漿液性嚢胞腫瘍(SCN)

漿液性嚢胞腫瘍(Serous cystic neoplasm:SCN)とは、主に膵臓に発生する良性の腫瘍です。

膵臓の細胞が通常とは異なる形で増殖することで形成され、内部に漿液(しょうえき)と呼ばれる水様の液体が蓄積された嚢胞(のうほう)を特徴とします。

中高年の女性に比較的多く見られる傾向があり、多くのケースで症状を示さず、健康診断や他の理由で行われた画像検査の際に偶然発見される場合がほとんどとなります。

一般的に成長のペースは緩やかで、急速に大きくなることは稀です。膵臓の機能に著しい影響を与えることは少ないものの、定期的な経過観察が推奨されます。

目次

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の症状

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)はほとんどの場合無症状ですが、腫瘍の増大に伴い、腹部の痛みや吐き気などの症状が現れることがあります。

無症状の場合が多い理由

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)は多くの場合、症状を引き起こさない良性腫瘍です。

ゆっくりと成長するため、患者さんが自覚症状を感じることは珍しいです。

腫瘍が大きくなった場合の症状

腫瘍が大きくなると、以下のような症状が現れます。

  • 腹痛(みぞおちや上腹部の痛み)
  • 腹部膨満感(お腹が張った感じ)
  • 背部痛(背中の痛み)

症状は腫瘍が周囲の組織や臓器を圧迫することで生じるもので、特に腫瘍が膵臓の後部に位置する場合、背部痛が起こりやすくなります。

消化器系の症状

症状特徴
吐き気食後に増強する場合が多い
嘔吐間欠的に発生する傾向がある
食欲不振徐々に進行し、気づきにくい
体重減少長期的に観察される

食欲不振や体重減少は、長期間にわたって徐々に進行することが多く、患者さん自身が気づきにくい症状です。

黄疸と関連症状

まれに、SCNが膵頭部(膵臓の頭の部分)に発生し、胆管を圧迫すると黄疸が生じます。

症状説明
黄疸皮膚や目の白い部分(強膜)が黄色くなる
褐色尿尿の色が濃くなり、コーラのような色になる
灰白色便便の色が薄くなり、粘土のような色になる
皮膚のかゆみ全身に発生することがあり、特に夜間に悪化する傾向がある

黄疸は特に注意が必要な症状の一つであり、この症状が現れた場合、早急に医療機関を受診することが望ましいでしょう。

その他の症状と合併症

SCNに関連して、以下のような症状や合併症が報告されています。

症状・合併症発生頻度
腹部腫瘤(お腹にしこりを触れる)まれ
膵炎(膵臓の炎症)非常にまれ
出血(腫瘍内部や周囲の出血)極めてまれ
膵管閉塞(膵液の流れが阻害される)まれ

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の原因

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の原因は現時点では明確に解明されていませんが、先天的な要因(遺伝子変異)や膵管の閉塞などが関与している可能性が考えられています。

SCN発症に関与する主な要因

  • 遺伝子変異(特にVHL遺伝子の変異)
  • 環境因子(喫煙、過度のアルコール摂取、不適切な食生活)
  • 年齢と性別(特に50歳以上の女性)
  • 他の疾患との関連(VHL症候群、MENなど)
  • 慢性炎症と免疫反応の異常

遺伝子変異

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の発症には特定の遺伝子変異が関係していることが分かってきていて、中でも、VHL(フォン・ヒッペル・リンドウ)遺伝子の変異が関わっているのではないかと考えられています。

VHL遺伝子は、細胞の成長と分裂を適切に制御する腫瘍抑制遺伝子の一つです。この遺伝子に変異が生じると、細胞の増殖を抑える機能が低下し、結果として嚢胞性腫瘍が形成される可能性が高まります。

また、VHL遺伝子の変異はSCNの発症リスクを大幅に増加させるだけでなく、腫瘍の成長速度にも影響を与える可能性があります。

遺伝子主な機能SCNとの関連
VHL腫瘍抑制変異によりリスク増加
KRAS細胞増殖シグナル二次的な役割の可能性

環境因子(生活習慣)による影響

  • 喫煙
  • 過度のアルコール摂取
  • 不適切な食生活
  • 慢性的な膵臓の炎症

特に、長期にわたる過度のアルコール摂取は、膵臓の細胞に慢性的なダメージを与えるため、SCNを含む膵臓疾患のリスクが上昇します。

年齢と性別

SCNは主に中年から高齢の女性に多く見られ、特に50歳以上の女性で発症率が顕著に高くなります。

年齢層性別発症リスク
50歳未満男性低い
50歳未満女性やや低い
50歳以上男性中程度
50歳以上女性比較的高い

他の疾患との関連性

フォンヒッペル・リンドウ症候群(VHL症候群)を持つ患者さんでは、SCNの発症リスクが高くなります。これは、VHL遺伝子の生殖細胞変異が、SCNを含む複数の腫瘍性疾患のリスクを増大させるためです。

また、多発性内分泌腫瘍症(MEN)などの遺伝性腫瘍症候群との関連も指摘されています。

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の検査・チェック方法

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の診断では、画像診断と病理学的検査などを実施していきます。

画像診断

CT検査では、特徴的な蜂巣状または海綿状の構造が観察されます。造影剤を用いることで腫瘍内部の隔壁が強く造影され、より明確な画像が得られるため、診断の精度が向上します。

MRI検査の特徴的な所見は、T2強調画像では高信号を示し、T1強調画像では低信号を示すこととなります。

超音波検査においては、典型的には多房性の嚢胞性腫瘤として描出され、腫瘍の全体像を把握するために適しています。

検査方法特徴的所見診断における利点
CT蜂巣状構造腫瘍全体の構造を明確に捉えられる
MRIT2高信号軟部組織のコントラストが優れる
超音波多房性腫瘤リアルタイムで観察可能

内視鏡的検査

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)や超音波内視鏡(EUS)も SCN の診断に重要な検査となります。

ERCP では主膵管の圧排像や狭窄像が観察されることがあり、SCN は主膵管との交通がないため、造影剤が嚢胞内に流入することはなく、この特徴が診断の手がかりとなります。

EUS では、特に中心瘢痕や微小嚢胞の存在を確認していきます。

病理学的検査の必要性

EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)を用いて組織や嚢胞液を採取し、病理学的および細胞学的検査を行います。

SCN の特徴的な病理所見

  • 一層の立方上皮細胞による裏打ち
  • グリコーゲンに富む淡明な細胞質
  • 丸い核を持つ細胞
検査方法得られる情報診断における意義
EUS-FNA組織・細胞所見最小侵襲で検体採取が可能
病理検査確定診断SCN に特徴的な細胞所見を確認

鑑別診断

SCN の診断では、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)や分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)との鑑別に注意が必要です。

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の治療方法と治療薬について

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)では、無症状で小さなSCNに対しては定期的な経過観察を行います。

一方、症状が出現している場合や腫瘍が一定以上の大きさに達した場合は、外科的切除を視野に入れた治療計画を立てます。

腫瘍の状態推奨される治療法
無症状・小さい経過観察
症状あり・大きい外科的切除

外科的治療の選択肢

手術名適応
膵部分切除術腫瘍が膵臓の一部に限局している
膵頭十二指腸切除術膵頭部(膵臓の頭の部分)に大きな腫瘍がある
膵体尾部切除術膵体部や尾部(膵臓の体や尾の部分)に腫瘍が存在する

症状緩和のための薬物療法

現時点では、SCNそのものを縮小させる特効薬は残念ながら存在しません。薬物療法は、腫瘍によって起こる様々な症状を軽減するための対症療法として行います。

疼痛管理においては、まず非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を第一選択として使用します。十分な効果が得られない場合には、オピオイド系鎮痛薬の使用を検討します。

消化器症状に対しては、プロトンポンプ阻害薬などの制酸薬や膵酵素補充剤を用いて対処します。

症状使用される薬物
疼痛非ステロイド性抗炎症薬、オピオイド
消化器症状制酸薬、消化酵素剤

治療後の経過観察

治療後は定期的な画像診断を実施し、腫瘍の再発や残存腫瘍の変化を観察します。同時に、血液検査などを通じ、膵機能の評価も行います。

フォローアップ項目頻度
画像検査6-12ヶ月ごと
血液検査3-6ヶ月ごと

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の治療期間

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)では、小さな腫瘍の場合、経過を見守りながら3か月から6か月ごとに定期検査を行うのが一般的です。

大きな腫瘍や症状が出ている場合は手術で取り除く必要があり、手術後の回復期間も含めると半年から1年程度が治療期間の目安となります。

経過観察期間

多くの場合SCNは良性の腫瘍であり、急速に大きくなることはあまりないため、定期的な画像検査や血液検査を行いながら腫瘍の変化を観察していきます。

経過観察の期間は、通常半年から1年程度となります。観察期間中に腫瘍が著しく大きくなったり、症状が現れたりしない場合はその後も定期的な検査を続けますが、検査と検査の間隔を少しずつ広げていくこともあります。

手術を行った場合の治療期間

手術自体にかかる時間は腫瘍の位置や大きさによって変わりますが、多くの場合4時間から8時間程度で終わります。

手術後の入院期間は、合併症がなければ1週間から2週間ほどが目安です。退院後のリハビリテーションや回復期間も含めると、手術治療全体の治療期間は3か月から半年程度となります。

治療の段階期間
手術前の準備2週間-1か月
手術4-8時間
入院1-2週間
回復期間2-4か月

長期的な経過観察が必要

治療や手術が終わった後も、継続的な経過観察が必要です。

再発する危険性は低いですが、定期的に検査を行うことで、万が一再発した場合や他の合併症が起きた場合に早く見つけることができます。

経過観察の期間は患者さんの状況によって異なりますが、通常5年から10年ほど続けます。

薬の副作用や治療のデメリットについて

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の治療では、手術に伴う合併症や長期的な影響などのリスクが考えられます。

手術に関連するリスク

術中や術後に出血や感染症が発生することがあります。また、膵液漏(すいえきろう)という合併症が起こる可能性があります。

リスク発生頻度主な対策
出血5-10%適切な止血処置、輸血
感染症3-8%抗生物質投与、創部管理
膵液漏10-20%ドレーン管理、保存的治療

臓器機能への影響

手術による膵臓の一部切除は、長期的に膵臓機能に影響を与える場合があります。

  • 消化酵素の分泌不全(脂肪の吸収障害や下痢などの症状が起こる)
  • 血糖コントロールの問題(糖尿病の発症や悪化)

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の治療費用は保険適用となるため、自己負担額は通常3割程度です(年齢や所得によって自己負担率が異なります)。

治療費用の目安

  • 経過観察 定期的な画像検査が必要で、年間10万円程度
  • 内視鏡的治療 50〜100万円程度
  • 外科的切除 100〜300万円程度

入院期間と関連費用

手術を要する場合、入院期間は通常1〜2週間程度です。入院費用は1日あたり2〜3万円程度で、食事代や個室利用料などが別途加算されます。

費用項目概算金額(円)
手術料300,000〜1,000,000
入院費(1日)20,000〜30,000
術前検査50,000〜100,000

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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