腰痛に悩む女性は男性より多く、その背景には生理・妊娠・更年期という女性固有のホルモン変動があります。エストロゲンやプロゲステロンは腰の靭帯・椎間板・骨の状態に直接影響するため、月経前後や妊娠中、閉経前後に腰痛が現れたり悪化したりすることは珍しくありません。
この記事では、女性特有の腰痛の原因を各ライフステージ別に整理し、整形外科での診察内容や日常で取り組めるセルフケアまで解説します。「なぜ生理前になると腰が重くなるのか」「妊娠中の腰痛の本当の原因は何か」「更年期に腰痛が増える理由」など、よくある疑問にも一つひとつ答えていきます。
この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)
日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師
2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。
生理(月経)が腰痛を引き起こすホルモンの仕組み
生理に伴う腰痛の主な原因は、プロゲステロン(黄体ホルモン)の働きと子宮収縮の2つです。月経周期に合わせて腰が重くなるのはこのためで、内臓由来の痛みが腰背部に広がる「放散痛(ほうさんつう)」という現象も深く関係しています。
生理前に腰が重くなるのはなぜ?
排卵後から生理前にかけての黄体期(おうたいき)は、プロゲステロンの分泌が高まる時期です。プロゲステロンは靭帯(じんたい)を軟化させる働きをもつため、骨盤周囲の関節が不安定になりやすく、腰に余分な負担がかかります。さらに骨盤内に水分が貯留しやすくなり、仙骨(せんこつ)まわりの重さや張りを感じやすくなります。
同じ時期にプロスタグランジン(炎症・収縮を促す物質)の産生も始まるため、生理が来る前から腰の重さを感じる方も少なくありません。「また来た」と感じるサイクルには、このホルモン変動が深く関わっています。
生理中の腰痛は子宮収縮が直接の引き金
生理が始まると子宮内膜が剥がれ落ち、それを押し出すために子宮が強く収縮します。この収縮刺激が周辺の脊椎・骨盤の神経を通じて腰部に伝わるのが「関連痛(かんれんつう)」と呼ばれる現象で、「子宮が痛んでいるのになぜか腰が痛い」という経験はここから来ています。
生理痛が重い月経困難症(げっけいこんなんしょう)では、プロスタグランジンが過剰に産生されて子宮収縮が強くなり、腰痛もそれに比例して強まる傾向があります。
月経周期ごとの腰への影響
| 時期 | 主なホルモン変化 | 腰への影響 |
|---|---|---|
| 卵胞期(生理直後〜排卵前) | エストロゲン上昇 | 比較的腰痛が少ない安定期 |
| 排卵日前後 | エストロゲン急増・LH上昇 | 骨盤周囲の軽い違和感が出ることも |
| 黄体期(排卵後〜生理前) | プロゲステロン上昇 | 靭帯弛緩により腰の重さ・だるさが増す |
| 月経期(生理中) | 両ホルモン低下・プロスタグランジン増加 | 子宮収縮による腰痛・関連痛が最も強くなる |
月経困難症と腰痛が重なると日常生活に大きな支障が出る
月経困難症(強い生理痛)のある方は、腰痛も通常より強く出やすいことが複数の調査で報告されています。背景に子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)や子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)などの婦人科疾患が潜んでいることもあります。
整形外科で腰痛の評価を行ったうえで、婦人科疾患が疑われる場合は産婦人科への紹介が行われます。生理のたびに強い腰痛が繰り返される場合や鎮痛剤でもコントロールしにくい場合は、両科への受診を検討してください。
女性の骨盤の構造が腰痛リスクを高める解剖学的な理由
女性の骨盤は妊娠・出産に適応するために横幅が広く、前傾(ぜんけい)しやすい形状をしています。この構造的な特徴が腰椎(ようつい=腰の背骨)への集中的な負担を生み出し、ホルモン変動がなくても男性より腰痛になりやすい骨格的な土台をつくっています。
骨盤の横幅が広いと腰への荷重が集中しやすい
骨盤の横幅が広いと、上半身の体重が腰椎の一点に集まりやすくなります。また、女性に多い骨盤の前傾(骨盤が前方に倒れた状態)は腰椎を過度に反らせ、椎間関節(ついかんかんせつ)への圧力を高めます。ハイヒールの常用や長時間の立ち仕事は骨盤の前傾をさらに助長するため、気づかないうちに腰へのダメージが蓄積されていきます。
仙腸関節が過剰に動くと腰から臀部にかけての痛みが生じやすい
仙腸関節(せんちょうかんせつ)は骨盤後面に左右1対あり、骨盤と背骨をつなぐ要(かなめ)となる関節です。女性ではホルモンの影響でこの関節が動きすぎることがあり、その不安定さが腰痛・臀部痛(でんぶつう)・下肢への放散痛として現れます。
生理前後・妊娠中・産後にこの症状が悪化しやすいのは、プロゲステロンやリラキシンが靭帯をゆるめるためです。仙腸関節由来の痛みは通常の腰痛と間違えられやすいことが多く、整形外科での丁寧な診察が欠かせません。
骨盤底筋群が弱まると腰椎を支える力が落ちて慢性痛につながる
骨盤の底面を支える骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)は、骨盤内臓器を吊り下げながら腰椎の安定にも貢献しています。産後や加齢によってこの筋群が弱まると、腹圧が下がって腰椎を支える力が不足し、慢性的な腰痛に発展することがあります。体幹トレーニングや骨盤底筋体操が腰痛予防に有効とされるのはこのためです。
男女の骨盤の特徴と腰痛リスクの比較
| 項目 | 女性 | 男性 |
|---|---|---|
| 骨盤の形状 | 横幅広・浅い・前傾しやすい | 縦長・深い・前傾は少ない |
| 靭帯の弛緩性 | ホルモンの影響を強く受ける | 相対的に安定している |
| 腰痛有病率 | 全年齢で男性より高め。閉経後に急増 | 更年期相当の年代では女性より低い |
妊娠中の腰痛|妊婦の7割以上が経験する腰・骨盤の痛みと原因
複数の国際的な研究から、妊婦の70〜80%以上が妊娠中に腰や骨盤周囲の痛みを経験することが明らかにされています。これは「お腹が重いから仕方ない」という話ではなく、リラキシン(弛緩ホルモン)による靭帯のゆるみと、子宮増大に伴う重心の変化という明確な生理的原因があります。
リラキシンが骨盤の靭帯をゆるめて腰痛・骨盤痛を引き起こす
妊娠初期から分泌が増えるリラキシンは、出産時に産道を広げるために骨盤の靭帯を意図的にゆるめるホルモンです。このゆるみは骨盤全体の安定性を低下させ、歩行や立ち座りといった日常動作でも腰・骨盤への余分な衝撃が伝わりやすくなります。
「妊娠したとたんに腰が重くなった」という方のほとんどは、このリラキシンの作用が原因です。妊娠早期の腰の違和感は体が新たな状態に適応しようとしているサインでもあります。
妊娠中期〜後期に加速する重心の変化と腰への反り
妊娠が進むにつれて子宮が大きくなり、体の重心が前方に移動します。それを補おうと腰椎の前弯(ぜんわん=腰の自然なS字の反り)が強まり、腰椎後方の椎間関節や椎間板への持続的な圧力が増します。
妊娠28週(7か月)以降に腰・骨盤の痛みが急に強くなると感じる方が多いのはこのためです。骨盤への血流変化も加わり、腰背部の重さや不快感がさらに増すことがあります。
妊娠時期別の腰・骨盤の変化と痛みの特徴
| 時期 | 主な体の変化 | 痛みの特徴 |
|---|---|---|
| 妊娠初期(〜13週) | リラキシン分泌開始・ホルモン急変 | 骨盤周囲のだるさ・軽い腰の違和感 |
| 妊娠中期(14〜27週) | 子宮増大・重心が前方に移動し始める | 腰椎の前弯増強による腰の張り・鈍痛 |
| 妊娠後期(28週〜) | 重心前方移動が最大・骨盤への圧力増大 | 腰・骨盤痛が最も強くなりやすい |
骨盤帯痛(PGP)と妊娠中の腰痛を区別することで対処法が変わる
骨盤帯痛(骨盤輪不安定症=PGP)は、妊娠中の腰痛とは別の症状として整理されています。腰椎周囲の腰痛(背中の中央から腰)が主体の腰痛に対し、PGPは恥骨結合・仙腸関節・臀部の痛みが中心で、歩行・寝返り・片脚立ちで悪化しやすい特徴があります。
両者が混在するケースも多いため、痛みが強くて日常生活に支障をきたすほどであれば産婦人科または整形外科を受診し、専門家に評価してもらうことが大切です。ベルト固定・姿勢指導・運動療法など、症状の種類に合った対処法を選ぶことが回復を早めます。
産後の腰痛が長引く女性が多い理由と回復のためのポイント
産後は骨盤のゆるみがすぐには元に戻らないうえ、授乳・育児という新たな身体的負担が加わります。筋力が回復しきれていない時期に無理を重ねると腰痛が慢性化しやすいため、産後の体の変化を正しく理解して早めにケアを始めることが大切です。
産後もしばらく骨盤のゆるみは続く
リラキシンの分泌は出産後もしばらく続くため、骨盤の靭帯が妊娠前と同じ安定性に戻るには時間がかかります。産後1〜4週が骨盤の最も不安定な時期で、この時期に過度な家事や長時間の立ち仕事を続けると、骨盤と腰への余分な負担が蓄積します。
「体が軽くなったから大丈夫」という産後直後の感覚は、靭帯がゆるんだままの状態での誤った安心感であることが多く、注意が必要です。
授乳・抱っこの姿勢が腰にダメージを積み重ねる
授乳中は赤ちゃんの重みを腕に受けながら前かがみの姿勢を長時間維持することが多く、腰椎や胸腰移行部(きょうよういこうぶ)に大きな負担がかかります。抱っこでも片側に体重が偏りやすく、骨盤の左右差(ゆがみ)を招くことがあります。
授乳クッションの活用や背もたれのある椅子を使うなど、姿勢の工夫だけで腰への負担を大幅に軽減できます。
産後の筋力低下が腰痛の長期化を招く
妊娠中の活動量低下と分娩(ぶんべん)によって体幹の筋力は大きく低下しています。腹筋・背筋・骨盤底筋群が十分に機能しないと腰椎の安定性が確保できず、わずかな動作でも痛みが出やすい状態が続きます。産後3か月ごろから体幹の軽いエクササイズを段階的に取り入れることが、腰痛の長期化を防ぐうえで効果的です。
産後の腰痛回復における時期別のポイント
| 産後の時期 | 体の状態 | 推奨されるケア |
|---|---|---|
| 1〜4週 | 骨盤が最も不安定 | 安静優先・無理のない骨盤底筋の意識 |
| 1〜3か月 | 筋力低下が顕著 | 体幹・骨盤底筋の軽い強化を開始 |
| 3〜6か月 | 骨盤が徐々に安定 | 段階的に運動を再開・ウォーキングなど |
更年期に急増する腰痛|エストロゲン低下が椎間板と骨を傷める
更年期(一般的に45〜55歳前後)に差し掛かると、女性ホルモンのエストロゲン分泌が急激に低下します。
エストロゲンは椎間板・骨・筋肉の維持に深く関わるため、その減少は腰部の組織を多方面から傷め、腰痛の急増につながります。複数の研究で、閉経後の女性は同年齢の男性を大きく上回る腰痛有病率を示すことが報告されています。
エストロゲンが椎間板の水分と骨の強度を守っていた
椎間板は豊富な水分を含むことでクッションの役割を果たしています。エストロゲンはこの水分保持能力を維持する役割を担っており、閉経後に急速に低下すると椎間板の変性(水分が失われて硬化・薄くなる変化)が加速します。
また骨のカルシウムを骨内にとどめる働きもエストロゲンが担っているため、分泌が落ちると骨密度が低下し、骨粗しょう症へと進みやすくなります。椎間板と骨の両方を同時に守っていたのがエストロゲンだったわけです。
更年期以降、女性の腰痛有病率が男性を大きく上回る
更年期前の20〜40代でも女性の腰痛率は男性よりやや高い水準ですが、閉経を過ぎるとその差は顕著に広がります。椎間板の変性・椎間関節の変形・骨密度の低下が同時に進行するためです。
更年期のほてりや不眠などの症状と腰痛が同時に現れた場合、エストロゲン低下が背景にある可能性があり、整形外科と婦人科・内科が連携した診療が有効なことがあります。
エストロゲン低下が腰部に与える主な影響
| 組織・部位 | エストロゲン低下による変化 | 関連する症状 |
|---|---|---|
| 椎間板 | 水分保持力の低下・変性の加速 | 腰痛・椎間板ヘルニア |
| 脊椎骨(椎体) | 骨密度の低下・脆弱化 | 圧迫骨折・慢性腰痛 |
| 椎間関節 | 変形性変化が進行しやすい | 腰から臀部への痛み・可動域の制限 |
| 腰背部筋肉 | サルコペニア(筋量低下)の進行 | 腰痛の慢性化・姿勢の悪化 |
骨粗しょう症による脊椎圧迫骨折が突然の腰痛の引き金になることも
骨粗しょう症(こつそしょうしょう)が進行すると、背骨の椎体(ついたい)が体重に耐えられず内側から潰れる「脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)」が起きることがあります。重いものを持ち上げた後や尻もちをついた後に急に腰痛が強くなった場合は、圧迫骨折の可能性があります。
早めに整形外科を受診し、レントゲンやMRI検査で診断を受けることが重要です。状態が確認できれば、適切な治療と骨折再発の予防指導を受けることができます。
知らずに腰痛を悪化させている女性の日常生活の落とし穴
女性特有のホルモン変動に加えて、日常生活の中の習慣が腰痛をじわじわと慢性化・悪化させる原因になっていることがあります。ホルモンの問題は自分でコントロールしにくい部分もありますが、生活習慣は今日から意識的に変えていけます。
長時間の座り仕事・立ち仕事が骨盤を歪めて腰に負担をかける
デスクワークでの長時間座り続けや、立ち続けの仕事は腰椎周囲の筋肉を硬直させ、血行を悪化させます。座位では椎間板内圧(ついかんばんないあつ)が立位の約1.5倍になるとされており、腰椎への負担は想像以上に大きくなります。
1時間に1回程度は立ち上がって軽く歩くか、腰をほぐすストレッチを習慣にするだけで、慢性腰痛の予防につながります。
体の冷えと血行不良が腰の筋肉を硬直させ痛みを慢性化させる
腰まわりの筋肉が冷えると血管が収縮して血流が低下し、老廃物の排出が滞って筋肉の緊張が高まります。女性は男性と比べて筋肉量が少なく体が冷えやすい傾向があり、冷房環境での長時間勤務や薄着での外出が腰痛を悪化させる要因になりやすいです。
シャワーだけで済ませるのではなく、湯船につかる習慣を取り入れることで腰まわりの血行を改善できます。
ストレスと睡眠不足が痛みの感受性を高めて腰痛を悪循環に陥らせる
心理的なストレスや睡眠不足は中枢神経系(ちゅうすうしんけいけい)の疼痛調節機能を低下させ、同じ刺激でも痛みをより強く感じやすくなることが知られています。慢性化した腰痛の多くは身体的な要因だけでなく、心理社会的な要因も絡んでいます。
生理前後のホルモン変動と睡眠不足が重なるとさらに痛みの感受性が高まるため、睡眠の質を保つことは腰痛対策としても軽視できない要素です。
腰痛を悪化させやすい生活習慣チェックリスト
- 1時間以上同じ姿勢(座位・立位)を続けることが日常になっている
- ハイヒールを日常的に履いており、歩行中に腰や骨盤に負担がかかっている
- 腹筋・背筋を意識した運動をほとんど行っていない
- 入浴をシャワーだけで済ませることが週の半分以上ある
- 慢性的な睡眠不足(6時間未満)や高ストレス状態が長く続いている
- 生理前・生理中に無理をして激しい運動や重労働を続けている
整形外科への受診が必要な腰痛のサインと女性特有の対処法
腰痛の多くは安静やセルフケアで改善しますが、中には整形外科での早期評価が必要なものがあります。「生理痛と同じだろう」「産後だから仕方ない」という自己判断で放置すると、治療が長引くことがあるため注意が必要です。
こんな腰痛は放置禁物|早めに整形外科へ
整形外科への受診が必要なサイン
- 足・ふくらはぎ・太もも・鼠径部へのしびれや痛みが伴っている
- 安静にしていても腰痛が続く、または夜間・就寝中に増悪する
- 発熱(37.5℃以上)を伴う腰痛がある
- 転倒・尻もちの後に急激に腰痛が始まった(圧迫骨折の疑い)
- 排尿・排便のコントロールが難しくなった(神経障害の可能性)
受診の目安と緊急度
| 症状の特徴 | 緊急度の目安 | 推奨される対応 |
|---|---|---|
| しびれ・下肢への放散痛 | 高め | 数日以内に整形外科を受診 |
| 安静時・夜間痛・発熱を伴う | 高い | 早急に受診(感染・腫瘍の除外が必要) |
| 尻もち後の急激な腰痛 | 高い | 当日または翌日に整形外科を受診 |
| 生理・妊娠・更年期に伴う慢性腰痛 | 中程度 | 1〜2週間以内に整形外科を受診 |
整形外科ではどのような検査・治療が受けられるか
整形外科では問診・視診・触診を基本に、レントゲン・MRI・骨密度測定(DEXA法)などの画像検査で椎間板・骨・神経の状態を評価します。腰痛の原因が明確になれば、薬物療法(消炎鎮痛薬・筋弛緩薬など)・理学療法(リハビリテーション)・運動指導・コルセット処方など適切な治療を組み合わせて対応します。
更年期女性で骨粗しょう症が疑われる場合は骨密度検査を行い、骨折リスクの評価と予防指導が行われます。腰痛の原因が婦人科的な疾患と関連している可能性があれば、適切な専門科へ紹介する体制が整っています。
腰痛を遠ざける生活習慣が更年期以降の体を守る
腰痛予防の基本は体幹筋力の維持と正しい姿勢の習慣化です。ウォーキングや水中歩行(アクアウォーキング)は腰への負担が少なく、筋力・血行・骨密度を同時に維持できる運動として整形外科でも推奨されています。カルシウム・ビタミンD・たんぱく質を意識した食事は骨と筋肉の健康を保つ基盤となります。
月経周期に合わせた運動量の調整(生理前はストレッチ中心にするなど)も、ホルモン変動が大きい女性特有の腰痛対策として有効です。腰痛が続く場合や繰り返す場合は、自己判断せずに整形外科を受診されることをおすすめします。
よくある質問
- 生理と腰痛が同時に強くなる場合、産婦人科と整形外科のどちらに相談すれば良いですか?
-
まず整形外科を受診することをおすすめします。整形外科では腰椎・骨盤・神経の状態を評価し、腰痛が椎間板ヘルニアや仙腸関節炎など整形外科的な原因によるものかどうかを判断します。その評価の結果として子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科疾患が疑われる場合は、産婦人科への紹介が行われます。
症状が重い場合は両科を並行して受診するという選択肢もあります。どちらか迷ったときは、まず整形外科に相談し、担当医に状況をお伝えいただくのが一番の近道です。
- 妊娠中の腰痛と骨盤帯痛(恥骨・仙腸関節の痛み)はどのように見分ければよいですか?
-
妊娠中の腰痛は主に腰椎の周囲(背中の中央から腰)で感じる鈍痛で、前かがみや長時間の立位で悪化しやすい特徴があります。一方、骨盤帯痛(PGP)は恥骨結合・仙腸関節・臀部の痛みが中心で、歩行・寝返り・片脚立ちのときに強くなる傾向があります。
両者が混在するケースも多く、明確に見分けることが難しい場合があります。痛みが強くて日常生活に支障をきたすほどであれば、産婦人科または整形外科を受診して専門家に評価していただくことが大切です。
- 更年期に入ってから腰痛が急に強くなりました。整形外科を受診すべきですか?
-
はい、整形外科への受診をおすすめします。閉経前後にはエストロゲンの低下によって骨密度が下がりやすくなり、脊椎圧迫骨折のリスクが高まります。椎間板変性や椎間関節症も更年期以降に進行しやすいため、正確な評価が必要です。
レントゲン・MRI・骨密度検査を組み合わせることで原因が特定でき、骨粗しょう症の治療・予防指導やリハビリテーションを含む総合的なアプローチを受けることができます。更年期のほてりや不眠と腰痛が同時に出ている場合は、婦人科や内科との連携も視野に入れてみてください。
- 産後の腰痛はどのくらいで自然に改善しますか?
-
リラキシンの分泌が落ち着く産後1〜3か月をすぎると骨盤の安定性が回復し始め、多くの方は産後6か月以内に腰痛が改善します。ただし、育児姿勢の問題・体幹筋力の低下・慢性的な睡眠不足が重なると、回復が遅れることがあります。
産後3か月を過ぎても腰痛が改善しない、あるいは悪化している場合は整形外科を受診してください。骨盤底筋体操や体幹トレーニングのリハビリを受けることで、回復を促進することができます。
- 女性の腰痛は男性と比べてなぜ多く、慢性化しやすいのですか?
-
女性の腰痛が多い主な理由は3つあります。第1に、エストロゲン・プロゲステロン・リラキシンといったホルモンが靭帯・椎間板・骨に直接影響を与えるため、生理・妊娠・更年期というライフイベントごとに腰への負担が増大します。第2に、女性の骨盤は横幅が広く前傾しやすい構造のため、腰椎への集中的な負担が生じやすい傾向があります。
第3に、更年期以降のエストロゲン低下によって椎間板の変性・骨粗しょう症が加速するためです。これらの要因が重なることで、女性の腰痛は男性と比べて慢性化しやすく、閉経後に有病率が急増するという特徴をもちます。
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