ケーラー病(Kohler Disease)とは、足のアーチを形成する舟状骨(足の一つの骨)の血流が不足し、骨が徐々に壊死していく疾患です。
主に4歳から7歳の子どもに発症し、成長とともに自然に治癒するケースが多いですが、発症すると足の痛みや腫れ、歩行時の不快感を引き起こします。
ケーラー病の症状
ケーラー病は、足の甲を形成する小さな骨である舟状骨に影響を及ぼす疾患です。
とくに4歳から7歳の男の子に多くみられ、症状には痛みや腫れ、歩きにくさなどがあります。
症状 | 説明 |
---|---|
痛み | 足の甲や内側に感じる痛み。 |
腫れ | 足の甲の中央部に顕著に現れる。 |
歩きにくさ | とくに活動後に歩行時に不快感が生じる。 |
活動量の減少 | 痛みや不快感により活動量が自然に減少する。 |
触れたときの不快感 | 患部が非常に敏感になり、軽い圧力でも不快感や痛みを生じる。 |
痛み
ケーラー病における最も一般的な症状は、痛み(疼痛)です。足の甲や内側の部分に局所化した痛みが特徴で、活動中や歩行時に悪化するのが一般的です。
痛みの強さは人によって軽度から重度まで異なり、日によっても変化する場合があります。
腫れ
腫れもケーラー病の特徴的な症状の一つです。足の甲の中央部に最も著しく現れ、自覚していなくても、触診によって腫れが明らかになるケースが多いです。
腫れによる足の形の変化はありません。ただし、いままで履いていた靴が合わなくなる可能性があります。
歩きにくさ
痛みと腫れが原因で、歩くときに不快感や違和感を覚える子が多くいます。
症状が悪化しやすいタイミングは、長時間歩行後や激しい活動後です。ケーラー病の特徴的な歩き方として、足の外側に体重をかけての歩行がみられます。
活動量の減少
痛みや不快感により、子どもたちは自然に活動量を減らす傾向があります。とくに長時間歩く、走る、ジャンプする、といった動作を避けがちになります。
触れたときの不快感
足の甲の腫れた部分には、優しく触れるだけで不快感を覚える子も多いです。
軽い圧力でも痛みを感じるほど、患部が敏感になっている状態を示します。
ケーラー病の原因
ケーラー病の発生原因は完全には解明されていませんが、いくつかの要因が組み合わさり、舟状骨が壊死して発症すると考えられています。
原因 | 説明 |
---|---|
血流障害 | 舟状骨への血流が不足し、骨組織の障害を引き起こす。 |
異常な負担 | 骨化が遅い舟状骨への成長に伴う圧迫。 |
足にかかる負担・外傷 | スポーツや運動、不適切な靴の着用などによる足への繰り返しの負担や外傷。 |
遺伝的要因 | 家族歴や遺伝的素因が関与する場合がある。 |
生活習慣・体重 | 日常生活における足への負担増加や体重の影響。 |
血流障害による影響
ケーラー病の一般的な原因の一つとして、舟状骨への血流障害が指摘されています。
舟状骨への二重の血液供給
足背動脈の枝が骨の背側へ血液を供給し、骨の底側は後脛骨動脈の枝から供給されます。また、足底の血液は後脛骨動脈の内側足底枝から供給されます。
背側と足側の両方の血液が舟状骨に入り、分岐して骨の内側と外側の3分の1に供給されるため、骨の中央3分の1には無血管域が形成されます。
無血管域には脈管孔により血液が供給されますが、このような小さな脈管孔が圧迫されると血流が低下し、舟状骨は血管壊死に陥る危険性が高まります。
血流障害の原因
- 急激な成長期における血管の発達不足
- 外傷や繰り返される微細な損傷
- 遺伝的要因による血管の異常
急激な成長期における血管の発達不足や外傷などが原因で血流が不十分になると、骨組織の正常な成長や維持が妨げられ、最終的には骨の一部が死んでしまう可能性があります。
成長に伴う舟状骨への異常な負担
ケーラー病は舟状骨への異常な負担が原因と考えられています。
子どもの場合、舟状骨は足根骨の中で最後に骨化します。骨化する時期は、女児では18~24カ月、男児では30~36カ月です。
舟状骨の骨化は遅いため、他の足根骨よりも弱い点が指摘されています。
成長し体重が重くなると、舟状骨はすでに骨化している距骨と楔状骨の間で圧迫されます。骨化していない舟状骨が圧迫されると、中央の海綿骨にある穿通血管が圧迫され、虚血や後の血管壊死につながる可能性があります。
足にかかる負担と外傷
足にかかる負担(機械的ストレス)や外傷もケーラー病を発症する原因です。
活発に運動する子どもたちでは、足への繰り返しの衝撃が舟状骨に機械的なストレスを与えて血流が損なわれる場合があります。
足に負担がかかる状況の例
- スポーツ活動による過度の負担
- サイズの合わない靴の着用による圧迫
- 足に負担がかかるような着地の仕方
遺伝的要因と生活習慣
遺伝的要因もケーラー病の発症に関係している可能性があります。
親や兄弟など家族内にケーラー病の既往がある子では、同じ病態を発症するリスクが高まるとされています。
また、子どもの生活習慣や体重が原因で足への負担が増えると、ケーラー病の発症リスクが高いです。
ケーラー病の検査とチェック方法
ケーラー病の検査には、臨床的評価や画像検査が行われます。また、他の疾患の可能性を除外するため、血液検査を行う場合があります。
- 臨床的評価
- 画像検査
- 血液検査
臨床的評価
ケーラー病の診断には、画像検査の結果だけでなく、自覚症状や足の観察も重要です。
臨床的評価では、医師が足を慎重に観察して痛みを訴える部位を特定し、圧痛点を確認します。また、足の動きや歩行パターンの変化も評価の対象です。
臨床的評価でのチェック項目
- 痛みの特定:足の特定の部位に痛みがあるか、歩行や触診時に痛みが増すかを確認します。とくに中足部背側の痛みの訴えがあります。
- 腫れや熱感の有無:患部が腫れているか、触れたときに熱を持っているかを観察します。
- 足の使い方:歩行時の足の使い方や日常生活で足に負担がかかっていないかをチェックします。足の外側に体重をかけて歩くような歩行異常がみられます。
- 足の形状:足の形状に変形が見られるか、特に舟状骨の周辺の形状を詳しく観察します。
画像検査
臨床的評価に加え、X線やMRIを用いて画像検査を行っていただきます。
ケーラー病による骨の異常が疑われるときに骨シンチグラフィ※1が有用に思われますが、被爆する放射線量と検査による診断および予後への有益性を天秤にかけると、この疾患に対して骨シンチグラフィを行うケースはまずありません。
※1骨シンチグラフィ:骨の代謝活動を観察するために行われる検査。放射性物質を使用して骨の新陳代謝の活性度を測定する。
X線検査
X線検査は、ケーラー病を診断する最も一般的な方法です。
足の骨の変形や異常を検出でき、とくに足の甲の骨(舟状骨)の状態を詳細に確認できます。
ケーラー病の場合、X線画像では舟状骨が崩壊して薄く見えます。骨は断片化し、海綿状パターンは消失しています。
さらに、骨は斑状に硬化し、放射線強度が増加するのも特徴です。罹患した舟状骨周囲の軟部組織の腫脹も単純X線写真で認められます。
MRI検査
X線検査だけでは詳細が不明確、ケーラー病の進行度をより正確に把握する必要がある、なかなか症状が良くならない、といったケースにはMRI検査が推奨されます。
MRI検査は、X線検査では見逃されがちな骨の微細な変化や、周囲の組織の状態を確認するのに有効です。
骨の血流や炎症の程度も評価できて、より詳細な診断のために役立ちます。
血液検査
ケーラー病自体の診断に血液検査が直接用いられるわけではありませんが、他の疾患を除外するために行われる場合があります。
ケーラー病は小児の骨髄炎と間違えられるケースが多いため、採血検査で白血球数やCRPを測定し、感染症かどうか見極めるのが重要です。ケーラー病では炎症マーカーが上昇することはありません。
ケーラー病の治療法、治療薬、リハビリテーション
ケーラー病の治療は、ギプスやインソールの使用、治療薬、リハビリテーションを通して行われます。
骨の成長とともに自然治癒するケースが多い疾患ではありますが、放っておいて良いという訳ではありません。治癒するまでの期間を短くする、症状を軽減する、骨の正常な成長をサポートする、といった意味でも治療が必要です。
分類 | 方法・薬剤名 | 詳細説明 |
---|---|---|
治療法 | ギプス、アーチサポートの使用 | 外固定による患部の安静 |
治療薬 | イブプロフェン、ロキソニン | 痛みと炎症を抑える非ステロイド性抗炎症薬 |
リハビリテーション | ストレッチ、筋力強化エクササイズ | 足の筋力を強化し、機能回復を図るための段階的なプロセス |
治療法
ケーラー病の主な治療法は、まず患部への負担を最小限に抑える試みから始まります。
具体的には、足趾を伸展させた短下肢ギプスが推奨され、軽度内反位(10~15°程度)、軽度尖足位(10°程度)での固定が良いとされています。この位置だと舟状骨が後脛骨筋の緊張から解き放たれて負担が減るためです。
基本的にはギプスの固定の後にアーチサポートを使用しますが、軽症ではアーチサポートのみで治療するケースもあります。
治療薬
痛みと炎症の管理には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が一般的に用いられます。
イブプロフェンやロキソニンなどが該当し、これらは痛みを緩和して患部の炎症を抑える効果があります。
リハビリテーション
リハビリテーションは、足の筋力を強化して機能の回復を目指します。段階的に内容を変えて行われるのが一般的です。
- 初期段階では足の安静を保ちながら、足首や足の動きを促進する軽度のストレッチから始めていただきます。
- 痛みが軽減したら徐々に足の筋肉を強化するエクササイズを取り入れ、足のサポート力を高めていきます。
- 最終的には、日常生活やスポーツへの復帰を目指し、患部への負担を避けながら全体的なバランスや柔軟性を向上させるエクササイズを実施します。
ケーラー病の治療期間と予後
ケーラー病の一般的な治療期間は数カ月で、予後は良好です。
ケーラー病の治療期間
- ギプス固定期間:6~8週間
- アーチサポート:平均6カ月
ケーラー病の治療期間は症状の重さや回復の速度によって個人差がありますが、一般的には数カ月から数年です。
ギプス固定期間は6~8週間で、その後はアーチサポートを平均して6カ月間使用します。
短下肢ギプスによる固定は症状の持続期間を短縮させるため、すべての患者に対して少なくとも6週間の使用が推奨されます。
6週間のギプス固定後も痛みが続くときは、固定期間を延長します。ギプス固定後も痛みが消失しない場合は、足根骨癒合症のような疼痛が現れる他の原因の調査が必要です。
ケーラー病の予後
ケーラー病の予後は良好です。現在までのところ、小児のケーラー病患者で長期にわたる症状や障害の報告はありません。
X線写真は、発症から6~48ヵ月で改善します。治療を受けた子の症状の持続は、3ヵ月未満です。一方、未治療の患者では症状が15カ月間続く場合があります。
ケーラー病における薬剤と治療法の副作用とデメリット
ケーラー病の治療は効果的である一方で、副作用やデメリットがあります。
物理療法、リハビリテーションのデメリット
物理療法とリハビリテーションは副作用の少ない治療方法です。ただし、効果が実感できるまでには時間がかかります。
治療効果を高めるためにも、医師や理学療法士の指示に従い、自宅での簡単なストレッチを継続しましょう。
サポート装具の使用におけるデメリット
- 長時間の装着は皮膚の刺激や不快感を引き起こしやすいです。
- 特定の活動や、スポーツを制限される場合があります。
- 装具の適切なフィット感を維持するためには、定期的な調節が必要です。
サポート装具は症状を軽減する効果がありますが、長時間の装着で肌がかゆくなったりかぶれたりする子もいます。
そのため、装具の下には通気性の良い素材を選び、定期的に装具を取り外して皮膚のケアを行うことが大切です。
治療薬の副作用
- 胃腸障害:長期間の使用は胃や腸に潰瘍を形成するリスクを高めます。
- 腎機能障害:とくに既に腎臓に問題を持つ患者において、腎機能のさらなる低下を引き起こす可能性があります。
- 心血管系への影響:高血圧のリスクを高めるケースがあります。
ケーラー病の保険適用の有無と治療費の目安について
ケーラー病の治療は、保険適用の範囲内で行われるのが一般的です。保険適用の治療内容には、ギプスやアーチサポートの使用、リハビリテーションや治療薬が含まれます。
通常の治療費は1~3割の自己負担額になりますが、小児の医療費助成制度があります。
助成の対象年齢や所得制限の有無、一部負担金があるかないかは、自治体ごとに決められています1)。
治療内容や自治体によって異なりますが、1カ月あたりの治療費は数千円程度になる人が多いです。
詳しい医療費助成の内容はお住いの自治体へ、治療内容や治療期間は各医療機関へお問い合わせください。
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