ご自宅での療養生活において、訪問看護は医療的なケアやサポートを提供する心強い存在ですが、公的保険のルールでは利用時間やサービス内容に限りがあり、望むケアを十分に受けられないケースも少なくありません。
そのような場合に選択肢となるのが、保険適用外となる自費の訪問看護サービスです。
この記事では、自費の訪問看護とは何か、保険サービスとどう違うのかという基本的な部分から、具体的なサービス内容、料金の相場、そして利用する際の注意点までを詳しく解説します。
そもそも訪問看護とは?保険適用の基本
自費の訪問看護を理解する前に、まずは基本となる保険適用の訪問看護について知っておくことが大切です。
訪問看護の役割と目的
訪問看護とは、病気や障がいを抱えながらご自宅で生活する方のもとへ看護師などの医療専門職が訪問し、主治医の指示に基づいて療養上のケアや診療の補助を行うサービスです。
目的は、利用者の病状の安定や悪化の防止、そして住み慣れた地域で安心してその人らしい生活を送れるように支援することにあります。
身体的なケアだけでなく、精神的なサポートや、ご家族への介護指導なども含め、総合的に在宅療養を支える役割を担います。
利用できる公的保険の種類
訪問看護を利用する際に使える公的保険には、大きく分けて医療保険と介護保険の2種類があり、どちらの保険を適用するかは、利用者の年齢や病状によって決まります。
原則として、65歳以上で要支援・要介護認定を受けている方は介護保険が優先されます。40歳から64歳の方でも、末期がんや関節リウマチなど16種類の特定疾病に該当し、要介護認定を受けていれば介護保険の対象です。
それ以外の方や、厚生労働大臣が定める疾病等に該当する方、急性増悪期の方などは医療保険を利用します。
医療保険と介護保険の主な違い
項目 | 医療保険 | 介護保険 |
---|---|---|
対象者 | 乳幼児から高齢者まで全年齢 (介護保険対象者を除く) | 65歳以上で要支援・要介護認定を受けた方など |
利用限度 | 通常は週3回まで(病状により変動) | ケアプランに基づいた支給限度額の範囲内 |
指示書 | 主治医からの訪問看護指示書が必要 | ケアマネジャーが作成するケアプランが必要 |
保険適用で受けられるサービス内容
保険適用の訪問看護で提供するサービスは、法律や制度に基づいて定められていています。
血圧や体温測定などの健康状態の観察、カテーテルの管理や褥瘡の処置といった医療的ケア、身体を拭いたり入浴を介助したりする清潔ケア、そして療養生活に関する相談や指導などが中心です。
保険適用の範囲と限界
公的保険による訪問看護は、利用できる回数や時間に制限があり、医療保険の場合原則として週3回まで、1回あたりの滞在時間は30分から90分程度が一般的です。
介護保険の場合は、ケアプラン全体の支給限度額の中で時間を調整しますが、無制限に利用できるわけではありません。
また、サービス内容も直接的な医療・看護ケアに限定され、家事代行や散歩の付き添いといった療養生活の周辺に関わる支援は対象外となります。保険制度の枠では満たせないニーズに応えるのが、自費サービスの役割です。
訪問看護の自費サービスとは?保険サービスとの違い
保険適用の訪問看護が持つ制約を超える選択肢として、自費の訪問看護サービスがあり、公的保険を使わずに全額自己負担で利用するオーダーメイドのサービスです。
自費訪問看護の定義
自費訪問看護とは、医療保険や介護保険といった公的保険制度の枠外で提供する、全額自己負担の訪問看護サービスです。
保険のルールに縛られないため、利用回数、時間、サービス内容を、利用者や家族の希望に応じて自由に設定できます。契約に基づいて提供するサービスであり、いわば看護の専門家によるプライベートサービスです。
保険サービスとの根本的な違い
保険サービスと自費サービスの最も根本的な違いは、根拠となるルールです。
保険サービスは、国が定めた法律や報酬体系に基づいて提供するため、公平性を保つために全国一律の基準が設けられていて、自費サービスは、利用者と訪問看護ステーションとの間の個別契約に基づいて提供します。
保険サービスと自費サービスの比較
項目 | 保険適用サービス | 自費サービス |
---|---|---|
根拠 | 医療保険法・介護保険法 | 利用者との個別契約 |
費用負担 | 原則1~3割の自己負担 | 10割(全額)自己負担 |
利用制限 | 回数・時間に制限あり | 制限なし(契約内容による) |
サービス内容 | 医療・看護ケアが中心 | 医療・看護ケアから生活支援まで幅広い |
費用の違いと負担割合
費用面でも大きな違いがあり、保険サービスでは、かかった費用のうち原則1割から3割を利用者が自己負担し、残りは公的保険から支払います。
自費サービスは公的保険を使わないため、かかった費用の全額を利用者が負担します。
利用の自由度と柔軟性
自費サービスの最大のメリットは、高い自由度と柔軟性です。
保険サービスでは対応できない長時間の見守りや、夜間の急な対応、旅行や外出への付き添い、趣味活動のサポートなど、利用者のQOL(生活の質)向上に直結するような個別性の高い要望に応えられます。
保険のルールではできないことを可能にする、それが自費サービスの大きな魅力です。
自費の訪問看護が利用されるケース
では、実際にどのような場面で自費の訪問看護が選ばれるのでしょうか。保険の枠内では満たせない、さまざまなニーズがあり、ここでは、自費サービスが特に有効活用される具体的なケースをいくつか紹介します。
保険の利用限度を超えてサービスを受けたい
最も多いケースが、保険で定められた利用限度を超えて、さらに訪問看護を受けたいという場合です。
医療保険で週3回の訪問を受けているが、家族の負担軽減のためにもう少し回数を増やしたい、あるいは介護保険の支給限度額を使い切ってしまったが、引き続き看護師によるケアが必要といった状況です。
長時間の滞在や見守りが必要
ご家族が日中仕事で不在にする間、一人で過ごすのが不安な方や夜間の容態変化が心配な方など、長時間の見守りが必要なケースがあります。
保険の訪問看護は通常1回90分以内と短時間ですが、自費サービスであれば数時間単位での長時間の滞在や、夜間の付き添いといった対応が可能です。
自費サービスが選ばれる主な状況
- 退院直後で心身ともに不安定な時期の集中ケア
- 看取り期における、本人と家族に寄り添う手厚いケア
- 医療的ケア児のきょうだいのケアや親の休息時間の確保
- 家族が冠婚葬祭などで一時的に家を空ける際のケア
外出や旅行への付き添い
病気や障がいがあっても思い出の場所へ旅行に行きたい、友人の結婚式に出席したいといった希望を持つ方は多くいますが、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが必要な場合、ご家族だけでの外出は困難です。
自費の訪問看護では看護師が外出や旅行に付き添い、移動中の健康管理や必要な医療処置を行います。
外出付き添いサービス
目的 | 付き添い内容の例 |
---|---|
通院 | 病院への送迎、診察の待ち時間や院内での介助、医師への状況説明の補助。 |
買い物・散歩 | 近所のスーパーへの付き添い、公園での散歩、気晴らしの外出サポート。 |
イベント参加 | 冠婚葬祭、趣味の会、コンサートなどへの同行と会場でのケア。 |
特定の専門的なケアを希望する場合
リハビリを専門とする看護師による集中的な機能訓練や、緩和ケアの認定看護師による痛みのコントロール、アロマセラピーやフットケアといった、保険診療では認められていないような特定のケアを希望する場合にも自費サービスが活用されます。
より専門性の高い、個別化されたケアを受けたいというニーズに応えられます。
自費の訪問看護で受けられるサービス内容
自費の訪問看護では保険の制約がないため、幅広いサービスを提供することが可能です。療養生活をより豊かで安心なものにするための、様々なサポートがあります。
療養生活の質を高めるための支援
保険サービスが生命維持や病状管理に必要なケアが中心であるのに対し、自費サービスでは利用者のQOL(生活の質)向上に焦点を当てた支援が可能です。
例えば、趣味であるガーデニングや料理の補助、好きな音楽を聴きながらのリラクゼーション、ペットの世話の手伝いなど、その人らしい生活を送るためのサポートを行います。
単なる身の回りの世話に留まらない、心の豊かさにつながるケアを提供します。
医療的ケアの範囲
保険サービスと同様の医療的ケアも提供し、健康状態のチェック、服薬管理、インスリン注射、褥瘡の処置、カテーテル管理、在宅酸素療法、人工呼吸器の管理など、主治医の指示に基づいた専門的な医療処置を行います。
自費サービスではケアをより時間をかけて行ったり、ご家族への指導をじっくり行ったりすることが可能です。
自費サービスで提供可能なケアの分類
ケアの分類 | サービス内容の具体例 |
---|---|
日常生活のケア | 長時間の入浴介助、洗髪、整容、食事介助、排泄ケア |
医療的ケア | 服薬管理、点滴管理、褥瘡処置、痰の吸引、人工呼吸器管理 |
生活・社会参加支援 | 外出・旅行付き添い、買い物代行、趣味活動の支援、通院介助 |
家族支援 | 介護相談、介護指導、休息のための見守り(レスパイトケア) |
家族へのサポート
在宅療養は、ご家族の協力なしには成り立ちませんが、介護にあたるご家族の負担は心身ともに大きいものです。自費の訪問看護では、ご家族の介護負担を軽減するためのサポートも重要な役割になります。
看護師が長時間利用者のケアを代わることで、ご家族が休息を取ったり自分の時間を持ったりでき、また、日々の介護に関する悩みを聞いたり、介護技術の指導を行ったりすることも可能です。
保険サービスとの組み合わせ
自費サービスは、保険サービスと組み合わせて利用することで、価値を最大限に発揮します。
例えば、平日は保険の訪問看護を利用し、ご家族が不在になる週末だけ自費で長時間の訪問を依頼する、あるいは、基本的なケアは保険で行い、月に一度の通院付き添いだけを自費で利用するといった柔軟な使い方ができます。
自費訪問看護の料金体系と料金相場
自費の訪問看護を利用する上で、最も気になるのが料金でしょう。全額自己負担となるため、事前に料金体系と相場を把握しておくことがとても重要です。
料金設定の基本的な考え方
自費訪問看護の料金は、各訪問看護ステーションが独自に設定しているため、料金は事業所によって異なります。多くの場合、看護師やその他の専門職がサービスを提供する時間に応じて料金が設定される、時間単位制が採用されています。
基本料金に加えて、早朝・夜間・深夜などの時間帯による割増料金や、交通費、特殊なケアに対するオプション料金などが加算されることもあります。
一般的な料金体系の内訳
料金項目 | 内容 |
---|---|
基本料金 | 看護師などが1時間あたりに提供するサービスの料金。 |
時間外割増料金 | 早朝、夜間、深夜、土日祝日などに適用する割増料金。 |
交通費 | 事業所から利用者宅までの移動にかかる実費または規定料金。 |
オプション料金 | 専門的なケアや特定のサービスに対する追加料金。 |
時間単位での料金相場
料金相場は地域や事業所によって幅がありますが、看護師による訪問の場合、1時間あたり8,000円から12,000円程度が相場とされています。2時間の訪問を依頼した場合、16,000円から24,000円程度が基本料金です。
これはあくまで目安であり、これより安い場合も高い場合もあります。利用を検討する際は、必ず複数の事業所の料金表を確認しましょう。
サービス内容別の料金表の例
事業所によっては時間単位だけでなく、特定のサービス内容ごとに料金を設定している場合があります。外出付き添いなどは移動時間や拘束時間も考慮して、パッケージ料金となっていることも多いです。
自費訪問看護 料金表(一例)
サービス内容 | 料金目安 | 備考 |
---|---|---|
基本訪問(看護師) | 10,000円/60分 | 以降30分ごとに5,000円追加など |
夜間・早朝割増 | 基本料金の25%増 | 午後6時~午前8時など |
通院付き添い | 20,000円~/2時間 | 交通費別途 |
自費訪問看護を利用する際の流れと注意点
自費の訪問看護サービスを利用したいと考えたとき、どのような手順で進めていけば良いのでしょうか。申し込みからサービス開始までの一般的な流れと、契約時に注意すべき点について解説します。
相談から契約までの流れ
まずは、利用を希望する訪問看護ステーションに電話やウェブサイトから問い合わせて、相談することから始まります。
その後、事業所の担当者(管理者や相談員など)が自宅を訪問し、利用者の心身の状態や、どのようなサービスを希望するのかを詳しく聞き取ります。面談内容をもとに、事業所が具体的なサービスプランと見積書を作成し、提示します。
内容に納得できれば、契約手続きに進みます。契約書の内容を十分に確認し、署名・捺印を交わして契約が成立すると、サービス開始です。
サービス開始までの一般的な手順
- 問い合わせ・相談: 電話やウェブサイトで事業所に連絡する。
- 事前面談: 事業所の担当者が自宅を訪問し、状況や希望をヒアリングする。
- プラン・見積もりの提示: 利用者に合ったサービス計画と料金が提示される。
- 契約: サービス内容、料金、利用規約などを確認し、契約を締結する。
- サービス開始: 契約内容に基づき、訪問看護サービスがスタートする。
契約書で確認すべき重要事項
契約書は提供されるサービス内容や料金、事業所と利用者の間のルールを定めた非常に重要な書類です。後々のトラブルを避けるためにも、以下の点は特に注意深く確認してください。
契約時のチェックリスト
- サービス提供者の資格(看護師、准看護師など)
- 具体的なサービス内容と提供時間・頻度
- 料金の総額と内訳(基本料金、割増料金、交通費、消費税など)
- 緊急時の連絡方法と対応体制
- キャンセル料の規定
- 個人情報の取り扱い
- 契約の更新・解約に関する条件
主治医との連携の重要性
自費の訪問看護であっても利用者に医療的ケアを行う場合は、必ず主治医の指示が必要です。安全なサービス提供のためには、訪問看護ステーションと主治医が利用者の情報を共有し、緊密に連携を取ることが欠かせません。
利用を開始するにあたり、訪問看護ステーションから主治医へ情報提供を求めたり、指示書の発行を依頼することがあります。連携がスムーズに行えるよう、事前に主治医にも自費サービスを利用する旨を伝えておくと良いでしょう。
よくある質問
最後に、自費の訪問看護に関して多くの方が抱く疑問や不安について、Q&A形式でお答えします。サービス利用を検討する上での参考にしてください。
- 自費の訪問看護に主治医の指示書は必要ですか
-
散歩の付き添いや見守り、家事援助といった医療行為を含まない生活支援サービスのみを利用する場合は、必ずしも指示書は必要ありません。
しかし、痰の吸引や褥瘡の処置、服薬管理といった医療的ケアを含むサービスを利用する場合は、安全を確保するために主治医の指示書が必要です。
- 急な依頼にも対応してもらえますか
-
多くの事業所では、定期的な利用だけでなく、急な発熱や家族の都合などによる単発の依頼にも応じられる体制を整えようと努めていますが、緊急対応には追加料金がかかることがあります。
いざという時のために、利用を検討している事業所の緊急時対応について、あらかじめ確認しておくと安心です。
- 介護士による自費サービスとの違いは何ですか
-
最も大きな違いは、医療的ケアが提供できるかどうかです。
介護士(ホームヘルパー)も自費で長時間の見守りや家事援助、身体介護を提供できますが、法律上、痰の吸引や経管栄養などの医療行為は行えません(特定の研修を受けた介護職員は一部可能)。
訪問看護師は医療的ケアを全て実施できるので、病状が不安定な方や、日常的に医療処置が必要な方の場合は、看護師による自費サービスの方がより安心です。
- 良い訪問看護ステーションの選び方を教えてください
-
まず、料金体系が明確で、サービス内容について丁寧に説明してくれることが基本です。その上で、利用者の希望や価値観を尊重し、柔軟な対応を考えてくれるかどうかも調べましょう。
また、スタッフの経験や人柄、事業所の雰囲気も重要なので、事前面談の際にしっかりと確認してください。地域での評判や、ケアマネジャーなどの専門家からの情報を参考にするのも良い方法です。
以上
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