、MIBGに放射性同位元素を結合させた放射性医薬品による核医学的療法が検討されることがあります。
この療法は、腫瘍にMIBGが集積する特性を利用して放射線を照射し、転移病巣を含む広範囲にアプローチすることが狙いです。
放射線治療・核医学的療法
治療法 | 内容 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
放射線治療 | 病巣に集中的にX線やガンマ線を照射 | 外科的切除困難な場合に有用 | 周辺組織への影響や副作用がある可能性 |
MIBG治療(放射性同位元素) | 腫瘍へ特異的にMIBGを取り込み、内部から放射線で破壊 | 転移性病変にも対応が期待できる | 骨髄抑制などの全身副作用リスクを考慮する必要がある |
内分泌療法やその他の薬剤
稀に、手術や放射線治療が難しいケースでは、腫瘍の増殖を抑制する標的薬や化学療法が検討される場合があります。ただし、褐色細胞腫やパラガングリオーマは化学療法への反応が限定的であるとされ、薬剤選択には慎重な評価が必要です。
治療期間
治療期間は、疾患のステージや腫瘍の大きさ、転移の有無などによって大きく異なります。
褐色細胞腫・パラガングリオーマは、カテコールアミンを分泌することで血圧や心血管系に強い影響を与えるため、まずは血圧コントロールを落ち着かせるまでにある程度の時間がかかります。
血圧コントロール期間
最初に降圧薬を使ってカテコールアミンの作用を抑え、手術に耐えられる安定した状態にするまで、おおよそ数週間から数か月かかります。
治療工程のおおまかな流れ
段階 | 主な内容 | 期間の目安 |
---|---|---|
血圧コントロール | アルファ遮断薬、ベータ遮断薬を段階的に導入 | 数週間~数か月 |
外科手術 | 腫瘍摘出(副腎褐色細胞腫なら腹腔鏡手術が多い) | 数日の入院~数週間の回復期 |
術後フォロー | 血圧の再安定化、ホルモン値のモニタリング | 退院後も数か月~数年継続 |
再発・転移対策 | 放射線治療、MIBG治療、長期経過観察など | 個々の病態により異なる |
手術と術後回復
手術は腫瘍の大きさや位置によりますが、腹腔鏡手術であれば入院期間はおよそ1~2週間程度のこともあれば、開腹手術になればもう少し長期化するかもしれません。
術後は血圧が急に低下する可能性もあり、点滴や輸液で循環をサポートするなど、早期のリハビリと経過観察が必要です。
長期的な経過観察
褐色細胞腫・パラガングリオーマは再発や転移のリスクが完全にゼロとは言えません。術後数年経過してから新たな病変が見つかる例もあるため、定期的にホルモン値や画像検査を受け、異常があれば早期に対応できるように備えることが大切です。
遺伝性の背景を持つ方は、より長期にわたるフォローアップ計画を立てることが推奨されます。
治療期間を通じて患者さんが気をつけること
- 血圧を測定する習慣を継続し、異常を感じたらすぐ医療機関へ相談
- 術後の生活指導(塩分管理や適度な運動)を守る
- 定期検査のタイミングを逃さず、ホルモン値を把握する
褐色細胞腫・パラガングリオーマ薬の副作用や治療のデメリットについて
褐色細胞腫やパラガングリオーマの治療では、カテコールアミンによる高血圧と戦うための薬剤や、腫瘍を制御するための放射線・化学療法などを組み合わせます。
降圧薬の副作用
アルファ遮断薬は血圧を下げるために用いられますが、めまいや起立性低血圧といった症状を起こしやすくなることがあります。
ベータ遮断薬は心拍数を抑制する効果がある一方、気管支喘息を持つ方や一部の循環器疾患を抱える方で注意が必要です。
高齢者や基礎疾患がある方では、複数の薬を使うことで相互作用が発生し、副作用が出やすくなるリスクが高まることもあります。
降圧薬の使用上気をつけたい点
薬の種類 | 代表的な副作用 | 避けたい併用や注意事項 |
---|---|---|
アルファ遮断薬 | めまい、立ちくらみ、頭痛など | 立位時の急激な血圧低下を防ぐために姿勢変化をゆっくり行う |
ベータ遮断薬 | 気管支収縮、徐脈、疲労感 | 喘息持ちの方や高度の徐脈に留意が必要 |
カルシウム拮抗薬 | 足のむくみ、顔面紅潮、動悸など | 患者の心機能や腎機能に応じた投与量設定 |
外科手術のリスク
腫瘍摘出手術では、周囲の臓器や血管を傷つけるリスクが少なからずあり、術中に血圧が激変する恐れもあります。高度な専門知識と熟練した技術を持つ外科医が担当しても、合併症が起きる可能性を完全に排除することは困難です。
術後は感染症や出血、血圧制御の乱れなどのデメリットが考えられるため、慎重なモニタリング体制が大切になります。
放射線治療や核医学的療法の副作用
放射線治療では、照射部位に応じて皮膚の炎症や疲労感、臓器の機能低下などが生じるケースがあり、MIBG治療では骨髄抑制や肝機能障害など全身性の副作用が出ることも報告されています。
いずれの場合も効果とリスクを比較検討し、長期的な副作用の可能性を含めて医師と相談することが重要です。
放射線関連の副作用
副作用 | 発症のしくみ | 対応策 |
---|---|---|
皮膚のかゆみ・炎症 | 照射部位の表皮細胞がダメージを受ける | 保湿剤や刺激の少ない衣類、照射間隔の設定など |
骨髄抑制 | 放射線が造血細胞を傷つけ白血球や血小板が減少 | 定期的な血液検査と感染症対策 |
倦怠感・食欲不振 | 放射線の全身影響で代謝やホルモンバランスが乱れる | 十分な休息と栄養補給、必要に応じた薬剤調整 |
治療前後の生活を快適に保つ工夫
- 水分補給と安静を意識し、疲れを溜め込まない
- 皮膚トラブルに対しては皮膚科医の協力を得る
- 感染症対策を徹底し、早期に症状を把握する
化学療法や標的薬の副作用
褐色細胞腫やパラガングリオーマで転移が進行し、手術や放射線治療だけでは対応が難しい場合、化学療法や標的薬によるアプローチを考慮する場面がありますが、抗がん剤特有の吐き気や脱毛、骨髄抑制などは生活の質に大きな影響を与えます。
褐色細胞腫・パラガングリオーマの保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
検査費用
血液や尿検査でカテコールアミン濃度を測定する費用は、保険適用後は数千円程度から1万円前後です。CTやMRI、MIBGシンチグラフィーなどの画像検査も保険対象内であれば数千円から数万円程度で、検査の種類や回数によって変わります。
検査項目 | 保険適用後自己負担の目安 | 備考 |
---|---|---|
血液・尿中ホルモン検査 | 1回あたり数千円~1万円程度 | メタネフリンやノルメタネフリン測定など |
CT・MRI撮影 | 1回数千円~1万数千円程度 | 造影剤使用の場合は追加費用あり |
MIBGシンチ | 数万円程度 | 専門施設で行われる、転移評価などに有効 |
降圧薬や手術の費用
降圧薬は保険適用の範囲内であれば月々数千円~1万円程度の自己負担で済む場合が多いです。
手術に関しては、入院費や手術費用を含めて保険適用後も数万円~十数万円以上になるケースがあり、腹腔鏡手術と開腹手術では入院期間や術式の難易度が異なるため、最終的な費用は個人差が大きくなります。
放射線治療や核医学的療法
放射線治療を行う際の費用は、1回あたり数千円~1万円前後の自己負担です。
核医学的療法(MIBG治療など)の場合は、放射性医薬品の費用や入院管理が加わるため、保険適用後でも自己負担額が10万円程度に上ることがあります。
治療内容 | 保険適用後の自己負担の目安 | 備考 |
---|---|---|
降圧薬の処方(アルファ遮断薬など) | 月数千円~1万円程度 | 複数薬を使うほど費用増 |
腹腔鏡手術 | 数万円~十数万円程度 | 入院期間や術式によって幅がある |
放射線治療(通院) | 1回数千円~1万円前後 | 回数や照射範囲で変動 |
MIBG治療(放射性医薬品使用) | 入院含め10万円程度以上になることも | 専門施設での治療で日数や管理費用が加わる |
以上
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