強剛母指

強剛母指(きょうごうぼし)(Pollex rigidus)とは、乳児の頃から母指(親指)の第1関節が曲がったままで伸びない状態を指します。

親指の付け根の部分にしこりが触れる場合がありますが、押しても痛みを伴いません。

原因ははっきりとは分かっていませんが、親指を曲げる腱が靱帯性腱鞘の出口で膨らんで太くなり、靭帯性腱鞘の中に入らなくなるといった病態が考えられています。

当記事では、強剛母指の症状や治療法などを詳しく解説します。

この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

強剛母指の症状

強剛母指は、6歳以下のお子さんの症状に家族が気づき、病院を受診されるケースがほとんどです。

お子さんの親指がいつも曲がっている、伸ばそうとしても上手く伸ばせないなどの症状を訴える例が多くみられます。

症状説明
動きの制限親指の関節が硬くなり動かしにくい
痛み親指の関節に痛みを感じる
腫れや変形親指が腫れたり形が変わったりする
力の低下物をつかむ力が弱まる

動きの制限

強剛母指の最も一般的な症状は、親指関節の可動域の制限です。

具体的には、物をつかむ、書き物をする、ドアノブを回す動作などに影響を及ぼします。

親指の第1関節や基底関節※1に症状が分かりやすく現れ、指の曲げ伸ばしが困難になります。

※1 親指の基底関節:親指の手首に近い関節。

痛み

強剛母指は痛みを伴うケースもあり、親指の関節にストレスや圧力がかかった際に痛みが強くなるのが一般的です。

具体的には、曲がった親指を伸ばす際に痛みを感じます。強剛母指の痛みのほとんどは、関節の内部の炎症や圧迫が原因です。

腫れや変形

強剛母指では、親指の関節が腫れたり、徐々に変形したりする可能性があります。

この腫れや変形は、関節や周囲の組織が長期間にわたってストレスを受け続けるのが原因です。

変形が進行すると親指の外観が変わり、機能的にもさらなる影響が出る可能性が考えられます。

力の低下

強剛母指は、親指の握力が低下する場合もあります。

親指に力が入らず物が上手くつかめない、物をよく落としてしまうなど、日常生活に支障をきたす例がみられます。

強剛母指の原因

強剛母指の原因は現時点ではっきり分かっていませんが、母親のお腹の中にいる頃から発症するとも言われています。

通常であれば、親指を曲げる際に動く腱は靭帯性腱鞘※2の間をスムーズに通ります。

※2 靭帯性腱鞘(じんたいせいけんしょう):指の内側にあり、腱を抑える役割をしている。トンネル状になっていて、腱鞘の中を腱が移動して指を曲げる動作が可能になる。

しかし、強剛母指では腱が肥大化し腱鞘の部分でひっかかっているため、親指が伸ばしにくくなっていると考えられています1)

また、腱鞘が厚くなり、腱鞘内のスペースが狭くなっているケースも考えられます。

強剛母指の検査・チェック方法

強剛母指の診断を行うために、一般的には親指の可動域のチェックや圧痛の確認を行います。

画像診断で親指の内部構造を詳しく調べるのも有効です。

ただし、強剛母指は対象が乳児である場合も多く、検査時に動いてしまって上手く画像が撮れないため画像検査はあまり行われません。

親指の可動域のチェック

親指を曲げたり伸ばしたりする動作の際に、痛みや動きの制限があるかどうかを確認します。

症状が似ていて強剛母指との鑑別が必要な疾患として、先天性握り母指症※3があります。

※3 先天性握り母指症:親指の第2関節である「MP関節」が曲がったままになる状態。

親指の第1関節へ他の人が力を加えて伸ばすのが困難かつ、親指の第2関節を自分で動かすのが可能であれば、強剛母指と診断できます。

一方、親指の第2関節を自力で伸ばせずに曲がったままの状態であれば、先天性握り母指症と考えられます。

圧痛の確認

医師が親指に軽く圧力を加え、痛みの有無をチェックします。

親指の根本にしこりがみられる例も多いですが、ほとんどの場合は痛がりません。

ただ、関節に痛みがある場合は、関節の炎症や損傷を伴っている可能性があります。

強剛母指の治療方法と治療薬、リハビリテーション

強剛母指の治療には、リハビリテーション、装具療法、手術療法があります。

治療法詳細
リハビリテーション手指のストレッチ、握力や手の機能の強化運動
装具療法母指伸展装具
手術療法腱鞘切開術

リハビリテーション

リハビリテーションでは、親指の関節の柔軟性を高めて可動域を広げるための手指ストレッチが行われます。手指ストレッチは自宅でも行えるもので、毎日の継続が重要です。

また、握力や手の機能の強化運動を実践していただきますが、これは理学療法士の指導のもとで行われるケースが多いです。

装具療法

装具療法では、手や指の大きさに合わせた伸展装具(親指を伸ばす装具)を作成して手に装着します。

ほとんどの場合、日中は使用せず夜間のみ装着となります。

装具療法による治療はすぐに治る訳ではありませんが、徐々に指の曲げ伸ばしができるようになっていきます。

手術療法

症状が進行しているケースやある程度大きくなってから(6歳以上で受診)では、装具療法やリハビリテーションでは完全な回復が困難な症例があり、手術療法が適応になります。

肥厚した腱鞘を切開して腱の引っかかりを解消する方法で、手術自体は難しいものではありませんが、全身麻酔や入院が必要になる例も多いです。

強剛母指の治療期間と予後について

強剛母指の治療期間は、患者さんの状態や治療方法によって異なり、軽度の症状であれば数週間~数カ月で軽快していきます。

状況治療期間の目安予後
軽度の症状数週間から数カ月良好
重度の症状数カ月から1年以上時に困難
早期発見・治療症状による通常良好

治療期間の目安

軽度の症例では、数週間から数ヶ月の治療で改善が見られます。

一方、重度の症状や長期間放置された状態では、数カ月から1年以上と長い期間が必要になるのが一般的です。

また、リハビリテーションは継続的な取り組みが大切で、手術療法は手術後の回復期間が必要になります。

予後

早期発見・治療の場合、手術をせず装具療法やリハビリテーションのみで良好な結果が期待できます。

重度の症状に適応のある手術は根本的治療になりますので、術後はすみやかに腱の引っ掛かりが解消されます。

治療のデメリットについて

強剛母指の治療にはリハビリテーションや装具療法などの方法があり、それぞれにデメリットがあります。

治療方法デメリット
リハビリテーション不適切な方法による症状の悪化リスク、時間と労力が必要
装具療法装着の煩わしさ、皮膚トラブル
手術療法感染、神経損傷、再発のリスク

リハビリテーションのデメリット

リハビリテーションは結果がでるまで医療機関に複数回通ったり、自宅でのトレーニングを継続したりする必要がある点がデメリットです。

また、自己判断のリハビリテーションは関節の過度な使用につながるケースがあり、効果が得られず腱や腱鞘を損傷してしまう可能性が考えられます。

症状を悪化させないためにも、医師や理学療法士の指導に従ってリハビリテーションを行うようにしましょう。

装具療法のデメリット

装具療法は、毎日装具を装着しなければならない煩わしさがあります。

また、装具が当たって痛い、触れるところで接触性皮膚炎※4を起こすなどの可能性もあります。

※4 接触性皮膚炎:いわゆる「かぶれ」を指し、特定の物質が皮膚に触れるため引き起こされる。発疹、かゆみ、痛みなどが症状として現れる。

特に、敏感肌やアトピー肌のお子さんは接触性皮膚炎に注意し、症状が現れたときは担当医に相談しましょう。

手術療法のデメリット

手術療法は、感染、神経損傷、術後の合併症が起きる可能性のある点がデメリットです。

術後の合併症としては、血栓症※5や傷の治りの悪さ、慢性痛などが考えられます。

※5 血栓症:血管内で血の塊が詰まってしまう状態。

また、可能性は低いものの、再発のリスクがある点もデメリットの一つです。

保険適用の有無と治療費の目安について

強剛母指の治療は、一般的に健康保険が適用されます。

1カ月あたりの治療費の目安

1カ月あたりの治療費の目安は、約10,000円から20,000円程度です。ただし、小児では、医療費が助成によって自己負担が無料になる自治体も多くあります。

小児医療費助成制度の詳細については、各自治体にご確認ください。

治療内容装具療法、手術療法など
1か月あたりの治療費の目安小児では、助成によって無料となるケースが多い

参考文献

1) 強剛母指/日本手外科学会

MASSIMI, S., et al. Management of high-grade hallux rigidus: a narrative review of the literature. Musculoskeletal Surgery, 2020, 104: 237-243.

GALOIS, Laurent, et al. Surgical options for hallux rigidus: state of the art and review of the literature. European Journal of Orthopaedic Surgery & Traumatology, 2020, 30: 57-65.

COLÒ, Gabriele, et al. The efficacy of shoe modifications and foot orthoses in treating patients with hallux rigidus: a comprehensive review of literature. Acta Bio Medica: Atenei Parmensis, 2020, 91.Suppl 14.

SENGA, Yoshiyuki, et al. Prevalence of and risk factors for hallux rigidus: a cross-sectional study in Japan. BMC musculoskeletal disorders, 2021, 22.1: 1-7.

ANDERSON, Michael R.; HO, Bryant S.; BAUMHAUER, Judith F. Republication of “current concepts review: hallux rigidus”. Foot & Ankle Orthopaedics, 2023, 8.3: 24730114231188123.

PHAM, Peter, et al. Intraobserver and Interobserver Reliability of Three Classification Systems for Hallux Rigidus. Journal of the American Podiatric Medical Association, 2020, 110.3.

SLULLITEL, Gastón, et al. Youngswick osteotomy for treatment of moderate hallux rigidus: thirteen years without arthrodesis. Foot and Ankle Surgery, 2020, 26.8: 890-894.

MURAWSKI, Christopher D.; ANDERSON, Robert B. Managing Hallux Rigidus in the Elite Athlete. Foot and Ankle Clinics, 2024.

LEE, Hee Young, et al. Multiplanar instability of the first tarsometatarsal joint in hallux valgus and hallux rigidus patients: a case–control study. International Orthopaedics, 2022, 46.2: 255-263.

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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