上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ、Supracondylar humerus fractures)とは、肘関節に近い部分で発生する骨折です。

子どもに多く発症する疾患で、小児の骨折の18%、肘の骨折の60%を占めます。

転倒や転落などの事故が起こった際、腕を伸ばして防御しようとすることが主な原因です。

この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

上腕骨顆上骨折の病型

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)は、主に Modified Gartland 分類に基づき、Type I~Type IVの4つの病型に分けられます。

病型特徴
Type I転位のない骨折または最小限の転位(2mm未満)の骨折
Type II A転位のある骨折(2mm超)で後方蝶番は無傷
Type ⅡB転位のある骨折で後方蝶番は無傷、かつ回旋異常
Type III完全転位骨折で後方骨膜の破綻
Type IV完全転位骨折で、多方向性の不安定性

Type I:非転位骨折

Type Iは、骨折線は存在するものの、骨片の転位がほとんどない状態です。

骨折部位の安定性が保たれているため、予後は比較的良好です。

レントゲン写真では、前方脂肪体(anterior fat pad sign)の腫大が確認できる場合があり、診断の手がかりとなります。

Type II:後方皮質の連続性あり

Type II は、骨折部位の後方皮質に一部連続性が残っている状態です。

ある程度の安定性はありますが、前方皮質は完全に離断しているため、骨片の一部に転位が生じます。

骨折の安定性と不安定性が混在している病型であり、慎重な評価と対応が必要です。

Type III:完全転位骨折

Type III は、骨折部位の前後の皮質が完全に離断し、骨片が大きく転位している状態です。

骨折部位の安定性が失われており、軟部組織や神経血管束に影響を与えるおそれがあります。

Type IV:多方向不安定性

Type IV は、骨折部位が著しく不安定な状態で、比較的まれな病型です。

骨片が複数の方向に転位しており、軟部組織や神経血管束への影響が最も大きくなります。

上腕骨顆上骨折の症状

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)の一般的な症状は、肘周辺の痛みや腫れ、変形、可動域の制限、皮下出血などです。

また、折れた骨の端が皮膚に引っかかり、皮膚がくぼむパッカーサインを伴う場合もあります。

症状詳細
疼痛肘周辺の強い痛み
腫脹肘関節周囲の顕著な腫れ
変形肘の形の異常な変化、Ⅲ型損傷ではS字状変形が典型的
可動域制限肘の曲げ伸ばしが困難となる
皮下出血肘周辺の皮膚の変色、出血がある場合は開放骨折を示唆
パッカーサイン骨片が上腕筋を貫通して皮膚を圧迫している状態

上腕骨顆上骨折の原因

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)は、主に転倒や落下などの外力が肘関節に加わるために起こります。

上腕骨の解剖的特徴

上腕骨の遠位は、内側は滑車と内側上顆、外側は小頭と外側上顆で構成されています。

上腕骨遠位部は骨幹部から骨幹端部に向かって狭くなり、内外側が肘頭窩の近位側で合流するにつれて前後方向の幅も狭くなります。これにより、上腕骨遠位部の顆上部領域に相対的な脆弱性が生じます。

上腕骨顆上骨折の主な原因

上腕骨顆上骨折の原因は、転落や落下、スポーツ時の怪我といった外傷性のものが大半を占めます。

原因発生状況
転倒伸ばした状態で腕をつく
落下高所からの落下
スポーツ外傷競技中の接触や転倒
交通事故衝突による直接的な外力
虐待不適切な扱いによる外傷

転倒

転倒は上腕骨顆上骨折の最も一般的な原因で、腕が伸展した状態で転倒すると発生しやすいです。体重が上腕骨の遠位端に集中し、肘関節が過伸展することで骨折が起こります。

playground fallsと呼ばれる遊具からの転落も、この種の骨折の典型的な原因です。

高所からの落下

特に小児の場合、木登りや二段ベッドからの落下などが該当します。

落下の際、本能的に腕を伸ばして地面に着地しようとするため、肘関節に大きな負荷がかかり骨折につながります。

スポーツ外傷

スポーツ活動中の事故も、上腕骨顆上骨折を起こす原因の一つです。

転倒や接触により大きな衝撃を受けたり、不自然な姿勢で着地したりすると、骨折につながります。

上腕骨顆上骨折の発生リスクが高いスポーツ
  • 体操
  • スケートボード
  • サッカー
  • バスケットボール
  • ラグビー

交通事故

自動車事故や自転車事故による衝突の衝撃、車外放出などが骨折を引き起こす危険性もあります。

骨折のリスクを軽減するためには、シートベルトや子供用シートの正しい使用が大切です。

虐待

残念ながら、虐待が原因で上腕骨顆上骨折が発生するケースもゼロではありません。

特に乳幼児の場合、間違った扱いや激しい揺さぶりなどによって骨折する危険性があります。

上腕骨顆上骨折の検査・チェック方法

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)は病型によって症状のあらわれ方や程度が大きく異なるため、理学的検査や画像診断など、複数の検査方法を組み合わせて正確に診断する必要があります。

初期評価と視診

まずは、初期評価と視診によって骨折の重症度を判断します。

初期の全体的な評価の目的は、関連する全身外傷や神経血管障害を除外することです。

評価項目内容
外観肘の変形、腫脹、皮膚の状態を確認
痛みの程度痛みの訴えを評価
可動域肘の動きの制限を確認
神経学的所見手指の動きや感覚を評価
血流状態手の色調や脈拍を確認

理学的検査

理学的検査は、骨折の特徴や周囲の軟部組織の状態を評価し、合併症の有無を判断するための検査です。

理学的検査の内容
  • 触診:肘周囲の圧痛点や変形を確認
  • 可動域テスト:肘の曲げ伸ばしの範囲を測定
  • 神経学的検査:正中神経、橈骨神経、尺骨神経の機能を評価
  • 血管系の評価:橈骨動脈や尺骨動脈の脈拍を確認

小児に対して神経学的検査を徹底的に実施するのは困難ですが、ジャンケンやOKサインのといった特定の遊びは運動機能の評価に役立ちます。

小児に拳(グー)を作らせて正中神経を評価し、指を伸ばす(パー)動作で橈骨神経を評価し、指を外転させる(チョキ)動作で尺骨神経の運動機能を調べます。

最後に、OKサインを作らせて前骨間神経を評価します。

上腕骨顆上骨折の合併症

上腕骨顆上骨折の合併症のなかでも、神経血管損傷は49%にも達するという報告があります。

また、血管損傷は転位した上腕骨顆上骨折の10~20%、外傷性神経麻痺は骨折の約11%に起こります。

伸展型骨折では前骨間神経が最も多く、屈曲型損傷では尺骨神経が最も多いです。

上腕動脈損傷は転位したガートランドIII型骨折の症例の38%に発生する可能性があります。

正中神経は上腕動脈とともに肘関節を横断します。正中神経の前骨間神経枝(AION)は、遠位の骨折片の後外側方転位で最も障害されやすいです。

小児および青年におけるAION症候群は、近位前腕痛がほとんどで、感覚障害を伴わない手の筋力低下が続きます。

画像診断

検査方法特徴
X線検査骨折線や転位の程度を確認
CT検査複雑な骨折パターンを詳細に評価
MRI検査軟部組織の損傷を詳細に評価
超音波検査血流状態や軟部組織の評価に使用

X線検査は最も基本的な画像診断法であり、前後像と側面像の2方向で撮影するのが一般的です。骨折線の位置や転位の程度を確認できます。

小児の肘関節は大部分が軟骨で構成されており、上腕骨遠位骨化の出現時期と、橈骨(とうこつ)および尺骨近位を含むさまざまな骨端線の融合について、十分な知識が必要です。

  • バウマン角:これは、上腕骨の長軸に沿った線と、関節唇の軟骨線維を横切る接線との間の角度です。冠状面における上腕骨頭角ともいいます。正常値は長軸線から64~81度で、バウマン角が大きくなると、肘頭内反変形を示唆します。
  • Radiocapitellar Line:橈骨の長軸に沿って引いた線は、すべてのビューにおいて橈骨頭と交差します。これは、橈骨頭/頸部骨折を伴わない限り、通常、顆上骨折では無傷です。
  • Fatpad Sign:肘のどの骨に生じた骨折であっても、骨折部位から出血が生じます。生じた血腫/滲出液により、fatpadが肘頭窩から持ち上がります。 これが陽性の後部脂肪パッド徴候です。

CT検査では、三次元的に骨折の位置関係を把握します。

また、MRI検査は、軟部組織の損傷、特に靭帯や筋肉の状態を評価するのに有用な検査です。骨髄内の変化を捉え、骨折の程度をより詳細に把握できます。

超音波検査は、血管の状態や軟部組織の評価に役立ち、小児の場合は放射線被曝を避けられる点がメリットです。

血液検査

上腕骨顆上骨折の診断自体に血液検査は不要ですが、全身状態の評価や手術の準備のために行われる場合があります。

  • 血算:貧血の有無や炎症反応を確認
  • 凝固機能検査:出血リスクを評価
  • 生化学検査:肝機能や腎機能を確認

上腕骨顆上骨折の治療方法と治療薬、リハビリテーション

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)の治療法には、保存的治療と手術的治療があり、年齢や活動レベル、合併症の有無などを考慮して選択します。

また、治療後の機能回復のためには、リハビリテーションへの取り組みも欠かせません。

保存的治療

治療法適応期間
ギプス固定非転位骨折3~4週間
シーネ固定軽度転位骨折2~3週間

軽度の骨折(Gartland分類Type I)や一部のType II骨折では、ギプス固定やシーネ固定といった保存的治療を行うケースが多いです。

Ⅱ型で、整復位が肘関節90度屈曲位で保たれる場合は、保存療法で安定する可能性があります。

外部からの固定により骨折部位を安定させ、自然な治癒を促します。

手術的治療

  • 経皮的ピンニング:皮膚の上からピンを挿入し、折れた骨同士を固定する
  • 観血的整復固定術:骨折部位の周辺の骨にピンやワイヤーを打ち込んで固定する

中等度から重度の骨折(Type II後期やType III)では、手術的治療が必要となる可能性が高いです。

ほかには、神経血管障害やコンパートメント症候群、開放骨折などが手術の適応となります。

治療薬

痛みや腫れ、炎症を和らげるために、鎮痛剤や抗炎症薬などの薬剤を用いる場合があります。

ただし、薬剤には副作用も伴うため、医師の指示に従って使用することが重要です。特に小児の場合は、薬剤の選択や用量に十分配慮しなければなりません。

リハビリテーション

上腕骨顆上骨折の治療後は、年齢や活動レベルに応じてリハビリテーションを行い、機能回復を図ります。

リハビリテーションは回復過程に合わせて段階的に進め、過度な負荷は避けることが重要です。

リハビリテーションの進め方
  1. 急性期(固定中):腫脹管理、痛みのコントロール
  2. 回復初期:関節可動域訓練、軽度の筋力トレーニング
  3. 回復後期:筋力強化、日常生活動作訓練
  4. 維持期:スポーツ復帰トレーニング(必要に応じて)

上腕骨顆上骨折の治療期間と予後

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)の治療期間と予後は、骨折の程度や年齢、治療法によって大きく異なり、一般的に小児は成人よりも治癒が早く、予後も良好です。

また、病型によっても治療に必要な期間は変わってきます。

病型治療期間の目安
Type I(非転位骨折)3〜4週間
Type II(軽度転位)4〜6週間
Type III(完全転位)6〜8週間
Type IV(多方向不安定性)8週間以上
※リハビリテーション期間は含みません。

予後

上腕骨顆上骨折の予後は骨、患者、および再構築能力が大きく影響します。

再構築能力に影響する要因

  • 患者の年齢および残りの成長量
  • 骨端からの骨折の距離
  • 変形の平面
  • 転位の程度

上腕骨遠位骨端は、上腕骨の長軸方向の成長の20%を占めます。上腕骨遠位骨端の骨癒合が起こった場合、再構築する能力はあまり高くありません。

肘では、矢状面変形のほうが冠状面変形よりも再構築の可能性が高いです。

若い方は成長が残っているため再構築の可能性は高いですが、矢状面変形の場合のみで、冠状面変形は再構築されません。

患者因子

5歳未満の小児は、5歳以上の小児よりも良好に治る可能性が高いです。

5歳以降では、小児の上腕骨遠位端の成長の残存は限られています。

また肥満は、外傷の重症度および予後の悪化の指標です。

外傷特有の因子

  • 外傷の重症度
  • 整復および固定の適切性
  • 四肢の神経血管状態

骨折の状態に合わせた治療により、これらの損傷の長期予後は改善します。

転位のないガートランドI型骨折は、合併症なく良好に治癒するケースが多いです。

内側粉砕を伴うガートランドII型骨折は、認識ができずに整復および固定が行われない場合、肘頭内反症を発症しやすくなります。

ガートランドIII型およびIV型の損傷は、神経血管損傷を伴う可能性が高いものの、治療の時期を見極めることで良好な結果につながります。

合併症による予後への影響

上腕骨顆上骨折に合併症が伴う場合、治療期間が長引いたり、後遺症が残ったりするおそれがあります。

合併症予後への影響
神経損傷回復に数か月〜数年かかる場合がある
血管損傷緊急処置が必要、遅延すると重大な後遺症につながる
コンパートメント症候群早期発見・治療が重要、遅延すると機能障害のリスクが高まる
肘関節拘縮リハビリで改善可能だが、長期化する可能性もある
偽関節および変形回内変形、内反肘、橈骨外反などを引き起こす

治療の副作用とデメリット

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)の治療は、多くのケースで良好な結果をもたらしますが、副作用やデメリットが生じるリスクもあります。

保存的治療の副作用とデメリット

主に軽度の骨折に対して行われる保存的治療では、関節や筋肉を動かす機会が減るため、周囲の組織が固くなったり筋力が衰えたりする場合があります。

また、正しい方法で患部を固定しないと、骨が変形したまま治癒してしまうおそれがあるため、定期的な検査が重要です。

副作用・デメリット原因対策
関節拘縮長期の固定固定解除のタイミングを見極める
筋力低下不動による筋萎縮早期にリハビリテーションを始める
変形治癒不適切な整復位定期的にX線評価と再整復を行う
皮膚トラブルギプスによる圧迫パディング(包帯での保護)を行う

手術的治療のリスク

  • 感染症:手術部分に細菌が入って感染する
  • 神経損傷:神経がダメージを受け、感覚障害や運動障害が生じる
  • 血管損傷:血管壁が壊れて血栓を形成する
  • 骨癒合不全:骨折部分が癒合しない
  • 異所性骨化:本来骨組織が存在しない部位に骨形成が生じる

手術の複雑さや患者さんの状態によって発生リスクの高さは異なりますが、心臓や肺に影響を与える重篤な合併症も起こりうるため、手術を受ける際は慎重な検討が必要です。

保険適用と治療費

上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)の治療は、基本的に健康保険の適用対象となります。

保険適用となる項目
  • 初診料および再診料
  • 各種検査費用(X線、CT、MRIなど)
  • 手術費用
  • 入院費用
  • 投薬費用
  • リハビリテーション費用

ただし、検査方法や治療法によっては保険の適用がなく、全額自己負担となります。

治療費の目安

治療法概算費用(3割負担の場合)
保存的治療5万〜15万円
経皮的ピンニング15万〜30万円
観血的整復固定術30万〜50万円
※上記の費用には初診料、検査費用、処置費用、入院費用(必要な場合)が含まれます。

手術を伴わない保存的治療では5万~15万円、手術的治療では15万~50万円が治療費の目安です。

加入している保険の種類によって自己負担額は異なるため、具体的な金額については各医療機関にお問い合わせください。

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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