多指症(多趾症)

多指症(多趾症)(Polydactyly)とは、生まれながらにして手や足に正常な数以上の指がある先天性の異常です。過剰な指は、完全な指の形をしているものから、小さなイボのようにわずかに突出しているものなど様々なタイプがあります。

手足の生まれつきの異常の中では最も頻度が多く、手では母指に多く、足では小指に多く見られます。

見た目の問題から早期に分離を希望されるご両親もいらっしゃいますが、手術は基本的に全身麻酔で行いますので、1歳前後~2歳ごろに行う場合がほとんどです。

この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

多指症(多趾症)の病型

手足の指が通常よりも多い多指症(多趾症)は、生まれつきの形態異常の一つであり、その病型は多岐にわたります。

橈側多指症(radial polydactyly)以前は軸前性多指症といわれていました。橈側多指症には母指(親指)が含まれ、最も一般的な手指多指症です。WasselによりI型からVII型までの7つの亜型に分類されます。
尺側多指症(ulnar polydactyly) 小指が含まれるタイプの多指症です。TemtalyとMckusickによりタイプAとBに分類されます。
中心性多指症(central polydactyly)人差し指、中指、薬指を含む多指症です。合指症や裂手を合併するケースがあります。
脛骨多趾症(tibial polydactyly)下肢の多趾症はSwansonにより分類され、母趾が含まれる場合は脛骨多趾症と呼ばれます。
腓骨多趾症(fibular polydactyly)小趾に多趾症が及ぶ場合は、腓骨多趾症と呼ばれます。
中心性多趾症(central polydactyly)中央の3趾が侵される場合は、中心性多趾症と呼ばれます。

多指症(多趾症)の症状

多指症は、指の数が通常より多い状態を指します。症状は非常に軽度のものから、治療が複雑なものまでさまざまです。

手足の指の数が多い

通常、ヒトは各手足に5本の指がありますが、多指症の場合はこれよりも多くの指があります。

多い指が完全に機能する場合と、骨や筋肉が完全に発達していないために機能しない場合に分かれます。機能しない指がある場合は、物を握る力や歩行に影響が出やすくなります。

位置

指の形状や位置は人によって大きく異なり、手の場合は小指側や親指側に生じる「外側多指症」が多いです。

足の場合は小趾側や大趾側に生じるケースが多いものの、中央の指の間に生じる「中央多指症」もあります。

外見上の問題

通常と異なる手足の外見により他の子供たちや大人からの注目を集めやすいため、ストレスや不安を抱えるご両親も多くなります。

必ずしも切除しなければならないわけではありませんが、手術で切除する選択をされるご家族が多いです。

多指症(多趾症)の原因

多指症(:Polydactyly)は、多数を意味するポリ(poly)と、数字を意味するダクティロス(dactylos)から構成されています。

手足の先天異常のなかでは一般的な疾患であり、単独で発症する場合(非症候群性多指症)と、症候群の一部として他の先天異常と関連して発症する場合(症候群性多指症)があります。

多指症の原因には様々な要因が関与しており、遺伝的要因や環境要因が複雑に絡み合っていると考えられていますが、はっきりとした原因は現在のところ不明です。

遺伝的要因

遺伝子の変異が原因で、家族内で類似の症状が見られる可能性があり、常染色体優性遺伝と常染色体劣性遺伝の2つの遺伝パターンが関与すると考えられています。

多指症は自己優性遺伝の場合が多く、一方の親が症状を持っている場合、子に症状が現れる確率は約50%になります。しかし、新たな突然変異によって発生するケースもあります。

  • 常染色体優性遺伝:親の一方が多指症の遺伝子を持っている場合、子どもに症状が表れる確率が高くなります。
  • 常染色体劣性遺伝:両親ともに特定の遺伝子の変異を持つ場合、子どもに症状が表れる可能性があります。

高度な分子技術により、関連するGLI3、ソニックヘッジホッグ遺伝子(SHH)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、ホメオボックスタンパク質アリスタレス様4(ALX4)、ホメオボックスD(5′-HoxD)、ZNF141、MIPOL1、IQCE、PITX1など、多指症の発症に関与する複数の遺伝子座が同定されています。

環境因子とその影響

妊娠中の環境も多指症の発生に影響を与える可能性があります。

多指症の発症には2つの説があり、一つは胎児期の四肢発生におけるプログラムされた細胞死の障害です(もう一つは遺伝子変異です)。

  • 母親の妊娠中の薬物使用:特定の薬剤や違法薬物の使用が胎児の四肢発達に影響を及ぼす可能性があります。(例:抗てんかん薬、ビタミンA誘導体)
  • 放射線:妊娠初期に放射線にさらされると、胎児の正常な発達が妨げられるおそれがあります。
  • 栄養不足:妊娠中の栄養不足が胎児の発達に悪影響を与える場合もあります。

妊娠中の薬剤使用や栄養不足、他の環境的ストレスなどが胎児の発達に影響を与え、多指症を引き起こす可能性がありますが、これは非常にまれです。

原因は解明されておらず、多くの場合、多指症の原因は明確ではありません。

多指症(多趾症)の検査・チェック方法

多指症(多趾症)の診断には、視覚的検査や画像診断、遺伝学的検査、機能評価などが用いられます。

検査方法説明
視覚的検査手足の形状や位置を評価する。
画像診断超音波、X線、MRI、CTスキャンを使用して骨格構造や関節の形成を確認する。
遺伝学的検査遺伝子の変異を調べ、症状の原因や家族内リスクを評価する。
機能評価手足の動きの範囲、握力、歩行能力を評価する。

妊娠中の検査

妊娠9~10週くらいから、超音波検査で指の要素を確認できるようになります。この時期に多指症が発見されたら、さらなるスクリーニングのための評価が必要です。

特にトリソミー13、メッケル-グルーバー症候群、ダイヤモンド-ブラックファン貧血、ファンコニー貧血などの疾患を同定するために、心臓、腎臓、神経系、四肢の徹底的な超音波評価を行う必要があります。

孤発性多指症の診断のためには、妊娠17週から34週の間に経過観察の超音波検査を行うべきです。

視覚的検査

視覚的検査では、余分な指や趾の存在、形状、位置、動きの範囲を評価します。また、関節の異常や他の形態学的特徴も同時に評価されます。

画像診断

X線撮影により、余分な指や趾の骨格構造、関節の形成、およびそれらが周囲の組織や骨とどのように結びついているかを調べます。

場合によっては、より詳細な情報を得るためにMRIやCTスキャンが推奨されます。

余指・余趾の正確な解剖学的構造を確認し、どのような手術が必要かを検討していきます。

機能評価

余分な指や趾が日常生活や活動にどのような影響を及ぼしているかを調べるために、機能評価が行われる場合もあります。

手足の動きの範囲、握力、歩行分析などが含まれます。

多指症(多趾症)の治療方法

多指症(多趾症)の手術では、余分な指の分離を行います。手術を行う時期は満1歳以降が一般的で、全身麻酔下で行われることが多く、その場合は入院が必要です。

※比較的単純な手術の場合は、生後6ヶ月で行う場合もあります。

手指多指症の治療

多指症の指の重複の程度は様々です。小さな皮膚が余剰に親指の横に付着しているだけのものから、複数ある親指に骨や腱が見られるものまであります。

軽症の場合は余分な指の付け根を縛って血流を遮断し、指を脱落させて治療できます。一方、病型がより複雑な場合は骨、靭帯、腱の再建を含む手術となります。

単純に余分な指を切除するだけで良いわけではなく、切除する側の母指に付いている重要な筋肉や腱などを、残す母指の適切な位置に移動させることが非常に大切です。

術後に変形や機能障害が起こるリスクを下げるためには、経験豊富な医師による手術が不可欠です。

多趾症(足指)の治療

足の多趾症の手術は、発育および歩行への影響を最小限に抑えるため、1歳ごろに行います。

多趾症の管理は一見簡単そうに見えますが、その形態が多岐にわたるため、手術前および手術中の矯正には慎重な配慮が必要です。

脛骨・腓骨多指症の内側指と外側指は通常切除され、脛骨多指症の場合は外反母趾を最小限に抑えるように注意しなければなりません。

足の中心性多指症はまれな疾患であるため治療法についてあまり症例が多くはありませんが、ほとんどの症例では、ラケット状の切開で余剰指を切除できます。

多指症(多趾症)の治療期間と予後

多指症の治療期間は、手術の複雑さや対象となる指(趾)の数、健康状態などによって変動します。

手術自体は数時間で完了するのが一般的ですが、入院期間は手術の規模や回復状況に応じて数日から数週間となる場合もあります。

治療方法治療期間予後の見通し
単純な除去手術数日〜数週間良好
複雑な手術(骨や腱の調整含む)数週間〜数か月多くの場合良好、リハビリが必要
再建手術数か月個人差が大きい、長期のリハビリが必要

治療期間の目安

単純な手術の場合は入院期間も短く、数日から数週間で治療が可能です。

骨や腱の調整を含む複雑な手術や再建手術を受けた場合、回復までに数週間~数か月かかるのが一般的で、術後のリハビリテーションが重要となります。

予後と回復過程

手術によって指の数を正常化することで、手足の機能の改善や見た目の向上が期待できます。

しかし、手術の種類や個人の体質によっては瘢痕が残る場合もあります。また、稀に機能的な問題が手術後に生じるケースが見られますが、追加の治療やリハビリテーションによって改善可能です。

孤立性多指症の子どもの予後は良好で、ほとんどの小児は手術後、指や趾を完全に動かせます。

多指症が症候群の一部として認められる場合は、多指症の影響よりもむしろ他の先天異常の存在によって予後が不良となるおそれがあります。

治療の副作用やデメリットについて

多指症(多趾症)の治療には手術が有効な一方、副作用やリスクに注意する必要があります。

手術療法のリスク
  • 感染のリスク
  • 血行不良
  • 神経損傷
  • 関節の可動性低下
  • 有痛性神経腫
  • 傷跡

感染のリスク

手術後の傷口は感染しやすく、適切なケアが必要です。医師の指示に従い、患部を清潔に保ちましょう。

血流不良

手術により血流が悪化し、治癒過程を遅らせる場合があります。

神経損傷

手術中に神経が損傷すると、感覚喪失や痛みが生じる危険性があります。

関節の可動性低下

手術後に拘縮や靱帯の弛緩などにより、関節の可動範囲が制限される可能性があります。

手術後のリハビリテーションで関節の可動性を可能な限り保持すると、回復を促進できます。

有痛性神経腫

結紮術を行った際に、余剰指の神経が皮膚レベルで切断され、軟部組織内に引っ込めなくなるために生じます。

傷跡・ひきつり

多指症の手術後の例傷跡はほとんど目立たない場合が多いですが、まれに傷跡が残る場合もあります。

また、通常は将来的にひきつれ(瘢痕萎縮)が残らないように手術が行われますが、成長に伴って、まれにひきつれによる指の伸ばしづらさが起こることがあるほか、爪の変形が生じる場合もあります。

保険適用の有無と治療費の目安について

多指症(多趾症)の治療で切除手術や再建手術を受ける場合、基本的には公的医療保険が適用されるため、自己負担額は治療費の1割から3割です。

ただし、手術は低年齢(1歳~2歳ごろ)で行われるケースが多く、子どもの医療費は市区町村の補助により自己負担額は0円~数百円の場合が多いです。

保険適用外の費用について

入院時の差額ベット代(個室利用、2人~4人部屋利用など)や食事代などについては、料金がかかります。

(大部屋の場合は差額ベット代はかかりません)

また、リハビリテーションにおいて特定の装具や靴を用いる際は保険が適用されず、全額自己負担となる場合があります。

治療費について詳しくは担当医や各医療機関で直接ご確認ください。

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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