O脚(内反膝)(Genu varum)とは、両脚の膝が外側に曲がり、足を閉じたときに膝が離れてしまう状態です。
骨格の異常、筋力不足、成長過程の問題などが原因で生じる疾患であり、膝関節への負担増加や歩行障害を引き起こすおそれがあります。
当記事では、O脚(内反膝)の症状や原因、検査方法、治療方法などについて詳しく解説します。
O脚(内反膝)の病型
O脚(内反膝)は、原因によって生理的O脚、病的O脚、後天的O脚の3つの病型に分類されます。
病型 | 特徴 |
---|---|
生理的O脚 | 幼児期に自然発生し、成長と共に改善する |
病的O脚 | 栄養不足やや代謝性疾患によって引き起こされ、成人期に持続する可能性あり |
後天的O脚 | 関節の摩耗、怪我、筋肉の不均衡など後天的な要因による発生 |
生理的O脚
幼児期に自然に発生する生理的O脚は、足の成長と発達の一部と考えられており、通常は特別な治療を必要としません。
2歳くらいまではO脚があるのは普通で、その後は自然に矯正されていきます。
病的O脚
特定の健康状態や疾患によって引き起こされるO脚です。
ビタミンD欠乏や、骨の代謝異常、変形性関節症などが原因として挙げられ、根本的な健康状態の改善や病気の治療が必要となります。
後天的O脚
怪我や筋肉の不均衡など、後天的な要因によって発生するO脚で、アスリートや重労働を行う人に多くみられます。
また、膝関節だけではなく、隣接関節(股関節や足関節)の異常によって生じる場合もあります。
後天的O脚は、生活習慣の改善や特定の治療によって改善される可能性が高いです。
O脚(内反膝)の症状
O脚(内反膝)は、膝が外側に曲がって膝同士が離れてしまう状態で、歩行時の不快感や膝の痛み、変形などの症状を引き起こします。
症状 | 説明 |
---|---|
歩行時の不快感 | 膝が正常に曲がらないために生じる歩行時の不快感 |
膝の痛み | 膝関節にかかる異常なストレスによる痛み |
膝の変形 | 長期にわたるO脚が膝関節の変形を引き起こす場合がある |
歩行困難 | 重度のO脚が歩行時のバランスを崩し、歩行困難を引き起こす場合がある |
歩行時の不快感
膝が外側に曲がるため、歩行時のバランスが崩れて不快感や不安定感を覚えるおそれがあります。
膝の痛み
膝が外側に曲がると、膝関節や周囲の筋肉、靭帯に異常なストレスがかかり、痛みを引き起こします。
特に、大きなストレスがかかる内側に痛みが出やすく、長時間立っているときや歩行時、階段を昇降するときに悪化する傾向があります。
膝の変形
O脚の状態が長期間続くと膝関節が変形し、見た目の印象に悪影響を及ぼします。
歩行困難
歩幅が不自然になり、長距離を歩いたり速いペースで歩いたりするのが困難となるケースもあります。
両膝の内側の距離が10cm以上になると、うまく走れない・歩けないなどの歩行障害がでてきます。
歩行障害は姿勢やバランスに影響を与え、膝や足首、腰に負荷をもたらすため、腰痛や背中の痛みなど、ほかの健康問題を引き起こしかねません。
O脚(内反膝)の原因
O脚の原因は、遺伝的要因や生理的発達、栄養不足、過度のストレスや負荷など多岐にわたります。
- 遺伝的要因
- 生理的発達
- 栄養不足
- 過度のストレスや負荷
- 関節炎や怪我
- その他の疾患
遺伝的要因
O脚は遺伝的な要素が関係しており、家族にO脚の人がいると、同様の症状が子供にも表れる可能性があります。
生理的発達
乳幼児期の一時的なO脚は、正常な成長過程の一部であるケースが多く、成長に伴って改善されるのが一般的です。
栄養不足
特に幼少期の栄養不足は、骨の成長に影響を与え、O脚の原因となります。
適切な栄養摂取により、予防または改善される可能性があります。
過度のストレスや負荷
特定のスポーツや活動による過度のストレスや負荷もO脚を引き起こす原因です。
膝関節や周辺の筋肉、靭帯に影響を及ぼし、痛みや不快感を生じさせます。
関節炎や怪我
膝関節の怪我や関節炎などもO脚の原因となる可能性があるため、活動の調整や適切なケアが必要です。
その他の疾患
感染や骨腫瘍、Paget病、骨系統疾患、代謝性骨疾患などが原因でO脚を引き起こすケースもみられます。
O脚(内反膝)の検査・チェック方法
O脚(内反膝)の診断には、身体所見や角度計測定、画像診断などが用いられます。
検査方法 | 説明 |
---|---|
身体所見 | 膝の曲がり具合や膝同士の距離、立位や歩行時の動きを観察 |
角度計測定 | 膝の角度を定量的に測定 |
画像診断 | X線やMRIを用いた膝の構造的な異常や、ほかの疾患の有無を確認します |
身体所見
身体所見では、直接膝の状態を観察し、膝の曲がり具合や膝同士の距離、形状などを評価します。
また、両足をそろえて立ったり歩いたりしてもらい、膝の動きの範囲を観察します。
- 膝の曲がり具合
- 膝同士の距離
- 膝の形状
- 膝の動きの範囲
角度計測定
ゴニオメーターと呼ばれる特殊な角度計を用いて、膝の角度を正確に測定します。
O脚の程度を客観的に評価するのに有用です。
画像診断
膝の構造的な異常やほかの疾患の有無を確認するために、X線やCT、MRIなどの画像診断が行われる場合もあります。
X線やCTでは大腿骨と脛骨を基準に角度を測定し、MRIでは軟骨の状態を調べます。
O脚(内反膝)の治療方法と治療薬、リハビリテーション
O脚(内反膝)の治療方法には、保存的治療や装具療法、リハビリテーション、手術療法などがあります。
治療方法 | 説明 |
---|---|
保存的治療 | 物理療法、運動療法、NSAIDsの使用 |
装具療法 | 乳幼児の内反膝に対する装具着用 |
リハビリテーション | 筋力トレーニング、ストレッチングによる膝の安定性と柔軟性の向上 |
手術療法 | 骨切り手術や人工関節手術 |
保存的治療
軽度のO脚の場合は、物理療法や運動療法などの保存的治療を行うのが一般的です。
また、膝の痛みや炎症を和らげるために、イブプロフェンやロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方される場合もあります。
ただし、副作用やリスクを伴うため、長期間にわたる服用は推奨されていません。
装具療法
乳幼児のO脚は自然に改善されるケースがほとんどですが、Blount病※1による内反膝に対しては装具療法を行う場合があります。
※1 Blount病(ブロント病):脛骨近位内側の骨幹端および骨端の発育障害により、膝の外側ばかりが成長し、下腿の内反変形を起こす疾患
リハビリテーション
筋力トレーニング、ストレッチングなどのリハビリテーションは、症状や健康状態に合わせて筋力の強化と膝の安定性向上に役立ちます。
特に太ももの前面と裏面の筋肉を強化し、膝の安定性を向上させるためのトレーニングが行われます。
膝周囲の筋肉の柔軟性を高め、適切な膝の動きを促進するためのストレッチングが行われます。
正しい歩行パターンを身につけて膝への負担を軽減し、O脚の進行を防ぎます。
手術療法
保存的治療や装具療法、リハビリテーションで改善が見られない場合は、骨切り手術や人工関節手術が検討されます。
手術療法は成長期を終えてから行われるのが一般的です。
O脚(内反膝)の治療期間と予後
O脚(内反膝)の治療期間は治療方法によって異なり、軽度であれば数週間から数か月で改善がみられます。
治療方法 | 治療期間 | 予後 |
---|---|---|
保存的治療 | 数週間から数か月 | 多くは良好な回復 |
リハビリテーション、手術療法 | 数か月から継続的 | 良好な回復をみせるが、場合によっては長期的なフォローアップが必要 |
治療期間の目安
O脚の治療期間は、年齢や症状の重さ、治療方法によって大きく異なります。
軽度から中等度のO脚の場合は、保存的治療により数週間から数か月で改善するケースがほとんどです。
一方、重度のO脚や治療に対する反応が遅い場合は、長期的なフォローアップや継続的なリハビリテーション、手術療法が必要となり、治療期間が数か月から数年に及ぶ可能性があります。
予後
子どもの場合、成長とともにO脚が自然に改善される可能性が高く、良好な予後が期待できます。
ただし、ビタミンD不足によるO脚など、原因に合わせたアプローチが必要となる場合もあります。
成人の場合は、治療を受けずに放置すると、膝や腰への負担が増え、症状が悪化するリスクがあるため早期の対処が重要です。
治療による改善は可能ですが、重度のO脚は完全な矯正が難しいケースも少なくありません。
継続的なケアとリハビリテーションにより、症状の軽減や生活の質の向上が期待できます。
薬の副作用や治療のデメリット
O脚(内反膝)の治療方法には、副作用やデメリットが伴うものもあります。
治療方法 | 副作用・デメリット |
---|---|
物理療法、リハビリテーション | 過度のストレッチや筋力トレーニングによる筋肉や靭帯のストレス |
薬物療法 | NSAIDsによる胃腸の不調や心臓病リスクの増加 |
手術療法 | 感染、出血、麻酔リスク、長期リハビリテーションの必要性 |
物理療法とリハビリテーションのデメリット
過度のストレッチや筋力トレーニングは、筋肉や靭帯にストレスを与え、痛みを引き起こす場合があります。
膝関節への過度な負荷が生じれば、症状の悪化を招きかねません。
また、効果を得るためには継続的な取り組みが必要であり、時間的および経済的な負担となるおそれがあります。
薬物療法の副作用
O脚の治療に用いられる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、膝の痛みや炎症を和らげるのに効果的ですが、消化器系や腎機能、心血管系に影響を及ぼすおそれがあります。
- 消化器系の問題:NSAIDsの使用は、胃腸の不調や消化性潰瘍を引き起こす場合があります。
- 腎機能への影響:長期間のNSAIDs使用は、腎機能障害のリスクを高めます。
- 心血管系への影響:一部のNSAIDsは、心臓発作や脳卒中のリスクを高めると指摘されています。
手術療法のリスクとデメリット
重度のO脚の場合に行われる外科手術には、感染症や出血、術後の痛みなどのリスクがあります。
また、術後は長期的な通院とリハビリテーションが必要なため、時間的・金銭的な負担となりやすい点もデメリットです。
保険適用の有無と治療費の目安について
O脚(内反膝)の治療は、原因によっては保険適用されますが、見た目を良くするためだけに行われる治療は保険適用外となります。
治療費について
O脚(内反膝)の治療費は治療内容や原因によって異なるため、直接医療機関にお問い合わせください。
なお、通院回数は、O脚の程度や運動経験の有無、身体の柔軟性、自宅での取り組みなどにより変動します。
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