蜂窩織炎(蜂巣炎)

蜂窩織炎(ほうかしきえん)(Cellulitis)とは、皮下組織に細菌が侵入して生じる感染症です。主に皮膚の深い部分まで炎症が広がり、赤みや痛み、腫れを伴います。

足や下肢に起きやすいですが、上肢や顔面など皮膚のある場所ならどこにでも発症する可能性があります。

放置すると敗血症など全身への感染に広がる恐れもあるため、初期段階で適切に対応することが重要です。

この記事の執筆者

臼井 大記(日本整形外科学会認定専門医)

臼井 大記(うすい だいき)

日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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目次

蜂窩織炎(蜂巣炎)の病型

蜂窩織炎(蜂巣炎)には複数の病型があり、皮膚のどの層がメインで炎症を起こしているかや、どのような細菌の種類が関与しているかによって特徴が異なります。

ここでは、よく見られる病型や合併症の観点などを含めて分かりやすくまとめます。

感染の深さによる分類

皮膚の浅い層のみが感染したものは「丹毒(たんどく, erysipelas)」と呼ばれ、境界明瞭な発赤と強い炎症が特徴です。

一方、皮下脂肪組織まで炎症が及ぶものが「蜂窩織炎」です。丹毒は顔面や下肢に好発し、通常は溶連菌(レンサ球菌)感染が原因です。

経過による分類

急性蜂窩織炎は初発の単回の感染エピソード※1を指します。

適切治療で完治しますが、再発性蜂窩織炎は同じ部位に感染を繰り返す状態です。年間再発率は8~20%、累積では最大約50%の患者様で繰り返すとの報告があります。

再発の背景にはリンパ浮腫や白癬などの持続するリスク因子が関与します。

「慢性蜂窩織炎」という用語は一般的ではありませんが、頻回の再発により患部のリンパ循環が障害され、慢性的な浮腫・炎症が持続する状態を指すことがあります。

※1初発の単回の感染エピソード:人生で初めて(初発)かつ、一回きりの発生(単回)

重症度による分類

患者様の全身状態や合併症により軽症から重症まで分けられます。

軽症(Eron分類Class I相当)は局所の発赤・痛みのみで全身症状や重篤な合併症がない状態で、外来経口治療※2が可能です。

中等症(Class II/III)は発熱など全身症状や糖尿病などの併存疾患がある場合で、入院や静脈抗生剤が考慮されます。

重症(Class IV)は敗血症(高熱、低血圧、頻脈など)を伴う状態や壊死性筋膜炎の懸念がある状態で、緊急の治療や外科的処置が必要です。

※2外来経口治療:入院なしの飲み薬のみの治療

部位による分類

下肢の蜂窩織炎が最も多いですが、顔面・眼窩蜂窩織炎は小児に多く見られる特殊なタイプです。

眼の周囲の蜂窩織炎では、眼球突出や複視などを呈しうる眼窩内の感染が起きた場合「眼窩蜂窩織炎」と呼ばれ、脳への波及や視力障害(失明)など重大な合併症を起こし得る緊急疾患です。

小児では副鼻腔炎に続発して眼窩蜂窩織炎を起こす例が多く、迅速な画像検査と耳鼻科・眼科を含む専門的治療が必要となります。

なお、蜂窩織炎と鑑別すべき類似疾患として、深部膿瘍、蜂巣炎にみえる静脈血栓症、慢性静脈不全による皮膚炎なども考慮されます。

蜂窩織炎(蜂巣炎)の症状

蜂窩織炎の症状は発赤や痛み、腫れなどが中心ですが、人によっては熱感やだるさ、発熱を伴う場合もあります。

軽症でも放置すると悪化する恐れがあるため、初期症状に気づいたら医療機関に相談しましょう。

皮膚の変化

蜂窩織炎で最も分かりやすいのが、患部の皮膚に起こる変化です。

赤みが徐々に広がり、表面に強い熱感を感じます。触ると痛みがあり、腫れがあるため靴や衣服がきつくなる場合もあります。

痛みや熱感

痛みはズキズキとした鋭い痛みから、重だるい痛みまでさまざまです。

さらに患部に触れたときの熱感が顕著な場合は、炎症が進行しているサインです。立ち仕事や歩行が多い方は、症状が悪化しやすくなるので注意してください。

発熱や倦怠感

細菌感染が進むと、全身の免疫反応が高まり、発熱や倦怠感を伴う場合があります。微熱程度から高熱になるケースもあるため、発熱が続く場合は早めの受診をおすすめします。

重症化した場合は、血圧低下や頻脈、意識混濁など敗血症の症状が現れる場合もあります。

皮膚の硬化や水疱

進行すると皮膚が硬くなったり、水疱が生じたりします。

水疱が破れて感染範囲が広がる場合もあり、さらなる合併症を引き起こすリスクが高まります。

症状チェックポイント
発赤・腫れ患部の皮膚が赤くなり、触ると痛みがある。腫れの範囲が広がるか観察する。
熱感触れると明らかに患部が熱い場合は要注意。
痛みズキズキとした痛みから重だるい痛みまで幅広い。持続するか断続的かを確認する。
発熱・倦怠感体温の変化や全身のだるさがある場合は感染が広範囲に及んでいる可能性がある。
水疱の形成水疱が見られる場合は感染が深部にも及んでいるかもしれない。破れた場合は早めに受診。

これらの症状の一部あるいは複数が同時に現れたら、蜂窩織炎の可能性を考慮したほうがよいでしょう。

蜂窩織炎(蜂巣炎)の原因

蜂窩織炎の原因となる細菌は皮膚の傷口や小さな裂傷などから侵入して増殖します。

体表には多種多様な常在菌が存在しますが、皮膚のバリア機能が低下すると悪さをする可能性があります。ここでは、主な原因となる要因や感染経路を解説します。

ブドウ球菌やレンサ球菌

蜂窩織炎の原因菌の中で最も一般的なのがブドウ球菌とレンサ球菌です。

これらの菌は健康な皮膚にも存在しますが、傷口や湿疹、潰瘍など皮膚のバリアが破綻するとから体内に侵入し感染を起こします。

外傷や皮膚トラブル

小さな切り傷、擦り傷、火傷、湿疹などがあると皮膚バリアが損なわれ、菌の侵入口になります。

特に慢性的な皮膚疾患を抱えている方や、糖尿病で末梢神経障害がある方は、傷に気づかないまま放置しやすく注意が必要です。

免疫力の低下

加齢やストレス、疲労、不規則な生活習慣、糖尿病などが重なると免疫機能が落ち、蜂窩織炎にかかりやすくなります。また、ステロイド剤や免疫抑制剤の使用中の方も感染症リスクが高まります。

血行不良

下肢の血行不良やリンパのうっ滞があると、傷が治りにくくなり感染リスクが高まります。

静脈瘤やリンパ浮腫など下肢の慢性的な循環障害がある方は、蜂窩織炎を繰り返す場合があるため注意を要します。

蜂窩織炎を誘発しやすい主な原因

原因具体例
細菌の侵入ブドウ球菌、レンサ球菌など
皮膚バリアの破損切り傷、擦り傷、湿疹、潰瘍
免疫力の低下加齢、疲労、ストレス、免疫抑制剤の使用、糖尿病
血行不良やリンパうっ滞静脈瘤、リンパ浮腫

これらの原因のいずれか、あるいは複数が重なると蜂窩織炎の発症リスクが高まります。予防には、傷の早期処置と皮膚のケアが大切です。

蜂窩織炎(蜂巣炎)の検査・チェック方法

蜂窩織炎を特定するために、医師は視診や触診だけでなく、血液検査や画像検査などを行います。

自己判断で進行度を確かめることは難しいため、疑わしい症状があれば早めに受診して正確な診断を受けましょう。

視診と触診

皮膚の赤みの範囲や腫れの程度、熱感などを目で確認しながら、触診で硬さや痛みの状態をチェックします。短時間で行える基本的な手法ですが、初期段階の診断にとても有用です。

血液検査

炎症の程度を把握するために、血液中の白血球数やCRP値(C反応性蛋白)を確認します。

これにより、感染がどの程度進行しているかを評価でき、治療方針を立てやすくなります。軽症例では正常範囲にとどまることがあります。

細菌培養検査

皮膚の潰瘍や水疱から採取した検体を培養して原因菌を特定する検査です。

抗生剤が効きにくい菌の場合、薬剤選択を誤ると治療効果が薄れるため、培養検査で適切な抗菌薬の見極めが重要です。

ただし、感染が深部の場合や状況によっては培養検査が難しいケースもあります。

培養結果が得られるまで数日かかるため、それまでは臨床診断に基づき経験的に抗生物質治療を開始し、培養で原因菌が特定できれば薬を調整するという流れになります。

画像検査

超音波検査やMRI、CTスキャンなどの画像検査を行います。

深部の感染の広がりや膿瘍の有無を確認するのに役立ちます。壊死性筋膜炎との鑑別にも画像検査を用いる場合があります。

検査名主な目的
視診・触診皮膚の赤み、硬さ、熱感、痛みの範囲や度合いを把握
血液検査白血球数やCRP値を測定し、炎症の強さを客観的に評価
細菌培養検査原因菌の特定と薬剤耐性の有無を調べ、適切な抗菌薬を選択
画像検査深部への感染や膿瘍形成の有無、壊死性筋膜炎との鑑別などに役立つ

医師はこれらの検査を総合的に判断し、重症度や病型に応じた治療プランを立てます。

蜂窩織炎(蜂巣炎)の治療方法と治療薬、リハビリテーション、治療期間

蜂窩織炎の治療は主に抗生剤による薬物療法が中心ですが、症状の程度によっては点滴や外科的処置が必要になります。

ここでは治療の具体的な流れや薬の種類、リハビリテーションのポイントなどを紹介します。

抗生剤による治療

蜂窩織炎の基本治療は経口または点滴での抗生剤投与です。原因菌に合った抗生剤を選び、用量や期間を適切に設定します。

軽症であれば外来通院で済む場合が多いですが、重症例では入院して点滴を行い、全身管理を徹底する場合があります。

抗生剤の種類特徴
ペニシリン系レンサ球菌に強い効果がある。アレルギー反応に注意が必要。
セフェム系広範囲の菌に対応しやすいが、耐性菌の問題もある。
マクロライド系ペニシリン系が使用できない場合に選ぶケースが多い。
フルオロキノロン系幅広い殺菌作用を持つが、耐性菌のリスクも考慮して使用する。

外科的処置

膿瘍を形成している場合や壊死性筋膜炎が疑われる場合は、外科的に排膿やデブリードマン(壊死組織の除去)を行う必要があります。

創部を清潔に保つケアも重要です。

リハビリテーションのポイント

感染が落ち着いたあと、患部の機能回復を目指してリハビリテーションを実施する場合があります。

急性期には安静と患部のケアが中心ですが、回復期には後遺症を残さないための運動や再発防止策が重要になります。

血行を促進するための軽いストレッチ
  • 足を少し高く上げるなどのむくみ対策
  • 適度なウォーキングや足指の運動

痛みが残っているときは無理なリハビリを行わず、医師や理学療法士の指導を受けながら進めるとよいでしょう。

治療期間

軽度であれば抗生剤を約1~2週間程度服用し、外来通院で完了するケースが多いです。中等度以上の場合は2~3週間以上の治療が必要となるケースがあります。

重症例や合併症がある場合はさらに長期化し、入院期間も加わって1か月ほどかかる場合も珍しくありません。

治療期間を左右する主な要因
  • 感染の範囲や深さ
  • 原因菌の種類と薬剤耐性の有無
  • 基礎疾患(糖尿病や免疫疾患など)の有無
  • 早期に医療機関で対応したかどうか

これらの要素が重なると治療が長引く可能性があるため、初期症状に気づいたら早めに受診してください。

薬の副作用や治療のデメリット

蜂窩織炎の治療では、抗生剤を使用が中心となりますが、薬には副作用のリスクがあります。

また、入院治療が必要になった場合のデメリットなども把握しておくと、治療計画を立てるうえで役立ちます。

抗生剤の副作用

抗生剤の種類によって副作用の傾向は異なりますが、多くの場合、消化器系の不調(下痢、吐き気、腹痛など)が起こりやすくなります。

皮膚に発疹やかゆみが出るアレルギー反応が起こる場合もあるため、服用中に異常を感じたら主治医に相談してください。

抗生剤の種類主な副作用
ペニシリン系発疹、かゆみ、下痢、時にアナフィラキシー
セフェム系胃腸症状(下痢など)、発疹
マクロライド系胃腸障害、肝機能障害
フルオロキノロン系腱炎、消化器症状、めまい

耐性菌のリスク

抗生剤を不適切に使用すると、薬が効かない耐性菌が増えるリスクが高まります。

医師が処方した量と期間を守らずに途中で服用をやめたり、自己判断で量を増減したりする行為は避けましょう。

入院や手術の負担

蜂窩織炎が重症化した場合、点滴や外科的処置が必要となり、入院生活が長期化する恐れがあります。

入院が長引くと生活や仕事への影響が大きくなるため、早期対応が望ましいです。

日常生活への影響

患部を安静に保つ必要があるため、歩行や家事などで支障が出る場合があります。

特に下肢の蜂窩織炎の場合は歩行が困難になるケースもあるため、サポートが必要になる点も考慮してください。

治療のデメリットと対策例
  • 抗生剤副作用 → こまめに水分補給し、胃腸症状に注意
  • 耐性菌リスク → 指示された服用期間を厳守
  • 入院負担 → 早期受診で重症化を防ぐ
  • 生活への制限 → 可能なら家族や専門サービスを活用し、無理なく生活する

治療デメリットはあるものの、適切に対応すれば多くの場合は回復が見込めます。

副作用や治療上の負担を軽減するためにも、医師や薬剤師と連携して治療を進めていきましょう。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

蜂窩織炎(蜂巣炎)の治療は、日本では公的医療保険の適用範囲に含まれます。

そのため、保険証を提示すれば自己負担額が抑えられます。ただし、治療内容によって具体的な費用は変動するため、あらかじめおおよその目安を知っておくと安心です。

外来診察と抗生剤処方

軽症の場合、外来受診で済むケースが多いです。保険適用(3割負担)として考えると、診察料と抗生剤処方でおよそ2,000~3,000円程度が目安になります。

症状が軽ければこの程度の費用で治療を完了できる場合もあります。

検査費用

血液検査や細菌培養検査、画像検査を行う場合、追加費用が発生します。

3割負担のケースを想定すると、血液検査で1,000~2,000円程度、細菌培養検査で1,500円前後、画像検査は内容により2,000~5,000円程度かかることがあります。

外来治療時の費用目安(3割負担の場合)

項目費用目安
診察料+抗生剤処方2,000~3,000円前後
血液検査1,000~2,000円前後
細菌培養検査約1,500円前後
画像検査(超音波など)2,000~5,000円前後

入院治療

重症例で点滴や外科的処置が必要になり、入院が数日から数週間に及ぶ場合は、治療費が大きくかさみます。

入院基本料や手術費用、投薬費、検査費などを合わせると、自己負担額で数万円から数十万円程度になるケースがあります。

高額療養費制度を利用することで自己負担額をある程度抑えられます。

手術費用

膿瘍の切開排膿やデブリードマンなどの外科的処置を伴う場合は、手術費が加算されます。

内容によって幅がありますが、保険適用後で5000~2万円程度の追加負担が生じる場合もあります。

費用が高くなる要因
  • 長期入院
  • 画像検査や培養検査の種類の増加
  • 外科的処置や手術
  • 抗生剤の変更や多剤併用

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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