足底腱膜炎(そくていけんまくえん)

足底腱膜炎(そくていけんまくえん, Plantar fasciitis)とは、歩行や立位に不可欠な足の裏の構造に、炎症や変性が生じる状態です。

日常的な歩行や運動が原因で発症する場合が多く、運動後や休息後の最初の歩行時に痛みが強くなる傾向があります。

この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)の疫学・病態生理

足底腱膜炎は足底筋膜炎とも呼ばれ、両者は同じ疾患を指します。その名前とは裏腹に、炎症が主原因ではなく、足底筋膜やその周囲組織の変性刺激から症状が出現するのが特徴です。

足底腱膜炎は、筋膜の反復的な微小断裂の結果、炎症反応を引き起こす足底筋膜の変性が生じています。

足底筋膜は踵骨を起点とする3つのセグメントから構成され、足の正常なバイオメカニクスを維持して不可欠なアーチサポートを提供し、ショックアブソーバーとして重要な役割を果たしている筋膜です。

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)の疫学

足底腱膜炎の年齢別の正確な発生率および有病率は不明ですが、ランナー関連の傷害の約10%、専門的な治療を必要とする足の症状全体の11%~15%を占めています。

足底腱膜炎は一般人口の約10%に発症し、その83%は25~65歳の活動的な成人です。罹患率のピークは40~60歳の一般人口であり、症例の3分の1で両側性を呈します。

さらに、男性と比べて女性、18~44歳に対して45~64歳、肥満度を示すBMIが25以上の人がなりやすいと観察されています。

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)の病態生理

足底腱膜炎の最も一般的な病因は、足の生体力学的機能障害です。ただ、感染性、腫瘍性、関節炎性、神経性、外傷性、およびその他の全身性の疾患が原因となる場合もあります。

この病態は伝統的に、体重負荷によるアーチの反復的なストレスによって踵骨と筋膜の界面で生じる損傷を伴う、微小外傷(microtears)の発生による二次的なものであると考えられています。

繰り返される微小外傷による変性組織

足底筋膜の過度な伸張は筋膜に沿って、または踵骨に挿入される部分のいずれかに、微小外傷をもたらす可能性があります。

微小外傷の繰り返しは、足底筋膜線維の慢性的な変性の原因です。足底筋膜の変性組織と治癒組織の負荷は、睡眠後や運動不足であった期間の最初の数歩で足底の激しい痛みを引き起こします。

炎症性変化の有無に関わらず起こる変性プロセス

足底腱膜炎の実際は、線維芽細胞の増殖を含む炎症性変化の有無に関わらず起こる変性プロセスです。

この事実は、足底筋膜リリース手術を受けた人の筋膜の生検から証明されています。

筋膜症が誘因となる

研究により、筋膜症が誘因となる病理学的概念が導入されました。

筋膜症は腱膜症と同様に組織学的にみて、線維芽細胞の肥大、炎症細胞の不在、コラーゲンの無秩序化、無血行性ゾーンを伴う混沌とした血管過形成を特徴とする慢性変性疾患と定義されています。

非炎症性状態・血管系の機能不全

筋膜症による変化は非炎症性状態および機能不全の血管系を示唆していて、超音波検査で確認できます。

血管が減少して障害された筋膜を通る栄養血流が損なわれると、細胞が修復とリモデリングに必要な細胞外マトリックスを合成するのが困難になります。

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)の症状

足底腱膜炎の一般的な症状は痛みで、かかと、足裏、足のアーチに現れます。

症状説明
かかとの痛み朝起きた後の最初の数歩、長時間座った後に立ち上がったときに強く感じる人が多いです。典型的には、かかとの下や内側にする鋭い痛みを感じます。
足裏の痛み長時間歩いた後や走った後に痛みが増す場合があり、運動量が増えることで1日中痛みが続く人もいます。
足のアーチの痛み足のアーチが炎症を起こしている際は、痛みを伴う傾向があります。足を動かす際にとくに感じやすいです。
活動開始時の痛み運動や歩行を始めた直後に痛みが出やすく、しばらくすると温まってきて痛みが和らぐときがあります。
夜間痛休息中に患部の炎症が進行し、夜間に痛みを感じる例もみられます。
圧痛かかとの特定の部分を押すと痛みが強くなるときがあります。

痛みの特徴

足底腱膜炎で最も一般的に報告される症状は、足の裏(とくにかかとの内側の辺り)で感じる鋭い痛みです。

痛みは朝起きた後の最初の数歩や長時間座った後に立ち上がった際に最も強く感じられるケースが多く、日中は活動を続けるうちに徐々に軽減する場合があります。

ただし、長時間立っているとまた痛みが悪化する人もいます。

歩行時の不快感

足底腱膜炎による痛みは、歩行や走行を含む足を使う活動全般に影響を及ぼします。

症状が進行すると足の裏全体にわたって不快感が現れ、日常生活の質(QOL)が低下する可能性があります。とくに困難を感じるのが硬い地面を歩くときです。

腫れや赤み

かかとの部分の腫れや赤みも足底腱膜炎の症状の一つです。

足底腱膜に炎症が生じている外見上の証拠となり、炎症が最も重い段階で顕著になるケースもあります。

圧痛

足の裏(とくにかかとの近く)を押すと痛みを感じる「圧痛」も、足底腱膜炎の一般的な症状です。

圧痛はその部分の感受性が高まっている状態を示しており、足底腱膜が過度にストレスを受けたり、微細な損傷を受けたりした結果として起こります。

活動後に痛みが増加

運動や長時間にわたる立ち仕事の後に足の裏の痛みが増すと訴える人も多いです。

足底腱膜が使用されたために炎症が悪化して、痛みの増加が起こります。

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)の原因

足底腱膜炎の背景には、足への過剰な負担や足の構造的な問題などのさまざまな原因があり、多因子性と考えられています。

原因説明
足への過剰な負担長時間歩行、立ち仕事、足の形に合わない靴の着用、不適切なトレーニングなど
足の構造的な問題扁平足、アキレス腱の硬さや短さ、かかとの脂肪組織の萎縮など

過剰なストレスと足の負担

  • 長時間歩行や立ち仕事による足への負担
  • 不適切な靴の着用、とくに足のアーチを十分にサポートしていない靴や軽量でクッション性の低いシューズ
  • 突然の運動量の増加や運動強度の上昇、不適切なトレーニング
  • スピードトレーニング、プライオメトリックス、坂道トレーニングのやり過ぎ
  • 硬い路面での運動
  • 体重の増加による足への追加的なストレス

足底腱膜への過剰なストレスや圧力が、足底腱膜炎の一般的な原因です。足底腱膜に予期せぬストレスが加わると、微小損傷や炎症を引き起こす可能性が高まります。

ただ、運動不足でも足底腱膜炎のリスクを高めると考えられています。

定期的な運動によって足の筋肉や腱が強化されて足底腱膜への負担が軽減されますが、運動不足は足底腱膜への負担を増加させる可能性があります。

足の構造的な問題とアライメント

  • 扁平足やハイアーチのような足の形状の異常
  • アキレス腱、ハムストリングスの硬さや短さ
  • 足のオーバープロネーション(過剰回内)
  • 肥満
  • 脚長不同(足の長さに左右差がある状態)
  • かかとの脂肪組織の萎縮
  • 加齢による足の筋肉や腱、腱膜の弾力性低下

足の形状やアライメントの問題も足底腱膜炎の原因となり得ます。

扁平足やハイアーチは足底腱膜に異常なストレスを与えやすく、足を地面についたときにかかとが内側に倒れるオーバープロネーションは、足底筋膜の緊張を高めます。

また、加齢による足の筋肉や腱、腱膜の弾力性の低下は、小さなストレスでも炎症が起きやすくなる原因です。

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)の検査・チェック方法

足底腱膜炎の検査は、身体所見や画像診断によって行われるのが一般的です。

検査方法目的詳細
初診時の評価症状の収集と分析症状、痛みの始まり、活動パターンについての質問
身体所見痛みの位置と構造的異常の確認足の触診、特にかかととアーチのチェック
画像診断腱膜の炎症や骨の異常の確認X線、MRIでの詳細な検査

初診時の評価

最初に、自覚症状の詳細、痛みが始まった時期、活動パターン、過去の足の怪我や病歴について質問します。この情報は、足底腱膜炎の可能性を評価する上で重要です。

ほとんどの人が、寝たり座ったりして、長時間体を動かさなかった後の最初の数歩の間に痛みが最も強くなると訴えます。

進行度と自覚症状

足底腱膜炎の初期では歩行時や運動時のウォーミングアップで痛みが軽減しますが、その後活動量が増えるにつれて一日中痛みが増します。

重症例では、長時間座った後にかかとの痛みを訴えます。1日の終わりや歩いたり立ったりした後に、かかとに鈍い痛みを感じる人も多いです。

また、痛みのほかに、足のこわばりやかかとの局所的な腫れを訴えるケースもあります。

問診から考えられる誘発因子の特定

病歴で重要なのは、足底腱膜炎が始まる前の期間です。可能であれば、初診時の評価の際に誘発因子を特定します。

痛みが生じる前に、ランニングやウォーキングなどの運動活動の量や強度を増やしたことを報告する人もいます。

また、硬い路面での運動を始めた、最近靴を履き替えた、といった可能性も考えられます。転倒や自動車事故などで足に外傷を負った経験も、問診で確認できる誘発因子の一つです。

身体所見

身体所見は、医師が足を直接触れて痛みの具体的な位置を特定し、足の構造的な異常がないかをチェックする検査です。

かかとの部分や足のアーチをとくに詳しく調べ、足底腱膜にかかる圧力の異常がないかを評価します。

痛みの確認

足底腱膜炎の痛みは、足底腱膜が踵骨に挿入されている部位の足底-内側踵骨結節を触診することで再現できます。

痛みが踵骨の直下や土踏まずのあたりに限局するケースはあまりありません。より重篤な症例では、足底筋膜の近位部を触診すると痛みが現れる場合があります。

ウィンドラステスト・つま先立ち・つま先歩き

足底腱膜炎の痛みを再現するその他の操作としては、ウィンドラステストと呼ばれる足指の受動的背屈、つま先立ちやつま先歩きがあります。

ウインドラステストは第1中足趾節関節の受動的背屈により疼痛を再現し、疼痛が誘発されれば陽性です。

他の疾患の除外

足底腱膜炎と同じように、足底に痛みが現れる可能性がある疾患を除外するための検査も重要です。

モートン神経腫

モートン神経腫は中足骨頭の間で指神経が巻き込まれるのが原因で、足底部に痛みを伴う神経腫ができる例もある疾患です。

第2趾と第3趾(足の人差し指と中指)、または第3趾と第4趾(足の薬指と小指)の中足骨頭を圧迫して前足部の痛みが現れるときはモートン神経腫の存在を示唆していますが、足底腱膜炎では典型的な所見ではありません。

疲労骨折(ストレス骨折)

足関節の可動域や踵骨の内側から外側への圧迫など、筋骨格系の十分な検査が診断の助けとなります。圧迫に伴う疼痛は、疲労骨折でよくみられる現象です。

滑膜包炎やアキレス腱炎

かかとと足首の後面を触診して圧痛があれば疑われるのが、アキレス腱滑膜包炎※1やアキレス腱炎※2です。

※1アキレス腱滑膜包炎:アキレス腱の前部の滑膜包(関節周辺にある液体が入った袋)が炎症を起こした状態。

※2アキレス腱炎:ふくらはぎの筋肉とかかとの骨を結ぶアキレス腱に炎症が起きた状態。

足根管症候群

足根管症候群※3は、内側踝の後方にある足根管を叩いて除外します。

※3足根管症候群(脛骨神経麻痺):内くるぶしの後方にある足根管に圧力が加わり、後脛骨神経が圧迫されて痛みやしびれが発生する。

足根管を叩くテストでは足根管症候群で痛みが現れますが、足底腱膜炎の人では痛みは認められません。

S1神経根症状

S1神経根症状を除外するために、ストレートレッグレイズテスト、アキレス腱反射、つま先立ちや片足かかと上げによるふくらはぎの筋力評価を行います。

足底腱膜炎の人では、これらの検査結果はすべて基準範囲内です。

画像診断

足底腱膜炎の確認にはX線やMRIなどの画像診断が有効で、腱膜の炎症、損傷の程度、または骨の異常(たとえば、かかとの骨にできる骨棘)などを詳しく調べられます。

X線

X線検査では軟部組織の石灰化または踵下面の踵棘が認められるケースがありますが、少なくとも半年以上足底筋膜に異常なストレスがかかっている状態を示すものです。

時間の経過とともに、Wolffの法則である「形は機能に従う」に合致した形で形成されます。この骨棘は症状の原因ではなく、むしろその後遺症であるため、特別な治療や除去は必要ありません。

症状のある人の約50%、無症状の人の約20%に踵骨棘がみられます。

MRI

足底腱膜炎または足底筋膜の部分断裂および完全断裂を確認するために、MRI検査を行います。

また、足底筋膜の肥厚および周囲の浮腫も検出が可能です。

超音波検査

超音波検査では、筋膜の厚みの著明な増加(たとえば、通常の2~4mmから5~7mmへ)が認められる場合があります。

また、超音波検査で見られる他の徴候は、踵骨に挿入する筋膜の低エコー性および浮腫、筋膜と周囲の軟部組織との間の境界の消失です。

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)の治療方法と治療薬、リハビリテーション

足底腱膜炎の治療方法は、大きく分けて保存治療と手術治療があります。ただ、ほとんどの症例で保存治療のみで治療が完結します。

足底腱膜炎は一般的に自己限定的な疾患であり、非外科的治療で90%まで回復すると報告されています。

とはいえ、患者さんの病態の程度はさまざま、体型やライフスタイルも人それぞれ、といった理由から、治療に対する反応も個人差が大きいです。

個別にケアを行ってすぐに効果が現れる人もいれば、緩和が得られるまでにあらゆる保存的手段を使い果たす人もいます。

足底腱膜炎の保存療法

  • アイシング
  • 休息と活動の調整
  • 薬物療法
  • A型ボツリヌス毒素
  • 自己血液および血漿
  • 体外衝撃波療法(ESWT)
  • ナイトスプリント
  • 靴の改良と装具
  • 物理療法、リハビリテーション

従来の治療とこれからの治療

痛みや不快感の主な要因は骨棘やその他の機械的要因ではなく、疾患プロセスに二次的に生じる刺激です。

従来の治療は、推定される炎症の減少に目が向けられてきました。

これらの治療法には、アイシング、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、安静と活動性の改善、コルチコステロイド、A型ボツリヌス毒素、スプリント、靴の改良、装具などがあります。

また、その他の治療法は、疾患プロセスによって引き起こされる変性の解消が目的です。

一般的に、その他の治療法としての手技は急性炎症反応を起こし、治癒プロセスを再開させることを目的としています。

具体的には、自己血注入、多血小板血漿(PRP)注入、ニトログリセリンパッチ、体外衝撃波治療(ESWT)、外科的処置(手術)などが含まれます。

アイシング

アイシングは足底腱膜炎(とくにアスリート)にとって、抗炎症治療の第一選択です。アイシングは、運動、ストレッチ、筋力強化が終了した後に行います。

アイシングの手順

アイスマッサージは、小さな紙コップかポリスチレン製のコップに水を入れて凍らせます。次に、凍らせた氷を痛みのあるかかとの上で円を描くようにこすり、適度な圧力を5~10分間かけます。

アイスバスは浅いパッドに水と氷を入れ、患者がかかとを10~15分間浸します。凍傷や神経損傷を防ぐため、ネオプレン製のつま先カバーを使用するかつま先を氷水につけないようにしてください。

氷嚢を使用する際は、砕いた氷をビニール袋に入れてタオルで包み、15~20分間貼ります。砕いた氷を使用して氷嚢を足に密着させると、接触面積を増やせます。

休息と活動の調整

足底腱膜炎の治療には安静が大切です。とはいえ、とくに活動的な人や立ち仕事が多い人では、完全な安静は現実的ではありません。

痛みが強い患者さんには、ギプス固定やウォーカーブーツによる固定が必要な場合もあります。

ある研究では、患者の25%が安静を最も効果的な治療とみなしています。

多くのアスリートは活動中の痛みを無視する傾向がありますので、注意が必要です。通常の距離や時間の50%の量から活動を始め、週に約10%ずつ徐々に活動量を増やしていく工夫をします。

履き古したシューズを交換し、適切なシューズに変えます。シューズのクッション性を最適に保つために、400~800kmごとにシューズの交換が必要です。

オーバープロネートのランナーや扁平足のランナーは、一般的に外側のヒールカウンター、幅広のフレア、内側のサポートが特徴であるモーションコントロールシューズを選択します。

ハイアーチのあるランナーは、クッション性の高いシューズが望ましいです。

長距離ランナーは、よりクッション性の高いトレーニング用フラットシューズで練習し、軽量でクッション性の低いレーシングフラットシューズは競技用として使用するようにしてください。

薬物療法

非ステロイド性抗炎症薬

抗炎症薬は足底腱膜炎の治療によく用いられます。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が実際に生理的治癒プロセスを助けるかどうかについては議論がありますが、これらの薬剤は足底腱膜炎がストレッチや筋力強化、相対的安静によって治療されている間の疼痛をコントロールするための補助として有用です。

ある研究では、患者の79%が非ステロイド性抗炎症薬による治療に成功しています。重要なのは、治療の急性期を通して一貫した毎日の投与です。

副腎皮質ステロイド

副腎皮質ステロイドは経口投与と注射による投与があります。

経口製剤は全身に分布し、急性期には非ステロイド性抗炎症薬と併用する、または非ステロイド性抗炎症薬の代わりに使用できます。

一方、副腎皮質ステロイド注射は局所的な集中投与を伴う方法です。

そのため、重度の難治性症例において、ストレッチ、靴の中敷き、装具などの一次的保存療法が奏功しなかった後の二次的治療として行われます。

コルチコステロイドの注射が長期的な慢性炎症の病態を変化させるかどうかは別として、多くの人で急性期の症状の改善を認めます。

A型ボツリヌス毒素

いくつかの短期無作為化対照二重盲検試験で、A型ボツリヌス毒素注射により、疼痛緩和と足全体の機能が有意に改善すると判明しています。

これらの研究の1つによると、超音波ガイド下でA型ボツリヌス毒素を注射しても、脂肪パッドの萎縮といった合併症は誘発されず、足の最大圧力負荷中心の改善に成功したと報告されています。

自己血液および血漿

足底腱膜起始部への自己血液の注入は、急性炎症反応を刺激し、線維芽細胞活性および血管成長を刺激する因子を提供します。その作用が治癒プロセスの再始動につながると考えられています。

自己血液による治療は、慢性炎症性筋腱膜疾患に関する研究において有効であると示されています。

また、多血小板血漿(PRP)が慢性足底腱膜炎の治療に有益である、と示唆するエビデンスがいくつかあります。

体外衝撃波療法(ESWT)

体外衝撃波療法(ESWT)は、足底腱膜炎の治療オプションとして提案されています。

体外衝撃波療法(ESWT)の作用機序

  • 有益な免疫反応のために血流を刺激
  • 治癒を促すために組織を再傷害
  • 影響を受けた神経にパルスを当て、神経性疼痛経路を遮断する

体外衝撃波療法(ESWT)は非侵襲的で副作用が少なく、慢性足底腱膜炎患者の良好な回復が期待できます。

ナイトスプリント

ほとんどの人は足底が屈曲した状態で睡眠をとるため、足底筋膜が短縮しています。ナイトスプリントは足と脚の角度を90°のニュートラルな状態に保ち、アキレス腱と足底筋膜を常に受動的にストレッチします。

有効性は絶え間ないストレッチングによる休息と治癒に由来すると考えられていて、朝ベッドから一歩目を踏み出したときの足底腱膜と骨との界面での微小外傷を防ぐのに有用です。

ナイトスプリントは石膏またはグラスファイバー製の鋳造材料での成型もできますし、市販されているプラスチック製の装具の使用も可能です。

靴の改良と装具

サポート力のあるヒールカウンターと硬めのミッドソールは、靴の重要な構成要素です。

足底腱膜炎の治療方法の一つとして、クッション性の高い靴やアーチサポートのある足底板などの作成も有効です。

また、カスタマイズされた装具は、扁平足や脚長不同など生体力学的危険因子をコントロールするように設計されています。

物理療法、リハビリテーション

リハビリテーションプログラムはストレッチ期、強化期、維持期に分けられます。

足底腱膜炎の初期理学療法プログラムでは、ふくらはぎと足のストレッチングを重視します。

ある研究では、ストレッチングエクササイズで治療した患者の83%が症状の緩和に成功したとのが報告されていて、アキレス腱のストレッチングは踵の痛みを解消するための重要な要素です。

アキレス腱のストレッチ

膝を伸展位と屈曲位の両方で行う壁ストレッチ(ランナーズストレッチ)、階段ストレッチ、タオルストレッチなどが一般的に行われています。

壁ストレッチの際は、壁から離れて壁に手をつきます。その後つま先をまっすぐに向けてかかとを地面につけたまま、腰を壁の方に傾けた姿勢を30~40秒間保持する方法です。

ふくらはぎのストレッチ

足底筋膜をターゲットにしたストレッチはとくに重要です。

足趾の伸展を利用し、その後にウインドラス機構を働かせると、従来のストレッチレジメンの効果が高まり症状緩和も促進されます。

筋力強化

足底内在筋の強化に重点を置いた強化プログラムも有益です。

固有筋を強化するエクササイズには、タオルカール、ビー玉(またはコイン)拾い、足指タッピングなどがあります。

患側の足を滑らかな面に置いたタオルの端に平らに置いて座り、かかとを床につけたままつま先を使ってタオルを丸めて体の方に引き寄せます。

この運動ができるようになったら、タオルの端に体重を加えて難易度を上げる工夫も効果的です。

コップの近くの床にビー玉を数個置き、つま先でつまんで、かかとを床につけたままコップの中に落とします。

足すべての足指を床から離してかかとを床につけた状態にします。外側の4本の足指を宙に浮かせたまま、母趾(親指)だけを床にタッピングする(たたきつける)動作を繰り返します。

次に逆の手順で、母趾を浮かせたまま、外側の4本の指を床にたたきつけます。

メンテナンス

足底腱膜炎が再発する可能性を最小限に抑えるために、アスリートは毎日(少なくとも週に2~3回)のストレッチまたは筋力強化メンテナンスの継続が必要です。

手術

保存的治療で改善しない、保存的治療を長く続けられない、重度の足底腱膜炎では、手術が検討されるケースがあります。

一般的な手術方法は、足底腱膜切離術や骨棘切除術です。

  • 足底腱膜切離術:足底腱膜の1/3~1/2程度を切り離す手術。
  • 骨棘切除術:痛みの原因となっている骨棘を切る手術。

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)の治療期間と予後

足底腱膜炎の治療期間の目安は、症状によって3~6カ月以上が見込まれます。

基本的な予後は良好なものの、治療開始時期や重症度、生活習慣などの影響で不良になる可能性も否めません。

症状の程度治療開始からの改善の見込み完全回復までの期間
軽度3~4週間3~6カ月
中等度4~8週間4~8カ月
重度8週間以上6カ月以上

治療期間の目安

  1. 軽度から中等度:治療開始から3~4週間で症状の改善を見込めますが、完全な回復には3~6カ月の期間が一般的です。
  2. 重度:症状が深刻であったり長期間にわたって症状が続いていたりするケースでは、完全な回復に6カ月以上、人によっては1年以上要する可能性もあります。

足底腱膜炎の治療期間は非常に個人差がありますが、多くの患者さんでは積極的な自己管理と専門家による指導の下で数週間から数カ月の間に徐々に改善していきます。

ただ、一部のケースでは、より長い時間が必要となる場合があります。

予後の要因

  • 症状の重さと期間:症状が軽度で、早期に治療を開始した場合では予後が良好です。
  • 全体的な健康状態と生活習慣:喫煙、過体重、不適切な靴の使用など、回復を遅らせる要因を持つ患者さんは予後が不良になる可能性があります。
  • 治療への反応:定期的なストレッチや補助具の使用など、治療に対する良好な応答を示す患者さんでは予後が良好です。

足底腱膜炎の予後には、症状の重さや生活習慣などの要因が影響を及ぼします。約8割の患者さんで12カ月以内に症状が消失するとされています。

足底腱膜炎(そくていけんまくえん)の薬の副作用や治療のデメリット

足底腱膜炎の治療は症状の改善に効果的である一方で、副作用やデメリットが存在します。

治療方法副作用やデメリット
薬物療法胃腸障害、腎機能障害、アレルギー反応
物理療法、リハビリテーション症状の悪化リスク、高額な治療費用
手術療法感染症のリスク、長期の回復期間、再発の可能性

薬物療法の副作用

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は炎症を抑えて痛みを軽減する効果がありますが、長期間の使用は胃腸障害や腎機能障害のリスクを高める可能性があります。

また、アレルギー反応を引き起こす例も稀にもあるため、使用に際しては注意が必要です。

物理療法、リハビリテーションのデメリット

リハビリテーションでの過度なストレッチングや不適切な負荷のかけ方は、かえって症状を悪化させるケースがあります。

また、一部の治療機器を使用した物理療法は高額な費用がかかるときがあり、すべての患者さんにとって利用しやすいわけではありません。

装具の使用とその問題点

ナイトスプリントやオルソティックス(装具)などの装具は、一人ひとりの足の形状に合わせてカスタマイズが必要です。

ときには不快感や痛みを伴い、不適切な装具は症状を悪化させる可能性があります。そのため、適切なフィッティングと定期的な確認が重要です。

手術療法のリスクとデメリット

重度の足底腱膜炎に適応のある手術には、感染症のリスク、術後の回復に長い時間がかかる、再発の可能性があるなど、複数のデメリットが伴います。

また、手術は足の構造に恒久的な変化を及ぼす可能性があるため、他の治療法で改善が見られない場合に限り検討されるべきです。

保険適用の有無と治療費の目安について

足底腱膜炎は、多くの人で保険適用の保存療法によって痛みが軽減されるのが一般的です。

保険適用になる治療

アイシングや薬物療法、装具の使用といった一般的な治療は、健康保険が適用されます。

また、保存療法を6カ月以上受けても効果が見られない難治性の足底腱膜炎に対して体外衝撃波治療が保険適用です。

保険適応外の治療

一方で、自己血を用いた多血小板血漿(PRP)療法は保険適応外となり、全額自費負担になります。

1カ月あたりの治療費の目安

具体的な治療費は治療方法や医療機関によって異なりますが、保険適用の体外衝撃波治療を受ける際は自己負担額が3割となります。

この自己負担額は治療にかかる総額に応じて変動しますが、一般的には1回の治療につき数千円程度(例:3,000円~10,000円)が目安です。

保険適応外の治療を選択した際は全額自己負担となるため、費用は数万円に上ることもあります。

詳しい治療内容や治療費については、各医療機関にお問い合わせください。

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当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

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医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

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