破傷風(Tetanus)とは、土壌や動物の腸内に存在する芽胞菌クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)が傷口から体内に侵入し、神経毒素(テタノスパスミン)を産生して起こる急性の神経筋障害です。
毒素が抑制性神経伝達を遮断し、筋肉が持続的に収縮して痙攣を引き起こします。
日本ではワクチン接種の普及により発症は減少していますが、免疫が不十分な高齢者や免疫抑制状態の患者さんでは重症化のリスクが高いです。
この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)
日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師
2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。
破傷風の病型
破傷風は症状の現れ方により複数の臨床型があります。全身性破傷風、局所性破傷風、頭頸部破傷風、新生児新生児破傷風の4つが代表的です。
| 病型 | 症状 | 傾向 |
|---|---|---|
| 全身性破傷風 | 顎が固まる(トリズムス)、四肢や体幹の強直性痙攣、呼吸筋麻痺 | 最も頻度が高く、重症化リスクが大きい |
| 局所性破傷風 | 感染部位周辺の筋緊張・痙攣 | 比較的軽症で限局するが全身性に進行するケースも |
| 頭頸部破傷風 | 咀嚼筋・嚥下筋の緊張、嚥下困難、発声障害 | 気道確保が早期に必要なケースがある |
| 新生児型破傷風 | 新生児(生後28日以内の全身症状) | 日本では稀だが、対策が不十分な地域で発症 |
全体の80%以上を占める最も一般的な全身性破傷風は、初期に顎が固まる咀嚼筋のこわばりから始まり、やがて背筋や腹筋にも強直が広がります。呼吸筋まで及ぶと呼吸困難となり、集中治療室での気管挿管・人工呼吸管理が必要です。
局所性破傷風は感染部位周辺の筋肉だけが緊張し、進行しなければ全身性には移行しませんが、経過中に症状が広がるケースもあります。
頭頸部破傷風では嚥下困難や窒息のリスクが高いため、早期に専門的治療が望まれます。
新生児型破傷風は新生児の臍や臍帯が感染源になりやすく、免疫が未成熟なため急速に重症化します。死亡率も高いです。
破傷風の症状
破傷風菌が産生する毒素が神経筋接合部に作用して抑制性神経伝達を遮断し、筋肉が持続収縮すると、さまざまな症状が現れます。
潜伏期は通常3~21日(平均7日)で、頭部や顔面の傷から感染した場合は潜伏期間が短くなる傾向があります。
潜伏期および初期症状
潜伏期は平均7~10日です。初期症状として最も多いのが顎のこわばりで、続いて首や背中、腹部のこわばりが生じます。発熱や頭痛、軽い全身倦怠感を伴う場合もあります。
これらの症状が現れた段階で受診せずに放置すると、数日以内に全身性破傷風へ移行するリスクが高まります。
開口障害(顎のこわばり)
初期症状として最も特徴的なのが、顎の硬直による口の開けづらさ(いわゆる“ロックジョー”)です。
歯が食いしばられた状態になり、顎を動かしにくくなります(破傷風の約半数以上で出現)。これにより食べ物がうまく飲み込めず、舌のもつれや構音障害がみられる人もいます。
顔面筋の痙攣と表情の変化
病状が進むと顔の表情筋が強直し、苦笑いしたような引きつり笑い(痙笑:risus sardonicus)が現れます。
頸部・体幹の筋硬直と全身けいれん
次第に首や背中、腹部など体幹の筋肉へ硬直が広がり、刺激に反応して全身の強直性けいれん発作が起こるようになります。大きな音や光、触れる刺激が引き金となり、非常に痛みを伴う激しいけいれんが生じます。
けいれん時には筋肉の収縮で呼吸が止まる(無呼吸)ときがあり危険です。体が弓なりに反り返る姿勢(後弓反張)が出現するケースもあります。
嚥下困難・呼吸困難
咽頭や呼吸筋のけいれんにより、物をうまく飲み込めない(嚥下障害)症状や、喉が詰まったような呼吸のしづらさが現れます。
自律神経症状
破傷風毒素は自律神経の制御も乱すため、発汗や発熱、頻脈(脈が速い)や血圧変動などの症状がよくみられます。
血圧や心拍が不安定になり、発作時には高血圧と頻脈、直後に低血圧と徐脈になるような自律神経の暴走(自律神経失調)が起こる場合もあります。
重症例では不整脈や高体温症、発汗過多がみられ、これらが死亡の一因となる場合があります。また、強い不安感や落ち着きのなさ(易刺激性)が出ます。
その他の症状
頭痛、軽度の発熱、倦怠感など非特異的な症状が初期に現れる人もいます。
新生児破傷風の症状
前述のように新生児では生後数日のうちに発症します。おっぱいをうまく吸えない、元気に泣けないといった症状が初発で、次第に全身の強直・けいれんへと進行します。
新生児は筋力が弱いため典型的な後弓反張は大人ほど目立たないケースもありますが、全身が硬直し反り気味になります。放置すると哺乳不能や窒息に陥り、死亡率が非常に高いです。
症状の持続期間
破傷風の特徴的な症状の臨床経過は、通常4~6週間持続します。発症から最初の1~2週間で症状が悪化してピークに達し、3週目以降に徐々に落ち着いていく経過をとります。
適切な治療により多くは回復に向かいますが、重症例では痙攣がおさまるまで少なくとも2~3週間を要し、完全な回復には数ヶ月かかるケースもあります。
破傷風の原因
破傷風の直接の原因は破傷風菌(Clostridium tetani)の感染です。この菌は空気のない環境を好む嫌気性菌で、酸素に触れると芽胞という硬い殻を形成し土壌や埃、動物の腸管内などに広く分布しています。
菌の性質と生息環境
クロストリジウム・テタニは芽胞形成能を持つ嫌気性グラム陽性桿菌で、芽胞が嫌気環境で発芽すると菌体が増殖し、神経毒素テタノスパスミンを産生します。
増殖には栄養豊富で酸素濃度の低い環境が必要で、傷口内部はその条件を満たしやすいため感染リスクが高まります。
感染経路とリスク因子
破傷風菌は傷口から侵入しますが、目立った外傷でなくても泥やほこりによる擦り傷で感染するときがあります。傷口の状態や手入れ状況が発症リスクに影響します。
- 錆びた釘や金属片による刺し傷
- 土壌や堆肥に触れた後の切り傷
免疫力が低下していると、わずかな量の毒素でも症状が現れやすくなるため、予防接種を受けていない、免疫抑制状態にある、高齢者などの条件に該当する場合は注意が必要です。
- 予防接種の未接種または最終接種から10年以上経過
- 糖尿病やがん治療、ステロイド投与などで免疫抑制状態にある
- 高齢者(65歳以上)は免疫応答が低下
予防接種の意義
破傷風はワクチン接種で予防が可能です。破傷風トキソイド(不活化毒素)を用いたワクチンには、標準的な予防接種スケジュールがあります。
日本で推奨される予防接種スケジュール
| 対象 | ワクチン種別 | 摂取時期 |
|---|---|---|
| 乳幼児 | DPTワクチン(3回) | 生後3か月、4か月、6か月 |
| 学童 | DPT追加接種 | 小学校入学前(6歳前後) |
| 成人 | 破傷風トキソイド(単独) | 最終接種から10年経過後 |
| 妊婦 | 破傷風トキソイド(単独) | 妊娠20~32週 |
予防接種により抗体価が維持されていれば、万が一傷を負っても発症・症状の悪化を防げます。特に農作業や園芸など土壌に触れる機会が多い人は、成人でも10年に一度の追加接種を心がけることが大切です。
破傷風に一度かかっても自然免疫は獲得されないため(体内で毒素が中和されず抗体ができないため)、感染後も適切なワクチン接種が必要です。
破傷風の検査・チェック方法
破傷風診断はほぼ臨床的に行われ、特異的な検査法はありません。そのため、問診と視診・神経学的評価を中心に行い、必要に応じて補助的な検査で他疾患を除外します。
問診と視診
- 傷の有無(いつ、どこで、どのように負った傷か)
- ワクチン接種歴と最終接種からの経過年数
- 初期症状として顎のこわばり、首筋のこわばり、発熱の有無
まずは傷の有無やワクチンの接種歴、初期症状を確認します。破傷風特有の筋硬直や痙攣が認められれば、診断は比較的確実です。
他の痙攣性疾患や薬剤性痙攣と区別するため、神経学的評価や血液検査、画像検査といった補助検査を行う場合もあります。
神経学的評価と鑑別診断
神経学的評価では、痙攣の部位や程度、反射の亢進、嚥下や呼吸筋の動きを詳細に観察します。
鑑別疾患として脳卒中やギラン・バレー症候群、薬剤誘発性痙攣などがあるため、これらを除外する必要があります。疑わしいときは頭部CTやMRI、EEG(脳波検査)を行い、脳病変の有無を確認します。
血液検査と画像検査
| 検査 | 目的 |
|---|---|
| 白血球数やCRP | 感染や炎症の程度を確認 |
| 電解質検査 | 痙攣によって生じる低カルシウム血症や低マグネシウム血症の有無をチェック |
| 肝機能・腎機能検査 | 集中的な治療中の臓器機能をモニタリング |
破傷風菌そのものを培養するのは困難ですが、検査を行い、全身状態を把握します。また、重症例で呼吸器管理が必要な場合は胸部レントゲンや肺CTで肺炎や誤嚥性肺炎の有無を確認します。
破傷風の治療方法と治療薬、リハビリテーション、治療期間
破傷風治療は抗毒素療法、抗生物質療法、支持療法の組み合わせが基本です。症状が疑われたら速やかに治療を開始しないと致命的になるため、常に緊急対応が必要となります。
抗毒素療法(TIG:Tetanus Immune Globulin)
破傷風免疫グロブリン(TIG)を投与し、循環中のテタノスパスミンを中和します。成人では通常3,000~6,000 IUを静注します。投与は症状が疑われた時点で速やかに行います。
すでに神経に結合した毒素には効果がないため、TIG投与後もしばらく症状進行が続く場合があります。
抗生物質療法
感染部位で増殖する破傷風菌を抑制するため、ペニシリンGやメトロニダゾールを使用します。
ペニシリンGは1日2~4 M単位を6時間ごとに静注し、メトロニダゾールは1日500 mgを静注または経口で投与します。ペニシリンアレルギーのある患者さんにはクリンダマイシンを選択します。
抗生物質投与中に下痢や偽膜性大腸炎などの副作用が生じた場合は、適宜薬剤を変更します。
支持療法(集中治療管理)
全身性破傷風や頭頸部破傷風の重症例ではICU管理が必要です。気管挿管・人工呼吸管理で呼吸筋痙攣による呼吸不全を予防し、必要に応じて筋弛緩薬や鎮静薬を併用します。
栄養管理は経管栄養または中心静脈栄養で行い、点滴で水分・電解質バランスを維持します。発作頻度を減らすために、ベクロニウムやミダゾラムなどの筋弛緩薬を投与し、プロポフォールなどで鎮静を確保します。
ICU管理の主要ポイント例
| 管理項目 | 具体例 |
|---|---|
| 気道確保 | 気管挿管・人工呼吸器管理 |
| 痙攣抑制 | ミダゾラム持続静注、筋弛緩薬投与 |
| 鎮静管理 | プロポフォール、バルビツレート系鎮静薬 |
| 栄養管理 | 経管栄養または中心静脈栄養 |
| 水分・電解質管理 | 点滴で電解質バランスを維持 |
リハビリテーションと回復期間
回復期には筋強直や拘縮※1、筋力低下を改善するためにリハビリテーションが欠かせません。
※1拘縮(こうしゅく):長期間の安静により関節周辺の皮膚や筋肉、腱などが縮んで硬くなる状態。
急性期を脱した後、まずは関節可動域訓練を行って拘縮予防を図り、その後徐々に筋力トレーニングや呼吸リハビリテーションを行います。最終的には歩行訓練や日常生活動作(ADL)訓練に移行し、自立した生活を目指します。
回復には重症度や治療開始時期による差はありますが、おおむね3~6か月を要します。
薬の副作用や治療のデメリット
破傷風治療に用いる薬剤や方法にはそれぞれ副作用やデメリットがあります。医師とよく相談し、リスクとベネフィットを把握して治療を進めることが重要です。
薬剤の副作用
TIG投与では注射部位の疼痛や軽度の発熱が見られる場合があり、まれにアナフィラキシー反応を起こします。
メトロニダゾールは悪心や下痢、クリンダマイシンは偽膜性大腸炎を引き起こすときがあります。ペニシリン系はアレルギー反応を生じるリスクがあるため、投与前に過敏歴を確認します。
入院のデメリットや合併症のリスク
集中治療室での長期管理では、筋弛緩薬や鎮静薬の使用によって筋力低下や起立性低血圧が起こるケースがあり、リハビリ期間が延長する場合があります。
さらに、長期入院や人工呼吸器管理による合併症(肺炎やカテーテル関連感染症など)のリスクも考慮しなければなりません。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
破傷風治療は原則として公的医療保険(健康保険)の適用対象です。自己負担は通常3割となりますが、高額療養費制度※2などを利用すれば負担額を軽減できます。
※2高額療養費制度:1ヶ月あたりの医療費負担が上限を超えた際に、超過分が払い戻しされる制度。上限額は年齢や収入により異なる。ただし、マイナ保険証を利用していれば、書類申請が不要。
保険適用範囲
- TIG投与や抗生物質療法、ICU管理など、破傷風治療に必要な医療行為はすべて保険適用
- リハビリテーション(通所・通院リハビリ)は状況に応じて保険適用
- 各種検査(血液検査、画像検査など)も保険適用
一部のリハビリテーションは保険適用外となるケースも存在しますが、基本的な治療にはすべて保険が適用されます。
保険適用後の自己負担目安
| 項目 | 保険適用前費用(目安) | 自己負担(3割) |
|---|---|---|
| ICU入院(1日) | 30,000~50,000円 | 約9,000~15,000円 |
| 一般病棟入院(1日) | 15,000~30,000円 | 約4,500~9,000円 |
| TIG投与 | 30,000~50,000円 | 約9,000~15,000円 |
| メトロニダゾール投与(1日) | 3,000~5,000円 | 約1,000~1,500円 |
| リハビリテーション(1回) | 5,000~8,000円 | 約1,500~2,400円 |
軽症例では外来でTIG投与や創傷処置のみ行い、1泊2日程度の短期入院で済む人もいます。この場合、自己負担額は約1~3万円程度です。
中等症例で一般病棟に1週間入院すると総額約10~20万円、重症例でICU管理が2週間以上続くと50~100万円程度の自己負担となる場合があります。
実際の費用は医療機関や地域によって異なるため、担当医や医療ソーシャルワーカーに詳しく相談してください。
以上
参考文献
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