ウイルス性関節炎(Viral arthritis)とは、ウイルス感染に伴って起こる関節の炎症性疾患です。様々なウイルスが原因となり、急性の関節痛や腫れを引き起こします。
多くの場合、ウイルス感染の症状と同時期または感染後に関節症状が現れ、通常は数週間から数か月で自然に回復します。
しかし、適切な診断と治療を受けることで、症状の軽減や早期回復が期待できます。
整形外科での専門的な診察により、他の関節疾患との鑑別診断を行い、適切な治療を行うことが大切です。
この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)
日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師
2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。
ウイルス性関節炎の病型
ウイルス性関節炎は臨床経過や機序によりいくつかのタイプに分類できます。
大きく分けると、急性一過性の関節炎と、ウイルスの持続感染や免疫反応に関連した慢性的な関節炎があります。
急性ウイルス性関節炎
多くのウイルス性関節炎は急性に発症し短期間で自然軽快します。
例えばパルボウイルスB19や風疹ウイルスによる関節炎は、感染後すぐに関節痛・関節炎が出現し、通常数日~数週間から数ヶ月で治まります。
B型肝炎ウイルスでも急性肝炎の前駆期に対称性の関節炎が起こり、黄疸の出現とともに症状が消失する場合が多いです。
SARS-CoV-2(新型コロナ)感染症の後にも、感染から数日~数週間で関節炎が発生するケースが報告されています。
急性型は比較的短期間で関節症状が消える点が特徴です。
慢性ウイルス関連関節炎
一部のウイルスでは感染が持続したり免疫異常が続いたりすると、関節炎が長引きやすいです。
代表例はC型肝炎ウイルス(HCV)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)です。
C型肝炎では慢性感染に伴ってリウマチ様の関節炎や関節痛が持続する場合があります。
HIV感染ではウイルス自体や免疫異常により関節炎・関節痛が繰り返し生じる場合があります(HIV関連関節炎)。
また、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)も慢性の少数関節炎を起こすと報告されています。
さらにアルファウイルス属(チクングニア熱ウイルスなど)は急性期症状自体は1~2週間で治まるものの、慢性的な関節痛・関節炎が数ヶ月から数年続くケースがあります。
このように、ウイルスによって急性型と慢性型があり、症状の持続期間や再発傾向が異なります。
直接感染型と免疫反応型
ウイルス性関節炎は病態生理的には大きく2通りの機序が考えられます。
一つはウイルスが関節組織に直接感染して炎症を起こすタイプ、もう一つはウイルス感染に対する免疫反応(免疫複合体の沈着や自己免疫反応)によって関節炎が生じるタイプです。
多くのウイルス(例えばB型肝炎、風疹、パルボウイルスB19など)の関節炎は免疫複合体型で、ウイルスそのものが関節で増殖しているわけではなくウイルス抗原と抗体の複合体が関節に沈着して炎症を引き起こすと考えられています。
一方、チクングニアウイルスなどではマクロファージ内でウイルスが増殖し局所でウイルスが直接炎症を誘導する可能性が指摘されています。
C型肝炎では混合型で、ウイルスが滑膜に存在したりウイルスに対する免疫複合体(クリオグロブリン)が関節に沈着したりすると関節炎が起こると考えられています。
またHIVではウイルスによる免疫調節異常が背景にあり、炎症を抑える免疫細胞の機能低下や免疫の再活性化によって種々のリウマチ症状が生じます。
このように病型・分類は多面的ですが、「急性か慢性か」「直接的か免疫介在的か」の観点で整理できます。
なお、ウイルス感染が引き金となって関節リウマチなどの自己免疫疾患が誘発される可能性も示唆されています。
例えばパルボウイルスB19感染後に持続する関節炎が一部の人で慢性関節リウマチ様に移行するのではないかという報告もありますが、因果関係については引き続き研究が必要です。
ウイルス性関節炎の症状
ウイルス性関節炎の症状は原因ウイルスによって多少異なりますが、共通する症状もあります。
多くの場合、ウイルス感染の全身症状と関節症状が組み合わさって現れます。
パルボウイルスB19
成人での急性パルボウイルスB19感染は対称性の関節炎を起こす場合が多く、手首や指の関節、膝・足首などが左右対称に腫れて強い痛みを生じます。
報告によれば成人では50~80%もの高率で関節炎が起こり、リウマチ様の手指の多発関節炎となるケースが多いです。
一方、小児がパルボウイルスB19に感染した場合は「りんご病(伝染性紅斑)」として知られる頬の発疹が典型的で、関節症状は8%程度と少なく、あっても膝など大関節の一過性の痛みが主です。
成人では発疹や発熱は逆に目立たず、関節痛が主体となる場合が多い点も特徴です。
風疹ウイルス
風疹(成人が感染すると「三日ばしか」とも呼ばれます)でも関節痛・関節炎が高頻度に現れます。
特に成人女性では最大70%の患者様で一時的な関節の痛みが報告されており、指や手首、膝などの関節に痛み・こわばりが出やすいです。
通常、風疹では発疹・発熱が先行し、その直後~同時期に関節痛が出現します。関節症状は数日~1週間程度で自然に軽快する軽度のものが多いですが、まれに1ヶ月以上続く場合もあります(風疹ワクチン接種後の関節炎では1~3週間持続するのが一般的です)。
男性や小児では関節症状はまれで、成人女性に多いという点が特徴的です。
C型肝炎ウイルス(HCV)
C型肝炎では慢性感染の過程で関節痛・関節炎がしばしば認められます。
報告によって幅がありますが、半数以上(ある研究では70%以上)の慢性C型肝炎患者様に何らかの関節症状(関節の痛みや腫れ)がみられたとのデータがあります。
典型的にはリウマチに類似した多発性関節炎で、手指の関節など小関節が対称的に腫れて痛むパターンが多く報告されています。
ただし関節リウマチと異なり関節破壊(骨びらん)が起こらない非破壊性の関節炎である点が特徴です。
またC型肝炎ではもう一つのパターンとして、足首などの大関節に関節炎を起こす場合があります。
こちらは混合型クリオグロブリン血症という免疫複合体が関与する病態で起こり、しばしば紫斑など皮膚症状や血管炎症状を伴う場合があります。
C型肝炎に伴う関節炎は慢性的になりやすく、症状は比較的重症化しにくいですが、朝のこわばりが1時間以上続く患者様が約2/3いるとの報告もあり、生活の質に影響する場合があります。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
HIV感染症でも関節の症状が現れるケースがあります。
関節痛自体はHIV感染でよくみられる症状で、報告によってはHIV感染者の12~45%が原因不明の関節痛を経験するとのデータもあります。
一方で、明らかな関節炎はHIV感染者の約5~10%程度とされ、頻度はそれほど高くありません。
HIVに関連した関節炎としては、HIV関連関節炎や反応性関節炎、乾癬性関節炎などの脊椎関節炎が報告されています。
HIV感染者における関節炎は非対称性の下肢の関節(膝・足首など)の腫れが出るケースが多く、HLA-B27陰性でも発症する点で通常の反応性関節炎と多少異なる場合があります。
現在では抗レトロウイルス療法(ART)の普及により、症状が現れる頻度は大幅に減少しました。
一方、ART開始後に免疫が回復する際、潜在的にあった自己免疫疾患(関節リウマチなど)が免疫再構築症候群として表面化し、関節炎を発症するケースも報告されています。
HIVにおける関節症状はこのように多彩ですが、関節痛・関節炎が見られた場合は適切なHIV治療と対症療法により多くは改善します。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でも、感染後に関節炎が発生しうる場合が分かってきました。
COVID-19罹患後、数日から数ヶ月してから関節に痛みや腫れが出現する反応性関節炎の症例が各国で報告されています。
ある文献レビューでは、COVID-19から回復した患者様のうち27例で反応性関節炎が記載されており、膝、足首、肘、指、足指など四肢の関節に腫れと痛み(関節炎)が生じたとのことです。
主な症状は四肢(特に下肢)の関節痛と腫れで、発熱や全身倦怠感を伴う場合もあります。
発症時期はCOVID-19の症状開始から1~4ヶ月以内が多く、症状は数週間程度持続して自然軽快した例が報告されています。
COVID-19そのものの急性期にも関節痛が起こることがありますが、ウイルスが陰性化した後に免疫反応で遅れて関節炎が起こる「ポストコロナ症候群」の一部として注目されています。
その他のウイルス
上記以外にも、アルファウイルス属(チクングニア熱ウイルス、ロスリバーウイルスなど)は激しい関節痛を引き起こすと知られます。
チクングニア熱では急性期に高熱とともに全身の多数の関節が痛み、しばしば10箇所以上の関節に及ぶ重度の多発関節炎となります。
この急性症状は1~2週間でいったん改善しますが、60~80%の患者様でその後も関節痛が再燃を繰り返し、20~40%では持続的な慢性関節炎へ移行すると報告されています。
またB型肝炎ウイルス(HBV)では、急性肝炎の初期に発熱・発疹・関節痛(いわゆる血清病様症候群)を呈する場合があります。
関節症状は手指の関節から膝まで多彩ですが、黄疸発現とともに数日~数週間で軽快するのが通常です。
慢性のB型肝炎では約25%の患者様に関節の痛みが報告されますが、明らかな関節炎(滑膜炎)として持続する場合はまれです。
このようにウイルスごとに症状の出方や持続期間は異なりますが、ウイルス性関節炎では基本的に関節の腫れ・痛み・こわばりが主症状となり、程度は軽微なものから日常生活に支障をきたすものまで様々です。
多くの場合は時間とともに改善しますが、ウイルスや患者様の状態によっては長引くケースもあるため、適切な診断と経過観察が重要です。
ウイルス性関節炎の原因
ウイルス性関節炎は、様々なウイルス感染が引き金となって発症します。
ウイルスが直接関節に感染する場合と、ウイルス感染に対する免疫反応によって関節炎が起こる場合があります。
ウイルス自体の作用(直接の関節組織感染)
一部のウイルスは関節内または周辺組織の細胞に感染し、局所で炎症を引き起こします。
例えばチクングニアウイルスなどアルファウイルスでは、マクロファージなど関節に浸潤した免疫細胞の中でウイルスが増殖し、サイトカインや酵素を放出させると関節炎を誘導すると考えられています。
またヒトパルボウイルスB19は滑膜組織そのものでは増殖できないものの、関節内に侵入した単球やリンパ球にウイルス遺伝子が検出されており、ウイルス成分が関節内の免疫細胞に影響を与えて炎症を起こす可能性があります。
HIVもまた全身の免疫細胞に感染しますが、関節そのものに高濃度でウイルスが存在するわけではありません。しかしHIV感染により免疫の調節機構が乱れ、炎症が起こりやすくなる場合や、日和見感染による関節炎(カンジダによる関節炎など)の増加が原因となります。
さらに、HIV感染者では乾癬性関節炎や反応性関節炎などの特殊な関節炎(HIV関連関節炎)が見られますが、これはHIV自体というよりHIVによる免疫異常が背景にあると考えられています。
免疫学的反応(免疫複合体・自己免疫)
多くのウイルス性関節炎は、ウイルスに対する免疫反応が引き金となって起こります。
ウイルス感染により体内で産生された抗体がウイルス抗原と結合して免疫複合体を形成し、これが関節の滑膜に沈着して炎症を引き起こす機序が代表的です。
例えばB型肝炎ウイルスでは、ウイルスの表面抗原(HBs抗原)とそれに対する抗HBs抗体が免疫複合体を作り、関節や皮膚に沈着して関節炎や発疹を生じます。
実際、急性B型肝炎の関節炎では補体価(C3, C4)の低下が約40%の症例で見られ、免疫複合体による補体消費を反映しています。
風疹ウイルスでも同様に、ウイルスと抗体の複合体が関節膜に沈着して炎症を誘導すると考えられています。
パルボウイルスB19も、関節炎の発症はウイルス特異的IgM抗体が出現する時期と一致することから、免疫複合体関節炎の一種と推定されています。
実際、パルボウイルス関節炎の患者様ではリウマトイド因子(RF)や抗核抗体(ANA)などの自己抗体が一過性に陽性化すると知られており、ウイルス感染が自己免疫的な反応を誘発していると示唆されます。
C型肝炎ウイルスでは、約半数の患者様でリウマトイド因子(RF)が陽性となり、関節リウマチとの鑑別が難しい場合があります。
また一部では抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)も検出される場合が報告されています。
C型肝炎の関節炎は、ウイルス自体が滑膜に持続的に存在して炎症を起こすというよりは、ウイルスに対する免疫反応(免疫複合体やサイトカイン)が慢性的な炎症を維持する機序が考えられています。
SARS-CoV-2後の反応性関節炎も、ウイルスそのものは関節には存在しない状況で免疫系が過剰反応または交差反応すると関節に炎症が起こると考えられます(いわゆる自己免疫的機序)。
このように、ウイルス性関節炎の多くは「ウイルスに対する体の防御反応」が原因であり、ウイルスそのものが関節を直接傷害する場合は一部に限られます。
ウイルス性関節炎はウイルス感染とそれに対する免疫反応の相互作用によって生じます。
したがって治療戦略としては、原因ウイルスが体内から排除されれば症状も治まるケース(例えば急性B型肝炎やパルボウイルスなど)と、ウイルスが排除困難で免疫反応が持続するため対症療法や免疫調整が必要なケース(慢性C型肝炎やHIVなど)に分かれます。
なお、ウイルス感染が関節リウマチなど自己免疫性関節炎の引き金になる可能性も報告されています(分子模倣などの機序が提唱されています)が、現時点で特定のウイルスが明確に特定の慢性リウマチ疾患を引き起こすと因果関係が証明されたものは多くありません。
ウイルス性関節炎の検査・チェック方法
ウイルス性関節炎の診断には、詳細な問診と身体診察に加えて、各種検査が必要です。
他の関節疾患との鑑別診断を行い、原因ウイルスを特定すると、適切な治療方針を決定できます。整形外科では、これらの検査を組み合わせて総合的に診断を行います。
問診と身体診察
診断の第一歩は、詳細な問診です。発症時期、症状の経過、随伴症状、渡航歴、予防接種歴などを確認します。
特に重要なのは、関節症状が出現する前後のウイルス感染症状の有無です。発熱、皮疹、上気道症状などの情報は、原因ウイルスを推定する手がかりとなります。
身体診察では、関節の腫脹、圧痛、可動域制限、熱感などを評価します。
関節症状の分布パターン(対称性か非対称性か、大関節か小関節か)も重要な所見です。皮膚所見、リンパ節腫脹、肝脾腫なども確認します。
血液検査
血液検査は、ウイルス性関節炎の診断において中心的な役割を果たします。
| 検査項目 | 目的 | 特徴的所見 |
|---|---|---|
| 炎症反応 | 炎症の程度評価 | CRP・ESR上昇 |
| ウイルス抗体 | 原因ウイルス特定 | IgM抗体陽性 |
| 自己抗体 | 他疾患の除外 | RF・抗CCP抗体陰性 |
炎症反応検査では、CRP(C反応性蛋白)やESR(赤血球沈降速度)の上昇が見られますが、関節リウマチほど著明ではない場合が多いです。白血球数は正常または軽度上昇程度にとどまります。
ウイルス特異的抗体検査により、原因ウイルスを特定できます。
急性期にはIgM抗体が、回復期にはIgG抗体が上昇します。パルボウイルスB19、風疹ウイルス、B型・C型肝炎ウイルスなどの抗体検査が可能です。
画像検査
関節の画像検査は、関節損傷の評価と他疾患との鑑別に有用です。
レントゲン検査では、ウイルス性関節炎の急性期には通常、骨変化は見られません。関節裂隙の狭小化や骨びらんがないことが、関節リウマチとの鑑別点となります。
しかし、症状が長期化した場合は、軽度の骨萎縮が見られる場合があります。
超音波検査やMRI検査では、関節液貯留や滑膜炎の評価が可能です。
ウイルス性関節炎では、滑膜の肥厚は軽度であるケースが多く、パワードプラー法での血流増加も軽微です。これらの所見は、他の炎症性関節疾患との鑑別に役立ちます。
関節液検査と鑑別診断
- 単関節炎で感染性関節炎との鑑別が必要な場合
- 関節液貯留が著明な場合
- 診断が困難な場合
- 治療効果が不十分な場合
関節液の性状は、通常は炎症性で、細胞数は5,000〜50,000/μL程度です。好中球優位ですが、化膿性関節炎ほど細胞数は多くありません。
培養検査は陰性で、結晶も認められません。
鑑別すべき主な疾患には、関節リウマチ、反応性関節炎、痛風・偽痛風、化膿性関節炎、全身性エリテマトーデスなどがあります。
これらの疾患との鑑別には、臨床症状、検査所見、治療反応性を総合的に評価する必要があります。
ウイルス性関節炎の治療方法と治療薬、リハビリテーション、治療期間
ウイルス性関節炎の治療は、主に対症療法が中心となります。
原因ウイルスに対する特異的な治療法は限られていますが、適切な対症療法により症状を軽減し、日常生活の質を保てるようになります。
また、リハビリテーションを組み合わせると、関節機能の維持・改善を図ります。
薬物療法
ウイルス性関節炎の薬物療法では、痛みと炎症のコントロールが主な目的となります。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が第一選択薬として使用されます。
ロキソプロフェン、ジクロフェナク、セレコキシブなどが代表的な薬剤です。これらの薬は、痛みを和らげ、関節の腫れを軽減する効果があります。
胃腸障害のリスクがある方には、COX-2選択的阻害薬や胃薬の併用を考慮します。
アセトアミノフェンは、NSAIDsが使用できない場合や、軽度の痛みに対して使用されます。抗炎症作用は弱いですが、副作用が少なく安全性が高いという利点があります。1回500〜1000mg、1日3〜4回の投与が一般的です。
症状が重度の場合や、NSAIDsで効果不十分な場合は、短期間のステロイド投与を考慮します。プレドニゾロン10〜20mg/日から開始し、症状の改善とともに漸減します。
ただし、B型肝炎ウイルスによる関節炎では、ステロイドによるウイルス増殖のリスクがあるため注意が必要です。
理学療法とリハビリテーション
関節機能の維持・改善のため、理学療法は重要な治療の一環です。
| リハビリ内容 | 目的 | 実施時期 |
|---|---|---|
| 関節可動域訓練 | 拘縮予防 | 急性期から |
| 筋力強化訓練 | 筋力維持 | 亜急性期から |
| 温熱・寒冷療法 | 疼痛緩和 | 症状に応じて |
急性期には、安静と関節保護が重要ですが、完全な不動は関節拘縮につながるため避けます。痛みの範囲内で、1日数回の関節可動域訓練を行います。
炎症が強い時期は、アイシングなどの寒冷療法が効果的です。亜急性期から慢性期にかけては、筋力強化訓練を開始します。
関節周囲の筋力を維持すると、関節への負担を軽減できます。水中運動は、浮力により関節への負荷が軽減されるため、特に推奨されます。
生活指導と補助療法
- 十分な休息と睡眠の確保
- バランスの良い食事摂取
- 適度な運動の継続
- ストレス管理
- 関節への過度な負担を避ける
関節保護の観点から、日常生活動作の工夫も重要です。
重い物を持つ際は両手で持つ、長時間の同一姿勢を避ける、適切な靴を選ぶなどの指導を行います。必要に応じて、装具やサポーターの使用も検討します。
栄養面では、抗炎症作用のある食品(魚油、緑黄色野菜など)の摂取を勧めます。サプリメントについては、科学的根拠が確立されているものは限られていますが、ビタミンDの補充は免疫機能の維持に有用な可能性があります。
治療期間と予後
ウイルス性関節炎の治療期間は、原因ウイルスと個人差により大きく異なります。多くの場合、2〜8週間で症状は改善しますが、一部の患者様では数か月以上の治療が必要となります。
パルボウイルスB19による関節炎では、約80%の患者様が2か月以内に症状が消失しますが、20%では慢性化します。
チクングニア熱後の関節炎では、40%以上の患者様で6か月以上症状が持続すると報告されています。
定期的な経過観察により、治療効果を評価し、必要に応じて治療方針を調整します。
治療効果の判定は、痛みの程度、関節の腫脹、日常生活動作の改善度などで行います。
Visual Analog Scale(VAS)による痛みの評価や、患者様の満足度も重要な指標となります。
薬の副作用や治療のデメリット
ウイルス性関節炎の治療に使用される薬剤には、それぞれ副作用のリスクがあります。
治療のメリットとデメリットを十分に理解し、個々の患者様に適した治療法を選択することが重要です。副作用の早期発見と適切な対処により、安全な治療を継続できます。
NSAIDsの副作用
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はな副作用が知られています。
最も頻度の高い副作用は消化器症状です。
胃痛、悪心、食欲不振などの軽度なものから、胃潰瘍、消化管出血などの重篤なものまであります。高齢者、ステロイド併用者、抗凝固薬使用者では特にリスクが高くなります。予防のため、プロトンポンプ阻害薬の併用を考慮します。
腎機能への影響も重要な副作用です。
NSAIDsは腎血流を低下させるため、腎機能障害のある方では使用を控えるか、慎重に使用する必要があります。定期的な腎機能検査により、早期発見に努めます。脱水状態では腎障害のリスクが高まるため、十分な水分摂取を指導します。
ステロイドの副作用と注意点
ステロイド薬は強力な抗炎症作用を持ちますが、様々な副作用があるため、使用は慎重に行います。
| 副作用 | 発現時期 | 対策 |
|---|---|---|
| 感染症リスク増加 | 使用開始直後から | 感染予防、早期発見 |
| 血糖上昇 | 数日〜数週間 | 血糖モニタリング |
| 骨粗鬆症 | 長期使用時 | Ca・VitD補充 |
短期間の使用でも、血糖上昇、不眠、気分変動などが現れやすいです。
糖尿病の方では血糖管理が困難になる可能性があり、インスリンや経口血糖降下薬の調整が必要になる場合もあります。
B型肝炎ウイルスによる関節炎では、ステロイド使用によりウイルスが再活性化するリスクがあります。
HBs抗原陽性者では原則として使用を避け、やむを得ず使用する場合は肝臓専門医と連携して慎重に管理します。
治療の限界とデメリット
- 原因ウイルスに対する特異的治療法が限られている
- 対症療法が中心で根本的な治療ではない
- 一部の症例では慢性化を防げない
- 薬物療法の効果に個人差が大きい
現在の治療法では、ウイルスを直接排除することは困難で、身体の免疫反応に頼る部分が大きいです。このため、免疫力が低下している方では治療効果が不十分になる場合があります。
また、長期間のNSAIDs使用により、腎機能低下や心血管イベントのリスクが上昇する可能性があります。特に高齢者では、これらのリスクと治療効果のバランスを慎重に評価する必要があります。
副作用への対処法
副作用が発生した場合は、早期に適切な対処を行う点が重要です。
軽度の消化器症状では、食後投与への変更や胃薬の追加で対応できる場合が多いです。
しかし、黒色便、吐血、激しい腹痛などの症状が現れた場合は、直ちに薬を中止し医療機関を受診する必要があります。
アレルギー反応(皮疹、かゆみ、呼吸困難など)が現れた場合も、速やかに使用を中止します。定期的な血液検査により、肝機能、腎機能、血球数などをモニタリングし、異常の早期発見に努めます。
患者様には、副作用の初期症状について十分に説明し、異常を感じた場合は早めに相談するよう指導します。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
ウイルス性関節炎の診断と治療は、基本的に健康保険の適用対象となります。
検査から治療まで、標準的な医療行為は保険診療で受けられます。ただし、一部の特殊な検査や治療法については自費診療となる場合があります。
患者様の経済的負担を考慮しながら、最適な治療計画を立てる点が重要です。
初診・再診料と基本的な検査費用
整形外科を受診する際の基本的な費用は、初診料と再診料から始まります。
- 初診料:約860円
- 血液検査(基本項目):約1500〜2000円
- レントゲン検査(2方向):約650円
- 尿検査:約300円
初診時の総額は、検査内容により3000〜5000円程度となります。
紹介状なしで200床以上の病院を受診する場合は、選定療養費として5000〜7000円程度の追加負担が発生します。
再診時は、再診料約220円に加えて、必要に応じて検査や処置の費用が加算されます。症状の経過観察のための定期的な血液検査は、1回あたり1000〜1500円程度の負担となります。
特殊検査と画像診断の費用
診断のために必要な特殊検査の費用は以下の通りです。
| 検査項目 | 3割負担額 | 備考 |
|---|---|---|
| ウイルス抗体検査 | 1項目500〜1000円 | 複数項目で増額 |
| 関節超音波検査 | 約1050円 | 部位数により変動 |
| MRI検査 | 約6000〜9000円 | 造影剤使用で増額 |
ウイルス抗体検査は、検査する項目数により費用が変わります。
パルボウイルスB19のIgM・IgG抗体セットで約1500円、肝炎ウイルス検査を含めると3000円程度になる場合もあります。
関節液検査が必要な場合、関節穿刺料約600円に加えて、検査料が1000〜2000円程度かかります。特殊な自己抗体検査(抗CCP抗体など)は、1項目あたり600〜800円の負担となります。
薬剤費と治療費
ウイルス性関節炎の治療に使用される主な薬剤の費用を示します。
- ロキソプロフェン(60mg×3回/日):約400円
- セレコキシブ(100mg×2回/日):約750円
- ジクロフェナク徐放錠(37.5mg×2回/日):約500円
胃薬を併用する場合は、プロトンポンプ阻害薬で月額500〜1000円程度の追加負担となります。アセトアミノフェンは比較的安価で、月額200〜300円程度です。
ステロイド薬を使用する場合、プレドニゾロン5mg錠は1錠約10円と安価ですが、定期的な副作用チェックのための検査費用を考慮する必要があります。
リハビリテーション費用
- 運動器リハビリテーション料(20分):約550円(3割負担)
- 物理療法(温熱・電気治療など):約110〜220円/回
- 作業療法(20分):約550円
週2回のリハビリテーションを1か月続けた場合、4000〜5000円程度の負担となります。リハビリテーション開始から150日を超えると、月13単位までの制限があるため、計画的な実施が必要です。
装具やサポーターが必要な場合、既製品のサポーターは1000〜5000円程度で、多くは保険適用外となります。医師の指示によるオーダーメイド装具は保険適用となり、一度全額を支払った後、申請により7割が還付されます。
治療期間全体でみると、急性期の2か月間で総額2〜3万円、慢性化した場合は月額5000〜1万円程度の医療費負担となるケースが一般的です。
高額療養費制度の対象となるのは稀ですが、長期治療が必要な場合は医療費控除の申請を検討します。
以上
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