瘭疽(ひょうそ)

瘭疽(Felon)とは、手指の先端部(主に爪の周囲や指先の腹側)に細菌が入り込み、急激に化膿する感染症です。

特に指先の腹側などは閉ざされた空間のため、膿がたまると内圧が高まり、ズキズキとした痛みと強い腫れが生じます。

放置すると骨髄炎や腱鞘炎を併発するおそれがあるため、症状が現れたらすみやかに医療機関を受診することが、後遺症を防ぎ機能を温存するための鍵となります。

この記事の執筆者

臼井 大記(日本整形外科学会認定専門医)

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

瘭疽(ひょうそ)の病型

瘭疽は大きく分けて急性の爪周囲炎(acute paronychia)と慢性の爪周囲炎(chronic paronychia)、そして指先の腹側深くに生じるフェロン(felon:指腹部膿瘍)に分類できます。

急性爪周囲炎(急性ひょうそ)

6週間未満の急激な経過で発症する爪周囲の炎症で、原因のほとんどは細菌感染です。

突然に爪の周りが赤く腫れて強い痛みを生じ、膿がたまる場合もあります。

通常、炎症は指の1本に限局し、女性にやや多い傾向が報告されています。

慢性爪周囲炎(慢性ひょうそ)

6週間以上にわたり持続・反復する爪周囲の炎症で、複数の指に生じるケースもあります。

急性のような明らかな細菌感染だけでなく、反復する物理的刺激や湿潤、真菌(カンジダなど)が関与することが多く、比較的ゆっくり発症して長引くのが特徴です。

慢性の場合、爪周囲の皮膚(甘皮)が失われ、軽度の腫れや痛みが続きますが、急性ほどの激しい症状はありません。

フェロン(指腹部ひょうそ)

手指の指先の腹側(指紋面)の皮下に膿がたまる深部感染症です。

瘭疽のなかでは爪周囲炎に次いで多いタイプで、指腹(指の腹)に激しいズキズキとした痛みが生じ、指先全体が大きく腫れ上がるのが特徴です。

原因は、刺し傷や切り傷といった外傷のほか、爪周囲炎が奥深くへ進行することで起こります。ただし、実際には約50%の症例で明確な誘因が見られません。

フェロンでは皮膚の下の閉鎖空間に膿が溜まるため、周囲組織が圧迫されて血流が悪化しやすく、すみやかな治療が必要です。

瘭疽(ひょうそ)の症状

「指先が脈打つように激しく痛む」「爪の色が紫色に変わってきた」といった症状は、瘭疽の典型的なサインです。

大切なのは、痛みの質と時間ごとの変化を冷静に観察することです。

経過時間主症状局所所見生活への影響
0〜3時間軽い違和感発赤なし家事・タイピング支障なし
3〜6時間拍動痛出現指腹発赤重い物を握りづらい
6〜12時間腫脹増強爪紫変夜間睡眠妨害
12〜24時間激痛指全体熱感日常動作ほぼ不可

初期の違和感

発症から数時間は「紙で指を切ったかな?」程度のわずかな痛みですが、2〜3時間経つと指の腹が熱を帯び始め、触れると芯があるような硬いしこりを感じるようになります。

拍動性疼痛(はくどうせいとうつう)の出現

内部で膿が溜まり圧力が上がるため、心拍に合わせて「ズキンズキン」とうずくような痛みが生じます。

炎症の特性として、患部を冷やすと一時的に和らぎますが、入浴や飲酒などで体温が上がると激痛に変わる傾向があります。

合併症のサイン

物を握る動作で激痛が走る、あるいは発熱や悪寒を伴う場合は、炎症が骨まで達する骨髄炎や、腱に広がる腱鞘炎を起こしている疑いがあります。

放置すると、関節の拘縮や骨の破壊などの後遺症を残すリスクがあります。

代表的な自覚症状チェック
  • 拍動痛: 常に脈打つような鋭い痛みがある
  • 変色: 爪や指先が白、あるいは紫色に変化している
  • 特有の腫れ: 指の腹を押すと、パンパンに張ったゴムボールのような弾力がある
  • 全身症状: 微熱や寝汗、全身の倦怠感を伴う

瘭疽(ひょうそ)の原因

皮膚バリアが破れた瞬間から細菌は体内に侵入します。清潔に見える指でも皮膚の上に細菌は潜み、条件がそろうと一気に増殖します。

細菌侵入の主なきっかけ

紙での切り傷、ささくれの放置、不適切な甘皮ケアなど、ごく小さな傷が入口となります。

また、木工や園芸中にとげが刺さったり、土壌に触れたりすることで、嫌気菌などが入り込むケースも少なくありません。

病原菌の種類

多くは黄色ブドウ球菌、化膿レンサ球菌ですが、動物咬傷ではパスツレラ属、魚介処理ではビブリオ属が検出される場合もあります。菌種に応じて抗菌薬を選択します。

生活習慣の影響

糖尿病、喫煙、手湿疹、慢性的な手荒れは細菌増殖のリスクを上げます。

手袋を使わず強力な洗剤で食器を洗うことも危険因子になります。

既往歴と再発

過去に瘭疽や爪周囲炎を患った指は、瘢痕組織により血行が低下しているため、再感染を起こしやすくなります。

日頃からの保湿とハンドケアが、再発防止の鍵となります。

細菌種と特徴

感染経路や症状の特徴から、原因菌を推測することが治療への近道です。

菌種好発シチュエーション特徴薬剤感受性
黄色ブドウ球菌一般的膿が濃黄・臭い弱第1世代セフェム
化膿レンサ球菌ささくれ浸出液さらさらペニシリン系
パスツレラ動物咬傷濁灰色膿β-ラクタム+クラブラン酸
クロストリジウム土壌汚染ガス発生・悪臭メトロニダゾール
ビブリオ魚介処理水様膿・発赤強テトラサイクリン

瘭疽の高リスク習慣チェック

  • 素手での熱い湯と洗剤を使った洗浄を1日5回以上実施(調理師や美容師など)
  • 爪を噛む癖
  • 1日20本以上の喫煙
  • 空調の利かない環境で手汗が多いまま作業

上記習慣を3つ以上抱える場合、予防的なハンドクリームと手袋使用が大切です。

瘭疽(ひょうそ)の検査・チェック方法

瘭疽の診断は、主に診察(視診・触診)によって行います。

しかし、炎症の深さや広がりを正確に把握するために、いくつかの精密検査を組み合わせる場合があります。

診察(視診・触診)

まずは指先の腫れの部位、硬さ、膿の有無、爪の状態などを詳しく観察します。

また、発症までの経過や、糖尿病などの持病の有無を確認し、総合的に判断します。

超音波検査(エコー)

患部に液体の溜まり(膿)があるか、あるいは単なる浮腫(むくみ)・蜂窩織炎(膿を持たない広範な炎症)なのかを確認できます。

痛みや被曝の心配がなく、その場でリアルタイムに膿の溜まりを確認できるため、切開が必要かどうかの判断に非常に有用です。

画像検査(レントゲン・MRI・CT)

炎症が激しい場合や、骨・腱への波及が疑われる場合には画像検査を検討します。

  • X線撮影(レントゲン): 骨の破壊がないかを確認します。ただし、初期の骨髄炎はレントゲンに写りにくい特性があります。
  • MRI・CT検査: 骨髄炎や腱鞘炎の広がりをより詳しく評価するために行います。特にMRIは、早期の骨の変化を捉えるのに優れており、手術の必要性を判断する重要な材料となります。

細菌培養検査

診断確定や治療薬選択のために行う検査です。

膿が入っている場合は切開して排出した膿を採取し、原因菌を培養同定します。

培養の結果からどの抗生物質が有効か(感受性)を調べ、治療薬を適切に選択することが可能です。

一般的な軽症例では培養を省略するケースもありますが、重症例や再発例、免疫低下患者の場合には原因菌を特定して的確な治療を行うため培養検査が推奨されます。

その他の特殊な検査

  • 真菌検査(KOH試験や真菌培養):治りにくい慢性的な症状では、カンジダなどのカビ(真菌)が原因でないかを調べる場合があります。
  • 血液検査:頻繁に繰り返す場合は、背景に糖尿病などの基礎疾患が隠れていないか、血糖値などを確認する場合があります。

瘭疽の治療方法と治療薬、リハビリテーション、治療期間

治療の中心は「膿の排出」「細菌の殲滅(せんめつ)」「機能の回復」の3つを、症状の段階に合わせて実行することです。

保存的療法(切らない治療)

膿瘍(膿のたまり)ができる前であれば、患部を温める温浴療法と抗菌薬の内服、および安静にして患部を高く保つ方法により改善が期待できます。

毎日経過を観察し、膿瘍化が見られた場合は速やかに外科的療法へ移行します。

外科的療法(切開排膿)

局所麻酔後、指先の腹側を縦に切開し、内部の隔壁(細かく分かれた組織)を切離して膿を徹底的に洗浄します。

あえて創部を縫合せず、内部から自然に塞がるのを待つことで、膿が再び溜まるのを防ぎます。

抗菌薬投与

初期は黄色ブドウ球菌をターゲットにした第1世代セフェムを使用し、細菌培養の結果が出てから、原因菌に合った薬剤(ペニシリン系、テトラサイクリン系など)へ切り替えます。

骨髄炎を併発している場合は、長期間の点滴が必要になる可能性もあります。

治療フローと通院計画

フェーズ主治療期間通院頻度自宅ケア
初期 0〜3日温浴+内服3日毎日冷却・挙上
膿瘍期 3〜7日切開排膿1日3日で2回ガーゼ交換
回復期 7〜14日抗菌薬継続7日週2回温浴→可動訓練
骨髄炎期(併発時)デブリードマン+静注4〜8週週1〜2回指腹圧抜き体操

主要抗菌薬一覧

原因菌や合併症の有無に応じて薬剤を選択します。

薬剤1日量主ターゲット菌主な副作用骨髄炎例での使用
セファレキシン2,000mg黄色ブドウ球菌発疹・下痢
アモキシシリン/クラブラン酸2,250mg混合菌肝機能障害
クリンダマイシン600mg嫌気菌偽膜性大腸炎
ホスホマイシン3,000mgレンサ球菌嘔気
テトラサイクリン1,000mgビブリオ属光線過敏

リハビリテーション

作業療法士による治療で切開翌日からMP関節、IP関節を他動運動で曲げ伸ばしし、瘢痕収縮を防ぎます。

温湯に浸しながら握力ボールを3分握る運動を1日3セット行います。重量物を握るのは医師が創閉鎖を確認した後です。

リハビリのステップ
  • 他動運動:術後1日目からスタート
  • 自動運動:痛みが半減した時点で開始
  • 抵抗運動:創閉鎖後3日目から輪ゴムトレーニング全身運動:心拍数120以下でウォーキング30分
  • 仕事復帰:タイピング系は痛み指数3以下が目安

治療期間の目安

単純な膿瘍であれば約14日で痛みはほぼ消失し、傷口も塞がります。

骨髄炎を併発した場合でも、早期の処置とリハビリにより、3〜4週間でデスクワークへの復帰が可能です。

薬の副作用や治療のデメリット

副作用への正しい理解は、治療を最後までやり遂げるために不可欠です。

副作用を恐れて受診を遅らせると、指の機能を失うような大きな手術が必要になるリスクが高まります。

副作用発生率原因対策
薬疹3%ペニシリン系早期中止+抗ヒスタミン
偽膜性大腸炎0.5%クリンダマイシンプロバイオティクス併用
神経損傷0.1%深部切開解剖マーカー遵守
創部再感染5%不十分な洗浄ドレーン併用+毎日洗浄
金属アレルギー0.2%器具成分チタン器具へ変更

抗菌薬の副作用

β-ラクタム系は発疹や下痢が3%程度、クリンダマイシンは偽膜性大腸炎が0.5%程度発生します。

医師は患者さんの既往歴を確認し、必要に応じて定期的な血液検査で肝臓や腎臓の機能をチェックします。

局所麻酔および切開に伴うリスク

局所麻酔刺入部の皮下出血、稀に神経損傷が起こります。

医師は解剖学的ランドマークを厳守し、細径針を使用してリスクを軽減します。

社会生活への影響

包帯やガーゼにより、タイピング速度やスマートフォンの操作、書字などが一時的に遅くなります。

手指を酷使する業に従事されている方は、治癒を早めるために、短期間の休業や部署変更を検討しましょう。

再発の可能性と通院の重要性

自己判断でガーゼ交換や洗浄を中断し、膿が再び溜まってしまうと、再発率は約12%まで上昇します。

医師の指示通りに開放創ケア(傷を閉じずに洗うケア)を継続すれば、再発率は4%以下に抑えられます。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

日本の公的医療保険制度では、瘭疽の治療は幅広くカバーされており、原則として自己負担額は3割となります。

公的医療保険の基本

外来での処置や投薬、重症化した場合の入院治療もすべて保険給付の対象です。

窓口で健康保険証を提示すれば、支払いは総医療費の3割で済みます。

主な診療報酬点数の内訳

医療費は「点数」で計算します(1点=10円)。

  • 初診料: 288点
  • 再診料: 73点
  • 皮膚皮下切開術(膿瘍): 1,150点
  • 超音波検査(エコー): 200点
  • 抗菌薬静注: 150点 + 薬剤費
  • リハビリ(運動器リハ): 185点程度(20分)

【ケース別】自己負担額の目安(3割負担の場合)

外来での切開排膿 + 14日間の通院・内服

一般的な瘭疽で、切開が必要になった場合の費用目安です。

項目合計点数自己負担額
初診料・検査(X線・エコー・採血)833点約2,500円
切開排膿術1,150点約3,450円
抗菌薬(14日分)+ 処方料約560点約1,680円
リハビリ・再診(3回分)約180点約540円
合計約2,723点約8,170円

骨髄炎を併発し入院した場合(高額療養費制度の利用)

炎症が骨まで達し、1〜3週間の入院や点滴が必要になった場合の費用目安です。

入院期間合計点数自己負担額高額療養費適用後
7日間約35,000点約105,000円約44,400円〜
14日間約49,000点約147,000円約44,400円〜
21日間約62,000点約186,000円約57,600円〜

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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