X脚(外反膝)(Genu valgum)とは、立ったときに膝が内側に曲がっている状態を指します。
膝同士がくっつき足首が離れる姿勢が特徴で、遺伝的な要因や成長の過程、筋肉の不均衡、日々の姿勢などによって発生する症状です。
X脚(外反膝)は見た目の問題だけでなく、膝の痛みや歩行困難を生じる場合もあります。
この記事では、X脚(外反膝)の症状や原因、治療法などについて解説します。
X脚(外反膝)の病型
X脚(外反膝)の病型には、生理的X脚、病的X脚、後天的X脚があります。
- 生理的X脚
- 病的X脚
- 後天的X脚
生理的X脚
主に幼少期に見られる一時的なX脚(外反膝)で、成長とともに自然と改善される傾向にあります。
生理的X脚では、特別な医療介入は通常必要ありません。
年齢 | 生理的X脚の経過 |
---|---|
2歳まで | 外反膝が形成され始める。 |
3~4歳 | 外反が最も顕著になる。 |
7歳まで | 外販は安定し減少していく。 |
病的X脚
病的X脚は、特定の医療状態や疾患によって引き起こされるX脚(外反膝)です。骨の成長に影響を及ぼす栄養の不足や、骨の病気などが原因で発生します。
病的X脚では、根本的な原因の治療が必要です。
後天的X脚
後天的X脚は、怪我や長期間にわたる筋肉の不均衡、関節の摩耗など、生活習慣や活動によって発生するX脚(外反膝)です。
アスリートや特定の職業に従事している人に起こりやすく、治療や活動の調整が必要になる場合があります。
X脚(外反膝)の症状
X脚(外反膝)の主な症状は、歩行時の不快感、膝の痛みなどが挙げられます。
- 歩行時の不快感
- 膝の痛み
- 膝の変形
- 歩行困難
歩行時の不快感
膝の位置が変わるため膝が正常に曲がらず、歩行時に不快感が生じます。
歩行時の不快感は、長時間歩いた後や、階段を上り下りする際によく見られます。
膝の痛み
膝関節や膝内側の筋肉、靭帯への不自然な負担により、痛みを感じる場合があります。
膝の痛みは、起立時や歩行後、スポーツ時に感じやすいです。
膝の変形
長期にわたるX脚(外反膝)は、膝関節の変形を引き起こす可能性があります。
変形は、膝のアライメント(大腿骨、膝蓋骨、脛骨 の骨の位置関係)の乱れによって進行する場合もあります。
立っている時に膝同士が離れ、足首が近づく姿勢が変形の特徴で、明らかに見た目で分かるケースも多いです。
歩行困難
重度のX脚(外反膝)は、歩行を困難にする場合があります。特に、階段の昇降や不均等な地面を歩く際に歩行困難を感じやすいです。
また、X脚(外反膝)では歩行時に足が外側に回転するため、靴の内側が異常に摩耗する傾向があります。
X脚(外反膝)の原因
X脚(外反膝)の原因としては、遺伝的要因や成長期の影響などがあります。
- 遺伝的要因
- 成長期の影響:生理的発達、栄養不足
- 外傷:膝への過度な負荷、関節炎、怪我
- 疾患:腫瘍、骨系統疾患、代謝性疾患
- 生活習慣:姿勢、体重、不均衡な筋肉
遺伝的要因
X脚は、遺伝性であることが知られています。両親のどちらかがX脚の場合、子どもがX脚になる可能性は高くなります。
これは、骨の成長や発達に関わる遺伝的要素が影響しているためです。
成長期の影響
原因 | 内容 |
---|---|
生理的発達要因 | 幼児期の一時的なX脚は、成長にともなって改善されるのが一般的。 |
栄養不足 | 特に幼少期の栄養不足は、X脚の原因になりやすい。 |
生理的発達要因
幼児期には、骨や筋肉が未発達で、膝関節が外側に開いた状態になる場合があります。これは、骨の発達が筋肉の発達よりも早く進むためと考えられています。
また、幼児期は内股歩きをすることが多く、これがX脚の発症に影響を与える可能性もあります。内股歩きは、足首が内側に曲がり、膝が外側に開いた状態になるため、X脚の悪化につながります。
多くの場合、成長に伴って骨や筋肉が発達し、膝関節の形状も正常に変化していきます。そのため、幼児期にX脚であっても、自然に治癒するのが一般的です。
栄養不足
栄養不足は、骨や筋肉の発達を妨げ、X脚の発症リスクを高めます。特に、カルシウムやビタミンDなどの栄養素不足は、骨の発達に悪影響を及ぼします。
カルシウムは、骨の形成に不可欠な栄養素です。カルシウム不足になると、骨が弱くなり、変形しやすくなります。
ビタミンDは、カルシウムの吸収を促進する役割を果たします。ビタミンD不足になると、カルシウムの吸収が悪くなり、骨の発達が阻害されます。
外傷
X脚は多くの場合、成長期に発症しますが、外傷によって発症するケースもあります。
原因 | 内容 |
---|---|
膝への過度な負荷 | 特定のスポーツや活動による過度のストレスや負荷。 ※筋肉や靭帯に負荷がかかり発生 |
関節炎や怪我 | 脛骨近位部骨折後にCozen現象と呼ばれる脛骨外反変形をきたすケースなどがある。 |
外傷によるX脚は、軽度なものであれば自然に治癒する場合もありますが、重症の場合は手術療法が必要です。
疾患
X脚は、腫瘍、骨系統疾患、代謝性疾患などの疾患によって発症する場合があります。
原因 | 内容 |
---|---|
腫瘍によるもの | 骨軟骨腫、多発性遺伝性外骨腫、線維性異形成など。 |
その他の骨系統疾患や代謝性疾患 | 腎性骨異栄養症や低リン血症性くる病、ムコ多糖症、骨端形成不全など。 |
生活習慣
生活習慣の影響を原因とするX脚(外反膝)には、姿勢、体重、不均衡な筋肉などがあげられます。
原因 | 内容 |
---|---|
姿勢 | 長時間同じ姿勢での座り仕事、一方の脚に体重をかける癖。 |
体重 | 過度な体重 |
脚の筋肉の不均衡 | 特に内転筋群や大腿四頭筋などの筋肉が適切に発達していない場合。 ※筋力のバランスが崩れ、膝関節に異常な負担がかかり発生 |
習慣 | 膝に負荷のかかる運動習慣。 |
長時間、足を内側に曲げて座る習慣は、骨盤や股関節の歪みを引き起こし、X脚を悪化させる可能性があります。特に、デスクワークやテレビ視聴など、同じ姿勢で長時間座る習慣は注意が必要です。
また、運動不足や肥満もX脚の原因となります。
運動不足になると、筋力が低下し、骨盤や股関節周辺の筋肉が弱くなります。そうすると骨盤や股関節が歪みやすくなりますので、X脚を悪化させる一因です。
運動不足により肥満になると、膝関節に負担がかかり、X脚が悪化します。
X脚(外反膝)の検査・チェック方法
X脚(外反膝)の検査では、視覚的評価、触診、立位アライメントの評価などが用いられます。
- 視覚的評価
- 触診
- 立位アライメント※1の評価
- 歩行分析
- 画像検査
※1 立位アライメント:立ったときの体の各部位の並び方
X脚(外反膝)の検査では、特に大腿部の筋力と柔軟性を評価し、筋肉のバランスがX脚にどのように影響しているかを重視します。
視覚的評価
膝が外側にどの程度曲がっているか、また膝が通常より離れているかを確認します。
- 直立時の膝の位置や形状
- 足首と足の位置関係
- 歩行時の動き
視覚的評価は、基本的ではありますが、X脚(外反膝)の診断に欠かせないチェック方法です。
触診
膝周辺の筋肉や軟部組織を手で触り、硬さや痛みの有無を確認します。また、膝の安定性や関節の動きもあわせて確認します。
触診は、外反膝にともなう筋肉の緊張や関節異常を確認する方法としても有効です。
さらに、スラストと言われる内外反の不安定性もチェックします。
立位アライメントの評価
膝の角度や脚の長さを測定し、立っている状態での脚のアライメントを評価します。
立位アライメントの評価では、外反膝の程度を判断する重要な指標となります。
歩行分析
歩行時の脚の動きや体重のかかり方を詳細に観察し、X脚(外反膝)が歩行にどのような影響を及ぼしているかを評価します。
患者様に通常の歩行をしてもらい、膝の動きや足の着地パターンを観察します。
画像検査
画像診断には、X線検査やMRIが用いられます。
画像診断は、膝関節や周囲の骨の配置を詳細に観察できるため、X脚(外反膝)の程度や原因をより正確に評価するのに役立ちます。
特に、骨の成長や発達に関連する症例では、X線からの情報が有効です。
X線検査では、両膝蓋骨が正面を向いた状態で体重をかけた長下肢のアライメントを撮影します。
撮影後、下肢の冠状面※2の角度を、膝の中心の力学的軸からのずれと脛骨大腿角※3に基づいて分析します。
※2 下肢の冠状面:身体を正面と背面から見たときの断面。股関節、膝関節、足関節を垂直に通過したもの。
※3 脛骨大腿角:脛骨軸と大腿骨軸の間に形成される鋭角のこと。
年齢 | X脚(外反膝)の脛骨大腿角 |
---|---|
出生時 | 15~20°程度 ※2歳頃までに徐々に矯正されていく |
3~4歳 | 10~15度まで減少 ※さらに四肢の外反角度は徐々に減少し始める |
7歳まで | 3~5度まで減少 |
また、X線検査では、骨の変形が大腿骨と脛骨のどちらから生じているかの判断も重要です。
判断には、大腿骨外側遠位角(大腿骨軸と大腿骨の荷重軸との間の角度)と脛骨近位角(脛骨高原と脛骨の荷重軸との間の角度)を測定します。正常範囲は85~90度です。
の治療方法と治療薬、リハビリテーション
X脚(外反膝)の治療方法には、非手術的治療法と手術的治療法があります。
治療方法 | 内容 |
---|---|
非手術的治療法 | 体重管理、物理療法、薬物療法、装具療法、リハビリテーション |
手術的治療法 | 重度の症状や他の治療法で改善が見られない場合に検討。 |
6歳未満の小児で脛骨大腿角が15度未満の場合は、経過観察が基本です。
外傷を原因とする脛骨外反変形の場合も、ほとんどが機能障害をともなわずに自然治癒するため、1~2年の経過観察となります。
非手術的治療法
非手術的治療法には、体重管理、物理療法、薬物療法、装具療法、リハビリテーションがあります。
治療方法 | 内容 |
---|---|
体重管理 | 体重管理により膝への負担が軽減し、X脚の症状が緩和される。 |
物理療法 | 膝周辺の筋肉強化と筋バランス改善により、膝の安定性を高める。 |
薬物療法 | 痛みや炎症を軽減するための、イブプロフェンやロキソニンといった非ステロイド性抗炎症薬。 ※代謝障害に起因する変形に対しては、その原因治療を行う。疾患が治療されるにつれて変形が軽度になる可能性がある。 |
装具療法 | 膝の安定性を高め、日常生活における動作をサポートする。 |
リハビリテーション | 大腿四頭筋やハムストリングスの筋力強化やバランスを改善を図り、膝の機能を改善する。 ※運動療法、ストレッチング、バランス訓練、ストレッチングなど |
手術的治療法
手術的治療は、非手術的治療法で十分な改善が見られない場合に検討されます。
- 膝関節の再整形を行う骨切り術
- 人工膝関節置換術
X脚(外反膝)の治療期間と予後
X脚(外反膝)治療の効果を感じるまでの期間は、非手術的治療法を選択した場合、数週間から数ヶ月です。
手術的治療法の場合は、術後の回復期間に数週間から数ヶ月かかります。
治療方法 | 治療期間の目安 |
---|---|
非手術的治療法 | 数週間~数ヶ月 |
手術的治療法 | 術後の回復期間は数週間から数ヶ月 ※術後のリハビリテーション期間を入れるとさらに長くなる。 |
X脚の治療の予後は、治療方法、患者さんの年齢、健康状態、症状の重さによって異なります。
生理的な外反膝や外傷にともなうCozen現象※4の場合、ほとんどのケースで自然に治ります。
※4 Cozen現象:脛骨近端骨幹骨折のまれな合併症。
代謝性骨疾患にともなう病的な骨端症は、基礎疾患を治療すれば改善していきます。
成人の変形性関節症や退行性関節疾患の場合は、痛みがあると手術が必要になるケースがありますが、予後は良好である場合が多いです。
薬の副作用や治療のデメリット
X脚(外反膝)の治療に使用される薬や治療法は、症状の緩和に役立つ一方で、副作用やデメリットがあります。
治療薬の副作用
X脚(外反膝)の薬の副作用には、胃腸障害や心臓病などがあります。
治療薬 | 副作用 |
---|---|
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | 胃腸障害、心臓病、腎臓問題、アレルギー反応、呼吸困難 |
非手術的治療のデメリット
非手術的治療のデメリットは比較的少ないものの、効果がみられるまでに時間がかかる点、継続が必要な点ななどが挙げられます。
- 一定期間の継続が必要
- 症状の改善が見られるまでに時間がかかる
- 誤った方法を用いると症状が悪化する
手術的治療のデメリット
手術的治療のデメリットには、感染症、出血、術後の痛みなどが挙げられます。
- 感染のリスク
- 麻酔のリスク
- 出血
- 術後の痛みや腫れ
- 術後はリハビリテーションが必要
- 再手術の可能性
X脚(外反膝)の手術には変形の過矯正や過小矯正、神経血管障害などが合併症として報告されています。
保険適用の有無と治療費の目安について
X脚(外反膝)の治療で保険適用が認められる治療には、保存療法と手術療法があります。
保険適用外の治療には、再生医療※5があります。
※5 X脚(外反膝)で行う再生医療:患者様の血液から痛んだ組織を再生する成分を抽出し、患部に注射する。X脚そのものに対してよりは、X脚と原因となっている変形性関節症に対して行われる。
1か月あたりの治療費の目安としては、保険適用の治療であれば1万円程度、保険適用外の治療(再生医療)であれば数十万円から数百万円です。
治療費について、詳細は担当医や医療機関にお問い合わせください。
参考文献
Soheilipour F, Pazouki A, Mazaherinezhad A, Yagoubzadeh K, Dadgostar H, Rouhani F. The prevalence of genu varum and genu valgum in overweight and obese patients: assessing the relationship between body mass index and knee angular deformities. Acta Bio Medica: Atenei Parmensis. 2020;91(4).
Taylor S, Getgood A. Genu valgum correction and biplanar osteotomies. Clinics in Sports Medicine. 2022 Jan 1;41(1):47-63.
Tschinkel K, Gowland R. Knock‐knees: Identifying genu valgum and understanding its relationship to vitamin D deficiency in 18th to 19th century northern England. International Journal of Osteoarchaeology. 2020 Nov;30(6):891-902.
Flury A, Hoch A, Andronic O, Fritz B, Imhoff FB, Fucentese SF. Increased femoral antetorsion correlates with higher degrees of lateral retropatellar cartilage degeneration, further accentuated in genu valgum. Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy. 2021 Jun;29:1760-8.
Artioli E, Mazzotti A, Ramacci V, Zielli SO, Digennaro V, Ruffilli A, Faldini C. Indications and timing in isolated medial femoral hemiepiphysiodesis for idiopathic genu valgum: A systematic review. The Knee. 2023 Jan 1;40:52-62.
Wu KW, Lee WC, Ho YT, Wang TM, Kuo KN, Lu TW. Balance control and lower limb joint work in children with bilateral genu valgum during level walking. Gait & Posture. 2021 Oct 1;90:313-9.
Buchan S, Bennet S, Barry M. Genu valgum in children. Orthopaedics and Trauma. 2022 Oct 27.
Mandel M, Seeley M, American Board of Orthopedic Surgery, Fellowship trained in Pediatric Orthopedics, Wheatley B, Woo B, Young A, Fabricant PD, Cornell M. Genu Valgum and Obesity in the Pediatric Patient.
Kirby JC, Jones H, Johnson BL, Brenner ME, Wilson PL, Ellis HB. Genu Valgum in Pediatric Patients Presenting With Patellofemoral Instability. Journal of Pediatric Orthopaedics. 2023 Nov 28:10-97.
Westberry DE, Carpenter AM, Prodoehl J. Correction of genu valgum in patients with congenital fibular deficiency. Journal of Pediatric Orthopaedics. 2020 Aug 7;40(7):367-72.