腰椎椎間板ヘルニア(LDH)

腰椎椎間板ヘルニア(lumber disc herniation:LDH)とは、腰部の椎間板が中心部から外側に突出し、近くの神経根を圧迫することで発生する症状です。

腰痛や下肢への放散痛、しびれ、筋力低下などの神経症状を引き起こし、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。

加齢による椎間板の変性、重い物を持ち上げる際の不適切な姿勢、過度な運動、肥満などが原因で、椎間板にかかる圧力が増大してヘルニアを引き起こします。

この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の病型

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)は、ヘルニアの位置や形態によって3つの病型に分類されます。

病型圧迫される神経構造物主な症状
正中型ヘルニア馬尾神経両側性の下肢の感覚障害や運動障害、膀胱直腸障害、馬尾症候群
傍正中型ヘルニア脊柱管内の神経根片側性の下肢の感覚障害や運動障害、下肢の放散痛
外側型ヘルニア椎間孔内の神経根片側性の下肢の感覚障害や運動障害、下肢の放散痛

また、腰椎椎間板ヘルニアでは、ヘルニアの高位によって症状の分布が異なります。

高位好発する病型圧迫される神経根
L3/4外側型、傍正中型L3神経根
L4/5外側型、傍正中型L4神経根
L5/S1外側型、傍正中型L5神経根

正中型ヘルニア

正中型ヘルニアは、椎間板が脊柱管の正中部に突出する病型です。

主に馬尾神経(ばびしんけい)を圧迫し、両側性の下肢の感覚障害や運動障害、膀胱直腸障害などを引き起こします。

馬尾症候群※1を呈するケースが多く、重篤な神経症状を伴う可能性があります。

※1馬尾症候群:脊髄底部から伸びる神経の束が圧迫される、損傷するなどが原因で発症。腰の激しい痛みや排尿の問題、膀胱直腸などの感覚消失が起こる。

傍正中型ヘルニア

傍正中(ぼうせいちゅう)型ヘルニアは、椎間板が脊柱管の傍正中部(正中からやや外側)に突出する病型です。

脊柱管内で神経根を圧迫する場合が多く、片側性の下肢の感覚障害や運動障害、下肢の放散痛などを引き起こします。

腰椎椎間板ヘルニアのなかで最も多い病型とされています。

外側型ヘルニア

外側型ヘルニアは、椎間板が脊柱管の外側部や椎間孔内に突出する病型です。

椎間孔内で神経根を圧迫し、片側性の下肢の感覚障害や運動障害、下肢の放散痛などの神経根症状を引き起こします。

腰椎椎間板ヘルニアの中では比較的まれな病型ですが、難治性の下肢痛を引き起こすケースが多いため、注意が必要です。

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の症状

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の主な症状は、腰痛や下肢の放散痛などです。

症状特徴
腰痛腰部の中央や片側の痛み、安静時にも持続、体動時や腰部の運動で増悪
下肢の放散痛殿部から大腿の後面、下腿の外側、足部にかけての放散痛、圧迫されている神経根のレベルによって部位が異なる
下肢の感覚障害痛みのある部位やその周囲のしびれ感、感覚鈍麻、異常感覚、重度の場合は感覚脱失
下肢の運動障害下肢の脱力感、歩行障害、つまずきやすい、特定の筋群の筋力低下
膀胱直腸障害尿閉、尿失禁、便秘、肛門周囲の感覚鈍麻、馬尾症候群の徴候

腰痛

腰椎椎間板ヘルニアでは、腰部の痛みが最も一般的な症状です。

痛みはヘルニアによる神経根の圧迫や炎症によって引き起こされ、腰部の中央や片側に生じるケースが多いです。

安静時にも持続して体動時や腰部の運動、咳やくしゃみによって増悪します。

下肢の放散痛

圧迫された神経根の支配領域に沿って下肢に放散する痛みも、腰椎椎間板ヘルニアで認められる症状です。

殿部から大腿の後面、下腿の外側、足部にかけての放散痛が典型的で、圧迫されている神経根のレベルによって痛みの部位が異なります。

座位(座った状態)では神経根にかかる圧力が約40%増加しますので、痛みが増強します。

下肢の感覚障害

圧迫された神経根の支配領域に一致して、下肢の感覚障害が生じます。

具体的には、痛みのある部位やその周囲のしびれ感、感覚鈍麻、異常感覚などです。重度では、感覚脱失を呈するケースもあります。

下肢の運動障害

神経根の圧迫が高度な場合、支配筋の筋力低下が現れます。

下肢の脱力感、歩行障害、つまずきやすいなどの症状を訴える人もいて、特定の筋群の筋力低下(足関節の背屈障害、つま先立ち困難など)が見受けられるときもあります。

膀胱直腸障害

腰仙椎部の腰椎椎間板ヘルニアでは馬尾神経が圧迫されるケースがあり、膀胱直腸障害(尿閉、尿失禁、便秘、肛門周囲の感覚鈍麻など)の症状を生じます。

膀胱直腸障害は、緊急の外科的治療を要する馬尾症候群の徴候です。

腰椎レベルごとの神経根症状の分布

高位神経根症状の分布
L3/4L3神経根大腿前面から内側にかけての痛み、感覚障害、大腿四頭筋の筋力低下が認められます。
くしゃみや咳、脚の伸展で症状が悪化します。
L4/5L4神経根大腿前面と下肢の内側に放散する痛みを引き起こし、同じ分布の感覚低下、股関節屈曲・内転の脱力、膝伸展の脱力、膝蓋反射の低下が生じます。
L5/S1L5神経根臀部、大腿外側、ふくらはぎ外側、足背、母趾に放散する疼痛を引き起こします。
母趾と第2趾の間、足背、ふくらはぎ外側に感覚障害がみられます。

股関節外転、膝関節屈曲、足背屈曲、母趾背屈、足部回内、外転に筋力低下が認められます。
半腱様筋/半膜様筋反射の低下が現れます。
足背屈が弱くなると、踵歩きが困難になります。
慢性的なL5神経根症は、前脚の長趾伸筋と前脛骨筋の萎縮を引き起こす場合があります。

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の原因

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の原因は、加齢による椎間板の変性、不適切な姿勢や動作、外傷などです。

30~50代に最も多くみられ、男女比は2:1です1)

原因特徴
加齢による椎間板の変性椎間板の水分量減少と弾力性低下により、軽微な負荷でも髄核が突出しやすくなる
不適切な姿勢や動作長時間の座位姿勢、前屈み姿勢、重量物の不適切な持ち上げ方などによる腰椎椎間板への過度の負担
外傷交通事故や転落事故、スポーツ外傷などの強い外力によって、椎間板の線維輪が破綻し、髄核が突出する
全身疾患糖尿病、喫煙、肥満などによる椎間板の変性や脆弱化の促進

加齢による椎間板の変性

腰椎椎間板ヘルニアの最も一般的な原因は、加齢に伴う椎間板の変性です。

年齢を重ねると椎間板線維軟骨細胞は老化し、プロテオグリカンの産生が減少します。このプロテオグリカンの減少は、水分の減少と椎間板の崩壊を引き起こして環状線維症への負担を増大させ、断裂や亀裂をもたらして髄核ヘルニアを促進します。

その結果、外力に対する抵抗力が弱まって軽微な負荷でも椎間板の線維輪が破綻し、髄核が突出しやすくなります。

不適切な姿勢や動作

日常生活における不適切な姿勢や動作は、腰椎椎間板に過度の負担をかけてヘルニアの発症を促進します。

長時間の座位姿勢や前屈みの姿勢、重量物の不適切な持ち上げ方などの腰椎椎間板に対する持続的な負荷や、急激な力の加わりが具体例です。

軸方向の過負荷は健康な椎間板に大きな生体力学的力を加え、その結果、機能不全に陥った環状線維を通して椎間板材料が押し出される可能性があります。

外傷

交通事故や転落事故、スポーツ外傷などの腰部への強い外力も腰椎椎間板の損傷やヘルニアの原因の一つです。

突然の外傷では、急激な過屈曲や過伸展、回旋などの力が腰椎に加わって椎間板の線維輪が破綻し、髄核が突出します。

若年者の腰椎椎間板ヘルニアでは、外傷が原因となる人も多いです。ただし、外傷性の腰椎椎間板ヘルニアでも椎間板の変性が背景にあるケースが少なくありません。

全身疾患

一部の全身疾患は腰椎椎間板の変性や脆弱化を促進し、ヘルニアの発症リスクを高めます。

代表的な疾患

  • 糖尿病:高血糖による組織の脆弱化や神経障害
  • 喫煙:喫煙による血流障害や組織の酸素化障害
  • 肥満:過体重による腰椎への慢性的な負荷
  • その他全身疾患:結合組織病

腰椎椎間板ヘルニアのリスク因子

リスク因子説明
年齢加齢に伴う椎間板の変性が、ヘルニアの発症リスクを高める
性別男性は女性に比べて、腰椎椎間板ヘルニアの発症リスクが高い
職業重労働、長時間の座位や前屈み姿勢を要する職業では、発症リスクが高い
スポーツ腰部への負荷が大きいスポーツ(重量挙げ、ラグビー、ゴルフなど)では、発症リスクが高い

年齢や性別、職業やスポーツは、腰椎椎間板ヘルニアを発症させるリスク因子です。

また、運動不足や不適切な食生活も椎間板の健康維持に悪影響を及ぼします。

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の検査・チェック方法

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の診断には、詳細な問診と身体所見の評価に加えて、画像検査や電気生理学的検査が必要です。

検査方法特徴
問診と身体診察症状の出現時期や性質、神経学的所見などを評価して腰椎椎間板ヘルニアを疑う。
神経学的検査深部腱反射、徒手筋力検査、感覚検査、SLRテストなどにより、神経根障害やCauda equina症候群の有無と部位を評価する。
MRI検査椎間板ヘルニアの存在、部位、程度を詳細に評価する。神経根やCauda equinaの圧迫、変性の程度も評価可能。
CT検査骨性の脊柱管狭窄や骨棘の評価に有用。椎間板ヘルニアの評価にはMRIほど適さない。
単純X線検査腰椎の配列やアライメント、椎間板腔の狭小化を評価する。動態撮影により、不安定性の評価も可能。
電気生理学的検査針筋電図検査や神経伝導検査により、神経根障害による脱神経所見や伝導速度の低下を検出できる。

問診と身体診察

問診と身体診察は、腰椎椎間板ヘルニアを診断するために最初に行われる検査です。

問診では、症状の出現時期や性質、程度、増悪・軽減因子、既往歴、家族歴などを詳しくお聞きします。

身体診察では、腰椎の可動域制限や圧痛、神経学的所見(反射異常、筋力低下、感覚障害など)を細かく評価します。

神経学的検査

  • 深部腱反射:アキレス腱反射(S1)、膝蓋腱反射(L4)などを評価する。
  • 徒手筋力検査:腰椎の各レベルに対応する筋力を評価する。
  • 感覚検査:腰椎の各神経根の支配領域に一致した感覚障害を評価する。
  • Straight Leg Raising test(SLRテスト):下肢を他動的に挙上し、下肢の放散痛や感覚障害の再現性を評価する。
  • 交差SLRテスト:無症状側の下肢を挙上して、症状がある方の脚に放散痛があるかを確認。

腰椎椎間板ヘルニアによる神経根障害や馬尾(Cauda equina)症候群の評価には、神経学的検査が重要です。

代表的な検査には、深部腱反射や徒手筋力検査、Straight Leg Raising testなどが挙げられます。

評価は一つの神経学的検査だけでは不十分で、いくつかを組み合わせて診断の精度をあげていきます。

画像検査

腰椎椎間板ヘルニアの確定診断には、MRIやCTなどの画像検査が必須です。

MRI検査

MRI検査は椎間板ヘルニアの存在や部位、程度を詳細に評価できる検査で、ゴールドスタンダードです。

診断精度は97%と軟部組織の描出能が高いため、椎間板ヘルニアを可視化する最も感度の高い検査になります。

椎間板後方の10%でT2強調信号の増加がみられるときは椎間板ヘルニアが疑われます。

CT検査

CT検査は骨構造を検査するために優れ、骨性の脊柱管狭窄や骨棘の評価に有用です。

石灰化した椎間板ヘルニアや骨の損失や破壊をもたらす可能性のあるあらゆる病的過程を評価ができます。

ただし、神経根の可視化には欠けるため、MRIほど椎間板ヘルニアの評価には適しません。

単純X線検査

腰椎の配列やアライメント、椎間板腔の狭小化を評価する検査です。

動態撮影によって不安定性の評価も可能で、椎間腔の狭小化、牽引性骨棘、X線上の代償性側弯は腰椎椎間板ヘルニアを示唆する所見です。

電気生理学的検査

  • 針筋電図検査:神経根障害による脱神経所見(線維自発電位、陽性鋭波など)を検出できる。
  • 神経伝導検査:神経根障害による運動神経や感覚神経の伝導速度の低下を検出できる。

神経伝導検査と筋電図検査は、腰椎椎間板ヘルニアによる神経障害の評価に用いられる電気生理学的検査です。

腰椎椎間板ヘルニアによる神経根症が強く疑われるにもかかわらず、MRIではっきりしないか陰性である患者さんには神経伝導検査が適応となります。

腰椎椎間板ヘルニアの診断基準の一例

診断基準内容
臨床症状腰痛、下肢の放散痛、感覚障害、運動障害など
神経学的所見深部腱反射の異常、筋力低下、感覚障害、SLRテスト陽性など
画像所見MRIやCTで椎間板ヘルニアの存在、神経根やCauda equinaの圧迫を確認
電気生理学的所見針筋電図検査や神経伝導検査で神経根障害を示唆する所見

腰椎椎間板ヘルニアの診断では、各検査結果を総合的に判断することが重要です。

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療方法と治療薬、リハビリテーション

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療は症状や状態に応じて、保存的治療から手術療法までさまざまな選択肢があります。

治療方法内容
保存的治療安静と活動制限、薬物療法、物理療法
注射療法硬膜外ブロック、神経根ブロック、椎間関節ブロック
手術療法椎間板ヘルニア摘出術、経皮的内視鏡下椎間板切除術
リハビリテーション腹筋と背筋の強化運動、骨盤底筋体操、ストレッチング、有酸素運動

保存的治療

  1. 安静と活動制限:急性期には短期間の安静が推奨されますが、長期の安静は避けるべきです。
  2. 薬物療法:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、オピオイド鎮痛薬、筋弛緩薬などを使用します。
  3. 物理療法:運動療法、牽引療法、温熱療法、寒冷療法、電気刺激療法などを組み合わせて行います。

保存的治療は腰椎椎間板ヘルニアの初期段階や軽症例に対して行われます。主な治療法は、安静と活動制限、薬物療法、物理療法です。

薬物療法では、症状や状態、併存疾患、アレルギーの有無などを考慮して、使用する薬剤を選択します。

治療薬の種類と具体的な薬剤

薬剤の種類具体的な薬剤名
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)イブプロフェン、ロキソプロフェン
オピオイド鎮痛薬トラマドール、トラムセット
筋弛緩薬チザニジン

注射療法

注射療法の種類目的と使用薬剤
硬膜外ブロック炎症の軽減と疼痛管理。ステロイド剤(例:ベタメタゾン)と局所麻酔薬(例:リドカイン)を使用。
神経根ブロック特定の神経根の炎症と疼痛の軽減。ステロイド剤と局所麻酔薬を使用。
椎間関節ブロック椎間関節由来の疼痛の診断と治療。ステロイド剤と局所麻酔薬を使用。

保存的治療で十分な効果が得られない場合、注射療法が検討されます。

ベタメタゾンやプレドニゾロンといったステロイド剤と、リドカインやブピバカインなどの局所麻酔薬を注射します。

手術療法

  • 椎間板ヘルニア摘出術:ヘルニア組織を摘出して神経根の圧迫を解除します。
  • 経皮的内視鏡下椎間板切除術:内視鏡を用いて行う低侵襲手術で、ヘルニア組織を切除します。

保存的治療や注射療法で効果が不十分なとき、または重篤な神経症状を呈するときに手術療法が検討されます。

一般的な治療方法は椎間板ヘルニア摘出術と経皮的内視鏡下椎間板切除術です。

リハビリテーション

  • 急性期:疼痛管理と日常生活動作(ADL)の指導が中心です。
  • 回復期:腰部と腹部の筋力強化、柔軟性の向上、姿勢の改善などを目的とした運動療法を行います。
  • 維持期:再発予防のための運動療法やセルフケアの指導を継続します。

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療では、痛みの軽減や柔軟性の向上、筋力強化や再発予防を目的としたリハビリテーションが重要な役割を果たします。

主な運動療法は、腹筋と背筋の強化運動、骨盤底筋体操、ストレッチング、ウォーキングやスイミングなどの有酸素運動です。

リハビリテーションは患者さんの状態に合わせて段階的に進めます。

病期ごとの治療方法

保存的治療

  • 急性期(発症から約4週間):安静、薬物療法、物理療法などを行います。多くの患者さんで症状の改善が見られます。
  • 亜急性期(発症から4~12週間):症状が持続する際は、注射療法や集中的なリハビリテーションを検討します。
  • 慢性期(発症から12週間以降):症状が長期化する場合、生活習慣の改善や心理的サポートも重要になります。

手術療法

  • 術後早期(手術当日~数日間):疼痛管理と早期離床を目的とした理学療法を行います。
  • 術後回復期(手術後1~4週間):創部の治癒と基本的な日常生活動作の回復を目指します。
  • 術後リハビリテーション期(手術後4週間~数カ月):筋力強化や柔軟性の向上、職場復帰に向けた準備を行います。

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療期間と予後

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の一般的な治療期間は、数週間から数カ月です。予後は基本的に良好ですが、症状が慢性化したり再発したりする人もいます。

保存的治療の治療期間と予後

保存的治療の種類治療期間の目安予後
安静と薬物療法2~4週間70~80%の患者さんで症状が改善
物理療法とリハビリテーション4~12週間60~70%の患者さんで症状が改善
注射療法1~3回の治療で効果判定50~60%の患者さんで症状が改善

保存的治療の治療期間は症状の重症度や回復の速度によって異なりますが、6~12週間程度で改善する人が多いです。

保存的治療の予後は比較的良好で、半数以上の患者さんで症状の改善が見られます。ただし、一部の人では症状が遷延したり、再発したりするケースがあります。

手術療法の治療期間と予後

手術方法入院期間の目安予後
椎間板ヘルニア摘出術1~2週間85~95%の患者さんで症状が改善
経皮的内視鏡下椎間板切除術1週間程度75~85%の患者さんで症状が改善

手術療法を選択した際の入院期間は1~2週間程度ですが、術後のリハビリテーションに数カ月を要するため、保存的治療のみで回復する人よりも治療期間が長くなる傾向があります。

手術療法の予後は一般的に良好で、80~90%の患者さんで症状の改善が得られます。ただし、まれに手術合併症や症状の再発が生じるのも事実です。

術後の良好な転帰を予測する因子としては、術前の下肢および腰背部痛が強い、症状の持続期間が短い、年齢が若い、精神衛生状態が良好である、術前の身体活動が活発である点などが挙げられます。

医療介入がない場合の予後

症候性腰椎椎間板ヘルニアは短期間で治癒し、85~90%の症例で、6~12週間以内に実質的な医学的介入なしに治癒することが研究で示されています2)

ただし、症状が6週間以上続くと、医療介入なしに改善する可能性は低くなります。腰椎椎間板ヘルニアの症状が現れたら、放置せずに医療機関を受診するようにしましょう。

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療における副作用とデメリット

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療には、副作用やデメリットが存在します。

治療方法副作用・デメリット
薬物療法胃腸障害、腎機能障害、眠気、めまいなど
手術療法感染症や出血などの手術合併症、再発や隣接椎間の障害、手術後のリハビリテーションに要する時間と労力など
注射療法感染症、出血、神経損傷など
物理療法神経根の過度の牽引による症状悪化、局所の不快感、血圧の変動、皮膚症状など

薬物療法の副作用

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):胃腸障害、腎機能障害、心血管系リスクの増加など
  • オピオイド鎮痛薬:便秘、嘔気、眠気、依存性のリスクなど
  • 筋弛緩薬:眠気、めまい、口渇、便秘など

薬物療法の副作用は、患者さんの全身状態や併存疾患によっては重大な健康上の問題を引き起こす可能性があります。

万が一副作用が現れたときには薬の服用を中止して、早急に医師に相談してください。

手術療法のデメリット

  1. 感染症や出血などの手術合併症のリスク
  2. 手術による神経損傷や硬膜損傷の可能性
  3. 術後の疼痛や不快感
  4. 再発や隣接椎間の障害(隣接椎間障害)のリスク

保存的治療で十分な効果が得られない、重篤な神経症状を呈する際に検討される手術療法には、感染症や出血、術後の疼痛や不快感などのデメリットがあります。

注射療法の副作用とデメリット

  • 硬膜外ブロック:感染症、出血、神経損傷、髄膜炎、硬膜穿刺後頭痛など
  • 神経根ブロック:感染症、神経損傷、局所の疼痛や不快感など
  • 椎間関節ブロック:感染症、出血、神経損傷など

局所的な炎症や疼痛の軽減を目的として行われる注射療法の副作用やデメリットは、感染症や神経損傷などです。

また、注射療法の効果は一時的であるケースが多く、繰り返しの治療が必要となる場合もあります。

物理療法の副作用とデメリット

  • 運動療法:症状に合った指導がないときの症状の悪化や新たな損傷のリスク
  • 牽引療法:神経根の過度の牽引による症状悪化、局所の不快感など
  • 温熱療法:熱傷、皮膚の過敏反応、血圧の変動など
  • 寒冷療法:凍傷、血管収縮による症状悪化など
  • 電気刺激療法:皮膚の過敏反応、ペースメーカーなど医療機器への干渉など

物理療法の副作用やデメリットを最小限に抑えるために、患者さんの状態に合わせて実施するのが重要です。

また、物理療法単独では十分な効果が得られないケースもあり、他の治療法との併用が必要となる場合があります。

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療における保険適用と治療費について

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の治療は、基本的に健康保険が適用されます。

ただし、選択する治療内容によっては保険適用外のものもあります。

保険適用となる治療

  1. 診察・検査:初診料、再診料、画像検査(X線、MRI、CTなど)
  2. 薬物療法:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、鎮痛薬、筋弛緩薬など
  3. 物理療法:運動療法、牽引療法、温熱療法、電気刺激療法など
  4. 注射療法:神経根ブロック、硬膜外ブロックなど
  5. 手術療法:椎間板ヘルニア摘出術、経皮的内視鏡下椎間板切除術など

診察から保存的治療や手術療法まで、腰椎椎間板ヘルニアの一般的な治療は保険適用です。

自己負担額は健康保険の種類によって異なり、1~3割となります。

保険適用外の治療

  • 漢方薬などの一部の薬剤
  • 補完代替療法(鍼灸、カイロプラクティック、マッサージなど)
  • 一部の先進的な手術方法や医療機器の使用

鍼灸やカイロプラクティック、マッサージなどは自費治療となりますので、健康保険が適用されません。

また、一部の先進的な手術方法や医療機器の使用も保険適用外です。

治療費の目安

治療法1カ月あたりの治療費の目安
薬物療法5,000~20,000円
物理療法10,000~50,000円
注射療法20,000~100,000円
手術療法500,000~2,000,000円

ただし、これらの金額はあくまで目安であり、実際の治療費は医療機関によって異なります。

また、手術療法では、入院費用や術後のリハビリテーション費用も別途必要となります。

腰椎椎間板ヘルニアの治療費に関する注意点

  • 健康保険の種類によって自己負担額は異なります(3割負担、2割負担、1割負担など)。
  • 高額療養費制度を利用することで、自己負担額を抑えられる場合があります。
  • 医療費控除を利用すると税金の還付を受けられる可能性があります。
  • 治療費について不明な点があるときは、医療機関の医事課や社会福祉士にご相談ください。

参考文献

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2) Mustafa I Al Qaraghli, Orlando De Jesus. Lumbar Disc Herniation. StatPearls.2023.

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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