橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ, Distal radius fractures)とは、手首に近い部分の「橈骨(とうこつ)」という骨が折れてしまう骨折です。
転んだ際に手をついて発生するケースが多く(FOOSH損傷)、痛みや腫れ、動きの制限などの症状が現れます。
橈骨遠位端骨折の病型
橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)には多くの種類があり、異なった損傷のメカニズムで異なった管理が必要になります。
- コーレス骨折(Colles)
- スミス骨折(Smith)
- Die-Punch骨折
- ガレアッツィ骨折(Galeazzi fracture)
- バートン骨折(Barton’s fracture)
- 若木骨折と膨隆骨折(Greenstick and Torus fracture)
- 骨端線損傷
コーレス骨折(Colles)
成人における橈骨遠位端骨折で最も多いタイプです。
遠位骨片が背側に変形し転位するため、外観がフォーク状に変形しているようにみえます。着地時に手のひらをついて強い衝撃が加わるために起こるケースが多いです。
スミス骨折(Smith)
コーレス骨折と反対の状態になる骨折です。対照的に、遠位骨片が掌側に転位します。
手の背側(手の甲)から落下したり、直接的な打撃を受けたりして受傷します。
Die-Punch(ダイパンチ)骨折
橈骨の月状関節面が関与する関節内骨折です。月状骨への軸負荷により発生し、橈骨の月状面への圧迫骨折を引き起こします。
単独で発生する人も多いですが、関連損傷を伴う場合もあります。
ガレアッツィ骨折(Galeazzi fracture)
橈骨遠位3分の1の骨折に加えて、遠位橈尺関節(DRUJ)の脱臼を伴うタイプです。あまり一般的ではない損傷パターンであり、臨床医が橈尺関節遠位部(DRUJ)を見落としやすいです。
尺骨の転位の方向に基づいて分類されます。たとえば、DRUJの転位が尺骨の手掌側偏位を引き起こしているときは「掌側ガレアッツィ骨折」として分類します。
バートン骨折(Barton’s fracture)
橈骨遠位端の関節内縁骨折で、背側または掌側に分類します。
背側縁骨折はより一般的であり、強制的な背屈および回内により生じる骨折です。掌側縁骨折は、回外した手首への転倒により生じることが多いです。
これらの力により、橈骨手根靭帯が断裂し、橈骨縁が剥離骨折します。背側骨折では、剥離した断片が背側に移動しますが、掌側骨折ではその逆のことが起こります。
これらの骨折は不安定であり、手根骨の脱臼を伴うケースがよくあります。
若木骨折と膨隆骨折(Greenstick and Torus fracture)
若木骨折と膨隆骨折は、いずれも不完全骨折です。子どもに非常に多く見られますが、残念ながら見逃される例も少なくありません。
小児の骨は成人と比較して石灰化が不十分であり、明らかな骨折を生じずに曲がる可能性があります。
若木骨折と膨隆骨折はあらゆる長管骨に起こりえますが、橈骨遠位骨幹端に生じる頻度が高いです。膨隆骨折は軸負荷により生じ、若木骨折は曲げ力により生じます。
膨隆骨折は明らかな骨折線がなく骨皮質および骨膜が座屈する点に特徴があり、若木骨折では骨の曲がりが見られます。凸面が骨折し、凹面は無傷です。
骨端線損傷
成長線(成長軟骨板)の損傷が関与する小児の骨折です。同じ骨端線損傷であっても、分類によって予後と管理が異なります。
ソルターハリス分類が一般的で、Ⅰ度からⅤ度に分類します。
I型 | 成長板を横断する骨折 |
---|---|
Ⅱ型 | 骨折線が成長板と骨幹端を貫通 |
Ⅲ型 | 成長板と骨端軟骨の両方に及ぶ骨折 |
Ⅳ型 | 骨幹端、骨端軟骨、成長板の骨折 |
Ⅴ型 | 成長板の完全な直接圧迫骨折 |
橈骨遠位端骨折の症状
橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)では手首に強い痛みや腫れが生じ、場合によっては変形が見られ、手首の動きが制限されます。
一般的には時間の経過とともに症状が変化していきます。
時期 | 症状の特徴 |
---|---|
受傷直後 | 激痛と急性の腫脹 |
数日後 | 痛みのピークと広範囲の内出血 |
1週間後 | 痛みの緩和開始、腫れの減少 |
2週間以降 | 徐々に機能回復、残存痛あり |
急性期の主要症状
症状 | 特徴 |
---|---|
激しい痛み | 手首全体に広がる鋭い痛み |
腫れ | 手首周辺の顕著な腫脹 |
変形 | 手首の外観が通常と異なる |
動作制限 | 手首の動きが著しく制限される |
橈骨遠位端骨折の急性期には、激しい痛みや手首周辺の腫れなどが現れます。
症状は骨折直後から数時間以内に出現し、骨折の重症度によっては耐えがたい痛みとなる場合もあります。
二次的な症状
主要な症状に加えて、骨折による神経や軟部組織への影響により、手首や指の感覚異常(しびれ)、握力の低下、手首の不安定感、手首を動かした際のクリック音のような二次的な症状が現れる人もいます。
※二次的な症状の有無や程度は、人によって異なります。
見逃しやすい軽度の症状
橈骨遠位端骨折のなかには、初期症状が軽微で見逃されやすいケースがあります。
手首の不快感が持続する、特定の動作時のみに痛みが現る、軽度でも持続する腫れや手首の微妙な変形がある、といった場合には、骨折の可能性を考慮します。
軽度の症状が続くときは、放置せずに精密な検査を受けましょう。
小児では言葉で表現できない子も多く、元気そうに見えても、負傷していない腕を好んで使う(片手だけでよく遊ぶ)程度が骨折の唯一の兆候であるケースもみられます。
橈骨遠位端骨折の原因
橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)の主な原因には事故や転倒が挙げられますが、手を伸ばした状態での転倒(FOOSH)による外傷で最も頻繁に起きます。
人によっては骨がもろくなり、橈骨遠位端骨折へと発展する場合もあります。
- 転倒による骨折
- スポーツや運動中の受傷
- 交通事故による外傷
- 高所からの落下
- 骨粗鬆症による脆弱性骨折
転倒による骨折
転倒は橈骨遠位端骨折の最も一般的な原因です。高齢者ではバランス機能の低下や筋力低下によって、平坦な場所でも転倒リスクが高くなります。
また、めまいや視力低下、関節炎などの疾患要因が転倒につながり、橈骨遠位端骨折を引き起こすケースもあります。
スポーツや運動中の受傷
スケードボードやスノーボード、サッカー(とくにゴールキーパー)などの手をつくような形で転倒しやすいスポーツをしている際に、橈骨遠位端骨折は起こりやすくなります。
特に久しぶりの運動であったり、ウォーミングアップが不十分なままスポーツを始めてしまったりしたときに受傷しやすいです。
交通事故による外傷
交通事故も橈骨遠位端骨折の原因となります。自動車を運転している際よりも、自転車やバイクなどを運転している際のほうが起こりやすいです。
自転車やバイクの事故では転倒時に手首に大きな力が加わることが多く、橈骨遠位端骨折につながります。
高所からの落下
高いところから落ちるときには反射的に手が身体の前に出るケースが多いので、高所作業やはしご使用中の事故で橈骨遠位端骨折が起こる人もいます。
不安定な足場や不適切なはしごの使用、強風や豪雨のなかでの作業は落下しやすいので、安全器具の使用や悪天候時は作業を中止するなどの工夫が必要です。
骨粗鬆症による脆弱性骨折
骨粗鬆症の方は、骨密度の低下により、通常では骨折しないような軽微な外力でも骨折を起こしやすくなります。
閉経後の女性や高齢者はとくにリスクが高まるため、定期的な骨密度検査や、カルシウム・ビタミンDの十分な摂取などの対策が大切になってきます。
橈骨遠位端骨折の検査・チェック方法
橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)の検査ではX線検査やCT検査を主に実施し、骨折の有無、程度、骨のずれなどを確認します。
単純なX線検査だけでは見逃される可能性があるため、複数の検査方法を組み合わせての総合的な評価が必要です。
- 問診・視診
- 身体診察
- 画像診断
- 血液検査・生化学検査
- 骨密度検査
問診と視診
問診では、どのような状況で怪我をしたか、痛みの部位や強さ、持続時間などを確認します。手の動かしにくさ、日常生活への影響がどの程度あるのかなどもお聞かせください。
視診では、腫れや変形、皮膚の状態や裂傷の有無を確認します。
身体診察
- 触診:骨の変形や圧痛点の確認
- 関節可動域テスト:手首の動きの制限を評価
- 神経学的検査:感覚異常や筋力低下の有無を確認
- 血流チェック:指先の色や温度、脈拍を確認
問診と視診に続いて行われるのが身体診察です。
触診や関節可動域テストなどでは骨折の有無だけでなく、周囲の軟部組織や神経血管系の状態も評価していきます。
画像診断
検査方法 | 特徴 |
---|---|
X線検査 | 骨折の有無や位置を確認する |
CT検査 | 骨折や関節面の状態を評価 |
MRI検査 | 軟部組織の損傷や骨髄の状態を確認 |
超音波検査 | 腱や靭帯の損傷を評価 |
X線検査は通常、正面像と側面像の2方向で撮影します。微細な骨折や関節内骨折では、CTやMRIなどの高度な画像診断を行う場合もあります。
血液検査と生化学検査
骨折の診断に直接関係はありませんが、全身状態の評価や手術の可否判断のため、血液検査や生化学検査を行う場合もあります。
- 血液一般検査:貧血や炎症の有無を確認
- 凝固機能検査:出血傾向の評価
- 生化学検査:肝機能や腎機能の確認
- 電解質検査:ミネラルバランスの評価
骨密度検査
骨密度検査は、骨粗鬆症が疑われる際に実施する検査です。
X線や超音波などを用いて行うもので、将来的な骨折リスクの評価や予防策の検討に役立ちます。
橈骨遠位端骨折の治療方法と治療薬、リハビリテーション
橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)の治療法は骨折の程度や患者さんの状態によって、保存的治療から手術的治療までさまざまな選択肢があります。
- 保存的治療:徒手整復、固定、装具使用
- 手術的治療:経皮的ピンニング、プレート固定、創外固定
- 薬物療法:鎮痛剤、抗凝固薬、ビタミンD・カルシウム製剤、ビスホスホネート製剤
- リハビリテーション:関節可動域訓練、筋力強化、日常生活動作訓練など
保存的治療
保存的治療は、骨折の転位が少ない場合や手術リスクが高い人に対して行われる治療方法です。
適応基準は、短縮が5mm以下、橈骨傾斜(radical inclination)の変化が5度以下、関節面のずれが2mm以下、角度変化(volar tilt)が5度以下です。
皮膚の上から医師の手技による徒手整復を行った後に、ギプス固定やシーネ固定、機能的装具を使用します。
5歳未満の小児は、最大35度の側方角と10度の前後角の変形まで保存療法で耐えられます。5歳から10歳までの小児は最大25度の側方角と10度の前後角まで、10歳を超える小児では側方角20度未満、前方角0度未満に矯正すべきです。
通常は4~6週間ほど前腕ギプスで固定します。
手術的治療
骨折の転位が大きい、または関節内骨折の場合には、手術的治療を検討します。具体的な手術方法には、経皮的ピンニングやプレート固定、創外固定があります。
手術後は骨折の安定性を確保しつつ、リハビリテーションを開始します。
薬物療法
骨折の治癒を促進し、合併症を予防するために、鎮痛剤や抗凝固薬などを処方する場合があります。
- 鎮痛剤:痛みのコントロール
- 抗凝固薬:深部静脈血栓症の予防
- ビタミンD・カルシウム製剤:骨形成の促進
- ビスホスホネート製剤:骨粗鬆症患者の骨折予防
リハビリテーション
リハビリ段階 | 主な内容 |
---|---|
急性期 | 腫脹・疼痛管理、関節可動域訓練 |
回復期 | 筋力強化、日常生活動作訓練 |
維持期 | スポーツ復帰訓練、職業復帰支援 |
リハビリテーションは、手の機能回復と日常生活動作の改善に不可欠です。
早期からのリハビリテーション開始が良好な機能回復につながりますが、過度な負担を避け、段階的に進める取り組みが重要となります。
薬の副作用や治療のデメリット
橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)では、どの治療法にも潜在的な副作用やデメリットが存在します。
保存的治療のデメリット
保存的療法では、長期の固定による関節の動きの制限(関節拘縮)や使用しない筋肉の衰え(筋萎縮)などのデメリットがあります。
完全な骨の癒合が得られない、不適切な位置で骨が癒合してしまう、といったことも考えられ、これらのデメリットはとくに高齢者や骨粗鬆症の人で顕著になる傾向があります。
手術的治療の副作用
骨折部位を内固定材で固定する手術的治療では、手術部位の感染、神経や血管の損傷、内固定材の破損や緩みといった副作用が起こることがあります。
また、複合性局所疼痛症候群(CRPS)を発症するリスクもあります。
リハビリテーションに関連する問題
治療後のリハビリテーションでは、痛みやむくみなどの問題が生じる可能性があります。
過度の運動は骨折部位の再損傷につながるケースもある一方で、リハビリ不足は機能回復の遅延が起こり得ますので、医師や理学療法士の指示に従って正しく行いましょう。
長期的な合併症
- 慢性的な痛み
- 手首の可動域制限
- 握力の低下
- 変形性関節症の進行
橈骨遠位端骨折の治療が終わっても、痛みや手首の動かしにくさ、握力の低下などの長期的な合併症が生じる方もいます。
日常生活や仕事への影響を及ぼす可能性があるため、気になる点があればすぐに受診するようにしましょう。
内固定材に関連する問題
手術で使用される内固定材のデメリットは、金属アレルギーの発症や寒冷時の不快な感覚、再手術の必要性(内固定材の抜去のため)です。
また、飛行機を利用する際に、空港のセキュリティチェックに引っかかるケースもあります。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)の治療費は一般的に保険適用となりますが、自己負担額は年齢や所得によって変動します。
保険適用の基本
- 診察料
- X線などの画像診断費
- 手術費用
- 入院費用
- 薬剤費
- リハビリテーション費用
橈骨遠位端骨折の治療は、基本的に健康保険の適用対象です。
保険適用される主な項目には、診察料や画像診断費、手術や入院費用、薬剤費などが含まれます。
自己負担額の概算
年齢層 | 自己負担割合 |
---|---|
70歳未満 | 30% |
70〜74歳 | 20%または30% |
75歳以上 | 10%または30% |
自己負担額は年齢や加入している保険の種類によって異なりますが、基本的には10~30%です。
ただし、1カ月あたりの医療費が高額になったときには、上限を超えた分が払い戻される高額療養費制度を利用できます。
治療方法別の概算費用
初診から治療終了までの一連の費用の目安です。ただし、症状や医療機関によって変動する場合があります。
治療方法 | 概算総費用 | 自己負担額(30%の場合) |
---|---|---|
保存的治療 | 10〜20万円 | 3〜6万円 |
手術(プレート固定) | 50〜80万円 | 15〜24万円 |
手術(創外固定) | 40〜60万円 | 12〜18万円 |
入院期間と費用
手術の際には、通常1週間程度の入院が必要です。入院治療では、入院基本料、食事療養費、処置料、投薬料、リハビリテーション料などがかかります。
一般的な入院費用は1日あたり2〜3万円程度が目安となり、そのうちの30%(4.2〜6.3万円)が自己負担となります。
外来での費用
項目 | 概算費用 |
---|---|
再診料 | 700〜1,000円 |
X線検査 | 2,000〜3,000円 |
リハビリテーション(1回) | 2,000〜3,000円 |
退院後も定期的な外来通院が必要ですが、保険適用となるため自己負担は10~30%となります。通常、完治までに5〜10回程度の通院が必要となる場合が多いです。
詳しい治療内容や費用については、担当の医療機関にお問い合わせください。
以上
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