症候性大腿骨頭壊死症

症候性大腿骨頭壊死症(しょうこうせいだいたいこっとうえししょう)(Symptomatic Femoral Head Necrosis , SFHN)とは、大腿骨頭の一部が血流の低下により壊死(血が通わなくなって骨組織が死んだ状態)に陥った疾患を指します。

とくに30~50歳代の働き盛りの年代で好発し、急に生じる股関節の痛みが自覚症状の特徴です。

ただし、腰痛や膝の痛み、お尻の痛みなどが最初に現れる人もいます。

当記事では、症候性大腿骨頭壊死症の症状や治療法について詳しく解説します。

この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

症候性大腿骨頭壊死症の分類

症候性大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)症の文献で使用されている分類には、FicatとArlet、Steinberg、Association Research Circulation Osseous(ARCO)など複数の分類があります。

主な病型分類

FicatとArletの分類

ステージ1レントゲン写真正常。
ステージ2正常な大腿骨頭真球度。嚢胞や骨硬化領域などの骨再形成の徴候がある。
ステージ3大腿骨頭の軟骨下崩壊または扁平化。
ステージ4寛骨臼に関節腔の狭小化を伴う退行性変化が認められる。

Steinberg分類

ステージ0症状なし、正常X線写真、MRI非特異的
ステージ1軽度の臀部痛または内旋時痛、正常X線写真、MRIで診断可能
ステージ2痛みの悪化または持続、大腿骨頭の硬化または嚢胞(のうほう)の増大
ステージ3軟骨下病変(三日月徴候)
ステージ4大腿骨頭の扁平化、正常な関節腔
ステージ5大腿骨頭の病変を伴う、もしくは伴わない関節腔の狭小化
ステージ6進行した退行性変化

2019年に改訂された大腿骨頭壊死症のARCO病期分類

IX線:正常 MRI:T1強調MRIで低信号域
IIX線:異常 MRI:異常
IIIX線またはCTでの軟骨下骨折
IIIA(早期)大腿骨頭陥凹2mm以下
IIIB(後期)大腿骨頭陥凹>2mm
IVX線:変形性関節症

これらの分類はすべて、保存的治療が可能であるか否かや、大腿骨頭崩壊前の病変と崩壊後の病変の鑑別を目的としています。

症候性大腿骨頭壊死症の症状

症候性大腿骨頭壊死症(しょうこうせいだいたいこっとうえししょう)の主な症状は、関節痛、運動障害、夜間痛などがあげられますが、個人差があり病状の進行度によっても変化します。

初期段階では症状が軽いケースが多く、進行するにつれてより症状が重くなり、日常生活への影響も大きくなります。

症状特徴
関節痛股関節周囲の痛みが活動時に現れる
運動障害股関節の動きが制限される、日常動作が困難になる
夜間痛休息時や夜間に痛みが増す

痛み

症候性大腿骨頭壊死症の最も一般的な症状は、痛みです。

初期には股関節周辺や太ももに軽度の痛みが現れるケースが多く、活動後はとくに症状が悪化する傾向があります。

病状が進行するにつれ、痛みは休息時にも感じられるようになり、夜間や安静時にも悪化する場合があります。

関節のこわばりと可動域の制限

関節のこわばりや動きの制限も、症候性大腿骨頭壊死症の症状の一つです。

大腿骨頭の壊死が進むと股関節の曲げ伸ばしの動作に制限が出て、一定の位置からそれ以上動かすのが難しくなります。

歩行時の異常

症候性大腿骨頭壊死症では、歩行時の異常が現れ、日常生活において不便を感じる場合があります。

股関節をかばうように歩いたり、足を引きずって歩いたりする人もみられますが、歩行時の異常は痛みや関節の動きの制限、関節の不安定性、筋力の低下によるものです。

活動制限

痛みが出る、関節が上手く動かないといった理由から、日常活動に制限を感じるケースも多いです。

とくに、階段の上り下り、靴下の着脱、長時間座るなどの動作が困難になります。

症候性大腿骨頭壊死症の原因

症候性大腿骨頭壊死症(しょうこうせいだいたいこっとうえししょう)は、大腿骨の頭部分(太ももの骨の先端の丸い部分)への血液供給が不足し、発生する病気です。

原因説明影響
外傷や圧迫股関節や周囲の外傷や圧迫は、大腿骨頭への血液供給を阻害する可能性がある。血流障害、骨組織の損傷
特定の疾患鎌状赤血球症や全身性エリテマトーデスなどの疾患は、血流障害を引き起こす可能性がある。血液の流れや質の変化

外傷や圧迫

股関節周辺への外傷や圧迫は、症候性大腿骨頭壊死症の原因となり得ます。

直接的な打撲や骨折、スポーツによる反復的な圧迫やストレスは、骨頭への血流を障害し骨壊死を引き起こすケースがあるため注意が必要です。

特定の疾患

全身性エリテマトーデス(SLE)や、鎌状赤血球貧血などの特定の病気が症候性大腿骨頭壊死症を発症させる場合があります。

血栓ができやすい、血管を狭めるなどの特徴がある疾患では、骨頭への血流を阻害し大腿骨頭の壊死を引き起こしやすくなります。

また、股関節周辺への放射線照射、塞栓症、ダイバーに起こる潜函病なども考えられる原因の一つです。

症候性大腿骨頭壊死症に関わる疾患

疾患説明
全身性エリテマトーデス自己免疫疾患の一つ。発熱、関節炎、高血圧などの症状が現れる。
鎌状(かまじょう)赤血球貧血赤血球に異常が現れる疾患。貧血、発熱、息苦しさ、黄疸などが症状としてみられる。
塞栓症血管内で生じた血栓が血流で流されて、別の部位の血管を塞ぐ状態。
股関節周辺のがん股関節周辺へ放射線照射をした後に、症候性大腿骨頭壊死症が起きるケースがある。
潜函病(せんかんびょう)・減圧症潜水に関連して起こる圧力の変化で引き起こされる疾患。しびれ、血圧の低下、関節痛、筋肉痛などが症状として現れる。

突発性大腿骨頭壊死症との違いは発症の原因

症候性大腿骨頭壊死症に似た疾患には、突発性大腿骨頭壊死症(指定難病71)があります。2つの違いは発症の原因です。

外傷、塞栓症、全身性エリテマトーデスなど、大腿骨頭壊死との間に明らかな因果関係を認める基礎疾患のあるもの、外傷や圧迫などが原因のものが症候性大腿骨頭壊死症に分類されます。

対して、明らかな基礎疾患がないものや発症の原因が明確ではないものが突発性大腿骨頭壊死症にあたります。

症候性大腿骨頭壊死症の検査・チェック方法

症候性大腿骨頭壊死症(しょうこうせいだいたいこっとうえししょう)の診断には、X線検査やMRI検査などの画像診断が用いられます。

検査方法説明目的
X線検査(レントゲン検査)骨の構造を画像化し、変形や崩壊の有無を確認します。骨の変形や壊死の程度の評価
MRI検査(磁気共鳴画像法)高い解像度で骨と周囲の軟部組織の画像を得ます。初期の病変や軟部組織の状態の把握
CT検査(コンピュータ断層撮影)3次元的に骨の構造を詳細に観察します。骨の詳細な構造と病変の評価
骨シンチグラフィ検査放射性同位元素を用いて骨の代謝活動を可視化します。代謝の異常が見られる部位の特定

X線検査(レントゲン検査)

X線検査(レントゲン検査)は、大腿骨頭の変形や損傷の程度を確認するための最も基本的な検査方法です。

初期段階ではX線検査で変化が見られない場合もありますが、病状が進むと骨の変形や崩壊の有無、骨密度の減少が確認できるようになります。

最初の診断に使用されるだけでなく、治療の効果を観察するためにも定期的に行われます。

MRI検査(磁気共鳴画像法)

MRI検査(磁気共鳴画像法)はX線検査では確認できない骨の微細な変化や、周囲の組織の状態を詳細に観察するのに有効です。

初期段階での微細な変化を捉えられるため早期の診断に役立ちます。

また、周囲の軟部組織の健康状態も同時に評価できるため、総合的な診断情報を得られるのがメリットです。

CT検査(コンピュータ断層撮影)

CT検査(コンピュータ断層撮影)は骨の詳細な構造を立体的に見られるため、骨の変形や崩壊の程度を詳細に評価するのに適しています。

骨の細かな構造や病変の局在を正確に把握でき、外科的介入が検討される際に必要となる情報が得られます。

ただし、MRIと比較して診断精度が劣りますので、より精密な情報を得るためには他の検査が必要です。

骨シンチグラフィ検査

骨シンチグラフィ検査は、放射性同位元素を使用して骨組織の代謝活動を画像化する検査です。

他の検査では見落とされがちな症候性大腿骨頭壊死症の初期段階での異常が見つかるケースがあります。

症候性大腿骨頭壊死症の治療法、治療薬、リハビリテーション

症候性大腿骨頭壊死症(しょうこうせいだいたいこっとうえししょう)の治療では、治療薬、外科的治療、リハビリテーションが行われます。

治療方法詳細
治療薬非ステロイド性抗炎症薬、ビスホスホネート
外科的治療骨内の減圧術、骨移植、関節置換術(人工関節置換)
リハビリテーション運動療法、物理療法

治療薬

薬剤処方薬の例効果
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)イブプロフェン、ロキソニン痛みと炎症の軽減
ビスホスホネートアレンドロネート骨密度の減少を防ぐ

症候性大腿骨頭壊死症の治療薬には、非ステロイド性抗炎症薬やビスホスホネートが使用されます。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は痛みと炎症を軽減するために用いられ、ビスホスホネートは骨の吸収を抑え骨密度の低下を防ぐ薬剤です。

外科的治療

手術説明
骨内の減圧術大腿骨頭内の圧力を減少させ、血流を改善する手術です。
骨移植壊死した骨を健康な骨で置き換える手術です。
関節置換術(人工関節置換)重度の症例において、損傷した関節を人工関節で置き換える手術です。

外科的治療法は、治療薬やリハビリテーションだけでは症状が改善しないときや病状が進行しているときに検討されます。

骨内の減圧術(core decompression)は骨壊死に対して最もよく行われる方法で、大腿骨頭内の圧力を低減し血流を改善するための手術です。

骨移植は壊死した骨を健康な骨で置き換える手術で、とくに早期の症例において効果的です。

一方、重度の症例では、関節置換術(人工関節置換)で損傷した関節を人工関節に置き換えます。

リハビリテーション

リハビリテーションの内容説明
運動療法関節の可動域を維持し、筋力を向上させるために行われます。
物理療法痛みの軽減と関節機能の改善を目的としています。

リハビリテーションは筋力を向上させ、関節の可動域を維持するための重要な治療法です。

運動療法は関節周囲の筋肉を強化し、関節の安定性を高めるのを目的としています。

対して物理療法では、熱治療、冷却療法、電気刺激などを用いて痛みを軽減させて関節の動きを促進します。

症候性大腿骨頭壊死症の治療期間と予後

症候性大腿骨頭壊死症(しょうこうせいだいたいこっとうえししょう)は、初期であれば数週間~数カ月程度の治療期間が一般的ですが、病状の進行度や治療法によって異なります。

早期治療はもちろん、医師の指示に従い、定期的に受診していただくと治療期間を短縮できます。

症状の段階治療期間の目安予後
初期数週間早期治療を行うと良好な予後が期待できます。
中等度数カ月関節機能の回復や痛みの軽減を目指しますが、完全な回復は難しいケースもあります。
重度数カ月以上外科手術を含む治療が必要です。

治療期間

病状が軽度のときや手術以外の方法を選択したときには、数週間~数カ月程度の治療期間が一般的です。

一方、病状が中等度から重度である、手術を含む治療を選択した、といった場合には治療期間がより長くなる傾向があり、手術後のリハビリテーション期間も含めると1年以上かかる人もいます。

予後

早期に発見し治療が行われる場合の予後は比較的良好で、症状の改善と病状の安定化が期待できます。

対して、中等度や重度の段階では関節機能の回復や痛みの軽減を目指しますが、完全な機能回復は難しいケースがある点に注意が必要です。

症候性大腿骨頭壊死症の薬の副作用や治療のデメリット

症候性大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)症の治療には、それぞれに副作用やデメリットがあります。

治療方法副作用やデメリット
治療薬胃腸障害、腎機能障害、心血管系の問題など
外科的治療感染症のリスク、手術部位の痛み、骨の定着失敗など
リハビリテーション筋肉痛や関節の過度な疲労、時間と労力の必要性など

治療薬の副作用

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):消化器障害、肝機能障害、心血管系の問題、稀にアナフィラキシーショック
  • ビスホスホネート:発熱、筋肉痛、消化器障害、肝機能障害、顎骨壊死

骨密度の低下を防ぐ目的で使用されるビスホスホネートには、ごく稀に顎骨壊死(がっこつえし)の副作用が報告されています1)

顎骨壊死は、ビスホスホネート使用中のあご付近への放射線治療、抜歯などの歯科処置、口腔内の不衛生などの条件が重なった場合に生じやすい傾向があります。

万が一、治療薬での副作用が認められたときには、使用を中止して早急に医師に相談してください。

外科的治療のデメリット

  • 骨内の減圧術:感染リスク、術後の腫れや痛み、深部静脈血栓症
  • 骨移植:感染リスク、術後の腫れや痛み、定着の失敗リスク、下肢深部静脈血栓症
  • 関節置換術(人工関節置換):感染リスク、術後の腫れや痛み、下肢深部静脈血栓症、脱臼や緩み、再手術の必要性

症候性大腿骨頭壊死症の外科的治療には術後の腫れや痛みのデメリットがあり、通常の生活に戻るまでは長期的なリハビリテーションが必要になります。

関節置換術は人工関節がすり減ったり緩んだりする可能性があり、長期的にみて再手術が必要になる人も多いです。

人工関節の耐用年数は15~20年程度と言われていますが、すり減りや緩みは症状を自覚しない場合も多いので定期的に診察を受けましょう。

リハビリテーションのデメリット

  • 筋肉痛や関節の過度な疲労
  • 定期的な通院が必要

リハビリテーションは比較的デメリットの少ない治療法です。

ただし、筋肉痛や関節の過度な疲労が起こる可能性があり、定期的に通院していただく時間も必要になります。

過度のリハビリテーションや間違った方法で行われるトレーニングは、症状を悪化させる原因になりますので、医師や理学療法士の指導に従って行うようにしてください。

症候性大腿骨頭壊死症の治療費について

症候性大腿骨頭壊死症(しょうこうせいだいたいこっとうえししょう)の一般的な治療には、保険が適用されます。

突発性大腿骨頭壊死症の場合は、指定難病のため1カ月の治療費は最高3万円です。(難病情報センター:特発性大腿骨頭壊死症(指定難病71)

保険適用について

症候性大腿骨頭壊死症の診察や検査、治療薬や手術は保険適応です。

一方、保険適用外の治療としては再生医療などがあります。

1か月あたりの治療費の目安

治療方法保険適用1カ月あたりの治療費の目安
人工関節置換術あり60~70万円程度
治療薬あり選択する薬により異なる
再生医療なし

症候性大腿骨頭壊死症の治療として人工関節置換術を行った場合の費用は、健康保険の3割負担で60~70万円、1割負担で20万が目安です。

手術は高額な費用がかかりますが、高額療養費制度※1が適用されるケースがほとんどです。

※1高額療養費制度:医療機関や薬局などで支払う医療費が1カ月の間に上限額を超えたときに、その超えた額を支給する制度。1カ月の上限額は、年齢や所得によって異なる。

治療方法ごとの具体的な金額については、主治医や医療機関のスタッフにご相談ください。

参考文献

1) ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死/厚生労働省

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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