先端巨大症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症 acromegaly)とは、下垂体腺腫によって成長ホルモンが過剰に分泌されることで引き起こされる疾患です。
成長ホルモンの過剰な分泌は、骨や軟骨、内臓などの肥大化を起こし、容姿の変化や全身の代謝異常を引き起こします。
ここでは、先端巨大症の原因や症状、診断方法などについて詳しく解説していきましょう。
先端巨大症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の病型
先端巨大症には、その発症機序や臨床像からいろいろなの病型があり、病型ごとに特徴が異なります。
下垂体腺腫による先端巨大症
下垂体腺腫が原因で、成長ホルモンが過剰分泌されることで発症する先端巨大症が最も一般的な病型です。 腺腫の大きさにより、microadenomaとmacroadenoma(周囲組織への圧迫症状を伴う)に分類されます。
成長ホルモン産生腫瘍による先端巨大症
下垂体以外の臓器に発生した、成長ホルモン産生腫瘍によって引き起こされる先端巨大症も報告されています。 このタイプの先端巨大症はまれですが、腫瘍の局在診断が大切です。
成長ホルモン産生腫瘍が発生する主な臓器
- 肺
- 膵臓
- 消化管
- 副腎
成長ホルモン放出ホルモン産生腫瘍による先端巨大症
視床下部や膵臓などに発生した成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)産生腫瘍により、下垂体からの成長ホルモン分泌が過剰に刺激されることで先端巨大症を発症する例もあります。
腫瘍の局在診断とともにGHRH値の評価が診断に有用です。
家族性先端巨大症
一部の先端巨大症では、遺伝的要因が関与していることが分かっていて、家族性先端巨大症の一部では、若年発症の傾向があることがあります。
先端巨大症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の症状
先端巨大症が引き起こす身体の変化について、説明いたします。
手足の肥大化と顔貌の変化
先端巨大症の典型的な症状は、手足が異常に大きくなることと、顔の特徴が変わることです。成長ホルモンの影響で、手足の骨や軟部組織が大きくなり、顔の骨も成長します。
部位 | 症状 |
手足 | 指輪や靴が合わなくなるほどの肥大化 |
顔 | 顎の突出、鼻の大きさの増加、額の突出 |
全身の症状
先端巨大症は、手足や顔だけでなく、全身にさまざまな影響を及ぼします。
- 関節の痛みや変形
- 皮膚の厚みが増し、汗をかきやすくなる
- 声が低くなる
- 睡眠時無呼吸症候群の発症
- 高血圧や糖尿病などのリスクが高まる
内臓の肥大と機能障害
先端巨大症では、心臓や肝臓、腎臓などの内臓も大きくなり、機能に影響が出ることがあります。特に心臓の肥大は、心不全を引き起こすリスクがあり、注意が必要です。
臓器 | 症状 |
心臓 | 心肥大、心不全のリスク |
肝臓 | 肝腫大、機能障害 |
腎臓 | 腎臓の肥大、機能低下 |
先端巨大症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の原因
ここでは、先端巨大症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の病気の背後にある原因について、説明します。
下垂体腺腫による成長ホルモンの過剰分泌
先端巨大症の主な原因は、下垂体の前葉にできる腺腫から成長ホルモンが過剰に分泌されることです。腺腫はほとんどが良性で、大きさによってミクロアデノーマ(10mm未満)とマクロアデノーマ(10mm以上)に分類されます。
腺腫のサイズ | 分類 | 頻度 |
10mm未満 | ミクロアデノーマ | 約30% |
10mm以上 | マクロアデノーマ | 約70% |
成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)産生腫瘍
まれに、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)を産生する腫瘍が原因で、下垂体が過剰に成長ホルモンを分泌することがあり、この腫瘍は視床下部や膵臓、小腸などに発生します。
遺伝性疾患との関連
先端巨大症は、特定の遺伝性疾患と関連があることが分かっており、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)、カーニー複合(CNC)、孤発性家族性下垂体腺腫(FIPA)、McCune-Albright症候群が含まれます。
これらの疾患は、下垂体腺腫の発生や成長ホルモンの過剰分泌に関与する遺伝子変異と関連。
その他の要因
先端巨大症の発症には他にもいくつかの要因が関与する可能性があり、例えば、頭頸部への放射線治療の経験がある人は下垂体腺腫のリスクが高まります。
また、頭部外傷や成長ホルモン補充療法を受けた小児期の患者が、成人後に先端巨大症を発症することも。
先端巨大症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の検査・チェック方法
先端巨大症を見つけるためには、いろいろな検査やチェックが行われます。体の特徴を見たり、血液検査をしたり、画像検査をしたりすることが大切です。
身体的特徴のチェック
先端巨大症の診断では、まず体の特徴をチェックすることから始まります。
特徴的な体の変化
- 手足が大きくなる
- 顔の形が変わる(あごが出る、鼻が大きくなる、額が出るなど)
- 皮膚が厚くなり、汗をかきやすくなる
- 声が低くなる
こうした体の特徴を医師が観察し、先端巨大症の可能性を判断していきます。
血液検査
先端巨大症の診断には、血液検査が欠かせません。
検査項目 | 概要 |
成長ホルモン(GH) | 基礎値と糖負荷後の抑制の程度を評価 |
インスリン様成長因子-1(IGF-1) | GHの作用を反映するマーカー |
これらの検査で、GHの分泌が多すぎるかどうかや、IGF-1の値が高いかどうかを確かめます。
画像検査
先端巨大症の原因となる下垂体腺腫を調べるには、画像検査を行います。
検査方法 | 概要 |
MRI | 下垂体腺腫の位置や大きさを詳細に評価 |
CT | 腫瘍の石灰化や周囲組織への影響を評価 |
その他の検査
先端巨大症では、合併症があるかどうかを調べることも大切です。高血圧や糖尿病、睡眠時無呼吸症候群などがないかを確認するため、いくつかの検査が行われるがあります。
- 血圧を測る
- 糖負荷試験やHbA1cを測定する
- 睡眠ポリグラフ検査をする
先端巨大症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の治療方法と治療薬
先端巨大症の治療は、体の中で多すぎる成長ホルモンを減らし、症状をやわらげることが目的です。 手術や薬を使った治療など、いくつかの選択肢があり、それぞれの患者さんに合わせて、治療法が選ばれます。
治療の基本方針
先端巨大症の治療では、成長ホルモンとIGF-1という物質を正常な量に戻し、腫瘍が周りを圧迫している状態を取り除くことを目指します。
多くの場合、まず手術が行われますが、薬や放射線治療を組み合わせることも。
外科的治療
先端巨大症の治療で中心となるのは、下垂体腺腫という腫瘍を手術で取り除くことです。 鼻の穴から蝶形骨洞という場所を通って腫瘍に到達し、摘出する方法が用いられ、脳神経外科医によって行われます。
手術方法 | 特徴 |
経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術 | 鼻腔から蝶形骨洞を経由して腫瘍を摘出する方法。侵襲性が低く、回復が早い |
開頭術 | 頭蓋骨を開けて腫瘍を摘出する方法。大きな腫瘍や周囲組織への浸潤があるときに選択 |
薬物療法
手術だけでは十分な効果が得られなかったり、手術が難しい場合は、薬を使った治療になります。
主な治療薬
- ソマトスタチンアナログ:オクトレオチド、ランレオチドなど。成長ホルモンの分泌を抑制。
- GH受容体拮抗薬:ペグビソマントなど。成長ホルモンの作用を阻害。
- ドパミン作動薬:カベルゴリン、ブロモクリプチンなど。成長ホルモンの分泌を抑制。
これらの薬は、単独で使われることもあれば、手術の補助的な治療として用いられることもあります。
放射線療法
手術や薬物療法で十分な効果が得られないケースでは、腫瘍を小さくしたり、成長ホルモンの分泌を抑えたりするために、放射線治療が選択されることがあります。
定位放射線照射や分割外照射などの技術を用いて、周りの正常な組織へのダメージを最小限に抑えつつ、腫瘍に高い線量の放射線を照射。
放射線療法の種類 | 特徴 |
定位放射線照射 | 腫瘍に対して高精度に放射線を集中照射する方法で、単回または分割で行う |
分割外照射 | 数週間にわたって分割して放射線を照射する方法で、腫瘍の縮小効果が期待 |
先端巨大症(下垂体性成長ホルモン分泌亢進症)の治療期間と予後
先端巨大症の治療期間は、患者さんの状態や治療法によって違いがあり、早期発見と治療を行うことが、良い予後を得るためのポイントとなります。
治療期間の目安
先端巨大症の治療期間に関係してくる要因
- 腫瘍の大きさと広がり方
- 選んだ治療法(手術、薬物療法、放射線療法など)
- 治療への反応の良し悪し
- 合併症の有無とその重症度
外科手術で腫瘍を完全に取り除けると、比較的短い期間で治療が終了しますが、薬物療法や放射線療法を選んだ場合は、長期間の治療が必要になることが多いです。
治療法 | 治療期間の目安 |
外科手術 | 数週間〜数ヶ月 |
薬物療法 | 数ヶ月〜数年 |
放射線療法 | 数ヶ月〜数年 |
長期的な経過観察の必要性
先端巨大症の治療後も、定期的な経過観察が必要で、再発や合併症の有無を確認し、必要な場合は追加の治療を行います。
フォローアップ項目 | 目的 |
ホルモン値の測定 | 治療効果の判定と再発の早期発見 |
画像検査(MRIなど) | 腫瘍の再発や残存の有無を確認 |
合併症のスクリーニング | 糖尿病、高血圧、心血管疾患などの管理 |
薬の副作用や治療のデメリット
先端巨大症の治療法には、外科手術、薬物療法、放射線療法などがありますが、それぞれに副作用やデメリットがあります。 ここでは、各治療法の注意点について分かりやすく説明してみましょう。
外科手術の副作用とデメリット
下垂体腫瘍を取り除く手術は、合併症のリスクがあります。 手術後、一時的に尿の量が増えたり、脱水症状が出たりする尿崩症や、髄液が鼻から漏れる髄液漏が起こる可能性も。
まれに、視野が狭くなったり、下垂体ホルモンの分泌が低下したりする永続的な合併症が残ることもあります。
合併症 | 概要 |
尿崩症 | 抗利尿ホルモンの分泌低下により、多尿と脱水を引き起こす |
髄液漏 | 髄液が鼻腔から漏出し、髄膜炎などの感染症リスクが高まる |
薬物療法の副作用とデメリット
ソマトスタチンアナログやドパミン作動薬などの薬は、成長ホルモンの分泌を抑えますが、副作用に注意が必要です。
- 胆石症
- 耐糖能異常
- 注射した部分の痛みや硬い腫れ
- 吐き気や下痢などの消化器症状
副作用は、薬の種類や量、個人差によって現れ方や重症度が異なり、定期的な検査が欠かせません。
放射線療法の副作用とデメリット
定位放射線療法は、腫瘍に高い線量の放射線を当てる治療法ですが、周りの正常な組織にダメージを与える恐れがあります。 放射線による脳障害や視神経障害などの合併症が起こることがあり、長期的な経過観察が必要です。
合併症 | 発症時期 |
脳障害 | 数ヶ月〜数年後 |
視神経障害 | 数ヶ月〜数年後 |
保険適用の有無と治療費の目安について
先端巨大症の治療には、保険適用される薬剤や治療法があります。
先端巨大症の治療に保険適用される薬剤
保険適用になる薬剤
薬剤名 | 効果 | 月額費用目安 |
オクトレオチド | 成長ホルモンの分泌を抑制 | 約20万円 |
ランレオチド | 成長ホルモンの分泌を抑制 | 約30万円 |
ペグビソマント | 成長ホルモンの作用を阻害 | 約50万円 |
手術療法の保険適用と費用
先端巨大症の原因である下垂体腺腫に対しては、手術療法が第一選択となります。手術療法は保険適用です。
・経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術:約100万円
・開頭による下垂体腺腫摘出術:約150万円
ただし、合併症の有無や入院期間などによって、費用が変動する可能性があります。
放射線療法の保険適用と費用
放射線療法の一般的な費用
放射線療法の種類 | 効果 | 費用目安 |
定位放射線治療 | 腫瘍に集中して放射線を照射 | 約200万円 |
サイバーナイフ | 腫瘍に高精度で放射線を照射 | 約300万円 |
治療費助成制度について
先端巨大症の治療費は高額になるため、助成制度が利用できます。
・高額療養費制度:月々の医療費が一定額を超えた場合、超過分が支給される制度です。
・難病医療費助成制度:先端巨大症は指定難病に認定されており、申請により医療費の助成を受けられる場合があります。
なお、上に記載した治療費より高くなることもございますので、予めご了承ください。
また、保険適用の可否は診察時に担当医師に直接ご質問ください。
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